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( ФωФ)ささやかな怪異を含む静かな群像劇のようですζ(゚ー゚*ζ  三話

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 21:40:01.90 ID:KhGCeCUl0


【誰にも話さなくても良かった三話】


―都村。お前に、このお手玉を―


旦那と二人で暮らしております。
子どもはおりません。
毎日慎ましい生活を送っていますが、おかずだけはいつも多めに作ります。

近くに住む、いつまでも一人身でいる兄に、届けるためです。

その日も、私が両手で抱えて持った金色の鍋の中には、
ぎっしりと甘じょっぱい南瓜の煮付けが詰まっていました。
朝の柔らかいお日様が、鍋のおもての細かな傷に、
きれいな様子できらきらと差し込んでおりました。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 21:43:31.56 ID:KhGCeCUl0



歩いて1分と少し。
四軒隣に住む兄は、まだ眠っているようでした。
家人が起きないと、家も起きません。
玄関から感じる気配は薄く、空気はしんと、動きません。

私は、両手で持っていた鍋を抱きかかえるようにして片手で支え、
声をかける事もなく戸を開けました。

まっすぐ台所に向かい、鍋を置いて、食材のチェックをします。
昨日炊いた米が残っていたようですので、手早く握り飯にします。
冷めたご飯を茶碗に盛っても美味しいわけがありませんので。

他に、散らかったままになっていた食器を洗い、水場を軽く拭き清めます。
いつもの事なのです。

そして、台所が一通り片付くと、兄を起こしに寝室に向かいます。
金に関しては迷惑をかけられた事はありませんが、全く手のかかる兄しようのない兄です。

(゚、゚トソン「これは……」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 21:46:36.02 ID:KhGCeCUl0

         ∧ ∧
( +ω+)ζ(-ー-*ζ

そこには、いつものように寝ている兄と、
いかにも馴染みの恋人のように添い寝をする白い犬がおりました。

前々から変わり者で有名な兄ではありましたが、
まさか枕を並べるほど犬と親しくしているとは初めて知りました。

きっとシーツに毛が入っている事でしょう。
ああ、洗濯が大変です。
兄はもちろん洗濯くらい自分でするのですが、溜め込む癖がありますので、
結局のところ三分の一くらいは私が洗うのです。

(゚、゚トソン「兄様。兄様。起きて下さいまし」

( Фω+)「むぅ……」

うなり声をあげて兄がのっそりと起き上がりました。
後ろで軽く結えるほどにだらしなく伸びた髪に、寝癖がついています。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 21:49:50.75 ID:KhGCeCUl0

兄は私を認めるとゴシゴシと目をこすりながら、寝惚けた声でお早う、と仰いました。

(゚、゚トソン「お早う御座います。ところで、兄様。
     そのお隣に寝ていらっしゃる可愛らしい方はどなたですか?」

( ФωФ)「ああ、昨日拾ってきたのだよ」

(゚、゚トソン「それにしては随分と兄様に懐いているようですが」

( ФωФ)「うむ。懐こい犬なのだ」

犬の頭をくしゃくしゃと撫でながら兄は当然と言った風情で言いました。
釈然としませんが、いつものらりくらりと真実を明かさない兄です。
これ以上聞くのは無駄と言うものでしょう。

(゚、゚トソン「早く顔を洗って朝ご飯を召し上がって下さいませ。
     お米が残っていたようですので、お結びにさせて頂きました」

( ФωФ)「うむ。いつも悪いな」

(゚、゚トソン「いえ。いつもの事ですから。
     そちらの可愛らしいお方には何をお出しすればよろしいのでしょうねえ」

( ФωФ)「ああ、私と同じものをやってくれ」

(゚、゚トソン「握り飯、かえって食べ辛くないかしらん」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 21:53:24.39 ID:KhGCeCUl0

