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ふたりかくれんぼのようです

531 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:26:09 ID:DTix.cwEO


 目を開くと、病院のロビーにいた。


 昔から、こんな夢をたまに見る。





          ふたりかくれんぼのようです


.

532 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:27:10 ID:DTix.cwEO

('、`*川(去年の夏ぶりだ)

 ロビーの真ん中で、埃をかぶった長椅子に座りながら
 私は冷静な頭で考えた。

 この、人気のない病院に突然放り出される、という夢は、中学生の頃から見始めたものだった。
 かれこれ10年ほどの付き合いになる。

 一年に一回あるかないか、という頻度で夢は訪れる。
 単に私が覚えてないだけで、実際はもっとあるのかもしれないけれど。

('、`*川(相変わらず誰もいない)

 利用者が絶えて久しいであろうこの病院には、当然、電気が通っている様子もない。
 となれば明かりも無いので、いつも真っ暗だった。

 ただ、周囲が見えないほど暗いわけでもない。

 左手を見下ろす。赤い革ベルトの腕時計。2時を示している。
 廃病院の夢を見るときには、いつもこの腕時計が私の左手に巻きついていた。
 といっても、私の所有物ではない。

533 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:28:06 ID:DTix.cwEO

('、`*川(さて、どうしようか)

 じっとしているのも飽きた。
 夢の中だけど、居眠りしてしまおうかなと考えていると──

 ──しゅっ、と、擦るような足音が背後から聞こえた。

 やっと来た。待ち侘びていたわけでもないけれど。

(´・_ゝ・`)「伊藤さん」

 私の後ろに立った男が、長椅子の背もたれ越しに
 私へ覆い被さるように抱き着いてきた。

 首筋に鼻を擦り寄せてくるのが擽ったい。

(´・_ゝ・`)「来てくれた。8ヵ月と3日ぶり。
        ……言っとくけど適当じゃないよ、毎日毎日、ちゃんと数えてたんだよ。
        伊藤さん来てくれないかなあって、毎日」

(´-_ゝ-`)「このあいだ人が来てさ……伊藤さんかなって、嬉しくなったのに。
       胆試しに来た大学生たちだったんだ。
       悲しくって、腹立って、目一杯おどかして追い出してやったよ」

(´-_ゝ-`)「そうそう、二月前にね、野良猫が入ってきたよ。可愛かった。伊藤さんにも見せてあげたかったな」

 「8ヵ月と3日」の間にあった出来事をひとしきり語って、男は──盛岡デミタスは顔を上げた。

534 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:28:58 ID:DTix.cwEO

(´・_ゝ・`)「伊藤さんは何かあった?
        学校の先生になったんだよね? 仕事、もう慣れた?」

('、`*川(何で知ってるんだ、こいつは)

 ぞわりと怖気が走る。
 怖い、と、気色悪い、と。両方。

 デミタスはしつこく質問を繰り返したが、口を結ぶ私を見て諦めたのか
 静かに離れると「おいで」と呟いた。

 腰を上げ、振り返る。

 三十路くらいの男。
 年を重ねるごとに、私と彼の年齢差は縮まっていく。
 あと10年もしたら私が彼に追いついてしまうのだろう。

 水色の、薄い入院着を身につけている。
 袖から覗く細い手首。
 本来なら、いま私の手にある赤い腕時計は、彼がつけるべきものだ。

 デミタスは微笑み、言った。


(´・_ゝ・`)「それじゃあ、かくれんぼしようか」



※※※ ※※※

535 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:30:50 ID:DTix.cwEO


 ──20年近く前。
 私が4、5歳の頃だった。


川 ゚ -゚)『ペニサス。ロビーにお父さんいるから、お父さんのとこ行ってアイス買ってもらいな。
     お母さんはお祖母ちゃんとお話があるから』

 入院している祖母の見舞いに来たのだけれど、
 祖母は気難しい人で、私は彼女が少し苦手だった。

 それを察していた母が気をきかせて、挨拶もそこそこに
 私を病室から離れさせてくれたのだ。

 幼い私はアイスが楽しみで仕方なくて、階段を使って一階まで下りた。

 ロビーを目指す途中、中庭が目に入る。
 そこに父らしき後ろ姿を見付けた。

('、`*川『お父さん、』

 中庭へ駆け込む。

 男の背中に声をかけ、そこでようやく違和感に気付いた。
 入院着を纏っていたのだ。
 今日の父は、至って普通のシャツを着ていた筈だった。

 男が振り返る。

(´・_ゝ・`)

