('A`)は黄泉の国を彷徨うようです

2 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:03:18 ID:yiHoQ35U0


 ―― 朝ごはんできたわよー

 ―― わーい! 今日の具は何かな。オレの好きなワカメ入ってる?

 ―― さあ、どうかしら?

 ―― ……げ、ネギも入ってる。かーちゃん、これ取っていい?

 ―― 好き嫌いはダーメ。 ネギは体にいいんだから

 ―― えぇ……

 ―― わかった。じゃあちゃんと全部食べられたら、絵本を読んであげるわ

 ―― 本当! あの鳥の絵本読んでくれるの?

 ―― ふふ、本当に大好きなのね その本。ええ、もちろんよ。
 
    保育園のバスが迎えに来るまで何回でも読んであげるわ。

 ―― やった! オレ、がんばるよ!

 ―― ちゃーんと、良く噛んで食べるのよ?

 ―― うん分かってる! それじゃあ……


   『いただきます!』


.


3 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:05:26 ID:yiHoQ35U0






 ('A`)は黄泉の国を彷徨うようです





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5 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:09:36 ID:yiHoQ35U0

一、

彼は、深い深い霧の中にいました。
何故、深い深い霧の中にいるのでしょうか。
彼は、自分に問いかけます。

しかし幾ら考えど答えは浮かびません。
どうやら記憶はどろどろに溶け、流れ出してしまったようです。
 
彼は幾ばくかの不安と、そして心地よさを感じました。
空っぽで余計なものが入っていない頭というのは
案外軽くてとても気持ちのよいものなのです。

('∀`)「こりゃいいや」

彼はにやりと笑います。

このまま輪郭があやふやになり、霧と混ざれたらと彼は思いました。
まるで珈琲に注いだミルクのように、ゆっくりと、ゆっくりと……

「ようやく見つけた」

突然背後から声がしました。
まどろんでいた彼の意識が目覚めます。
彼は驚いて振り返りました。

そこには白いお面を被った人物がいました。
お面には朱色の丸が三つ、三角に並んでいます。

('A`)「誰だ、ここはどこなんだ?」

( ∴)「此処は黄泉の国。生者が訪れぬ死者の国。我は此の国の番人だ」

('A`)「黄泉の国」

彼はその単語に聞き覚えがありました。
.

6 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:17:48 ID:yiHoQ35U0

('A`)「なら俺は死んだのか」

( ∴)「いや生きている。其方が此処にいるのは手違いなのだ」

('A`)「生きてるのか?」

( ∴)「ああ生きている」

('A`)「なんだそれ」

( ∴)「申し訳ない、すぐに使いを手配し現世に帰そう」

('A`)「いや待ってくれ。俺は不手際でここにいるのか?」

( ∴)「左様。稀に起こるのだ。かたじけない」

('∀`)「じゃあ俺は詫びを受ける権利があるわけだ」

 青年の脳裏に、ある案が浮かびました。
 彼は再び、にやりと笑います。
 
( ∵)「意図が汲み取れない」

('A`)「観光させてくれよ、この黄泉の国を」

( ∴)「なんと!」

( ∴)「それは一向に構わぬ。使者を用意にも時間が掛かるのでな。つまらぬ処であるが、好きにするが良い」

( ∴)「但し、黄泉の国の掟は知っておるな?」

 仮面がぬぅと、彼の顔に近づきます。
 硫黄特有の臭いがし、彼は眉をひそめました。

('A`)「分かってるさ」

 面倒になり、彼は適当に答えます。

( ∴)「なら良い。ではしばし自由にされよ、小童よ」


 さぁと薄れる濃霧。浮かびあがるは摩天楼。
 ふらり。ふらり。足を前へ。前へ。
 どうやら記憶は消えても歩み方は忘れなかったようです。

 彼の奇妙な、さいごの旅はこうしてはじまったので御座います。
.

7 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:24:16 ID:yiHoQ35U0

二、

 建物の合い間を闊歩する一人の青年。
 高層ビル。電柱。横断歩道。信号。
 現実世界と何ら変わりのない風景でした。
 ただし、そこに色彩はありません。
 人もありません。音もありません。

('A`)「あの世もこの世と似たもんだな」

 彼はため息をつきました。
 この風景はまるで……

('A`)「おっと」

 青年はぶるぶると頭を揺すりました。
 余計なことを思い出してしまいそうな気がしたのです。
 せっかく頭が空っぽで楽なので、それを失いたくありませんでした。
 彼はぎゅっと瞼を閉じ、ずんずん進みます。

 すると、彼の手が何かに当たりました。

 「あああ!」

 同時に、悲鳴が上がります。
 からからと崩れる音がしました。

('A`)「こりゃ失敬」

 彼は歩みを止め、目を開きました。

*(‘‘)*「ひどいわ、むごいわ、お兄さん!」

 傍には少女が一人、正座をしていました。
 彼女は千鳥模様の着物を召しており、髪は二つ結びのお下げ。
 肌は血の気がなく、うっすらと青みを帯びています。

 おそらく黄泉の国の住人なのでしょう。
.

