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少女甘美のようです

3 :代行ありがとうございました:2014/08/08(金) 23:58:43 ID:B3uliljU0
百物語参加作品です

蝋燭五本目いただきます

  .,、
 (i,)
  |_|



4 :名も無きAAのようです:2014/08/08(金) 23:59:29 ID:B3uliljU0
女の子はお砂糖とスパイス、素敵ななにかで出来ている。
素敵ななにかは、運命の人。
自分のすべてを捧げてもいいと思えるくらい素敵な王子様と結ばれたら、女の子はお姫様になれる。
そうしたら、二人は永久不滅の愛を得られるのだ。

だけど運命の人を見つけたとしても、彼から拒絶されてしまったら、それでおしまい。
運命の人というのは、女の子一人につき一人しか与えられない。
代わりというものはいないのだ。
だからこの世にいる女の子のほとんどは、不完全な存在だ。
どこか欠けていて、不安定で、でもそれが男の子にはいいと思えるのかもしれない。
でなかったら運命でなかったとしても、恋に落ちないはずだから。

このお話を知ってるのはわたしとそれを教えてくれた魔女さんだけ。
魔女さんは運命の人を見つけ、不滅の愛を得られたと言っていた。
それはとても幸福そうで、満たされていて、羨ましく、妬ましく。
わたしも彼女のようになりたいと願っていた。

みんながこのことを知っていたら、きっとこの世の中は随分変わったのだろう。
きっときっと、みんな幸せになれたとわたしは思ったから、お母さんにも、お父さんにも、友達にも話した。
けれど、信じてくれなかった。

5 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:00:43 ID:Ng.mWh7w0
('、`*川「ねえ、先生はどう思う?」

ベッドの中心で膝を抱えている少女、ペニサスはそう僕に問い掛けた。
頭にまで毛布をかけているからあまり顔は見えないが、なんせこのやり取りは今までにも何千回と行われている。
だから僕には彼女がどんな顔をしているのか予想がついていた。
おそらく膝に顔を埋めながら、幼い目で僕を見上げて、どこか期待するような表情を浮かべているんだろう、と考えていた。

('、`*川「ねぇ、せんせいったら」

体を左右に揺すり、首が持ち上がった。
その拍子に毛布が肩にまでずれる。
顔が少し上気していること以外は、上にあげたような僕の予想とは大きく外れてはいなかった。
やはりその目は、きらきらと輝いていた。


(´・_ゝ・`)「ごめんよく聞いてなかった」

('、`*川「せんせいのイケズ」

唇を尖らせ、ペニサスは体の揺れを大きくさせて、ベッドに寝転んだ。
ばふ、という音ともに埃が舞う。
先週この部屋を訪れた際、あまりにも部屋が汚いから僕が掃除をして、布団は自力で干すように言いつけたのだがそれは果たされていないようだった。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、埃ばっかり吸うと喘息になるよ」

('、`*川「…………」

苺がプリントされたモノクロの毛布がもそもそと動き、あっという間に彼女の背中が現れた。
芋虫か、あるいは蓑虫のようであった。
今時子供でもそんな拗ね方をしないんじゃないだろうか。
もうちょっと、「バカ」だの、「くさい」だの、言葉のやり取りがあってもいいんじゃないかと僕は思っていた。

6 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:01:40 ID:Ng.mWh7w0
僕は引きこもりの子供、主に小学校高学年から中学生を対象に家庭訪問をしてなんとかコミュニケーションをとる仕事をしていた。
仕事というか、ボランティアのようなものだ。
お金はもらえるものの同僚や上司にはめったに会わず、実際に触れあうのはやはり子供たちばかりであったので、仕事という実感はあまりなかった。

そして今毛布で出来た薄い装甲を纏っている彼女こと伊藤ペニサスは、小学二年生からほとんど学校に行っていない筋金入りの引きこもりである。
年齢は十三才、今年で一応中学一年生である。
ただし一回も行っていないし、制服にも袖を通したためしもないが。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、そうやって面倒になったからって背中向けるのやめようよ」

('、`*川「…………」

苺柄の芋虫は微動だにしない。
眠っているんだろうか、と思って僕は少し息をひそめてみた。

('、`*川「…………」

微かな呼吸音。
しかし寝息ではなかった。

(´‐_ゝ‐`)=3(やれやれ)