 年齢は父と同じくらいだったけれど、やはり、別人である。

 今になって思えば、謝ってその場を離れれば良かったのだろうけど
 当時の私はすっかり困ってしまって、立ち尽くしたまま彼としばらく見つめ合う羽目になった。

536 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:31:59 ID:DTix.cwEO

 不意に、彼が微笑む。

(´・_ゝ・`)『迷子?』

('、`*川『……ううん』

 優しげな表情と声色に、緊張がほぐれた。
 僕がパパに似てたの、と問われて、首を横に振る。
 歳と背格好が多少似ているだけで、それ以外は全て違った。

(´・_ゝ・`)『お名前は?』

('、`*川『伊藤、ペニサス』

(´・_ゝ・`)『伊藤さんか』

 苗字で呼ばれるのは何だかとても「大人」な感じがして、少しむず痒かった。
 彼は盛岡デミタスと名乗り、左手で私の頭を撫でた。

 手首に巻かれた赤いベルトの腕時計が綺麗で、思わず見とれる。

 そのとき、彼が急に咳をして座り込んだ。
 体の深くから吹き込む風のような、とにかく苦しそうな咳で、
 ぎょっとした私は彼の背を摩った。

 いくらか咳をして、ひゅうひゅうと掠れた呼吸を落ち着けると、彼は「もう大丈夫」と私に笑んだ。

('、`;川『大丈夫? 先生よぶ?』

(´・_ゝ・`)『平気。……優しいね、君は』

 褒められて悪い気はしない。
 私が照れていると、彼はまた笑った。

(´・_ゝ・`)『一緒に遊ぼうか』

 父の顔と、アイスが脳裏を過ぎる。
 断ろうとしたのだけれど、優しく腕を掴まれてタイミングを逃した。

(´・_ゝ・`)『かくれんぼしよう』

 迷って、考えて、頷いた。
 一回だけ遊んだら終わらせようと思った。


.

537 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:33:03 ID:DTix.cwEO


 彼が鬼になった。
 100まで数えたら探しに行くよ、あまり遠くまで行かないのならどこに隠れてもいい、と言って
 彼は中庭の片隅で目を覆うと、いち、に、数え始めた。



('、`*川(ここでいいや)

 1階と地下を繋ぐ階段の踊り場。
 そこにあったロッカーの中に隠れる。

 ロッカーの低い位置に、定間隔で四角い穴があいていて、
 穴は、座った私のちょうど真ん前に来た。
 そこから外の様子が見える。

 1階へ向かう階段は明るい。
 反対に地下へおりる階段は薄暗くて、まるで、踊り場の真ん中を境にして世界が変わっているかのようだった。



      『──伊藤さん』

 しばらく待っていると、彼の声がした。

 しゅる、しゅる。
 スリッパを引きずるようにして、ゆっくりと階段を下りてくる。

(´・_ゝ・`)『どこかな……見付けたいな……』

 独り言にしてははっきりした声量で呟きながら、彼は踊り場へ足をつけた。

539 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:35:17 ID:DTix.cwEO

(´・_ゝ・`)『見付けたら、一緒にいてほしいな。ずっと……ずっと……』

 私は口を押さえた。
 さっさと見付かって、さっさと終わらせようと思っていたのに──
 そうしてはいけない、と頭の奥から何かが危険を訴えてきたのだ。

 ロッカーの前を、彼が通り過ぎる。

 地下へ続く階段を、1段、2段、3段と下りて──


(  ´・_ゝ)


