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(,,゚Д゚)ギコと目隠し屋のようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:06:14.56 ID:TuqVfnN5P

何だか陰気な処に来ちまったな。
ここらに安く泊まれる場所があるかって、通りがかりのおまわりに聞いたのは俺だけど、
まぁ予想もできないような寂しげな通りに出ちまった。

何が寂しいかと言えば、ここいらの本通りがここだってことだ。
つまり、ボロッボロの土壁に、腐りかけた扉が立てかけてあるだけの家が連なるココが、
ここいらの人間が最も行きかう場所だってことだ。

『ようこそ三十路温泉へ』なんて看板も、あんなにうらぶれてちゃあ、ただ、ただ、みっともねぇだけだ。

その上、町は死んだように静かだ。


(,,゚Д゚)「でも、人がいないわけじゃあないらしいな」




4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:08:17.41 ID:TuqVfnN5P

障子の向こうにぼんやりと映る人影は、老婆のような老人のような、
俄かには判じ難いなりでこっくりこっくり舟を漕いでいるようで。

ああ、よく見てみれば少ないながらも行きかう人は、皆年をとった老人のようだ。
もう、長くはないのだろうな。老人も、この街も。

向こうから、のそり、のそりと歩いてくる老人を捕まえて、宿を聞く事にした。


(,,゚Д゚)「すみません、宿を探しているのですが」

/ ,' 3「ああん?」

(,,゚Д゚)「今夜泊まれる場所を探しています。このままでは野宿になってしまう」

/ ,' 3「目隠し屋ならあっちだよう」


つぶれかけた酒屋のような、つまらない店を指差して、こちらが何かを言うまでもなく、老人はのそりのそりと去っていく。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:11:07.74 ID:TuqVfnN5P

『お面「目隠し屋」』
やっぱりこいつもうらぶれてどうしようない風体を晒している。

てっきり目隠し屋というのが宿の名前だとは思っていたのだが、まさかお面を売っている店だとは思わなかった。
いや、いや、そもそもお面ってのは目だけを露出させるものだろうに、目を隠すとは、是、如何なることかって話だ。
店は頭ン中あんぽんたんの奴が座ってんのか、それともよっぽどのひねくれ屋がでんと構えてるのか、こいつは見物と暖簾をかき分けてみたら。


(´・ω・`)「やぁ。目隠し屋へようこそ」


異様な図体の男が煙管で白いやつをふうふうやっていやがった。
作務衣みたいな作業着を着て、カツンと火皿の中身を落とす仕草は妙にさまになっていた。

町にやって来てから、老人ばかりを見ていたもんだから、久々に若い、と言っても看板の名前と同じく、三十代くらいだけど、
まあ、久しぶりの同年代のような、そんな気分で何だかほうと安堵したくなるような、生きている人間にようやく会えたような気分だった。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:13:11.59 ID:TuqVfnN5P

(,,゚Д゚)「宿を探しているんですが、近くに手ごろなものはありませんかね?」


どうせここはお面屋なんだろう。夜店で叩き売る合成樹脂のちゃちな奴から、本格的な木彫りの奴まで、ずらりずらりで睨みつけてきやがる。
こいつらは宿にはまるでそぐわない。ひとつやふたつなら良いんだが、みっつ、よっつ、それよりも多いときてはちっとも落ち着かない。


(´・ω・`)「一応ここも宿だけど」

(,,゚Д゚)「へ?」


あっさりと予想を覆されて、二の句が継げないでいる。
俺ってのは酷いもんだよ。勝手に思い込んで、勝手に絶句していやがるんだ。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:15:44.26 ID:TuqVfnN5P

(´・ω・`)「お面も売ってるよ。目隠し屋だからね。でも君を泊めることもできるのさ」


男はひょいっと帳面を持ち上げて、ぱらりぱらり捲り始める。


(´・ω・`)「ま、ここ最近は真ッ白だけどね」

(,,゚Д゚)「いやぁ、まあ、ねえ……」


まさか面が原因だろう、なんて言えやしない。こんな死んだ町の宿に泊まりに来る人間はいないだろう、とはもっと言えない。
泊まりに来る人間といえば、俺のようにあっちこちをふらふらしてる輩が少々くらいのもんだろう。


(´・ω・`)「最近はどうもね。お面の方もからっきしの素寒貧さ。泊まってっちゃくれないかい?」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:17:54.88 ID:TuqVfnN5P

冗談じゃない。こんな面の目だらけの宿なんか、落ち着いて腰も下ろせやしない。


(,,゚Д゚)「あー……」


俺が返答に困っていると、


(´・ω・`)「ま、無理にとは言わないさ。この三十路温泉には文字通り三十の路に三十の宿がある。あれ、二十九だったか?
      まあいいや。宿くらいは好きに選んだらいいさ。でもさ、目隠し屋はうちがここらで一軒こっきりだ。
      旅の土産に一つ、どうだい?」