白い犬は、まだ布団の中で悠々と眠っています。
ごろんと寝返りを打ち、柔らかそうな毛がふさふさと揺れる腹を無防備に晒しています。

(;ФωФ)「ああ、はしたない。女の子だろうお前は」

兄は、そう言っていそいそと犬に布団をかけなおしてやります。
畜生に、まるで愛娘のように布団をかけてやる兄も兄ですが、
これだけ周りでうるさくして目覚めない犬も犬です。

どうやら、おかしい兄のまわりには、おかしい犬が集まるようです。

(゚、゚トソン「そのお方の名前は?」

( ФωФ)「ああ、デレと言うのだ。可愛いだろう」

(゚、゚トソン「デレさんですか。覚えておきましょう」

( ФωФ)「うむ。よろしく頼む」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 21:56:23.11 ID:KhGCeCUl0

(゚、゚トソン「デレさんが大変可愛らしいのは認めるところですが、兄様」

( ФωФ)「なんだ」

(゚、゚トソン「早く奥様をお迎えになって下さいまし。
     わたくし、兄様に加えてデレさんの世話までするのは真っ平御免です」

(;ФωФ)「何、デレの世話は私はするさ。それほど、手のかかる犬でもなし」

(゚、゚トソン「ご自分の世話も満足に出来ない兄様が、犬の世話など出来るはずないじゃないですか」

(;ФωФ)「そう言えば朝飯だったな。いつも悪いな。頂くか」

兄は、立ち上がりさっさと部屋を出て行きました。
全く。箪笥がここにあると言うのに着替えもせずに行ってしまうとは。





13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:00:55.20 ID:KhGCeCUl0



兄に朝ごはんを食べさすと、私はそそくさと家に帰ります。
掃除、洗濯、買い物、糠床の世話、やることは無限にあるのです。
いつまでも、だらしのない変人の兄に構っている暇はありません。

手作りの割烹着を身につけると、納戸から古い箒を取り出します。

(゚、゚トソン「さあ、今日も我が家を守りましょうか」

こうして、私のありふれた一日がゆっくりと回り始めるのです。





14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:03:08.39 ID:KhGCeCUl0


このような私の生活は、ほとんどが変わりなく、恙無く流れていくのですが。
時折、どうしても事件が起こってしまうことがあるのです。

そう。今日のように、兄が犬を拾ってきたりだとか。

ああ、それで思い出しました。
以前、夫がこねこを拾ってきたこともありました。
そしてそのこねこは、翌日には死んでしまいました。

可哀想に。あれは冬の寒い日に拾ってきたこねこだったから、
夫に拾われるまでに、随分と弱っていたのでしょう。

そういう時は、私はいつも、出来るだけ心を使わないようにして、
ただ精一杯、その場をおさめようと画策するのです。

こねこは、庭に埋めてやりました。
夫が、つけたばかりのこねこの名前を、何度も何度も呟きながら穴を掘っていました。

ああ、しかしどんな名前でしたでしょうか。
上手く、思い出せません。




15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:05:52.17 ID:KhGCeCUl0



とにかく、私は、非日常を嫌うのです。
昨日と同じ今日が、いつだって私には訪れるべきですし、
今日と同じ明日が、いつだって私には用意されて然るべきなのです。


そうした、穏やかな安らぎの日々を、私は望んでいるのです。




17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:08:16.98 ID:KhGCeCUl0

しかし、兄はどうやら違うようです。
わけのわからない怪しげな呪い師などになってしまって、
あれでは、ますます結婚など出来なくなってしまいます。

昔、兄が占いなんぞを始めたと知った時、
私の心は、重く、ごつごつとした石を、そのまま飲み込んでしまったように、
ふかく、沈み込みました。

占い師。まったく。
ほんとうは見えるべきではないものを見えているように見せ掛け、
ほんとうは知るべきではないものを知っているように振舞って。
口先だけで運命だの何だのと他人様の真剣な悩みを誤魔化して、
それで、口に糊するような連中。

いかがわしいったら、ありゃしない。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:10:38.66 ID:KhGCeCUl0