 彼は足を止めると、顔だけで振り返った。

 ──ロッカーを見つめている。

 穴を覗く私からは若干視線がずれていたため、こちらに気付いたわけではないのだろうけど
 そのときの私は、ばくばくとうるさい鼓動の音が彼の耳に入ったのではないかと震えていた。

 踵を返し、彼は踊り場へ戻ってきた。
 視界が塞がる。
 彼が、ロッカーの前に立ったのだ。

 彼はしばらくそうしていた。
 私も、ぎゅっと体を丸めて息を殺した。

 ロッカーの上部にも細く、横長の穴があいているのを思い出していた。
 そこから中を覗いているのではないかと考えて、唇を噛む。
 顔は上げられなかった。

540 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:36:19 ID:DTix.cwEO

 ──こつり、足音。

 こつこつ。遠くから近付いてくる。
 それを聞いて、彼はロッカーの前を離れた。
 今度こそ地下へと消える。逃げるようだった。

 それと入れ替わるように、1階から看護師が下りてきた。

(*゚ー゚)

 知っている人だ。よく、祖母の病室に来る人。

 彼女は踊り場に立つと、首を傾げた。
 草の切れ端や土が落ちていた。
 中庭のものが彼に付着していたのだろう。

 看護師が荷物を隅っこに寄せる。
 それから、掃除用具を使うためか、ロッカーを開けた。

(;*゚ー゚)『きゃっ!』

 私を見て、彼女は短く悲鳴をあげた。
 対して私の方は、ほっとしていた。

(;*゚ー゚)『あ……ペニサスちゃん。どうしたの? 駄目よ、こんなとこ入っちゃ』

('、`*川『……かくれんぼ……』

(*゚ー゚)『パパと遊んでたの?』

 首を振り、デミタスの名を口にする。

 すると彼女はひどく困惑した表情を浮かべた。
 次いで、怯えた顔をする。

541 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:37:54 ID:DTix.cwEO

(;*゚-゚)『本当に盛岡さん? 盛岡デミタスって、その人が言ったの?』

 しつこく訊かれたので、彼の特徴を話した。
 聞き終えた彼女は真っ青になっていた。

 慌てて私を抱え上げ、荷物も拾って、そそくさと1階へ上がる。
 ロビーにいた父に私を引き渡すと、彼女は逃げるように去っていった。

 彼がまだ私を探しているだろうと思うと申し訳なかったが、
 ロッカーの中で覚えた恐怖を思い出すと、また会いたいという気持ちにもなれなかった。



 アイスを食べ終え、最後にもう一度挨拶してから帰ろうと言う父に連れられて
 祖母の病室へ戻った。

(゚、゚トソン『どこに行ったの』

 私を見て開口一番、祖母は厳しい声で問うてきた。

(゚、゚トソン『ペニサス。あんた、変なとこ行ったね』

('、`;川『……お、おにわ……』

(゚、゚#トソン『中庭かい? ──あそこには近付かせるなと言ったじゃないか!』

 最後の怒声は、母と父に向けられたものだった。
 両親は何度も謝っていた。同室の患者さん達が、何だ何だとこちらを眺めている。

 問いただす祖母が恐くて、私は泣きながら一部始終を話した。
 中庭で会った盛岡デミタス。かくれんぼ。看護師さんに見付かって、かくれんぼを途中でやめてきてしまったこと。