8 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:31:37 ID:yiHoQ35U0
 
*(‘‘)*「お兄さんは、きっと鬼なのね」

 少女は疲れた顔をして言いました。

('A`)「鬼だって?」

*(‘‘)*「だって、私の重ねた小石を崩すのだもの」

 少女は、彼の足元に散らばった石を人差し指で指します。

('A`)「石なんざ積んでどうするのさ」

*(‘‘)*「おっかさんのためよ」

('A`)「石をおっかさんのために詰む、ねぇ……」

 青年の頭の中で、一つの単語が像を結びました。

 賽の河原。

 ――それは親より先にこの世を去った童達が、親不孝の報い受ける場所です。
 積み石の塔を完成させると親の供養になると伝えられていますが、
 しかし完成する前に鬼がどこからかやって来て塔を崩してしまうのです。
 童達は来る日も来る日も三途川の畔で、塔を築いては壊され、築いては壊されを繰り返すと言われています。


('A`)「悪いことしたな」

 青年は少女の傍に座ります。

('A`)「手伝うよ」

 彼は少女の石積みを助けることに決めました。
 少女へ申し訳なさも理由の一つですが、
 本当は自分の名誉を挽回したかったからです。
 『鬼』と呼ばれたままなのは、気持ちのいいものではありませんから。
.

9 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:38:11 ID:yiHoQ35U0


*(‘‘)*「有難う、じゃあ散らばったお石を拾って頂戴」

 青年は灰色の丸石を手に取ります。
 石は想像以上に冷たく、青年はぶるっ身震いをしました。
 
 同時に、ある考えが湧きあがってきました。
 青年は、それを口にします。

('A`)「変だよな」

*(‘‘)*「?」

('A`)「親より先に死んだら、罰を受けるって話さ」
 
*(‘‘)*「変かしら」

('A`)「死にたくて死んだ訳じゃないだろ」

 青年は石を少女の傍に置いてゆきます。
 少女は淡々とそれらを重ねてゆきます。

*(‘‘)*「そうね」
 
('A`)「それが罪だというのなら」

('A`)「子を残して先立つ親の方が罪深くないか?」

*(‘‘)*「どうして? 老いた者が先に逝くのは自然の摂理よ」

10 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:44:43 ID:yiHoQ35U0

('A`)「大人は一人でも生きていける。けれど子は一人では生きられない」

('A`)「勝手に産み落とされて残されるなんて、あんまりじゃないか」

*(‘‘)*「ならお兄さんは、幼な子より先に他界した親も、報いを受けるべきだと思ってるの?」

 青年は息を飲みます。心臓をぎゅうとに握り潰されたように感じました。

('A`)「いや」

('A`)「そうじゃない。そんなつもりじゃない。ただ」

('A`)「ただ……」

 青年は言葉に詰まり、うつむきます。
 どんなつもりで言ったのか、彼自身もよく理解していませんでした。
 何故あんなことを思ったのだろう?
 自分でも不思議でした。
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11 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:50:46 ID:yiHoQ35U0

 青年は少女の顔をチラリと伺います。
 彼女は青年など気にも止めず、石を重ねていきます。

 『誰か』の横顔に似ていると青年は思いました。
 同時に背筋にゾクッと寒気が走りました。
 全身の鳥肌が立ちます。

(;'∀`)「でもさ、おかしな話だよな。黄泉の国に三途の川って」

 寒気を追い出そうと彼は饒舌になります。
 気を紛らわそうと石をしきりに触ります。

*(‘‘)*「なぜ?」

(;'∀`)「黄泉の国は古事記に記された神道の世界だろ?」

(;'∀`)「けれど三途の川は仏教じゃないか」

*(‘‘)*「あらそうなの。お兄さん、物知りなのね」

*(‘‘)*「どうしてそんなに、詳しいの?」

 青年の手が止まりました。
.

