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( ^ω^)せんとうのスヽメのようです  いの三

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:31:22.51 ID:TgL+Nc5L0




 割り箸を折り、カッターナイフで削って尖らせる。それを八回。
 クール宅急便で実家から送られてきた荷物の中に、胡瓜と茄子が一つづつ入っていたのだ。
 それらに削った割り箸を差し込み、ちゃぶ台にそっと立たせる。

 胡瓜の早馬。茄子の牛。

 僕のこの下宿にご先祖様が還ってくるのかと言えば、そんな事は絶対に無いのだろうが、それでも何となく義務感を感じてしまう。
 迎え火も送り火もしないが、お盆と言えばこの割り箸を削る感触が思い起こされるのだ。
 祖父に教わりながらおぼつかない手つきで彫刻刀を握ったものだなぁ……。


( ^ω^)「おん」





4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:34:47.51 ID:TgL+Nc5L0





( ^ω^)せんとうのスヽメのようです


いの三 ~盆祀り~







8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:37:21.84 ID:TgL+Nc5L0




 そんな感慨にふけっていると、直ぐ傍の畳で携帯が震えた。すわ怪奇現象かと身をすくめたが、竦めただけ無駄だった。メールの着信だ。
 拾い上げて、画面を覗き込む。
 祭会場に行く約束を取り付けた友人から、五時に集合とのお達しだった。


(; ^ω^)「張り切りすぎだろお、こいつ……」


 花火大会も兼ねた盆祭りは、この街の恒例行事らしい。
 ちゃぶ台に畳んだまま置いてあるチラシには『参百発』だとか『豪華絢爛』だとか『スターマイン』だとかの文字が躍っている。
 夜からが本番だろうのに、そんな早くから如何しようってんだこの男は。

 まぁ気持ちはわからないでも無い。
 四季を存分に楽しみたい僕は、友人からその夏祭りの事を聞いて、『いくいくー』とばかりに一も二もなく参加を決意したのだ。
 ちなみにツンは帰省中。一応誘ってはみたが、あっさりと断られてしまった。

 そういう訳で、夏祭りだ。
 正確には盆祭りだが、名称の違いは些事でしかあるまい。


( ^ω^)「まぁ、張り切り具合なら負ける気はしねぇけどお! ね!」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:41:18.02 ID:TgL+Nc5L0


 言って、クール宅急便の箱から見つけたばかりの麻地の布を取り出す。紺のかさかさとした手触りが懐かしい。
 絣模様を見て、あ、祖父のものだと直ぐ気づく。母が裾直しをしたんだろうか。
 玄関には、先日見かけて思わず百貨店で買ってしまった下駄が一組み。今にもかんらと鳴り出しそうだ。


( ^ω^)「おっ、まず帯を用意して、と」


 ティシャツにトランクスというみっともない格好でいつまでも居るわけには行かない。
 僕は遙か昔に母に叩き込まれた浴衣の着方を脳裏から引っ張りだした。









(´・ω・`)「お前はお祭り小僧か」

( ^ω^)「……褒めてるのかお?」

(´・ω・`)「褒めてねぇよ」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:45:02.89 ID:TgL+Nc5L0


 しょぼんと眉を垂れた友人は僕の格好を見て一つため息を漏らした。
 何時も買い物をする駅前の商店街には露店や屋台が並び、雑多な人並みが揺れている。店舗の中に人の気配も薄く、店先で屋台をやっている店まであった。
 そうしてどこからともなく流れてくる祭り囃子。ふむ、風流だね。
 商店街のマスコットキャラクターの着ぐるみが子供達とじゃれあっている。


(´・ω・`)「何で地元民のおれより地元民らしいんだよ」

( ^ω^)「僕は全力で四季を楽しんでいく人間なんだお」

(´・ω・`)「訳わかんねーよ。っていうかお前、浴衣似合うなぁオイ」


 藍染めの浴衣に下駄。あとは諸々の小道具さえ揃えれば、どこに出しても恥ずかしくないお祭り野郎である。
 歩く度かんらかんらと小気味の良い足音が響く。
 其れに対する友人は、ジャージのハーフパンツに襟ぐりの緩んだシャツという、古典的と言っても良い『夏休みの大学生』だった。