男は手近にあったひょっとこのおどけた面を一つ寄越して見せたが、どうも、そっちもぴんと来ない。


(,,゚Д゚)「面……そういえば、ええと」

(´・ω・`)「僕の名前はショボンだよ。目隠し屋の人間は代々ショボンなのさ。歳は当年とって三十の三十路」

(,,゚Д゚)「はあ、どうも、俺はギコです。当年とって二十四です。仕事はカストリ雑誌で記事書いたり編集やったり……ようは使いっぱしりですね。
     ええ……で、この宿の名前なんですがね。お面売ってるから目隠し屋ってさっき言いましたけど、
     それは一体どういったことで? 面ってのは人が被って覗けるように目ンとこに穴ぼこが空いてるもんでしょう?」


だから、目隠しって呼ぶのはどうも具合が悪い。面は目以外の部分を覆うものなんだからな。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:20:12.89 ID:TuqVfnN5P

(´・ω・`)「カストリ雑誌でも物書きだね、お客さん。目ェつけるところが細かいや。
      ま、そいつがこの目隠し屋の秘伝ってところだね。ちょっと待ってな」


ショボンが奥に引っ込んだかと思うと、中から桐の箱を持ってきた。
そいつは何かって問うまでもなく、やっぱり面だ。
ただ、何で出来ているのかはちょっと分からない。合成樹脂でもなければ木でも無い。
もっと薄くて、ちょいと風でも吹けばふわりと飛んでいくような。
ぺらっぺらの、まるで、人の皮膚のような。


(´・ω・`)「さて、ここに取り出したるは先代ショボンの傑作『モナー』だ。良いかい、付けるよ」


ショボンは面を両手で包むように持ち、そのまま面を顔に押し当てた。
面の薄さからすると、張り付けたって言った方がいいかも知れない。
俺は顔を上げたショボンを見て、腰を抜かしそうになった。


( ´∀`)「どうだい。さっきまでとは別人だろう?」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:22:27.53 ID:TuqVfnN5P

さっきまでやけにしょぼくれていた男のまなじりが上がり、雰囲気が明るくなった、って話じゃない。
ショボンは顔かたちまですっかり変わって居やがったんだ。正真正銘の別人みたいにな。
体つきも、心なしかふっくりしたように見える。
面をつけたのだ、とショボンは言う。


( ´∀`)「そこいらに飾ってあるのとはわけが違う。うちが目隠し屋って名乗る理由さ。
      つまり……人目から、自分の顔を隠すのさ。目隠し屋のショボンってのは、こういう面が作れて初めて名乗れるんだ」


面……これが面だって? 新しい頭をくっつけたみたいなもんじゃねえか。
どうなってんだ。こんなもの、俺は見たことがない。


(,,゚Д゚)「ど、どうやってんだそれ……?」


一応余所行きの言葉を選んでたんだが、この時ばかりは地が出ちまった。
ショボンは面を外すと、丁寧に桐の箱にしまった。


(´・ω・`)「それは言えないね。秘伝って言うのはそういうもんさ。
      お気に召したら一つどうだい? お足は少々高くつくけどね」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:24:46.90 ID:TuqVfnN5P

(,,゚Д゚)「いや……とてもじゃないが、俺には買う余裕は。ただでさえ火の車なもんで」

(´・ω・`)「そのわりにはこんな辺鄙な処だけど旅行に来てるんじゃないか。
      生まれてからここいらを離れたことのない僕からしたら豪勢なもんだよ」


旅行、旅行ねえ。放蕩ならこんなところじゃなくって、もっと気分のいいところに行くさ。


(,,゚Д゚)「いや、さっき言ったカストリの記事です。取材みたいなもんですよ」

(´・ω・`)「ああ、なんだ。そういうことだったのか。うん、カストリの記事ってことはその――色っぽい奴かい?」

(,,゚Д゚)「まあ、不思議な面の話は、生憎と畑違いでさァね」


カストリ雑誌ってのは一応は大衆雑誌ってことになってるが、中身は殆ど女がらみの阿呆なもんさ。
俺がここにやってきたのも、辺鄙な宿で淫靡に情を交わしてる男と女でも居やしねえかと、まあ、出歯亀みたいなもんだ。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:27:31.86 ID:TuqVfnN5P

(´・ω・`)「だったら未亡人が女将をやってる宿、なんてどうだい。
      カストリ読む中年には、そそるものがあるんじゃないかい?」

(,,゚Д゚)「そんなところがあるんで?」


それは願ったり叶ったりだ。カストリの記事は出来るだけ低俗な方がいい。
直接現場を押さえなくても、未亡人、なんて枕がつけば、あとはちょちょいと宿の雰囲気を味わいながら書けば、それで一本出来上がる。


(´・ω・`)「うん、ここからそう離れていないし、値段も手ごろ。地図を書いてあげようか」


ショボンはさらりさらりとメモ紙に文字と絵でその場所を書いてくれた。
分かりやすい地図だ。面を作る奴ってのは、やっぱり器用なもんだね。


(,,゚Д゚)「世話になりました。では」

(´・ω・`)「何か用でもあったら、またいつでもおいで」


ぺこりと一礼して辞去する俺の背中にショボンの言葉。

用か。あるのだろうか。
あの面はたいしたもんだったが、まともな記事にするには与太話にすぎるし、カストリの記事にするには阿呆さが足りないからな。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:29:40.26 ID:TuqVfnN5P