12 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:58:30 ID:yiHoQ35U0

 どうしてそんなに詳しいの?

 どうしてそんなに詳しいの?

 ――以前どこかで、こんな会話をしたような。

 ――そうだ『彼女』との初めての会話は……


(;'A`)「……本で、読んだから」

*(*‘‘)*「へえ」

 少女の声は、先ほどとは異なる人のそれになっていました。
 聞き覚えのある、甘い声でした。
 青年の心は酷くざわつきます。

*(*‘ー‘)*「あたし、全然知らなかったよー」

 少女の服装は着物ではなく、洋服になっていました。

川*‘ー‘)「だから今日の講義もチンプンカンプンだったのー」

 少女の顔も徐々に変化していきます。
 青年は、それから目をそらすことが出来ませんでした。

 しばらくして、少女の顔は ある女性の顔になりました。

o川*^ー^)o「宇田くんって、頭いいんだね!」
.

13 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:04:58 ID:yiHoQ35U0

(;'A`)「あ」

 青年の頭に亀裂が走りました。
 そこから、小さな刃がジャラジャラと注がれていきます。
 それは、他愛もない、他愛もなかったはずの、初恋の記憶でした。

 中学も高校も共学校で過ごした彼ですが、当時の彼には恋をする余裕などありませんでした。
 したがって青年が恋心を知ったのは、大学でのことでした。


 o川*゚ー゚)o『同じクラスの宇田くんだよね、あたし九都って言うの。よろしくね』

 o川*^ー^)o『さっき先生に当てられたのにスラスラ答えてたよね?』

 o川*゚ー゚)o『どうしてそんなに詳しいの?』


 o川*゚ー゚)o『ねえ良かったら、この部分教えてくれない? 昼食奢るから!』

 o川*^ー^)o『本当? ありがとう!』
.

14 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:11:57 ID:yiHoQ35U0

 o川*゚ー゚)o『久しぶりー。先週ちょっと体調崩しちゃって……』

 o川*゚ー゚)o『え、ノート見せてくれるの?』

 o川*^ー^)o『わぁ宇田くんのノート分かり易い! さすがだね』


 o川*゚ー゚)o『誕生日プレゼント?』

 o川*゚ー゚)o『やだぁ、あたしの誕生日は8月12日じゃなくて12月8日だよ!』

 o川*゚ー゚)o『でもありがとう。大切にするね! 宇田くんの誕生日は?」

 o川*^ー^)o『宇田くんも12月生まれなんだ! 運命感じちゃうね!』


 頭蓋骨の中で刃はカチカチとぶつかりあい、暴れます。

(; A )「やめてくれ、やめてくれ」

 刃が目の裏に刺さるたび、彼の視界は真っ暗になり真っ白になりました。
.

15 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:19:49 ID:yiHoQ35U0

 o川*゚ー゚)o『やっほー井出ちゃん。彼氏と最近どぉ?」

 o川*^ー^)o『あたしはね、一昨日二人っきりで旅行してきたばっかなのー!』

 o川*゚ー゚)o『講義? ああ宇田がやってくれるから』

 o川*^ー^)o『あいつ チョー便利だよぉ? おだてりゃ何でもやってくれるし!
        オマケに時々ブランド物プレゼントしてくるの。
        この前それ10万で売れちゃった!
        サイコーでしょ? 4月から飼いならしておいてよかったわぁ』

 o川*^ー^)o『え? うん、もちろんいいよー! 頼んどくね」

 o川*゚ー゚)o『あ、宇田くん。ちょうどよかった! あのね、あたしと井出ちゃんね、
        明日用事ができちゃったの。4限の出席票、2人分お願いねー」

 o川*゚ー゚)o『……』

 o川*゚ー゚)o『ん、何かいいたいことあるの?』

 o川*゚ー゚)o『……』

 o川*゚ー゚)o『ふーん』

 o川*゚ー゚)o『ねぇ宇田くん』

 o川*゚ー゚)o『例えばね、あたしSNSやってるんだけど、そこで「宇田くんにヒドいことされた」って書くとするね』

 o川*゚ー゚)o『そして教授にも泣きながら相談しにいくの。そしたらどーなるかな?』

 o川*゚ー゚)o『あたしと、ぼっちで根暗な宇田くん。どっちをみんな信じるかな?』

 o川*^ー^)o『……うん、それでいいの。やっぱり宇田くんって頭いいね!」

 o川*^ー^)o『じゃあよろしくねー』
.