(´・ω・`)「まぁ、どうだって良いけどさぁ」

( ^ω^)「おっお、それより唐揚げ喰うお唐揚げ。あっちで売ってたお」

(´・ω・`)「いや待て、そっちより西口の屋台の方が安いぞ」

( ^ω^)「お」

(´・ω・`)「あ、後さっき先輩から連絡きたから。六時に東口で集合だと」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:48:58.90 ID:TgL+Nc5L0


( ^ω^)「おん」

(´・ω・`)「貸し座敷借りたってさ。迷ったら五番の座敷行けよ」

( ^ω^)「貸し座敷?」

(´・ω・`)「ん?」



 別に僕とショボンは二人切りで過ごす訳ではない。それはちょっとあんまりにも気まずいじゃないか。
 所謂サークル活動と言う奴だ。


 四月。
 サークル活動という言葉の響きに誘われて紹介パンフをめくっていた僕は、とりあえず一番気楽そうなお遊びサークルに入会した。
 別段遣りたいことがあった訳でもなく、ただ大学に入ったからには世に聞く「さーくるかつどう」とやらをやらねばなるまい、という使命感から選んだサークルは、

『歩こう会』

 そのださい感じが気に入った。
 小中高と五キロ以上の通学路を踏破してきた僕の健脚の見せ所だ、などと冗談半分意気込んで、蓋を開けてみれば本当にお遊びをするサークルだった。
 名目としては『四季折々のイベントを、乗り物無しで楽しむ』という、所謂フウリュウだとかワビサビだとかを楽しむサークルらしいのだけれど。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:53:41.29 ID:TgL+Nc5L0


 東西南北に向かって十字型になっている商店街の東口。子供向けの露店が密集した辺りで、先輩方や同輩が何人かあつまっていた。
 既にアルコールが入っているのか、あの一団の周りだけ酒臭いような錯覚を覚える。心なしか、通行人も避けて通っているような気さえする。
 近寄りたくねぇなぁ、と小さく小さくショボンは呟いた。心中察する。僕も大変近寄りたくない。

 他人の振りをして通り過ぎたい衝動を我慢して手を振り返すと、部長を中心とした一団が此方に声を掛ける。


(*゚∀゚)「やー、こんばんわー。これで全員かー?」

( ФωФ)「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

从 ゚∀从「日本語を話せ」

( ^ω^)「こんばんわですお」

(´・ω・`)「こんばんわー」

( ФωФ)「おー暑いな! 暑いな! もう発火するよな! な! 
          おぉぉおお、浴衣か! 浴衣だな内藤! 夏に浴衣! 夏木ゆたか!」

从 ゚∀从「会話しろ」

( ФωФ)「うひゃひゃ」


 大分出来上がった人々を片目に見遣り、部長が「あっついなぁ」と白無地の扇子で扇いでくる。
 商店街の空気自体がむんわりと暑いため、遣ってくるのは熱風だけだったが、それでも仄かに汗が蒸発して体温が下がった。
 周りの皆さんを見回すが、どうやらサークル内に浴衣の人は居ないらしい。女の人も皆私服だった。残念無念と息を呑む。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 14:58:19.09 ID:TgL+Nc5L0


(*゚∀゚)「それ、自分で着たのか? すごいな、お前」

( ^ω^)「おかんがそういうの好きなんですおー」

(´・ω・`)「で、今日はどうします?」

(*゚∀゚)「いや、どうするもこうするも、呑んで喰って、呑んで喰って?」


 コレが俗に言うリア充と言う奴か、と思いつつ、僕は頷いた。








 祭り囃子。怪しげなお化け屋敷の煽り文句はしゃがれ声。
 子供の集団から聞こえてくる歓声。露店のかけ声。ソースの香りと小麦の焼ける匂い。音。
 浴衣をきた白人女性がいる。無料配布の団扇を仰ぐ子供連れの男性がいる。僕の視線の前を甚平を着た子供が慌ただしく駆けていった。
 親を呼ぶ泣き声。酔っぱらった笑い声。下卑た野次や怒号。イベントライブをしている会場から聞こえてくる歌声。