『巽屋』
こいつはなかなかどうして、立派な看板を掲げている。
最近取り換えでもしたのだろうか、古ぼけたこの町の中で、この看板ばかりがいやに白く映る。

暖簾の紺色をかき分け、がらがらと戸を開ければ、そこは人の居住空間だった。
履物を脱ぐ土間があり、段を上がった畳の部屋。囲炉裏の上には鉄瓶が下がってゆるりと湯気を吐いていた。


(,,゚Д゚)「うーむ……」


さすがにここまで田舎然としていると、まるで作りものを見ている気がしてくる。
目隠し屋では居住空間を見る機会はなかったから、ここで初めて町の住人の生活を垣間見たのだが、
ひょっとして、これらはすべて演劇の舞台装置か何かであり、誰かに担がれていているのではないかとさえ思った。


(,,゚Д゚)「留守か? 不用心だな」


そういったところも含めて田舎らしいとは言えるが。
そもそも人が寄り付かなければ、この老人ばかりの町で窃盗を働くものもいないのだろう。

その時、からりと入口とは別の戸の開く音と、そこから出る鉄瓶からとは比べ物にならない大量の湯煙。


「あら、お客さんかしら……失礼しました」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:32:31.06 ID:TuqVfnN5P

湯煙に紛れて見えなかったが、声は女のものだった。
ぼんやりと白い中に映った影は、また扉をからりと閉じることで視界から消えた。
おそらく、扉の向こうは風呂であり、女将とやらは湯を浴びていたのだろうと思われる。
風呂に戻ったのは、身支度が十全でなかったせいだろう。


(,,゚Д゚)「いいえ」


土間に足をぺたんとやったまんま、畳に腰だけ掛けて、ふうと息をついた
はてさて、未亡人の若女将ってのはどんな風体なのかね。

別嬪さんならありがてえ事だが、こんな町じゃあ芋に目ン玉と口をひっつけたような女が相場ってところだろうな。
期待はしねえさ。何も俺は女将さんの活動を撮ろうってんじゃねえ。
文章なら、ま、俺の文章力はたかが知れてるが、ちっとは色っぽく偽装出来るってわけだ。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:34:40.05 ID:TuqVfnN5P

そう考えた途端、もういっぺんからりからりで、戸が開いた。
さっきの間に湯気は部屋にまた溜まったらしく、相変わらずの白い奴だ。
それにまぎれて、若い女将の登場ってわけだ。


(*゚ー゚)「あいすみませんね。お客さんなんぞめったに来ないものだから」

(*,,゚Д゚)「ああ……いえ、お構いなく」


たまげたねえ。女将さんってのは都会でもお目にかかれねえような別嬪さんだったんだ。
大粒の真珠みたいな丸っこくて綺麗な目に、ぴんと長い睫毛が生えていて、鼻筋はすっきりと高く、
その下の唇はぷくぷくと赤く、思わず吸いつきたくなるようなもんさ。
それが付いてる芋と思ってた顔はふっくり白いが、湯上りのせいでほんのりと紅が差してるのが色っぽい。

さらにこいつはおまけだが、突然のお客に女将さんは相当慌てていたと見える。
着物の帯は腹のあたりでめちゃくちゃに結ばれていて、襟元が乱れてるんだな。そこから白いふくれたものがちらりってね。
こりゃ眼福、ってなもんだ。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:36:12.96 ID:TuqVfnN5P

俺がそんな目でじろりじろりと見ていることなんざ気づきもしねえ女将さんは、宿帳をめくりはじめたんだ。


(*゚ー゚)「お泊りですか?」

(,,゚Д゚)「あ、はい。まあ一週間ほどですね。泊めていただきたいと」

(*゚ー゚)「まあ、そんなに長くですか? こんな町じゃ退屈でしょうに」

(,,゚Д゚)「いえ、俺ァ物書きをしてましてね。ま、ここに来たのは静かな所で書きてぇっていうか、とにかく観光じゃないんですよ」


俺は見栄をはっちまった。さっきのお面屋相手にはどうどうとカストリだって名乗ったのに、女将さんを前にしちゃ、いっぱしの文士気取りだ。
浅ましいねえ、男って奴は。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:38:09.50 ID:TuqVfnN5P

(*゚ー゚)「あら、文士さんでしたの」

(,,゚Д゚)「へへ……ま、そうです」


何がそうです、だよ、カストリ風情が。反吐が出らァね。


(*゚ー゚)「あらあら。じゃあいつか巽屋のことも書いてもらわなくっちゃいけませんよ」

(,,゚Д゚)「ええ、まあ、構いませんよ。きっと宣伝になると思います」

(*゚ー゚)「ふふっ。これはうんと持て成さなけりゃいけませんねえ」


この時の女将の笑顔ったら、今まで俺が見てきた活動や写真やなんか全部ひっくり返して探しても見当たらねえような眩しさだった。
ああ、一生涯でいっぺんで良いから、こんな女を抱いてみてえもんだよ。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:39:46.92 ID:TuqVfnN5P

通された部屋ってのが、四畳半くらいの、仮の宿にしちゃあ十分な代物だった。
ひでえところになると、押し入れ見てえな所に押し込まれて過ごさなきゃならないんだから、まあ俺の経験の中じゃあ上等の部類に入るわな。