 祖母を宥めていた隣のベッドの患者が、さっと顔を青くさせた。

542 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:39:01 ID:DTix.cwEO

(;`・ω・´)『デミタスって、去年中庭で倒れて死んじまった患者の名前じゃないか』

 室内の空気が凍りつく。
 祖母は溜め息をつき、首を振った。

(゚、゚トソン『……ペニサスは、もう、ここに来させちゃ駄目だ』

 ベッドサイドテーブルの上のメモ帳に何かを書き込んで、祖母は母にそれを渡した。

(゚、゚トソン『一度、杉浦さんに見てもらいな』




 「杉浦さん」は、近所に住むお爺さんであった。
 町内のまとめ役でもあり、ひっきりなしに客が訪れる家、という印象が強かった。


( ФωФ)『その病院には、もう行かん方がいいな』

 祖母と同じようなことを言って、杉浦さんは私の頭を撫でた。
 近付かなければ大丈夫なんですね、と母が言う。
 杉浦さんは難しい顔をして唸った。

( ФωФ)『きっと、しばらくしたら、この子はそいつに「呼ばれる」だろう。
       いつかはまた対面することになる。
       それを回避する方法は、多分無い』

川;゚ -゚)『どうしたら……』

( ФωФ)『ペニサス。その男に会っても、口を聞いちゃいけない。
       接触を最低限に抑えておけば、向こうも深入り出来ん筈だ』

543 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:41:14 ID:DTix.cwEO

( ФωФ)『ただ、またかくれんぼに誘われるだろうから、それには応じなさい。
       かくれんぼをしても、決して見付からんようにな。
       もし見付かったら……とにかく逃げるしかあるまい。捕まれば連れていかれてしまう』

('、`*川『うん……』

 幼い私にはほとんど理解出来なかった。
 それを察したのか、杉浦さんが苦笑する。

 デミタスと会話をしないこと。
 かくれんぼで見付かってはいけないこと。

 噛み砕いて念を押され、それだけは何とか把握した。

( ФωФ)『「そのとき」がいつ来るのかは誰にも分からん。
       忘れないよう、しつこく言い聞かせておきなさい』

川;゚ -゚)『は、はい……』




 それから5年ほどして、例の病院が潰れたと聞いた。
 私や家族の中では、そこで一区切りついたつもりだった。

 それが間違いだと気付くのは、さらに3年経った、秋の日の夜。


 私は病院にいた。夢だ、と何故か理解していた。
 暗い。誰もいない。床や壁が汚れていたり、窓が割られていたりと
 荒れ果ててはいたが、見覚えはあった。

 既に廃墟となった、あの病院だった。

 呆然としている私に、背後から近付く足音。
 肌が粟立つ。

 中学生の私を見て、足音の主は言った。


(´・_ゝ・`)『久しぶり。……大きくなったね』



※※※ ※※※

545 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:43:25 ID:DTix.cwEO


(´・_ゝ・`)「──100数えたら探しに行くからね」


 聞き飽きた言葉を口にして、デミタスはロビーの隅、壁にぴったりと身を寄せてから
 ひとつずつカウントしていった。




('、`*川(どうしよう……)

 もう何度もかくれんぼをしているとはいえ、ここは病院で、隠れ場所はまだまだたくさんあった。

 前回はたしか、リネン室に積まれた毛布の陰。
 その前はトイレの個室。
 過去に隠れた場所はあまり使いたくない。

 裸足のまま階段を上り、奥へ進む。
 「浴室」というプレートが目に入った。

 我が家の風呂場と大して変わらない。
 洗い場は狭いし、浴槽も大きくはない。介助の必要がない患者が使用するための場所だったのだろう。
 入口の横には利用者の名前を書くためのボードが掛かっていた。

 浴室の天井に、大人ひとり通れるくらいの点検口がある。

 浴槽の上に被せた蓋を足場にして、私は点検口に手を伸ばした。

 ずず、と押すようにすると、パネルが開いた。
 私が隠れるくらいのスペースはありそうだ。
 壁の手すりに足を乗せ、何とか上ることが出来た。

547 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:45:37 ID:DTix.cwEO

 汚れが酷いが、そんなことを気にしている場合ではない。
 それに汚れようが怪我しようが、夢から覚めれば元通りだし。

 這いつくばり、パネルを閉じる。
 真っ暗闇の筈なのに、やはり視界はいくらかはっきりしている。

 パネルをほんの少しずらして、下の様子を窺った。
 それから左手の腕時計を見る。

('、`*川(あいつがカウント始めてから、3分……)