彼女と対話を始めて、何回目になるだろう。
初めて会ったのは春で、今年で三回目の夏が来る。

しかし事態は悪化もしなければ、改善もしなかった。

彼女は他人と会話することに苦痛を感じるタイプではない。
外出も気が向けば、昼間でも出歩く。
時折自分から言い出して、一緒に出掛けることすらある。
家族構成は共働きしている両親と彼女の三人という、典型的な核家族。
経済力も普通で、極端に富んでいるわけでも貧困に喘いでるわけでもない。
発達障害や神経症を疑って医者にかかった過去もあるが、検査には引っ掛からなかった。
本当に、普通であった。
だからこそよくわからないのだ。

7 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:03:01 ID:Ng.mWh7w0
彼女はいつも決まって、冒頭の話をする。
少女は砂糖とスパイスと素敵なもので出来ている。
有名なマザーグースの詩だ。
たしかに愛らしい詩であるし、たびたび作品の題材になったりもする。
ペニサスは、その詩に心酔しすぎていた。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん」

('、`*川「…………」

返事はない。
代わりにもぞりと毛布が動く。
背中をかいているようだった。
しかし手が届かないのか、じれったそうに足の爪先がのびたり縮まったりしていた。

(´・_ゝ・`)「…………」

僕は黙ってベッドの近くまで行って、背中に触れた。

('、`*川「っ……」

本当はこういうことをすると怖がる子がいるので、触るという行為には慎重にならなくてはいけない。
しかしいまさら、彼女が嫌がるなんて僕は思っていなかった。
妄言さえ吐かなければ、彼女は普通の友達であった。
いささか年は、離れすぎているが。

(´・_ゝ・`)「……痒いところは、ここでいいのかな」

('、`*川「……もう少し上」

(´・_ゝ・`)「そうか、痛くないかね」

('、`*川「全然」

何気ないやり取りである。
そのやり取りすら、彼女は僕以外の同業者には許さなかったのだという。
唯一こうやって、どうでもいい話が出来ているのは僕だけであった。
だから進歩がなくても、彼女の両親は僕を解雇させなかった。

8 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:04:14 ID:Ng.mWh7w0
(´・_ゝ・`)「いつも思うんだけどさ」

('、`*川「なぁに?」

(´・_ゝ・`)「魔女っていうのはどういうものだったの?」

相手の妄想を肯定するとますますその人はその妄想に囚われる、かといって否定すると落ち込んでしまうので、当たり障りのない対応をする。
そのように授業で教わったのだが、今、僕はそれを破ってしまった。
僕はどうしても気になっていたのだ。

どのカテゴリーにも納められない彼女のその言葉は、いったいどこから来ているのだろうか。
ペニサスがよく口にする、「魔女さん」とやらは、なんなのだろう、と。

('、`*川「…………うーん」

上体を起こした彼女は毛布をくちゃくちゃに丸め、ベッドの際へと腰かけた。
生白い、貧弱な足。
落ちつきなさげにそれらは絡み合ったり、重ね合わせたり、忙しなく動いていた。

('、`*川「……笑わない?」

ペニサスが珍しく恥ずかしそうに言う。

(´・_ゝ・`)「笑わないよ」

心のなかでは笑うかもしれないけど、とひっそり付け加える。
しかしペニサスには伝わらない。
彼女は、気付かない。

('、`*川「…………」

ほんの少し考えて、ペニサスは口を開いた。

('、`*川「先生、こっちきて」

ぽんぽん、とベッドが叩かれる。
つまり彼女のすぐ左側である。

(´・_ゝ・`)「隣に座ってもいいのかい?」

少し驚きながら言うと、

('、`*川「来なかったら教えてあげない」

と来たもんだ。
やむなく僕はフローリングに置かれた低反発のクッションから、彼女の隣へと移ることにした。
ぎしり、と音をたててベッドが僕を受け入れる。
体を無理矢理彼女のほうへと捻る。
左手をつかないと支えられないので、少しつらい姿勢ではあるが、我慢はできた。