(*゚ー゚)「お風呂、残り湯で申し訳ないけど、まだ温かいから、一息ついたらどうぞ」

(,,゚Д゚)「はあ、すいませんね」

(*゚ー゚)「お夕飯は出来たらお呼びしますか? それともお持ちしましょうか?」

(,,゚Д゚)「ああ、多分仕事にかかりっきりになると思うんで、できたら部屋でお願いしたいです」

(*゚ー゚)「はい。それじゃあ、ごゆっくりどうぞ」


深々と頭を下げて、すーって背筋を撫でるような音をたてて戸がしまった。
ふう、と俺は文字通り一息ついた。まったく、話してるだけでも汗なのに、面と向かって飯がのどに通るかよってな。
別段仕事を急ぐ必要もねえから、俺は原稿用紙を形だけ散らかして、残り湯をいただくことにした。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:42:01.94 ID:TuqVfnN5P

普通の足も伸ばせねえような狭い風呂を想像していたが、存外広い風呂だった。
銭湯とまではいかねえが、大の大人が3人4人はゆっくりつかれる広さだ。
こいつはありがてえと、俺は思いっきり手足を伸ばして入った。
目隠し屋に巽屋のあの若女将ときて、なんだか妙に疲れちまったからな。


(,,゚Д゚)「しかし妙な町だねえ。辺鄙なところなのに三十も宿があるとかなんとか……」


そういえばショボンはおかしなことを言ってなかったか。
三十だか二十九だか……。最近一つ潰れたってことかい?
ひょっとしたらこの巽屋が潰れてて、あの女将さんが幽霊だってんじゃねえだろうな。
それも良いかもしれねえな。幽霊と色っぽいことができる宿ってのは、カストリの記事にならねえだろうか。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:44:13.07 ID:TuqVfnN5P

風呂からあがってさっぱりすると、煙草が吸いたくなってきちまった。
けど、部屋には灰皿の一つもありゃしねえ。着物を直して割烹着を着た女将さんにその事を言うと、


(*゚ー゚)「すいませんねえ。うちでは禁煙ということにさしてもらってるんですよ」

(,,゚Д゚)「へえ、なんでまた」

(*゚ー゚)「昔うちの旦那が煙草で火を出しちゃいまして、どうも、煙草は。御堪忍を」


女将が両手を合わせて、上目で俺の目を見るんだ。なんだか心の臓が苦しくなってくるな。


(,,゚Д゚)「そ、そういうことなら仕方ねえですね。ちょいと馴染みもありますし、そっちに行って一服してきますよ」


内心面倒な気持ちもあったけどな。女将の機嫌を損ねちゃなんねえと、男の俺は思ってたんだな。
ついでに、女がらみの阿呆な話をするには、話の分かる同年代ってのはいいもんだ。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:46:46.59 ID:TuqVfnN5P

そうして俺は目隠し屋にもういっぺん来たんだ。相変わらずのじろりじろりで面が俺を迎えやがる。


(´・ω・`)「また来たのかい? どうした、面の一つでも入り用かい?」

(,,゚Д゚)「いや、そういうわけじゃねえんだけど、ちょいと一服、いいですか?」

(´・ω・`)「ははぁ、しぃさんは未だに煙草が嫌いと見える。良いさ、存分に吸っていきな」


そう言ってショボンも煙管を取り出したのさ。さっと葉を詰めて、燐寸で火ィ付けて、ひと吸い――カツン!
さまになってらァね。じりじりと先端から焦がしていくこっちとは大違いだ。


(´・ω・`)「ま、何事もなくに行けたようで安心したよ。地図が間違って迷子になってたら申し訳がないや。巽屋はどうだい?」

(,,゚Д゚)「いや、本当。あそこを紹介してもらえて良かったですよ」

(´・ω・`)「いやあ、あそこの女将さんはカストリにぴったりだと思うよ」


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:48:32.39 ID:TuqVfnN5P

(,,゚Д゚)「と言うと?」

(´・ω・`)「あんまり大きな声で言うもんじゃないけどね。あそこの女将さんってのは25の女盛りなのよ」

(,,゚Д゚)「ほうほう」

(´・ω・`)「そんで、ぞっこんだった旦那さんを亡くしちまって、寂しがってるんだな」

(,,゚Д゚)「……それは」

(´・ω・`)「流れから言って、夜の話だわな。様子見に行く婆さんの話じゃ、時たま聞こえるんだってさ、しぃさんの一人の布団の中から、切ない声が」

(*,,゚Д゚)「おお……」


妙に興奮しちまったけど、まあ、これでカストリの記事はもう8割完成したも同然だ。
まったく、世の中には阿呆な話が転がってるもんだね。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:50:28.82 ID:TuqVfnN5P

(´・ω・`)「ああそうだ。そう言えば君は、しぃさんの元旦那さんのフサさんによく似ているね」

(*,,゚Д゚)「本当ですか?」


こんな些細なことで喜んじまった。馬鹿なもんだね。
さらに、ショボンのもう一言で天にも昇るんだから、猿より始末が悪いや。


(´・ω・`)「ひょっとしたら今晩にも、しぃさんの方からお誘いが、なんてね」

(*,,゚Д゚)「いや、そんな……困っちまうな」

(´・ω・`)「何なら今からでもうちに宿を変えるかい。貞操は保証してあげるよ?」

(*,,゚Д゚)「いいえ、結構です」


俺は何だか辛抱堪らなくなって、吸いさしの煙草もなんのその、巽屋にすっ飛んで帰ったんだ。
馬鹿だよ。本当。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:52:08.09 ID:TuqVfnN5P