 かくれんぼは10分間、というのが、デミタスの決めたルールだった。

 あと7分。私が見付からなければ今回も私の勝ち。


 ──しゅるしゅる。
 スリッパの擦れる音が耳に届いた。

 縮こまる。
 パネルの隙間から覗く浴室に、デミタスが入ってきた。

(´・_ゝ・`)

 浴槽に蓋がかぶせてあるのを見て、デミタスは蓋を下ろした。
 当然、浴槽の中には誰もいない。

 溜め息をつき、彼は蓋を元に戻すと浴室を後にした。

 足音が遠ざかる。私は無意識に止めていた息を思いきり吐き出した。


.

548 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:47:24 ID:DTix.cwEO


 ──時が進むにつれ、焦燥が胸をきりきりと締めつけた。

 デミタスが去ったからといって安心は出来ない。
 彼には、一度探した場所を後で再び確認する癖があった。

 しばらくしたら、またここへ来るだろう。

 彼は浴槽に蓋が被さっていたことを気にしていた。
 先程は「浴槽の中に隠れているかも」としか思わなかったようだが──
 次にここを訪れた際、そこからさらに思考を進められたら、どうなってしまうだろう。

 私が「足場を作るため」に蓋を被せたのだと気付いてしまったら。

('、`;川(……)

 ここは狭い。
 そのことが、恐怖と焦りを煽ってくる。

 ──見付かってしまえば、逃げ場が無いのだ。

('、`;川(……別の場所に行こう)

 残り時間は2分もない。
 もう少し自由のききそうな場所でやり過ごせばいい。

 私は音を立てぬようにパネルをどかし、慎重に浴室へ下りた。
 辺りを窺いながら廊下へ出る。

 ナースステーションにでも行こうかと顔を上げ──


(´・_ゝ・`)


 窓の向こう。

 中庭を挟んだ向かいの棟にいるデミタスと、目が合った。

549 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:49:04 ID:DTix.cwEO

 デミタスはいたく嬉しそうな顔をして私に手を振った。
 そして、私から見て右の方向へ足を踏み出す。

('、`;川(こっち来る!)



     ( ФωФ)『もし見付かったら……とにかく逃げるしかあるまい。捕まれば連れていかれてしまう』──



 私は反対方向へ駆け出した。

 見付かっても、捕まらなければいい。
 逃げ切れれば、それで。


 割れた窓から外へ出るのも考えたが、不可能だと思い直す。
 ひやりと硬い──薄氷の壁のような──感触が邪魔をして外に出られないのは、数年前に確認した。

('、`;川(あ、)

 ひたすら走る。角を曲がる。行き止まり。

 正確に言えば、正面の壁にドアが付いていた。
 患者や一般の人が立ち入る場所でないであろうことは、何となく分かる。

 考える暇はない。ここを進むしかないのだ。

550 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:50:48 ID:DTix.cwEO

 ドアを開ける。
 壁際にスチール製のロッカーが並んでいて、向かい合う位置に机が置かれていた。
 机の隣のホワイトボードには、一週間分の予定表らしきもの。

 医者の休憩室だろう。

 隠れる場所は机の下ぐらいしかない。駄目だ。すぐに見付かってしまう。
 ロッカーは細いし高さも大したものではないから、入れない。

('、`;川(……! 向こうにも部屋がある!)

 奥の壁に、さらにドアがあった。
 もう、頼みはそこだけだ。

 ドアへ駆け寄る際、机の上のライターが目に入った。
 ぐるり、頭の中で様々な考えが浮かぶ。

 ある一つの策が顔を覗かせる。

 あまりに運任せで、また、効果も決定的なものとは言えない。
 でも。やらないよりは。


 私は唾を飲み込み、腕時計を外した。



.