兄は、私のゆうるりと流れるべき日常をかき乱す最も大きな存在ですし、
それでいて、けして縁を切ることを許されない私の最も身近な人間の一人でもあります。

(゚、゚トソン「せめて、あれで定職について頂ければ……」

思わず溜息が零れます。
私のこのような心労など、兄はちっとも知らずにいるのでしょう。

そういうお人なのです。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:14:05.24 ID:KhGCeCUl0


お昼を過ぎたあたりです。
私が皿を洗っていると、玄関の戸が無遠慮に叩く音がしました。

割烹着で手を拭き拭き向かうと、
そこには、どこか困ったような、途方に暮れたような様子の兄が、立っていました。

私が兄の家を訪ねるのは毎日ですが、
兄が私の家を訪ねることはそうないことです。

(゚、゚トソン「あら珍しい兄様。どうなされたのです?」

( ФωФ)「言伝を、預かってきたのだ」

兄は妙に畏まった口調でそう言いました。

(゚、゚トソン「言伝?わたくしにですか?どなたから?」

( ФωФ)「あの……デレだ」

兄は、心底申し訳なさそうに、そう言いました。
どちらかと言うといかつい顔をした兄が、
まるで、叱られるのを待つ子どものように縮こまっています。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:18:20.84 ID:KhGCeCUl0

(゚、゚トソン「あの、可愛らしいお方?」

( ФωФ)「ああ。そうだ。お前が今朝会った、あの、デレだ」

(゚、゚トソン「はあ……」

溜息と、生返事が同時に私の口から漏れます。
兄が、おかしい仕事を生業にするのは、勝手なのですが、
私をそれに巻き込まないように、と言うのは再三伝えておいたはずですが。

(;ФωФ)「今日の夕刻、いつでもいいから、ウツダ喫茶店に来てくださいまし、と伝えてくれと」

(゚、゚トソン「仰ったんですか?デレさんが」

(;ФωФ)「仰ったんだ……」

兄は、このような嘘をどのようなつもりで私に吐いているのでしょうか。
大体、私はウツダ喫茶店なる喫茶を存じ上げません。

(゚、゚トソン「兄様。とりあえず、お上がりになって下さいまし。
     どういうつもりかは、中でゆっくりお聞きします」

(;ФωФ)「あいや。いい。いい。お前、あの、新速通りは分かるだろう。そこを、まっすぐ抜けて。
        そうしたら、坂道を下る事になるから、その坂道を下りきったら、すぐだ。
        看板があるからすぐ分かる。カタカナでウツダ喫茶店と」

(゚、゚トソン「はぁ……」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:20:34.77 ID:KhGCeCUl0

(;ФωФ)「じゃあ、私は仕事があるから帰るぞ。
        確かに、伝えたからな。
        その……」

兄は、もごもごと口ごもりました。

(゚、゚トソン「何ですか?」

(;ФωФ)「お前が、不審に思うのも無理ないが、出来れば行ってやってくれ。
        それに、あすこのコーヒーは、美味いのだよ。お前、コーヒー好きだろう?」

(゚、゚トソン「はぁ……。」

(;ФωФ)「では、くれぐれも、頼む」

逃げるように兄は去りました。
私は、その後姿を複雑な気持ちで見送りました。
なんとまあ、あの兄は玄関の戸すら閉めずに。

(゚、゚トソン「さて、どうしましょうかねえ」

確固たる穏やかな日常の、
ひび割れをなぞるように生きる事は、
私の好むところではありません。





26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:22:58.58 ID:KhGCeCUl0



ああ、しかし。

ウツダ喫茶店は、確かにそこにありました。
思ったより、こじんまりとしたその店は、
あたたかな橙の光に満たされていました。

日はもう落ちてしまって、
残照が儚げな雲を薄紫に染め上げ、何ともいえない情感を漂わせておりました。
私はすっかり薄くなった影を連れて、その店の戸を開けました。

('A`)「……どうも」

愛想のない店主が、カウンターの中で私に小さく会釈をしました。
私は少し考えた末、一番出入り口に近い二人がけのテーブルに腰を下ろしました。
すぐ、店主とは対照的に、愛想の良さそうな器量の良いお嬢さんが、私の元へとやって来ました。