飯を食った後、カストリの原稿も書かずに蒲団を用意してもらった。


(*゚ー゚)「もうお休みですか。小説の方はよろしいんですか?」

(,,゚Д゚)「ああ、何だか今日は疲れちまったんで、とっとと寝ちまおうと思って」


もちろん散らかした原稿用紙はカストリのための紙っきれなんだが、そんなこと口が裂けても言えないやね。


(*゚ー゚)「さいですか。いえ、ゆっくりしてもらっても構わないんですけどね。
     久しぶりのお客さんに、こっちも一人なもんで、話し相手にでもなって貰えればってねえ。作家先生相手に虫が良すぎますかね」

(*,,゚Д゚)「いえ……はは」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:53:51.72 ID:TuqVfnN5P

さっきのショボンの話が甦って、一人って所に、何だか照れちまった。
そう言われちゃ俺だって起きていたいところだが、今更やっぱり、なんてのは言えやしない。


(*゚ー゚)「それでは、おやすみなさい」


扉の閉まるすーっと背筋を撫でる音。敏感になってるのか、思わずゾクッとしちまったね。
随分気持ちが昂っちまったが、部屋を暗くして布団を引かぶったら、案外すぐに寝ちまった。
疲れてたのかねえ。

そして、早寝が災いしたのか、夜中にバチっと目が開いちまったんだ。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:55:24.83 ID:TuqVfnN5P

辺りは静かなもんさ。部屋は真っ暗だが、外はさすが田舎ってんで、都会ではちょっとお目にかかれないくらい星がきらきらと瞬いている。


(,,゚Д゚)「さて、どうするかな」


本来なら、せっかくの機会でもあるし、女将、つまりしぃさんが
夜な夜な自分を慰めてるって話を確かめに行くのがカストリ記事を書く俺の仕事だ。
でもなあ、俺はどうも気が進まなかったんだ。こんなのは学生やってたころ以来だった。

好きな女の子ほど、要領よく接することができないってな。
まったく、いい年してなに初心なこと言ってるのかねえ。

とりあえず、出歯亀は置いておいても、厠へ行きたくなっちまった。
そろりそろりと歩いて、用をたす。
イチモツが妙に反ってるのは、きっと起きばなだからだろう。
じゃねえと、どうも、このまま寝床に戻るには具合が悪いことになるな。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:57:08.13 ID:TuqVfnN5P

結局、俺はしぃさんの部屋の前まで来ちまった。
中からは寝息も聞こえねえ。けど、そろっと開ければ、聞いちゃいけねえ声が聞けるかもしれない。


(,,゚Д゚)「さて、どうするか」


ごくり、と生唾飲みこむ音が妙に大きい。
包み隠さず言えば、俺のイチモツはかちかちになっていて、ちっとも言うこと聞きやしない。

本能は扉をがらりと開けて、被っている蒲団を剥がし、唇に吸いつき、
襟元から手を差し込んでふっくらした奴をもみしだき、と、様々な事をしろと訴えている。

でも、一方でやめろ、とも言っている。
このまま寝床に戻って寝ちまえ、とも言っている。

本当に学生見てえだな。カストリの記事書いてる人間とは思えねえ。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 00:58:56.11 ID:TuqVfnN5P

夜が明けた時、俺がどこにいたかと言えば、自分の部屋の寝床の中だった。
情けねえな、まったく。とどのつまり、あの後、寝床に帰っちまったんだ。

朝飯の膳を持ってきたしぃさんの清々しいことよ。こっちはあれからずっと寝られなかったのにな。


(*゚ー゚)「どうしたんですか? 目におっきな隈なんかこさえて」

(,,゚Д゚)「いやあ、夜中に目ェ覚めちまって、それからちょいと原稿を」

(*゚ー゚)「あらあら、言ってくださればお夜食でも用意しましたのに」


まあ、もちろん半分嘘っぱちなんだけどな。

何だか食欲もわかなかったんで、白い飯にお茶をぶっかけて食った。うまくも何ともねえが、腹だけは膨れる。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:00:58.44 ID:TuqVfnN5P

さて、どうしたもんかな。
あまり気乗りはしねえが、カストリの原稿に手ェつけようか。
ちょいちょいっとやっつけて、しばらくぐうたらしてるのも、悪かねえ。


(,,゚Д゚)「ほいほいほいっと」


書き始めると、題材がいいのかすんなり枡目が埋まっていく。
こういう仕事は気分がいいやね。
しぃさんの素性やなんか、適当にでっちあげて、後は阿呆な事をつらつらと。

昼飯も部屋に運んでもらって、夕暮れごろには、あらかた出来上がってる状態になった。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:02:49.01 ID:TuqVfnN5P