9 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:05:27 ID:Ng.mWh7w0
ベッドは彼女の聖域だ。
誰の目にも触れることがないような、そんな隙のなさを感じる作りをしていた。
今腰かけている場所とは反対のベッドサイドは窓辺の壁にびっちりくっつけているし、その窓にだって遮光性の分厚いカーテンが光を追い返している。
ぶらさがった円盤上の天蓋は黒いシフォンの領土を広げ、枕元をすっかり覆い尽くしていた。
そのまた反対側の足を向ける方向には、背の高い本棚が僕たちを見下ろしていた。
本棚に収まっているのは大学の赤本だの高校受験だの、あるいは大検の問題集なんかが多く、およそ彼女の手に余るような本ばかりであった。

(´・_ゝ・`)(まだ早すぎる)

ペニサスはまだ、十三なのだから。
人生をやり直すのは容易で間に合う年齢だ、なのにどうしてこんなにも先のことを考えるのだろうか。

('、`*川「先生」

ぐい、とシャツを引っ張られる感覚。
生返事をしながら、ベッドのほうに視線を移す。
その上に存在するのを許されたのは、マカロン型のクッションと白地に赤いドットが散らばる枕とずいぶん昔にご両親には内緒で買ってあげたパーカー。
そして、僕だ。

(´・_ゝ・`)「話の、続きを、」

('、`*川「…………」

(´・_ゝ・`)「……ペニサス、」

('、`*川「…………」

(´・_ゝ・`)「…………」

('、`*川「…………」

沈黙が部屋を支配する。
いや、会話がないのは珍しいことではないのだが、こんな風に気まずくて緊張する思いをするのは今までになかった。
さっきまで僕を見据えていたペニサスはうつむいているものだから、僕は視線のやりどころにすっかり困ってしまっていた。
仕方がないので、枕の下から飛び出している藍色のパーカーの話をすることにした。

10 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:07:35 ID:Ng.mWh7w0
(´・_ゝ・`)「あのパーカー、着ないのか?」

('、`*川「着たら汚れちゃうもの」

(´・_ゝ・`)「じゃあ内緒で洗えばいい」

('、`*川「洗うのもいや」

(´・_ゝ・`)「どうして?」

('、`*川「思い出を、忘れちゃうような気がするから」

(´・_ゝ・`)「なくならないよ、そんな、」

すると今までもじもじしていたペニサスが顔をあげた。

('、`*川「……わたしにもよくわからないの」

(´・_ゝ・`)「わからない?なにが?」

('、`*川「あ、パーカーじゃなくて、魔女さんの話ね、わからないのは」

(´・_ゝ・`)「いきなり話が飛んだな」

('、`*川「あとで拾うから大丈夫」

それでね、とペニサスが饒舌に話し始めたので、僕は相づちをうって聞くしかなかった。

('、`*川「魔女さんって、不完全な女の子の目には写らないんですって」

(´・_ゝ・`)「へえ」

('、`*川「真夜中に窓が開いて風が吹き込んだの。そして声が聞こえた」

(´・_ゝ・`)「声か」

('、`*川「いつも先生に話してることだけどね、女の子はお砂糖とスパイスと」

(´・_ゝ・`)「素敵なもの」

('、`*川「ものじゃなくて、なにか」

11 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:10:05 ID:Ng.mWh7w0
(´・_ゝ・`)「そこは譲らないんだね」

('、`*川「運命の人を物扱いするわけにはいかないでしょ?」

(´・_ゝ・`)(どっちでもいいじゃないか)

口には出さずにそう思った。
ペニサスが身じろぎをする
その間にも、彼女の口は、止まらない。

('、`*川「誰にも話したことがないけど、わたしがこの部屋にいるのはね」

(´・_ゝ・`)「…………」

('、`*川「運命の人に会える方法を教えてもらったの、魔女さんに」

足が、絡めとられる。
白い素足の熱が、スラックス越しに伝わってくる。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、」

('、`*川「この部屋に閉じ籠れば、いつか王子様が来るって」

シャツの袖口が掴まれる。
とっさに利き手である左手で彼女の手を捕らえようとした。
体が、斜めになる。

(´・_ゝ・`)「あっ、」

体がベッドに沈む。
上を見れば、いつの間にかペニサスが馬乗りになっていた。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、」

力を込める。

('、`*川「っ……」

ペニサスがほんの少し眉をひそめる。
僕は、動けなかった。
そんな力が引きこもりの少女から出てくるのかというと、そうではない。

12 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:11:26 ID:Ng.mWh7w0
僕の両肘の関節は、体重がこめられたそれぞれの手によって彼女に押さえつけられてしまっているからだった。
こうなると上半身を動かすのは容易ではない。
おまけに胴体までもが足でがっちりとベッドに縫われていた。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、やめなさい」