 木材と日に焼けた畳で作られた即席の座敷は座った人が動く度ぎしぎしと僅かに軋んで、どことなく落ち着かない。
 それでも先輩方は何不安げな事も無く騒いでいるから、おそらく心配は無いんだろうけど。


23 名前:>>22 別作品です:2009/07/18(土) 15:03:16.54 ID:TgL+Nc5L0


∬*´_ゝ`)「美しく健康な髪は健康な頭皮から!」

(#*゚∀゚)「畜生、何だよあの犬! なんであんなふっさふさなんだよ!」

(*´・ω;`)「生まれてこの方そんなの初めてです……」

( *゚∋゚)「三番! ピンアンその八!」

( *^ω^)「あ、の、僕ちょっと露店見てきますおー」

(・∀ ・)「おうよー」

( ФωФ)「お土産な! お土産忘れるなよ! 酒とってこい酒!」

从 ゚∀从「お前はもう飲むな」

(;*^ω^)「……」


 飲み会集団なのは知っていたが何だこの状態は。
 肌がじっとりとべったりと汗やら酒やらで湿っている。お風呂入りてぇなぁと僕は浴衣の袖を軽く捲った。
 靴を固めて置いてあったところから下駄を取り出し、頼りない柱に手を付きながらぺいと座敷の外に放り出す。

 路地の石畳にかんらからと鳴った。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:06:25.62 ID:TgL+Nc5L0


( *^ω^)「とぅっ」


 そのまま僕も飛び出て着地。石畳に裸足で降り立ってから、下駄を履く。
 広場にはずらっと貸し座敷が並んでいる。何組かの家族で借りて休憩場所にしているところ。僕らのように酔っぱらいが宴会会場にしているところ。
 避難地区のようで何だか温い。


( *^ω^)「おもっしょいもんだお」


 しかし道行く人の座敷に対する視線がそこはかとなく迷惑そうだ。スミマセン。

 酒は呑むものでは無い、嗜むものなのだと父から習った僕は、けれどほんのりと千鳥足だ。
 しばし小脳と大脳が逆立ちをしているような酩酊感と、プールの直後、更衣室で着替えているときに不意に感じるような気持ちの悪さを楽しんだ。
 意識は明白だが、一応酔い醒ましにジュースでも買おうかと下駄を鳴らしながらジュースを売るビニールプールを探す。

 それは案外簡単に見つかった。ペットボトル一本百五十円。
 お祭りにしては良心的な価格である。
 しかし何故にお祭では物の物価が急高騰するのだろうね、と頭の上に飛び交う小人に聞いてみた。ふうむ、我ながらかなり酔っている。


( *^ω^)「くーだーさいなー」

(゜д゜@「あいよ」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:09:20.04 ID:TgL+Nc5L0


 ポカリスエットを指さし、帯にぶら下げた小銭入れから百円玉を二枚取り出した。
 うなづいたおばさんは疲れた顔をしている。夏の七時はまだ明るい。
 お釣りを受け取り、その場でキャップを開けて飲む。甘ったるい水分が体に吸収されていった。

 その冷たさに脳味噌が冴えていく気がする。


( ・∀・)「あ、ブーンさんだ!」

( *^q^)「ぶふぁ」

(; ・∀・)「っえ、うわっ、うわぁああああ?!」


 いかん、まだ気がゆるゆるだ。声をかけられて軽く背中を叩かれた程度でポカリスウェットを吹いてしまった。
 吐き戻した僕をおばさんは迷惑そうに見ている。
 ああ鼻に上がってきた。痛いな、チクショウ。


(; ・∀・)「大丈じょうわっきたなあっ」

( lil^q^)「鼻に入っ、あ"あ"あ"プールで溺れた時の感覚が蘇、」

(; ・∀・)「だ、大丈夫ですか!?」

( lil^ω^)「……おん」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:13:01.61 ID:TgL+Nc5L0


 未だ鼻の奥が何とも言えなく痛いが、その内に下がっていくだろう。
 掌で鼻を擦り、痛みを誤魔化す。くしゃみが出そうだ、と不意に思った。
 前かがみの体制を直し、声の主に挨拶をする。