(,,゚Д゚)「一週間も取る必要無かったな」

俺は文字で汚れた原稿用紙をほっぽり出して、懐中の煙草を取り出した。
そして細いやつを咥えて、そいでここが禁煙だってはたと気づいた。

しょうがねえ。また目隠し屋ンところにでも行こうか。


(´・ω・`)「で、来たわけかい」

(,,゚Д゚)「へへ、お邪魔様で」

(´・ω・`)「ま、構わないさ。僕も暇を持て余してたんだ。ゆっくりしていきなよ」

(,,゚Д゚)「しっかし、ここいらは本当に静かなところですね」

(´・ω・`)「宿と静寂。これだけが取り柄だね」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:04:40.33 ID:TuqVfnN5P

(,,゚Д゚)「そうそう、静かと言えば」


俺は昨晩のことを話した。
静かな宵に、宿をうろつき、何にも出来ずに蒲団を引っ被ってたってことを、包み隠さずに。
旅の恥はかき捨てってな。


(´・ω・`)「ははあ、そりゃあ君、一目ぼれって奴だね」

(,,゚Д゚)「そうですかねェ。まったく、良い歳してお恥ずかしいや」

(´・ω・`)「どうするんだい? 一週間悶々と過ごすか、それとも一つ男を上げるか」

(,,゚Д゚)「そういう話になりますかね。ええ、どうしたらいいもんか」


でもな、俺の性分からすりゃ、どちらも選ぶこともなく、けども、このまんま一週間悶々とするのが落ちってところだ。
昨晩のあの失態を繰り返すのがいいところかもな。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:06:04.96 ID:TuqVfnN5P

(´・ω・`)「そうだ。ここは一つ良いものを貸してやろうか」

(,,゚Д゚)「良いものって、何か知恵でも?」

(´・ω・`)「知恵もそうだが、ちょいと待ってなよ」


と言ってショボンは奥に引っ込み、昨日と同じように桐の箱を大事そうに抱えて戻ってきた。
ええと、するってえと、


(,,゚Д゚)「あの、ヘンテコな面ですかい?」

(´・ω・`)「ヘンテコとはなんだい。これは僕が作ったものさ。名前をフサという」


かたかた箱を開けると、中には俺によく似た男の顔がちんまりとしてやがる。
きっと、この面をつけると、こいつになれるって寸法だね。


(´・ω・`)「こいつを君に一晩だけ貸してやろう。なあに、お代はちょっぴりでいいさ」

(,,゚Д゚)「ちょっぴりって、そもそも俺はこいつを借りて何をすりゃ良いんですかね?」

(´・ω・`)「馬鹿だなあ。夜這いだよ。しぃさんと一晩、良い思いしてきなってね」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:07:51.84 ID:TuqVfnN5P

(*,,゚Д゚)「え……ええ?」


夜這いって、それは、その、しぃさんの寝床に潜りこんで、無理やりにでも阿呆なことをしろってことで。


(*,,゚Д゚)「それはちょっと、不味かねェですか」

(´・ω・`)「これはね、しぃさんの旦那さんを模して作った面さ。これがあれば、夜這いもできるってね。
      そもそも、君、顔が随分緩んでるじゃァないか。ほら、持っていきなよ」


ショボンは桐の箱にしまいこんだ面をぐいぐい押しつけてくる。
あんまりにも押しが強いもんで、俺はつい受け取っちまった。

いや、単に馬鹿だったんだな。どうしようもない、大馬鹿。


(,,゚Д゚)「で、こいつを被って、寝床に忍べばいいんですかね」

(´・ω・`)「何だ、やっぱりやる気なんじゃないか。でも、そうじゃないんだ」


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:09:29.14 ID:TuqVfnN5P

ショボンは桐の箱を指差し、重ッ苦しい表情で言う。


(´・ω・`)「これはちょっと作りに難ありでね。被ったら、体の力が抜けちまう。元々正道とは言えない邪道の面だから、
      二つも三つも作れば、一つくらいこう言うのが出来ちまう。粗悪品だね。でも、顔かたちは完璧に変わる。そこは安心してくれて構わないよ」

(,,゚Д゚)「はあ、しかし、体の力が抜けちまうと、その、ナニはできないような」

(´・ω・`)「だからね、面はぎりぎりまで、被らないでほしいんだ。バレたって時のための保険さ。
      君はもともとフサさんと似てるからね。暗がりなら元より騙せるさ。ただ、疑われたら、さっと被ってやり過ごすんだ。
      そうすりゃ、死んだフサさんが来るわきゃないって、夢うつつに思ってお終いさ」

(,,゚Д゚)「そんなうまくいきますかね」

(´・ω・`)「いくさ。いいかい?
      しぃさんはそのまんま寝ちまうか。あわよくば上に乗っかって来るか。
      どちらにせよ、すぐに果てるさ。まあ、とにかくやり過ごして、こっそり抜け出して、面を取る。
      簡単なもんさ。体の力が抜けるっても、まったく動けないわけじゃあない。しぃさんが眠っちまった後でゆっくり這い出して取ればいいんだ」


妙な具合でまくしたてて、やがてショボンは店じまいするってんで俺を追い出した。
なんか、おかしいな。話の内容も、なんとなく要領を得ないし、
何より、ショボンの奴、わくわくと期待してるような目で、俺を見てたような。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:11:29.98 ID:TuqVfnN5P