16 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:24:09 ID:yiHoQ35U0

 刃の波が収まりました。
 青年は長く長く息を吐きます。
  
 ('A`)「……最悪だ」

 もうそこには少女も女性もいませんでした。
 残っているのは石の塔だけです。

 蹴り崩してやろうかと彼は一瞬考えましたが、
 ひどく惨めな気持ちになりそうだと思い、やめました。
 青年は塔に背を向けます。
 

 彼は重くなった頭を抱えつつ、大学近くのビル街に似た風景の中を歩いていくのでした。
.

18 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:31:31 ID:yiHoQ35U0

三、

 しばらく進むと、周りの様子が変化していきました。
 ビルは消え、信号機は消え、電柱は消え、
 地面はアスファルトから砂地へ。
 けれど相変わらず灰色の世界です。
 
 青年は砂利の上をのろのろと歩いていきます。
 頭の中で時々金属の擦れる嫌な音が響き、彼は顔をしかめます。

 どうして黄泉の国を観光するなど言い出してしまったのだろう。
 青年は、少し前の自分を呪いたい気持ちでした。


「よぉあんちゃん、いま暇かい?」

 突然むずんと腕を掴まれました。
 少年は否応なく止まります。

爪'ー`)「暇なら、ちったぁ人助けしないかい?」

 腕を掴んだのは、一人の男。
 男は灰色の袴を召しており、髪は痛んでおり長くてボサボサでした。
 よれた烏帽子を被っており、肌は黄ばんだ土色。

 青年は男のことを、この上なく不快に感じました。
.

19 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:39:02 ID:yiHoQ35U0

('A`)「急いでるんだ」

 振りほどこうとするも、男の握力は強く離れません。

爪'ー`)「まぁまぁ話だけでも聞いてけよ」

 男はヘラヘラと笑い、少年の神経を逆撫でます。
 青年は舌打ちをしました。

('A`)「手短に」

爪'ー`)「おれはなぁ 骸から髪を抜いてるんだ」

('A`)「髪?」

爪'ー`)「そ。髪を集めてな、鬘にして売るんだよ」

('A`)「……まさか」

 少年は後ろ振り返ります。
 そこには大きな瓦の屋根のついた門がありました。

('A`)「……羅生門」

 どうもおかしいぞと彼は首を傾げます。
.

20 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:46:35 ID:yiHoQ35U0

 羅生門。

 ――或いは羅城門。平安京に実在した大門の名です。
 かつては都の正門ともいえる物でしたが時代が下るにつれ天変地異に晒され荒廃してゆきます。
 門の上階には身寄りのないの屍が捨て置かれ、この場所は数多の奇譚の舞台となりました。
 この奇譚の一つを元にし書かれた、とある文豪の小説が最も有名でしょう。



('A`)「なんなんだこの黄泉の国。ごちゃ混ぜのでたらめじゃないか」

爪'ー`)「それはあんちゃんが ごちゃ混ぜのでたらめだからだよ」

 男は またヘラヘラと笑います。

爪'ー`)「でさぁ 俺には金がいるんだ。このままじゃ飢え死んちまう」

('A`)「黄泉の国の住人が死ぬだって?」

爪'ー`)「死ぬんだなぁ これが」

('A`)「死んだらどこ行くんだよ」

爪'ー`)「どこにも行けない。消えちまう」

('A`)「つくづく ふざけた あの世だな」

爪'ー`)「一人じゃ必要な分集めるのも無理。町へ売りに行くのも無理。だからさぁ」

 男は青年から手を離すと懐からぴっと剃刀を出しました。

爪'ー`)「手伝ってくれよ」

 剃刀の刃が鈍く光ります。少年の中の傷がひりひりと痛みました。
.

21 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:56:05 ID:yiHoQ35U0

('A`)「やなこった」

('A`)「屍を漁るなんてこと俺はしたくない」

爪'ー`)「はい?」

('A`)「俺は、そんな卑怯なことしたくない」

爪'ー`)「こりゃ傑作だ!」

 男は天を仰ぎケタケタと笑います。
 それから壊れたように、ひーひー喘ぎながら笑い続けます。
 実際壊れたのかもしれません。
 ひとしきり笑ったあと、糸が切れた人形のようにカクンと頭を下しました。

 虚ろな眼で、青年を見据えます。
 そして、低い低い声で呟きました。

爪'ー`)「何を今更」

 青年の全身が粟立ちました。
 同時にじんわりと脂汗が浮かんできます。

 嗚呼また余計なことを思い出しそうだと少年は感じました。
 ここから逃げないと。
 青年はじりじりと後ずさりします。
.