ζ(゚ー゚*ζ「来て、頂けたんですね」

(゚、゚トソン「はぁ……」

どうやら、この女給は兄と私の事を知っているようでした。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:25:24.19 ID:KhGCeCUl0

ζ(゚ー゚*ζ「今朝は、みっともない姿を見せてしまって、申し訳ありませんでした。
       私、朝がちょっと弱いもので……」

(゚、゚トソン「申し訳ありませんが、あなたが何を仰っているのか、私には理解が出来ません」

なるべく刺激しないよう、私は言いました。
女給は、私の言葉に傷ついたふうでもなく、意気揚々と言葉を続けました。

ζ(゚ー゚*ζ「私は、あなたに世話になった、あの犬なんです。
       あのおにぎりと南瓜、大変美味しゅう御座いました」

(゚、゚トソン「ああ。あなたも兄と同じ種類の人間ですか」

見ると、カウンターの店主が心配そうにこちらに視線を寄越しています。
目が合うと、うちの女給が失礼をして申し訳ありません、とでも言うように小さく頷きました。

ζ(゚ー゚*ζ「それで、あなたに、これをお返ししたくて」

女給は、私の言葉なぞ聞く必要はないとばかりに、話を進めます。
白いフリルのエプロンから、お手玉を二つ、取り出して、私に差し出しました。

(゚、゚;トソン「これは……」

眩暈が、しました。

私は、この光景を、前にも。




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:28:40.48 ID:KhGCeCUl0




私を産んで、私の母は死にました。
兄と父の多大な努力と、近所の人のお力添えにより、私は育てられました。

今でこそ、感謝を持って語る事の出来る子ども時代ですが、
子どもであった只中には、母の居ない不満と不安ばかりが先に立って、
つらく感じることも多かったように思います。

その、象徴のようなものが、兄が大事に保管していた、あのお手玉でした。
それは、母の手作りでした。
兄が生まれたときに、母が、兄のために作ってやったもので、
兄は、それをいつも机の中に大事に仕舞っておりました。

私は、それが羨ましくてたまらなかったのです。

子ども時分、兄は随分私に甘く、
おやつだって、おもちゃだって、
何だって私に分け与えてくださいました。

その兄が、唯一、私に下さらないものが、そのお手玉でした。







32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:31:42.11 ID:KhGCeCUl0




ζ(゚ー゚*ζ「覚えて、おいでですか?」

(゚、゚トソン「これは……しかし、あの時、なくしたはず……」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。これは、私が新しく作ったものです。
       あの時に床下に転がってったお手玉は、まだ床下にあると思います」

(゚、゚トソン「ああ……」

ζ(゚ー゚*ζ「有難う御座いました。
       このお手玉のおかげで、私は救われたのです」



兄が学校に通い始めて、
下女も留守にした時など、
幼い私がひとりきりで家に居る時間が増えました。
私は、あのお手玉を手に取りたい。
あれで、思う存分遊んでみたい。
そう思って。





34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:34:14.81 ID:KhGCeCUl0



ζ(゚ー゚*ζ「ああ、懐かしい。お嬢ちゃんの数え歌、私の子守唄だったんですよ
       本当に可愛らしい声で。ええ」

(゚、゚トソン「あなたが、何を言っているのか、理解しかねます」



家から誰もが出払った時、
私はいつもお手玉を兄の机からそっと取り出して、
隠れるように遊んでいたです。

ある日、お手玉遊びに夢中になっていた私は、
下女が裏の戸を開けて返ってくるその音に気が付きませんでした。
お嬢さん、都村お嬢さん、どこにいらっしゃいますよぅと、
下女の私を呼びかける声に飛び上がりました。