帰ったらしぃさんが風呂を焚いてくれていたので、ありがたく一番に浴びさせてもらうことにした。
広い風呂ってのはやっぱり気持ちがいいもんだ。
何となく心も豪気になって、あんがいショボンがさっき言ったのもうまくいくんじゃないかって、そんな気になってくる。

体が温まった頃で、さて体を流すかって立ち上がったら、途端、風呂の戸がからりと開いた。


(*゚ー゚)「お背中お流ししましょうか?」


手拭いで前を隠したしぃさんだった。
傷一つない白い肌を殆ど晒して、にっこりと微笑みかけてくる。


(*,,゚Д゚)「はァ……?」


しぃさんは洗い場に立て膝で、石鹸をごしごし泡立て始めた。
不思議そうにこっちを見て、ついで、どうぞ、と視線で着座を促す。

ええい、イチモツ見られたくらいで固まってどうするんだよ。俺は。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:13:19.15 ID:TuqVfnN5P

片方の手を俺の肩にかけて、泡まみれの手ぬぐいで背中を擦る。
そのしぃさんの前で、俺はちんまりと座っている。
何とも、居心地がよくない。何か話すこと、ねェかな。出歯亀だが、前の旦那さんの話でも聞きたいところだ。


(,,゚Д゚)「こ、ここ、前に火事があったらしいですけど」

(*゚ー゚)「そうですよ。言いましたっけ、前の旦那の煙草の不始末でねェ」

(,,゚Д゚)「火は大きかったんですか?」

(*゚ー゚)「そうですね、半焼、ってところでしょうか。看板もその時燃えてしまいまして。
    壁なんかは古いもので直したんですけど、『巽屋』のあればっかりが新しいってよく言われます」

(,,゚Д゚)「ひょっとして、旦那さんはその時に?」


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:15:07.26 ID:TuqVfnN5P

俺がそう聞くと、ほんの一時、しぃさんは言葉を詰まらせて。
俺はああ、まずかったかと反省しかけたが。


(*゚ー゚)「そうです。ま、自業自得って奴ですかね」


言葉ではそう言うものの、何とも気の毒な、儚い声音で、しぃさんはそう言った。


(,,゚Д゚)「……そうですか」

(*゚ー゚)「大酒はやるし、こんな街のどこにいるんだか、女の人をこさえて夜は帰ってこないしで、碌なもんじゃありませんでしたけど」

(,,゚Д゚)「立ち入ったことを聞いてしまって」

(*゚ー゚)「いいんですよう」


そして背中を湯で流し終えると、しぃさんは「夕飯のお膳はまた部屋の方へ運びますので」と言い、
そそくさと後ろ手で隠した形のいい尻を向け、出て行った。
最後の言葉が潤んで、形を失っていたのには、どうにも、具合の悪さを感じた。

飯を食い、原稿に二、三文付けたして寝床に潜っても、眠気は訪れなかった。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:17:08.56 ID:TuqVfnN5P

真夜中、俺はしぃさんの部屋の前に来ていた。
もう原稿は殆ど仕上がった。あとはちょちょいと落ちでもつけりゃ、月末には小金が入って来るだろう。
だから、この温泉街にはもう未練は無い。翌朝逃げ出すことになっても、旅の恥はかき捨て、ことさら困る事は無い。

そう思ったら度胸がついちまって、でも、小脇には桐の箱から取り出したペラペラの面を抱えて、ここに立っている。


(,,゚Д゚)「なァに。たいしたことじゃねェさ。たった一晩、寂しい御婦人の相手するってだけだ」


俺はそう勢いをつけて、湯でのしぃさんの言葉を無理やりどっかに押しやって、部屋の戸をすっと開けた。

枕もとの明かりも消えて、しんと静まり返った部屋の真ん中で、こんもりと盛り上がった布団が一つ。
あそこにしぃさんがいる。ただ、話に聞いたような声はとんと聞こえてこなかった。
残念なような、忍びやすくなったような、妙な心地だ。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:18:08.11 ID:TuqVfnN5P

この時、止めときゃ良かったんだな。
後悔したって、どうしようもない話だが。

幕ってのはいつでも唐突に降りるもんだ。
浅はかな俺の、これは多分罰だったんだろう。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:18:56.48 ID:TuqVfnN5P

俺は音を立てないようにゆっくりとしぃさんに近づいた。
畳の上をするする滑るように、い草の上を忍んだ。

その時、パッと枕もとの明かりが灯された。


(;,,゚Д゚)「うわっ!」

どうも、度胸が足りなかったらしい。
それだけで俺は尻もちをついちまった。
ドシン、と。もう言い訳のしようもないくらい、大きな音が響いた。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:20:16.38 ID:TuqVfnN5P

( ゚ ゚)「だあれ?」


泥の中で無理やり発音してるような濁声でそいつは言った。
蒲団の中には目が二つ。
炯々と怪しい眼光が俺をとらえていた。

不安になるような眼だ。
それに視られているのは、それだけで耐えがたいような居心地の悪さを感じさせる。

動けない。その眼がそこにあると、面も被らないうちから俺の体から力が抜けちまって。
あれは一体何なんだ。しぃさんなのか?