551 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:52:04 ID:DTix.cwEO


 ──奥の部屋は仮眠室のようで、二段ベッドが2つ置かれていた。
 ベッドの下に潜り込む。ここしかない。

 目一杯、壁の方に寄る。
 これなら、覗き込まない限りは見付からない筈。

('、`;川「、」

 きい、と音がした。
 向こうの部屋のドアが開く音。


      「……伊藤さん」


 語りかけるような、デミタスの声が聞こえた。

      「僕、寂しい」

 椅子を滑らせる音。机の下を見たのだろう。

      「ねえ、……ねえ、お願いだから、僕の傍にいてよ。……ねえ」

 錆びたような耳障りな音がした。発生源は恐らくロッカー。
 「さすがに入らないか」という呟きが落ちて、それ以降、他のロッカーを開ける様子はなかった。

 しゅるしゅる。足音。
 殊更ゆっくり、仮眠室のドアが開かれた。

552 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:53:15 ID:DTix.cwEO

      「酷いことなんかしないから。……お願い、伊藤さん。一緒にいて──僕のこと置いてかないで……」

 ひどく寂しげな声だった。
 子供がぐずるのに似ている。
 もう少しで泣き出してしまいそうな。

      「伊藤さん……」

 向かいのベッドの前に、デミタスが立った。
 梯子を中程まで登って上段を見て、誰もいないのを確認してから戻る。
 しゃがみ込み、ベッドの下を覗き込んだ。

 今、彼が頭を反対側へ向ければ、私が見えてしまう。
 私は右手の中指を噛んだ。そうしないと声を出してしまいそうで。

 デミタスが立ち上がる。
 こちらのベッドに近付いてきた。

553 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:54:40 ID:DTix.cwEO

 先と同じように、まずは上段の方から確認した。
 きし、きし。梯子が軋む。
 数秒の間をあけて、彼は床へ下りた。

 私は一層強く指に噛みついた。
 どくどく跳ねる心臓の方が痛くて、指の痛みなど感じられない。

 デミタスが私の目の前で膝をつく。
 体を支えるように、両手がぺたりと床へ伸ばされた。

 ゆっくりと肘が曲がり、上体が下がってきて──



 ──かつん、と、いやに大きな音が響いた。


.

554 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:55:56 ID:DTix.cwEO

 向こうの部屋からだった。

 デミタスの体が止まる。
 彼は急いで立ち上がると、仮眠室を出ていった。

 数秒。
 ロッカーの開く音が何度か鳴って。


      「……伊藤さん、ひどいよ」


 デミタスの呟きに、私は笑った。
 笑えるような心持ちではなかったし、じっとりと滲む脂汗が全く引かないほど全身が緊張していたけど
 それでも笑った。


 時間切れだ。

 私は震えの止まらない手を何とか動かして、ベッドの下から這い出た。





※※※ ※※※

555 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 19:58:20 ID:DTix.cwEO



 かつん。
 5回目の音が鳴った。

(´・_ゝ・`)「考えたなあ……」

 ロッカーの中のライターを拾い上げ、デミタスが腕時計とライターを見比べる。
 私は得意気に頷いた。


 ──仮眠室へ逃げる直前、腕時計を外した私は、アラームをセットした。
 「かくれんぼ」が終わる10杪ほど前の時間へと。

 そしてロッカーの一つを開け、上部に取り付けられているパイプに腕時計を巻きつけた。
 時計とパイプの隙間にライターを差し込む。
 落ちそうで落ちない、ぎりぎりのバランスで。

 時間がくれば、アラーム機能で腕時計がぶるぶる震えて、
 その振動でライターが落ちる。
 ロッカーはスチール製なので、よく音が響く──という案配である。

 ロッカーの上に時計を置いて振動させるだけで良かったのかもしれないけれど、
 振動自体はあまり強くないため、それだけでは大した音が出ない恐れがあった。
 そこでライターも利用した、というわけだ。

556 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 20:00:29 ID:DTix.cwEO

 デミタスが音に気をとられてくれれば、と期待して実行したのだが、予想以上に大成功。

(´・_ゝ・`)「この時計にアラーム機能ついてるの、よく知ってたね。
        ぱっと見じゃ分からないのに」

('、`*川(同じメーカーのやつ持ってますから)