( ^ω^)「モララーくん、久しぶりだおー」

(; ・∀・)「はぁ」


 未だにちょっと心配そうな顔で軽くぺこりと頭を下げたのは、美夫湯非常勤バイトの、モララーくんだ。


 何というか、いかにも『夏休みの男子高校生』を絵に描いたような格好の彼は、中々祭り会場と似合っている。
 少なくともミニスカ浴衣とは比にならないだろう。あれは、どういう構造になっているのかねぇ……。
 最近はスーパー何かでも売っているのだけれど。


(; ・∀・)「……えーっと、ブーンさん一人なんですか?」

( ^ω^)「え、違う違うお。サークルの飲み会のテンションに乗り損ねたんだお」

( ・∀・)「あぁ、さーくる」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:17:17.57 ID:TgL+Nc5L0


 合点がいった、という風に頷く。
 僕が歩き出すと自然にモララーくんは隣に並んだ。
 僕が休みの土日やドクオさんが休みの月木にだけ手伝いをする彼は所謂今時の若者で、
いちいち感性が昭和臭いと揶揄されるような僕にとってちょっとだけ苦手な類の人だ。

 なんて言うか距離感が掴みきれない。
 日本人らしいと言えばそうなのかもしれないが。


( ^ω^)「ていうか、モララーくんこそ一人なのかお? 寂しくないかお、それ」

( ・∀・)「あ、や、違いますよ? 友達とはぐれたんです。それで、適当にぶらぶらしながら、連絡待ちです」

( ^ω^)「おーん」


 僕の足下で下駄がからんと鳴る。祭りばやしに拍子を併せて歩くと、まだ酔いが醒めていないのか、酷く愉快な気分になった。
 隣で小脇に戦利品らしき袋を抱えたモララーくんは、きょろきょろと辺りを見回している。
 めぼしい屋台が無いか探しているのだろう。僕もそれに倣う。

 僕が美夫湯でバイトをしていて善かったと思えるのは何もお風呂に入れる時だけでは無くて、こういう時もそれをひしと感じるのだ。
 もし僕が美夫湯で働いていなかったら、彼とは絶対に仲良くなれなかっただろう。
 これを銭湯の徳と言わずして何と言おうか。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:21:48.62 ID:TgL+Nc5L0


( ^ω^)「射的やろうお、モララーくん」

( ・∀・)「射的ですかー。射的っつったらアレですよね、エロジッポ」

( ^ω^)「いらねぇお」

( ・∀・)「あれは何処に需要があるんですかねぇ。バイブなら兎も角」

( ^ω^)「知らんおって。さっき無限ぷちぷち見ちゃって、あれめっちゃ欲しいんだけど」

( ・∀・)「えー」

( ^ω^)「何だおその顔」

( ・∀・)「いえ、何か凄い似合います。はい、めっちゃぷちぷちしてそうです」


 僕の下駄の音はかんらかんらと祭り会場に好く通る。
 人混みの喧噪というのは本当に『ガヤガヤ』と聞こえるのだなぁ、と感心した。
 射的の後は何をしようか。腹ごしらえをしようか知らん、と思いながら焼き鳥のにおいに鼻をくすぐられる。
 焼き鳥もいいな、とそちらに目を遣ると、


( ^ω^)「げっ」


 雀の丸焼きだった。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:25:26.69 ID:TgL+Nc5L0
















( ・∀・)「……ユニット名は、『美夫湯迷い子』でどうでしょう」

( ^ω^)「いや、そんなの何でも良いから」


 射的で念願のおもちゃを手に入れ、ボールダーツで日本酒の一升瓶を取り損ね、モララーくんといっせえので雀の丸焼きを頬張った後。
 気がつけば僕らは道に迷っていた。




33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:28:21.38 ID:TgL+Nc5L0


( ・∀・)「あー、今日掃除あるのに。間に合うかなぁ」


 商店街からは出たはずなのだが、依然露店が並んでいて、道の先は人波に霞むようだった。
 じっとりと湿気が肌に張り付くように暑い。その所為で何だか心臓が泡立つ。苛々してきたなぁ、と温くなったポカリスウェットを呷った。
 そうしてうぅむ、と眉を寄せた僕は唸る。今の位置が全く頭の中の地図と合致しない。ああ、迷子なんて何年ぶりだろうなぁ……。