至極冷静に返すふりをして、僕はなんとか腕だけでも主導権を取り戻そうともがいた。
しかし手首がめちゃくちゃに浮くだけで、どうにもならなかった。
支点となる肘が押さえられているのだから無理もなかった。

(´・_ゝ・`)「成人男性を押し倒すなんて君は変態だったのかね、破廉恥な」

('、`*川「先生、」

熱っぽい声が鼓膜を揺らす。
その言葉の先がどんなものだったのか、わからない。
僕は彼女を拒絶した。
唯一自由に動いた足で精一杯膝蹴りを背中に食らわせたのだ。

( 、 *川「ぁっ!」

腕の力が緩む。
無理矢理押しのけて、僕はベッドから離れた。

( 、 *川「…………」

ペニサスは、動かない。
あまり力は入れていないつもりだが、つもりはつもりである。
なにせこんなことになるとは思わなかったので、力加減を間違えたかもしれなかった。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん」

もう一度呼び掛ける。

( 、 *川「……せんせい、」

ペニサスは、ベッドから起き上がらなかった。

13 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:12:34 ID:Ng.mWh7w0
「好きです、好きなんです。
せんせいは、魔女さんが言っていたうんめいのひとなんです。どんな風にじんせいをすごしたとしても、一生にいちどは運命の人に会えるから、部屋にとじこもれば、無駄なひとにあわずに運命の人がここに来てくれるって。だってわたしが学校にいっちゃってたら、せんせいとすれ違ってもせんせいが好きなひとだって、運命のひとだって気づけないかもしれないじゃないですか。だからわたし、この部屋で待っていたんです。お勉強もたくさんして、いつでも学校に行けるように準備して、だからたくさん本も用意したんです。だってせんせいがいつこの部屋に来てくれるかわからなかったから。せんせいのことを、ずっと、小学生のときから。せんせい、わたしはせんせいのことちゃんと好きですよ。運命のひとだからってだけじゃないです、せんせいは滅多にわらわないし説教じみたことも言わない不思議なひとで他の大人なんかとはやっぱりちがくて、せんせいはせんせいだったんです。せんせい、せんせい……。せんせいにとってわたしはただの子供だけど
、わたしにとっては、特別な人なんです……」


(´・_ゝ・`)「……でもね、伊藤くん。それじゃダメなんだよ」

( 、 *川「せんせい、」

14 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:17:47 ID:Ng.mWh7w0
起き上がったペニサスが僕を見つめる。
呪詛のような恋心を紡いだ口は開いたり閉じたりと、せわしなく動いていた。
なにかを言いかけては飲み込む、という動作を見ていると、どうにも苦しかった。
僕は、自分の足元へと視線を反らした。

(´・_ゝ・`)「僕は君の王子様じゃないんだ、僕はただの引きこもり支援者だ」

時間が止まったような気がした。
あるいは空気が凍ったような気がした。
今、目の前にいる少女の心臓に、ナイフを突き立てたような気もした。


( 、 *川「せ、ん、せ、い、……」

絞り出すような声で、一文字一文字を区切って、ペニサスは僕を呼んだ。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、僕は君を助ける技量がなかったようだ」

( 、 *川「まって、」

(´・_ゝ・`)「少し親御さんや会社の人と相談するよ、担当を変えたいと」

( 、 *川「ちがう!わたし、せんせいじゃないと……!」

(´・_ゝ・`)「僕でなくてもいいはずだよ、伊藤くんは世の中を知らなすぎるんだ」

( 、 *川「先生っ……!」

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、」

追い縋る彼女に、僕はほんのすこし苛立って、つい言ってしまった。

(´・_ゝ・`)「魔女さんは、この世にはいないんだよ。ペニサス」

( 、 *川「っ…………!」

その瞬間はとても静かであったのに、その時の彼女は悲鳴をあげたような気がした。
気がしただけで、現実ではなんにも起きていなかったのだが……。

15 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:20:03 ID:Ng.mWh7w0
……あれから幾日か経った。
彼女の妄想を否定してしまったが、そのあとのペニサスは泣きもせず、怒りもしなかった。
僕は恐ろしくなって、謝った。