 20年前、彼がつけているのを見たときからちょっと気になっていたのだ。
 私好みのフォルムだった。

 10年前に夢の中でこの時計を渡されたときにメーカーを確認して、
 目覚めた後でわざわざ調べたり何だりして、
 お小遣いを溜めて同じメーカーの時計を買ってしまったくらいには。(さすがに全く同じ型はなかったけど)

 こんなこと言ったら、お揃いとか何とか絶対に調子に乗るから言わない。
 そもそも会話しちゃいけないから、話しようもないけれど。


 私の作戦を何度も試して遊んでいたデミタスは、ようやく飽きたのか
 腕時計を自分の左手に巻いて、ライターは机の上へと放った。

557 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 20:01:47 ID:DTix.cwEO

(´・_ゝ・`)「次からは同じ手は食わない」

 椅子に腰を下ろし、デミタスが私を引き寄せる。
 彼の膝に座る形となった私は、溜め息をついた。

 抱き締められる。
 私が高校卒業した辺りから、彼はこういう──ただの男女以上の触れ合いを求めてくるようになった。
 少し困る。

 杉浦さんは「接触を最低限にするため」に、会話をするなと私に言っていた。
 が、最早これは、最低限とやらのラインを越えているのではないか。
 拒むべきなのだろうけど、デミタスがあまりに縋るような触れ方をするものだから、逃げる気が湧かない。

(´・_ゝ・`)「次こそ見付けるからね。……そしたら、僕と一緒になってね」

 ぽんぽん、背中を叩かれていると、瞼が重くなってきた。
 デミタスの肩に頭を乗せる。

(´・_ゝ・`)「眠い?」

 目を閉じ、頷く。

 目覚めが近い。
 かくれんぼが終わった後に眠りにつくと、夢から覚める。いつものこと。

558 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 20:03:47 ID:DTix.cwEO

 この夢が終わったら、次に会うのはまた来年。多分。

 その間、彼はこの病院で健気に待ち続けるのだろう。

(´・_ゝ・`)「伊藤さん、また来てね。
        僕、ずっと待ってる。待ってるから」



 ──会話をせずに。
 かくれんぼに勝ち続ければ。

 いずれはデミタスとの縁も切れ、会うこともなくなる。

 何年か前、杉浦さんはそう言った。

 それは確かなのだろう。
 年々、デミタスの「存在」が希薄になっているように感じる。
 というより、私と彼の間に、得も言われぬ距離があいているような。

 あと何度か繰り返す内に、きっと、私達を繋ぐ何かしらの糸は断ち切られる。
 そうして私は助かる。





 けれど。

559 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 20:05:25 ID:DTix.cwEO

(´・_ゝ・`)「またね。伊藤さん……」



 毎度毎度、寂しげに別れを惜しむ彼を見ていると。声を聞いていると。


 その名を呼んで、声に応えてやってもいいかという気持ちになるのだ。



 つかまってやってもいいかという気持ちになるのだ。





 今年は無事に夢から戻れたけれど。
 来年の私は。再来年の私は。


 もしかしたら、目覚めることがないのかもしれない。なんて思う。



終わり







561 :名も無きAAのようです:2014/03/23(日) 20:07:24 ID:DTix.cwEO
長々失礼しました

お題は、
>>455
廃病院

ありがとうございました




元スレ:(*゚ー゚)ブーン系小説&イラスト練習総合案内所のようです(リンク先( ^ω^) ブーン系創作板のようです
[ 2014/03/24 12:12 ] 総合短編 | TB(0) | CM(2)

いいねいいね、しっかり怖くてちょっと切なくていい話だった
[ 2015/12/05 21:09 ] [ 編集 ]

最後の廃病院って…
いやぁ、面白かった!
[ 2016/10/11 10:27 ] [ 編集 ]

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