 言うことの割に表情に余裕のあるモララーくんは、手元にある携帯電話を開いては閉じを繰り返していた。
 雑踏の中では、立ち止まっているのも一苦労だ。


( ^ω^)「友達から連絡、あったお?」

( ・∀・)「いえー、携帯の存在忘れてるんですかねぇ」


 あるいは俺自身が忘れられてるのかも、と付け足し、本日二回目の唐揚げを買いに走る。
 それを追いかけて、僕は幾度目かのため息を漏らした。座敷から出てもう何時間にもなる。先輩たちも心配しているだろう。……いや、しているか?




36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:32:20.52 ID:TgL+Nc5L0


( ・∀・)「半になったら何とかして掃除いかなきゃいけませんよ、どします?」

( ^ω^)「あ、今日木曜だっけ」

( ・∀・)「……曜日感覚大丈夫ですか」

( ^ω^)「おー」


 そうか、掃除か、と僕は手を打つ。八時半頃に電車に乗ったら、ぎりぎり美夫湯の最寄り駅に着くかといった感じなのだろう。
 ドクオさんが休みなので、今日は荒巻さんが一人でボイラーをやりくりしているのだ。
 あの道幾十年。筋骨隆々の爺さんが汗を流してボイラーに向かう様子が浮かび出す。暑苦しいったらねぇな。


( ・∀・)「とりあえず、駅探しますか?」

( ^ω^)「そう、だお。駅まで出りゃあ、何とか帰れる、お?」

( ・∀・)「多分……」


 ううむ、自分では方向音痴ではないと思っていたのだが、その認識は改めた方が良いのか知らん。
 粉物や型抜きといった露店に釣られそうになりつつ、モララーくんと二人でふらんふらんと勘で歩を進めていく。
 双方気が長い方で良かった、と僕は内心胸を撫で下ろした。こんな状況で険悪な雰囲気になったら目も当てられない。

 現在時刻は午後七時四十七分。時間はある。
 そう焦らずゆっくりいこう。
 

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:36:51.01 ID:TgL+Nc5L0










 



(;,^Д^)「あ! モララー先輩居たぁ!」


 ともすれば人々の喧噪にかき消されそうなその声に反応したのは、モララーくんでは無くて僕だった。
 声の主はこちらに向かってぶんぶんと手を振っている。む、見知った顔、と僕は眉を寄せた。
 たったと駆け寄ってきた彼は、立ち止まっている僕とモララーくんの前で膝に手をつき、ぜぇはぁと荒く息をつく。

 携帯で時間を確認する。午後八時二分。
 今から合流すれば何とか少しは遊べるだろうかという時刻だった。
 


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:43:53.91 ID:TgL+Nc5L0
 

(;,^Д^)「ふらふらしないで下さいよ」

( ・∀・)「ふらふらしてんのはそっちだろ。っていうかお前らね、携帯は?」

(;,^Д^)「あ……」

(; ・∀・)「あじゃねぇよぉ。逸れたら人数多いほうが連絡入れるって言っただろ」


 ため息を一つ。僕は三回ほど瞬きをしてから、モララーくんの後輩くんに向かって駅の方向を聞いた。
 喧噪に声を掻き消されそうになりながらも聞き取り、それじゃあと手を振る。そう離れているようでも無いらしい。
 確か商店街は駅の東側にあったはずだ、と脳内にもう一度地図を作る。