22 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 02:02:50 ID:yiHoQ35U0

爪'ー`)「逃げられるとでも思うか」

('A`;)「あんたに追われる筋合いがない」

 男がふらりと手を伸ばします。
 少年はその手をばちんと叩き落とすと、背を向け走り出しました。

 体の中で刃が弾み、内側を切り裂いてゆきます。
 構うものかと青年は思いました。

('A`;)「あれに捕まるくらいなら痛い方がマシだ」

 少年が向かう先は羅生門。そこには上層階へと続く梯子がありました。
 何度か転び、砂利で膝を擦り剥きながらも、梯子のたもとへとたどり着きます。

 いつの間にやら周りは、無数の屍であふれていました。
 全身は腐敗し、至るところから蛆虫が這い出ています。
 それらはむくりと起き上がり、青年へにじり寄っていきます。

('A`;)「来るな!」
.

23 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 02:09:29 ID:yiHoQ35U0

 少年は息も絶え絶えに梯子を上ってゆきます。

( A ;) 

 梯子を上りきり上階へ降り立った青年は下を見下ろします。
 すると、あの灰色袴の男がすぐ傍まで迫っていました。 
 少年は膝をつき、梯子の先を両手で掴みます。
 
 彼の心臓が、ばくばくと のたうちまわります。
 
 男はトカゲのように するすると上がってきます。
 青年と男の視線があいました。

爪'ー`)「俺とお前は同じなんだよ」

('A`;)「違う!」

 青年は悲鳴のように叫びます。
 そして少年は全ての体重を掛け、ぐぃと梯子を突き飛ばしました。

 梯子が ぐらりと倒れてゆきます。
 男が 宙に放り出されました。

 同時にボロボロと袴と烏帽子が崩れていきます。
 中から現れたのは、黒い学ラン。
 髪と顔がぐにゃりと歪み、別のそれへと変化しました。
 
 落下しながら、それはじぃと青年を見つめます。


(-_-)「ほら 同じじゃないか」
.

24 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 02:24:50 ID:yiHoQ35U0

 ずんと少年の体が重くなりました。
 頭の中に、黒々とした液体が注がれていきます。
 慌てて梯子を掴もうと手を伸ばしましたが、もう届きません。
 記憶は注がれ続け、どろりとした液体は脳に収まりきらず喉から滑り落ちていきます。

( A ;)「違う、違うんだよ」

 彼は己の首をぎゅうと押えましたが、それも空しく。
 液は体を満たしていき、心臓を押しつぶしていきます。


 高校時代、少年は彼と一度も話したことはありませんでした。
 少年以外の人間も、彼とは口も聞きませんでした。
 有体に言えば、生贄となるイジメられっ子でした。

 (-_-)

 彼はいつも教室の隅で苦難に耐えていました。
 少年は反対の隅で息を殺していました。

( A ;)「何度も、何度も、このままじゃいけないって思ったんだよ……」

 そう思ったのは事実です。
 けれど、何も出来なかったのも事実です。
 いえ、何もしなかったのが事実です。 

( A ;)「あの時は、必死だったんだ……」

( A ;)「必死だったんだ……」


 結局 彼の骸を盾にして、少年は生き延びたのでした。

25 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 02:32:05 ID:yiHoQ35U0

 辺りは校舎の屋上になっていました。

 青年は眼下に広がる校庭を覗きこみます。
 そこには彼の姿も、彼に群がる屍の姿もありませんでした。

 少年は、右腕で何かが蠢いたように感じます。
 ぎょっとして青年は学ランの袖を捲りました。
 けれどそこには蛆虫はありませんでした。

 ('A`)「……」

 彼は踵を返すと、重い身体を引きずり、校舎内の階段を降りてゆきました。
.

26 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 02:48:37 ID:yiHoQ35U0

四、

 どれ程の時間経ったのでしょう。
 少年は階段を降り続けていました。
 視界は徐々に薄暗くなっていきます。
 心なしか、体も縮んでいるようです。

 少年は、何故自分が黄泉を旅したいと願い出たのか、ぼんやりと考えていました。
 

('A`)(俺は現世から逃げたかったのかな)

('A`)(あの時は、単純に黄泉の世界を見て回りたいだけだった気がする)

('A`)(見て回って……見て回ってどうするつもりだったんだ?)

('A`)(……探す?)