言い過ぎた、すまなかった。
そういった類いの言葉を、深々と頭を下げながら言ったが、ペニサスはやはりそれには何も答えてくれなかった。

ただ、一言だけ、約束を交わさせられた。

( 、 *川「先生、また今度来てください」

それが最後になってもいいから、と。


(´・_ゝ・`)(引き継ぎは済ませた)

会ったら、もう一度ペニサスに謝ろう。
そうして、次にくる新しい先生と仲良くしてくれと言い聞かせるのだ。

インターホンを鳴らす。
ひとつ、深呼吸をする。
階段を降りる音。
かすかな足音。
錠が擦れる、扉がほんの少しだけ開く。

('、`*川「先生、」

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、この間は、」

('、`*川「待ってました、先生のこと」

扉の隙間からするりと手が伸びる。
僕の手に、冷たく細い指が絡みつく。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、」

('、`*川「外、暑かったですよね」

体が引っ張られる。
僕は彼女になされるがまま、家のなかに足を踏み入れた。
廊下は薄暗く、小窓は段ボールかなにかで塞がれてしまっていた。
攻撃的な陽光さえも、それに阻まれていた。

16 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:21:27 ID:Ng.mWh7w0
(´・_ゝ・`)「伊藤くん、窓、」

('、`*川「わたし、先生のためにお菓子作ったんですよ」

(´・_ゝ・`)「君ねえ、人の話を……」

と言いかけて、僕はやめた。
ペニサスが自室から出るのは僕を出迎える時くらいだった。
お菓子を作る、ということは台所に向かった、ということになる。

……そもそも彼女は料理をしたことがあるんだろうか?
一抹の不安がよぎる。

(´・_ゝ・`)「それは食べ物だよね?」

('、`*川「先生ってほんと酷い人ですね」

ほとんど立ち入ったことのないリビングへと通される。
バターが焦げた匂いと、甘くていい匂いが漂っていた。

(´・_ゝ・`)(焼き菓子か?)

そんなことを考える一方で、僕は記憶を辿っていた。
ここに来たのはたしか、初めて家に来た時以来である。
ペニサスの両親と、打ち合わせする際にここで紅茶をごちそうになったのだ。
いや、もしかしたら珈琲だったかもしれないが。

しかしリビングのカーテンは厳重に閉められていて、部屋の様子はぼんやりとしか把握できなかった。
クッションらしきものを踏みつけながら、ソファーに向かう。

('、`*川「先生、座っていて」

そう言ってペニサスは、とた、とた、とゆっくりキッチンに向かう。

17 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:23:32 ID:Ng.mWh7w0
(´・_ゝ・`)「伊藤くん、どうして電気をつけないんだい?」

( 、 *川「…………」

へんじはない。
ただのしがばねのようだ。
某ゲーム風のウィンドウが頭のなかに浮かぶ。

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、これじゃなにも見えないよ」

半分嘘で半分本当である。
暗闇といえども昼間。
うっすら入った光で、テーブルの上になにがあるかくらいはなんとなく見えていた。
しかし肝心のペニサスの姿はぼんやりとした人影でしか捉えられないのだから、意味はほとんどないのだが。

カチャカチャと食器の揺れる音が聞こえてきた。
トレーかなにかの上にいくつか物を乗せているようだった。

('、`*川「先生」

テーブルの上から重たげな音が響く。

('、`*川「ケーキを、焼いたんです」

続いて金属と陶器の音。
どちらも軽く、暗闇のなかでよく響いた。

('、`*川「ケーキというか、パイというか」

ふんわりとした甘い匂いが、一層強まった。
ケーキを切り終えたらしかった。

18 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:25:36 ID:Ng.mWh7w0
('、`*川「食べて、ください」

差し出された皿の上に乗ったそれは、かなりの大きさであった。
ひと切れあれば十分お腹が満たされるであろう、と僕は思った。

(´・_ゝ・`)「伊藤くんも、」

('、`*川「これは先生のために作ったんです。先生に食べてもらうために」

(´・_ゝ・`)「…………」

僕のために。
何度も何度もこの子はそれを強調するが、それ以外になにもないんだろうか。
僕がいなくなったら、ペニサスは、どうなってしまうんだろうか。

差し出された皿とフォークを受け取りながら、僕は思う。
しかし、僕は恋人にも王子様にもなれないのだ。
僕は、彼女の先生でありたかった。
それも今ではかなわないのだが。