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:21:19.37 ID:TuqVfnN5P

するっと、それが動いた。


( ゚ ゚)「 だ あ れ ?」


そいつは布団から這い出してきたが、俺には変わらず眼しか見えない。
蒲団から出てきて空気にさらされたそいつは、何だか生臭いような、人が生焼けになったような、酷い臭いを伴って這って来る。


(;,,゚Д゚)「あ、あ、あ……」


俺は小脇に抱えた面を思い出した。
とにかく、こいつに俺が俺であることを知られたらまずいと思った。

フサの面を付けろと言う、ショボンの声が脳裏をかすめた。
そう思ったら、それにすがるしか、なくなった。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:22:53.97 ID:TuqVfnN5P

ずしんと体が重くなった。
面を外すどころか、腕をあげることも出来ない。
ああ、でも、これで、どうか、やり過ごせないか……。


ミ;,,゚Д゚彡「はっ、はっ、はっ……」


呼吸が細い。息さえも上手く吸えない。
目の前の何かから少しでも逃れようと、辛うじて動く指先でい草をカリカリ擦る。


( ゚ ゚)「 フ サ く ん?」


もう目の前まで来ていたそいつは、俺の顔を二つの目で覗きこんだ。
生焼けの人肉の臭いが鼻をつき、それ以外は何も感じられないような気分だったが、俺はひたすら耐えた。


( ゚ ゚)「 あ い た か っ た よ う」


ヒタっと、温度の感じられない嫌に湿った手で俺の腕をつかむと、面をつけていなくても抗えないような力強さで、布団の方へと。


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:24:05.89 ID:TuqVfnN5P

ミ;,,゚Д゚彡「あ、ま、ちょ、待……」


待ってくれ、と言おうにも舌がもつれて上手くいかない。
カリカリカリカリ、爪先がい草を擦るばかりだ。
そして、その爪がペラペラの何かに触れた。
よく覚えがある。さっきまで俺が持っていて、今付けているものによく似ている。

それはショボンの作った面だ。

どういうことなんだ。
この体を隠すために、しぃさんがこれを付けていたのか。
だったら、なんでショボンはそれを言わなかったんだ?

面は爪先を離れて、俺は布団の入口まで来ている。


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:25:22.89 ID:TuqVfnN5P

( ゚ ゚)「 フ サ く ん」


しぃさんだったそいつが、カサカサしているようなブヨブヨしているような不快な唇らしきもので俺の口を吸った。

生臭い臭いが俺の中に充満し、吐き戻しそうになったが、何より吐瀉物を出しちまうような体力は、もう根こそぎ何かに奪われているようだった。


( ゚ ゚)「 や っ と か え っ て き て く れ た」

ミ;,, Д 彡「た、ずげ……」

( ゚ ゚)「 こ れ か ら は ず っ と い っ し ょ」


俺は真っ暗な布団の中に引きずり込まれる。
もう爪先はい草を擦れない。
冷たい布団の中、しぃさんだったモノの下で、全身を這い回る気色の悪いモノに悶えながら、俺は早く解放されることばかりを望んだ。

………………………
……………………
…………………
………………


96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:27:08.85 ID:TuqVfnN5P
……………
…………
………

(´・ω・`)「成る程ねェ。そういう原稿がおたくのカストリ雑誌の編集部に届いたと。そんで筆跡が滅茶苦茶だって?」

(´・ω・`)「いきなりそんなこと言われても。ギコ? さあねえ。そんな奴、見かけた覚えもないな」

(´・ω・`)「面が見たいって言ってもなァ。そんな便利なもんがありゃ、もっと手広く商売してるさ」

(´・ω・`)「あん時のようにちょいと御見せする、ってわけにはいかないんだ」

(´・ω・`)「ん? どうかしたかい?」

(´・ω・`)「もし、だって? もしギコが本当にここにいたらってかァ」

(´・ω・`)「ギコは夜明けにゃここから逃げ出したんじゃないかね」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:29:12.49 ID:TuqVfnN5P








(´・ω・`)「あるいは
      あの布団の中で、ろくに動けない体のまんま
      今でもしぃさんにぐちょぐちょ犯されてるのかもしれないねェ」









101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:30:12.48 ID:TuqVfnN5P

(´・ω・`)「化け物がいっぱしの人間ヅラで眠ったり果てたりするとも思えないし、って」

(´・ω・`)「ま、与太話さね。そもそも『巽屋』なんて宿、この三十路温泉にはありゃしない」

(´・ω・`)「あんたがここの温泉街に入ってきた本通りが一路。あとは二十九の温泉に続く路で、合わせて三十路」

(´・ω・`)「な? なんにも不思議なことなんか無いんだよ。三十番目の温泉なんか、存在しないんだ」

(´・ω・`)「それより、泊まって行くかい? それとも、カストリ雑誌の人なら、若い女の人がやってる宿の方がいいかな」

(´・ω・`)「ちょうど良い宿があるんだよ」

終わり





(,,゚Д゚)ギコと目隠し屋のようです(リンク先( ^ω^)ブーン系小説とか読み物とかの倉庫様)
[ 2014/02/05 23:27 ] スレ立て短編 | TB(0) | CM(0)

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