('A`)(そうだ、探そうと思ってたんだ)

 思考を隠していたものが、剥がれてゆきます。

('A`)(探して会おうと思ったんだ)

('A`)(会うって、誰に?)

('A`)(俺は誰に会いたかったんだ?)

('A`)(黄泉の国で会う……すでに亡くなった人……)

 ふと、ふわりと、線香の香が漂ってきました。
 少年はハッと顔を上げます。
 同時に彼の五感に、どっと何かが流れ混んできました。

.

27 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 02:59:52 ID:yiHoQ35U0

 線香。呪文。否、お経。うねるお経。木魚。花。白百合。胡蝶蘭。菊。

 お香。写真の笑顔。写真だけ笑顔。数珠が擦れる。三角巾。六文銭。帯刀。

 頬に触れる。動かない。つねる。動かない。叩く。動かない。膳に刺さる箸。

 棺。釘。叩く。車。真っ黒の車。火。煙。壺。骨。白い骨。頭蓋骨。骨。骨。白い骨。



 冷たい冷たい墓石。


.

28 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:02:07 ID:RDGDSqcs0
しえーん

29 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:10:37 ID:yiHoQ35U0


 少年は胃から酸っぱい物がこみ上げてくるのを感じました。
 全身がガタガタと震え出します。
 彼はぎゅっと目を閉じます。

 どこからか ひそひそ声が飛び込んできて、
 ぐちゃぐちゃに乱れた感覚に突き刺さっていきます。


 『なんて可愛そうな人でしょう』

 『なんて愚かな人でしょう』

 『碌でもない男に騙されて』

 『無理してそいつの子を産んで』

 『親戚一同からは爪弾き』

 『子を養うため働いて』

 『病気拗らせあの世行き』

 『なんて虚しい人生でしょう』

 『なんて無駄な人生でしょう』


 少年は涙で潤んだ目を見開きました。
.

30 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:21:37 ID:yiHoQ35U0
 
 少年は、彼の何倍も背の高いお化けに囲まれていました。
 お化けを目にした彼の心に、むくむくと怒りが湧いてきます。
 少年は吐き気と震えを何とか抑え、お化け達をキッと睨みます。


 彼は、黄泉の国で誰に会いたかったのかを思い出しました。

 それは、少年が13歳の時に亡くなった、彼の母親でした。


(#'A`)「無駄なんて言うな!」

 少年は力の限り叫びます。

(#'A`)「かーちゃんを、無駄なんて言うなっ!」

 それでもお化け達はヒソヒソ話続けています。

(#'A`)「俺が立派な人間になるんだ!」

(#'A`)「俺が立派になったら、かーちゃんだって立派になるんだ!」

(#'A`)「俺が、かーちゃんが無駄じゃなかったって、証明するんだっ!」




 その時、ぴたりとお化け達が黙りました。



 しかし まもなく、彼等はクスクスと笑いだします。


.

31 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:34:22 ID:yiHoQ35U0

 『お前が立派な人間だと?』

 『笑わせるな』

 『人を踏みつける勇気もなく』

 『人に踏みつけられる勇気もない』

 『弱虫意気地なし根性なしが』

 『大事を成せるわけがない』

(#'A`)「五月蝿い!」

 お化けの一人が手を振り上げました。
 少年は避けようとします。が、足が鉛のように重く、動きません。
 たっぷり詰まった黒い黒い液体のせいです。
.

32 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:35:04 ID:yiHoQ35U0

 お化けが少年を叩きます。
 少年はよろけます。
 別のお化けが少年を叩きます。
 少年は、またよろけます。
 他のお化け達も、クスクス笑いながら少年の体を突き飛ばしていきます。 

 少年が揺さぶられる度に刃は体に切れ目を入れ、内皮を剥いでいきます。
 その傷に液がまとわりつくと、焼かれたような痛みが走り、少年は何度も悲鳴を上げました。
 身体中がただれ、またそこに無数の刃が突き刺さります。
 またそこに液体が流れ込んでゆき、全身を燃やしていきます。
.