(´・_ゝ・`)「いただきます」

得体の知れない物体に、フォークを突き刺す。
思ったよりも固く、スポンジ生地ではなさそうだ。
中身は柔らかくスッと通ったが、底はもっと固かった。
パイ生地、だろうか。

(´・_ゝ・`)゙「…………」

鼻先にフォークを近付けて嗅ぐ。
リビングに充満していた匂いとは別の、独特な香り。

(´・_ゝ・`)「シナモン、かね」

('、`*川「当たり。でも他にも入ってるのよ」

(´・_ゝ・`)「香辛料に興味を持ったことがないから、シナモン以外わからないな」

19 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:28:32 ID:Ng.mWh7w0
言い終えて、口のなかにケーキをほうりこむ。
甘い。とても、甘かった。
しかしシナモンと、なんだかよくわからないスパイシーな香りがそれを引き締めていた。

('、`*川「先生、おいしいですか?」

(´・_ゝ・`)「おいしいけど、」

('、`*川「よかったです、失敗しなくて……」

(´・_ゝ・`)「これ、中身はなんなの?」

パイの中身と言えば、カスタードクリーム。
片手に収まるほどの回数でしかパイを食べたことはないが、僕のなかではそんなイメージがあった。
しかし今食べているこれは、しっとりしていて、コクがとてもあり、口によく馴染むものの、カスタードのようなミルクっぽさや滑らかさはなかった。

('、`*川「先生、それはクレームダマンドっていうんですよ」

(´・_ゝ・`)「知らないなぁ」

('、`*川「バターとアーモンドプードルでできたクリームなのよ」

(´・_ゝ・`)「カロリーがえげつないだろうそれは」

するとペニサスはふきだして、さらにこう続けた。
先生、先生、アーモンドプードル、知ってる?とクスクス笑いが聞こえてくる。

(´・_ゝ・`)「知ってるよそれくらい」

かちん、と皿にフォークが当たる。
力を込めすぎたらしい、パイの破片がそこらへんに飛び散ってしまったかもしれなかった。

('、`*川「先生」

笑いがおさまってきたらしいペニサスが、僕を呼ぶ。

(´・_ゝ・`)「ん?」

('、`*川「おいしいですか?」

(´・_ゝ・`)「まぁね」

素っ気なく答えたが、本当はペニサスのことをほめてやりたくなるほど、このケーキはうまかった。
今までに食べたケーキのなかで。
いや、食べてきたもののなかで一番うまいと思ってしまった。
ただ、素直にほめてしまうと、あとのことが怖くて、僕はやめてしまったのだ。

20 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:30:31 ID:Ng.mWh7w0
(´・_ゝ・`)「伊藤くん、このケーキはなんて言うんだい?」

('、`*川「ガレット・デ・ロワ」

聞いたことのない名前であった。
しかし、意味だけはわかった。

(´・_ゝ・`)「王様のケーキ、か」

('、`*川「知ってたの?」

(´・_ゝ・`)「大学でフランス語の授業を取ったことがあるからね」

でもお菓子のことは知らなかったなぁ、と付け加えて最後のひと欠片を口にほうり込んだ。
ああ、うまい。

('、`*川「先生、おかわりはまだありますから」

手際よくケーキを小皿に乗せながら、ペニサスは言った。
僕は黙ってケーキを食べ進める。

('、`*川「先生、どうしてこれが王様のケーキと呼ばれているんだと思いますか?」

(´・_ゝ・`)「王様に昔献上でもしたとか?」

('、`*川「いいえ、違うんですよ」

気付けばフォークを動かす手は相当早くなっていた。
もっとゆっくり食べなければ、一度にこんな高カロリーそうなものを食べたら体に毒だ。
そう思っているはずなのに、僕は止めることが出来なかった。
ケーキを切り崩し、口のなかに運び、咀嚼、飲み込み、またケーキを口のなかに……。