( ・∀・)「あれ、ブーンさん来ないんですか」

( ^ω^)「え、いや寧ろ何で僕が行くんだお。座敷で飲み直すおー」

( ・∀・)「えっ、あ、……そうか」



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:46:42.70 ID:TgL+Nc5L0


 それじゃあ、とモララーくんは手を振る。後輩くんは人混みの中、ぺこりと頭を下げた。
 少しだけ格好付けて、かんらかんらと気取った足取りで僕はその場を離れる。


「もしかして先輩、迷ってたんですか?」

「何を根拠に! そうだよ!」

「マジですか……まぁいいや、ギコせんぱ、あ?! ああっ今度はギコ先輩がいないっ?!」











 祭りを背にした路地裏というのは酷く独特の雰囲気があって、思わず覗き込みたくなる。
 危なそうなオニイサンと目が合ってしまった僕は、得意の愛想笑いで逃げ出した。からからからと静かな路地に下駄の音が響く。
 モララーくん達と分かれた後一応サークルの座敷に行って見たものの、余りのぐだぐだ加減に呆れてしまい、僕は一人で離脱してきたのだった。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:50:20.27 ID:TgL+Nc5L0


(*゚∀゚)『いっき! いっき!』


 としきりに部長が騒いでいたので、あのまま合流したら酔い潰れるのは免れなかったであろう、という言い訳はさせていただく。


( ^ω^)「美夫湯行かなきゃなんないし、今日はちょっと、お」


 ショボンの携帯に先に帰る旨をメールし、部長の携帯に会費は今度の活動で払うと伝えた。
 基本『歩こう会』の活動は流れ解散なので、これだけ対策を打てば文句は言われないだろう。
 さて、とっとと帰って水でも浴びて、酔いを抜かなくてはと足を急がせる。

 僕と同じように祭りから帰る人の流れと、今から始まる花火大会目当てに会場に向かう人の流れ。
 帰るほうの流れに乗りながら下駄を鳴らしていると、不意に知った顔が通り過ぎた。


( ^ω^)「……っお?」


 立ち止まって振り返る。
 ツンが居ない所為か、今日は酷く女ッ気が無いなぁ……。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:53:36.26 ID:TgL+Nc5L0


( ^ω^)「ドクオさん、花火かおー?」

('A`)「お? あー内藤か。んー、ちょっと荷物多いから、何か袋でも取ってこようかと思って」

( ^ω^)「荷物?」


 見ると、ドクオさんは両手に一本ずつ酒瓶をぶらさげて、序に養命酒の赤い箱を小脇に抱えている。
 何故ピンポイントで酒ばかり取っているのだこの人は、と思わず眉をひそめた。
「あーうん」と僕の様子を見てドクオさんは曖昧に笑う。


('A`)「ちょっとなんかテンションが上がって」

( ^ω^)「っていうか一人でお祭とか寂しすぎますお?」

('A`)「うるせぇなぁ。手伝えよ、一本あげるから」

( ^ω^)「おっお、喜んで手伝いますお!」


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:56:33.45 ID:TgL+Nc5L0



 養命酒の赤い箱をドクオさんの脇から抜取り、「駅ですか」と聞く。頷きを確認して、歩き出した。
 しかし養命酒とは、随分渋いチョイスをしたものだ、と手の中の箱を見ながら思う。
 なんというか、高校生にして銭湯のバイトをしてみたり、中々独特な人である。其れを言ってはモララーくんやシュールちゃんもだが。

 赤い箱の後ろには養命酒の効能が書いてあった。
 然し何にでも効くなこの酒は。酒は万病の薬とはこのことだろう。


('A`)「あ、そうだ。丁度良い、それ荒巻のじーさんにやってきてくんないか」

( ^ω^)「荒巻さんに?」

('A`)「じーさん腰痛酷いって言ってたから、効くんじゃないかって思って
    あそこの年寄りどもが一人でも欠けたら美夫湯やばいからなぁ……」

( ^ω^)「……お、任されましたお」







45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 15:59:31.90 ID:TgL+Nc5L0






 コノサカヅキヲ受ケテクレ

 ドウゾナミナミツガシテオクレ

 ハナニアラシノタトヘモアルゾ

「サヨナラ」ダケガ人生ダ


『勧酒』井伏鱒二・訳









46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/18(土) 16:00:36.64 ID:TgL+Nc5L0

以上で本日の投下は終了です。
支援等有難う御座いました。質問等ありましたらどうぞお願いします。








元スレ:( ^ω^)せんとうのスヽメのようです(リンク先( ^ω^)ブーン系小説とか読み物とかの倉庫様)

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