33 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:46:48 ID:yiHoQ35U0

 弱虫な少年の心はすっかり折れてしまいました。
 やめてやめてと 弱々しい声でお化け達に懇願します。
 しかし勿論お化け達は止めません。

 涙を流す元気もありませんでした。
 
 涙を流す資格がないのかもしれません。

 ( A )


 朦朧とした意識の中で、少年の心に一冊の絵本が浮かびます。

 ――それは、一匹の醜いそして美しい鳥の話です。

 その鳥は心優しい鳥でしたが、容姿が醜く不格好なため皆から嫌われていました。
 ある日、その鳥は鷹から理不尽な要求をされ、故郷を捨てます。
 そして自分が生きるため虫を喰い殺すのが辛く哀しくなり、太陽の元へ行こうと飛び立ちました。
 しかし太陽には星に頼むよう諭されてしまいます。星に頼むも誰も相手をしてくれません。
 居場所のない鳥はそれでも飛び続け、最後には青白く燃える星になりました。

 少年は、この絵本が大好きでした。特に、最後の一節が好きでした。
 そこを読む母の声が聞きたくて、何度も読み聞かせを せがんだのでした。
.

34 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 03:58:48 ID:yiHoQ35U0


 ふと上を仰ぐと、白い点が無数にありました。
 その中の一つは青く煌々と輝いているように少年には見えました。

 ボロボロになりながら彼は手を空へ伸ばします。
 けれど、星には届きません。



 星になるには、彼の体は重すぎました。


 少年の意識は暗闇に落ちていきます。
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35 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 04:29:29 ID:yiHoQ35U0

五、

 少年は暖かい日差しの中で目覚めました。
 そこは、見覚えのある部屋でした。
 木製のテーブルに向い合せで並んだ若草色の椅子。
 机中央の花瓶には桃色の花。
 
 トントントンと 包丁で小気味よく刻む音が聞こえてきました。
 少年はゆっくりと視線を音の方へ移します。

J(  )し

 クリーム色のエプロンを着た女性が、シンクに立っていました。
 少年は目をぱちくりさせ、ほっぺたを自分でペシペシと何度も叩きます。
 ちゃんと痛みはありました。

 女性が振り返ります。

J( 'ー`)し「起きたのね、たかし。おはよう」

('A`)「おはよう」

 少年は茫然としながらも返事をしました。
 女性――少年の母親は包丁をまな板に置き、少年へと歩みよります。
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36 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 04:40:24 ID:yiHoQ35U0

J( 'ー`)し「かなり黄泉の深い所に迷い込んでたみたいね。でも無事でよかったわ」

('A`)「……うん」

J( 'ー`)し「怖かったでしょう?」

 彼女は少年の頭を撫でます。
 その手の温もりで、少年の涙腺は緩みきってしまいました。

('A;)「かーちゃん、おれ、おれ……」

(;A;)「いたぐて、ごわくて……」

 えぐっえぐっと少年は泣きじゃくります。

J( 'ー`)し「よーしよし」

 彼女は泣きじゃくる少年を優しく抱きしめました。
 左手で背中をポンポンと叩き、右手でゆっくり髪を撫でます。
 すると段々と少年の呼吸も落ち着いていきました。

J( 'ー`)し「よく頑張ったね」

(;A;)「ありがとう」

少年は目を閉じ息をふぅーっと長く吐きます。

(-A-)「……大丈夫、落ち着いた」

J( 'ー`)し「あら、案外立ち直るの早いのね。少し寂しいわ」

('A`)「だって俺、ずっと一人だったもん」

J( 'ー`)し「……ごめんね」

 彼女は、今度はぎゅっと強く少年を抱きしめます。


38 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:08:05 ID:yiHoQ35U0

J( ー )し「ずっと一緒にいてあげられなくて、ごめんね」

J( 'ー`)し「でもかーちゃんは、ずぅっと たかしのこと見守ってるわ」

('A`)「……あのさ」

 少年は母親の顔をじっと覗きこみます。

('A`)「俺、帰らなきゃダメかな」

 彼女は目を丸くしました。

J( 'ー`)し「たかしは帰りたくないの?」

('A`)「うん、帰りたくない」

J( 'ー`)し「どうして」

 彼女はとても悲しそうな顔をします。

('A`)「もう嫌だ、あんなところ。辛いんだ」
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39 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:09:00 ID:yiHoQ35U0

 彼が母親と死別したのが13歳の時。
 元々親族から孤立していた二人、少年は各家をたらい回しにされます。
 少年は親族を見返してやろうと中学高校時代は勉学に励みます。
 彼は良い成績を取ることは、唯一できる母親への恩返しだと考えていました。
 勉強の合間に彼は民間信仰・宗教説話の本を読み漁ります。
 そして見事有名大学の文学部へ特待で合格。

 しかしどうでしょう。楽しいことなど、これっぽっちもありませんでした。

 受けるのは悪意、貯まるのは罪悪感ばかり。
 大きくなれば、それらはもっと増えてゆくでしょう。
 一人ぼっちでそれらに耐える気力も、耐えたいという思いも、少年にはありません。