('、`*川「先生、おいしいですか?」

薄暗がりの中から、手が伸びてくる。
握りしめられたケーキサーバーの上には、ケーキがひと切れ乗っていた。

我にかえり皿を見やれば、そこにはパイくずが散らばっているだけ。
もう、食べてしまっていたのだ。
それも無意識のうちに。

('、`*川「先生、たくさん食べて」

(´・_ゝ・`)「伊藤くん、」

21 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:32:08 ID:Ng.mWh7w0
もうお腹一杯だよ、という言葉は声にならなかった。
震える手でフォークを握り、ケーキを傷付ける。

('、`*川「先生、そのケーキ、魔女さんから作り方を教わったんです」

(´・_ゝ・`)「…………」

僕はひたすらケーキを胃のなかに詰め込むことに専念していた。
ペニサスは、怒らなかった。

('、`*川「先生、そのなかにはお砂糖とスパイスがたくさん入っているんですよ」

それととびきりのおまじないも、とペニサスは付け加えた。

(´・_ゝ・`)「……おまじない?」

手を休ませ、やっとのことで口をきいた。
すぐにまた、ケーキを味わうことになってしまったのだが、やはりペニサスは気にしなかった。

('、`*川「スパイスはね、シナモン、ナツメグ、ジンジャー、クローブ、ホワイトペッパー、フェンネル、あと他にもまだまだたくさんね」

(´・_ゝ・`)「……シナモン以外、味がわからない、な」

口の端から、パイのくずがこぼれる。
僕はなぜか夢うつつといった気分で、自分の手元を見ていた。

('、`*川「先生、がんばって、」

ペニサスが僕を励ます。
僕はうなずく。

('、`*川「これでさいごだから」

そうだ、これを食べ終わればすべてが終わる。
すべて?

(´・_ゝ・`)(僕はいったい、なにを終わらせるんだ?)

ケーキに、フォークを突き立てる。
ああ、甘い。
甘いのに、毒のようにも感じられた。
スパイスの香りのせいか、それとも一度に食べてしまったからか……。

22 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:33:10 ID:Ng.mWh7w0
('、`*川「先生、なんで王様のケーキって言うかっていうとね、」

フォークに違和感を感じる。

('、`*川「フェーブという飾りが入ってるんですよ」

ほんのすこし、なにかに当たった気がした。

('、`*川「それに当たった人は、王様になれて幸福を受けとることが出来るの」

口のなかでクリームとなにかが混ざりあう。
ぐちゃり、ぐちゃりと。
砂糖とバターと肉の味。
えずきそうになる。
咄嗟に口もとに皿を近付け、舌の上にあったものをすべて吐き出した。

茶色い塊の中に埋もれていたのは、白い陶器のような骨と、桜貝のような小爪であった。


(´・_ゝ・`)「……ペニサス、」

薄暗がりに向かって僕は彼女の名を呼ぶ。
返事がない。
気配もない。
どこにもいない。

(;´・_ゝ・`)「ペニサス!」

立ち上がる。
皿が床に落ちた。
しかし構っていられなかった。

(;´・_ゝ・`)「返事をしてくれ!ペニサス!」

( 、 *川「先生」

不意に声がした。
ペニサスの声だ。
しかしやはり、居場所がわからなかった。

(;´・_ゝ・`)「どこにいるんだ!」

( 、 *川「ここにいるわ、先生」

23 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:34:35 ID:Ng.mWh7w0
わからなかった。
わからないのだ。
わかるはずもなかった。

手探りで探しあてたスイッチで、灯りをつけても、彼女は見つからなかった。
ただ、ソファーの上に、見慣れた服があった。
灰色のスウェット、白いシャツ、そして僕が買ってあげたパーカー……。
それらが、僕の座っていた場所の隣に散乱していた。

(´ _ゝ `)「ペニサス」

なぁに、先生、と聞き慣れた声がすぐそばでした。

(´ _ゝ `)「僕は、君を、」

「言わないで、先生」







おめでとう、先生。
おめでとう、あなたが王様よ。
わたしだけの王様、ずーっとずーっと幸せになりましょうね。

そんな甘言が僕の内側に響いた。

24 :名も無きAAのようです:2014/08/09(土) 00:35:56 ID:Ng.mWh7w0













ね、先生、泣かないで。













  (
   )
  i  フッ
  |_|








元スレ:少女甘美のようです(リンク先( ^ω^) ブーン系創作板のようです

※一部AAを修正しています(ブログの中の人)
[ 2014/10/02 18:23 ] スレ立て短編 | TB(0) | CM(0)

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