 J(;'ー`)し「ねえたかし、お願い。そんな寂しいこと言わないで。生きていれば」

(#'A`)「無責任なことを言うなよ!」

(#'A`)「俺だけ残して、俺だけガンバレなんて、ずるいじゃないか!」

J( ー )し「ごめんね、ごめんねたかし……」

 彼女はさめざめと泣きます。
 その泣き顔を見て、少年は心臓をぎゅうとに握り潰されたように感じました。

40 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:09:41 ID:yiHoQ35U0
J( ー )し「でもダメなの、ダメなのよ。たかし。やっぱり私はたかしに生きてほしいの」

J( ー )し「もうすぐカロン様が迎えに来るわ。だから、だだをこねないで頂戴、お願いよ」

 けれど、少年も歩く元気はありませんでした。
 カロンとは最初に合った奴のことだろうか、どうにか交渉できないかと少年はぼんやりと考え始めます。

('A`)(そういや、黄泉の国の掟って何のことだったんだろう)

 ほぼ全ての記憶が戻った少年は、自分の脳内で検索をかけます。

('A`)(あ)

 そこでようやく彼は、『黄泉の国の掟』の答えに気付きました。
 それは、今まさに望んでいたものでした。
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41 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:10:29 ID:yiHoQ35U0

('A`)「なあ、かーちゃん」

('A`)「最後に一つ、お願いしてもいい?」

J( 'ー`)し「……なにかしら」

('∀`)「絵本読んでよ。1回だけでいい。そしたら俺、帰るからさ」

J( 'ー`)し「!」

J( 'ー`)し「ええ。ええ勿論よ! いま持ってくるわ、待っててね。『よだかの星』でいいのよね?」

('∀`)「うん」

 彼女はエプロンで涙を拭うと、急いで子供部屋へと向かいました。
 母親が居間を出たのを確認すると、少年は台所に立ちます。
 コンロの上には大きな鍋が一つ。
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42 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:11:12 ID:yiHoQ35U0

('A`)「ごめんよ、かーちゃん」

 彼は鍋の蓋を開けました。
 懐かしい香りが彼の鼻をくすぐります。
 少年は食器棚からお椀とお玉を取り出すと、鍋の中身をお椀に よそいました。  
 具は豆腐とワカメと、ネギ。

('A`)(嗚呼そうだ、いつもそうだった)

('A`)(かーちゃんは俺の好きなワカメと嫌いなネギをいつも一緒に入れてたんだよな)

 愛おしそうにお椀を撫でる少年。
 彼は静かに微笑みました。


('∀`)「いただきます」


 そして、躊躇いもなくお椀の液体をすすりました。




 黄泉戸契。

 ――黄泉の国の食べ物を口にした者は現世へは帰れない。

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43 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:24:01 ID:yiHoQ35U0

六、

 5月7日 昼12時56分、アパートの自室で一人の男子大学生が死亡しているのが確認された。

 大家が家賃集金のため訪れたところ鍵が開いており、不審に思った彼女は部屋へ侵入。

 そこで男子大学生が死亡しているのを発見した。死亡原因は誤飲により飲食物が肺に入りこんだための窒息死。

 遺体の傍にはアルコール飲料の空き缶が5本ほど転がっていたこと、遺体の表情から苦しんだ形跡がないことから

 酩酊状態で飲食したため起きた事故と警察はみている。しかし飲食する際に使用されたはずの器は見つかっておらず、

 警察は事件の可能性も含めて調査を続けていく方針だ。
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44 :名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 05:24:54 ID:yiHoQ35U0


 宇田隆、22歳。


 死因は味噌汁での溺死だった。

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45 : ◆WGy2ODuAiY:2015/05/07(木) 05:35:28 ID:yiHoQ35U0

以上となります。
まず寛大な措置を取って下さった企画者様に感謝の意を述べさせていただきます。
私の我儘を許していただき、ありがとうございました。
そして5:00というリミットを過ぎてしまったことを心からお詫び申し上げます。
申し訳ありません。
そして支援くださった方々、本当にありがとうございました。とても心の支えになりました。
最後に、ここまで読んでいただきありがとうございました。









元スレ:('A`)は黄泉の国を彷徨うようです

>>37、>>38は最後の一文以外は内容が重複していたので>>38を残してまとめました(中の人)
[ 2015/05/18 15:54 ] スレ立て短編 | TB(0) | CM(0)

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