お手玉も、私の心の臓と同じように、高く高く舞い上がり。



ζ(゚ー゚*ζ「ひとつや、ひとよあければ、にぎやかで、にぎやかで、
       おかざりたてたる、まつかざり、まつかざり」

(゚、゚トソン「おやめになってください。お恥ずかしい」




38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:51:13.05 ID:KhGCeCUl0



そうして、幼い私には高い高いあの桐箪笥の上に。
兄の、大事なお手玉が、しゃり、しゃりと。



(゚、゚トソン「………」



ああ、お嬢さん、こっちの部屋にいらっしゃったんですねぇ。
全く、こちらは寒いでしょう。お蜜柑を頂いてまいりましたよ。
あっちで、私と一緒に食べましょうねぇ。
下女の、その言葉に幼い私が逆らえるはずもなく、
私は後ろ髪惹かれるような思いで、蜜柑を食べに行ったのです。




ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ、お受け取りになって下さいまし」




40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:56:24.19 ID:KhGCeCUl0



やっと自由になって、あのお手玉を取りに行けるようになったのは、
兄も父も帰って、すっかりお夕飯も済ませた後でした。
私は、精一杯見つからないように、忍び足であの部屋に向いました。



(゚、゚トソン「………」



そうして、あの箪笥の引き手の部分に足をかけて。
よいしょとばかり、よじ登ろうとした時、
私の体が、箪笥ごと、ゆっくり倒れていくのを感じました。



ζ(゚ー゚*ζ「随分長い間、お借りしてしまいました」



そうして、あの箪笥のために抉れた床板を父が剥がすと、
死んだ犬と生きた犬が出てきました。
だけれど、あのお手玉は。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 22:59:52.44 ID:KhGCeCUl0


(゚、゚トソン「兄から、何をお聞きになったのか存じませんが、
      私は、貴方様からそのお手玉を受け取る理由が御座いません。」

ζ(゚ー゚*ζ「しかし……」


ああ、お手玉を押し付けられるのは、これで二度目なのです。

それは、父の葬式の後でした。
まだ、20代の前半であった兄は、喪主という仕事に大層疲れているようでした。

その兄が、やっと客のいなくなった我が家の居間に落ち着いて、
畏まった様子で、袂から、そっと、それを取り出しました。

「都村。お前に、このお手玉を」

私は、その時にも、眩暈を覚えたのです。


(゚、゚トソン「どうして、皆……」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:02:07.59 ID:KhGCeCUl0


ああ、どうぞ、わたくし、認めてしまいましょう。
私にとって、お手玉は、紛れもない罪悪のしるしなのです。
その罪悪のしるしを、兄が、わけのわからぬ女給が、
さも親切のような顔をして、押し付けてくるのです。

お前の罪を忘れるなと言わんばかりに。

忘れようとした私を、責め苛むために。


ζ(゚ー゚*ζ「泣かないで下さいまし。」

(゚、゚トソン「泣いてなぞ……」


いいえ。確かに私の目の玉からは、
今にも頬を伝い降りようとする雫がありました。

どうにも、つらく、
つらく、感じられるのです。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:05:01.56 ID:KhGCeCUl0



ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ、私の話を聞いてください」

女給は、ついに私の向かいの椅子に腰を下ろしました。
お手玉を二つ、テーブルの上にポンポンと並べると、
全てを知っているような、慈愛に満ちた笑みを浮かべて、
ゆっくりと、語り始めました。


ζ(゚ー゚*ζ「私は、犬です。あの軒下におりました」

私は返事をしません。
頭の可哀想な女給の言葉に、私が返事をする必要がどうしてあるものですか。

もう疲れてしまったのです。
女給は、悠々と語ります。

ζ(゚ー゚*ζ「あの軒下には、二匹の生きた犬がおりました。
       一匹は母犬。一匹は子犬です。
       二匹とも、随分弱って、いつ死んでもおかしくない状態でありました」

ζ(゚ー゚*ζ「もう、お乳も出ないほどに衰弱した母犬は、
       上から聞こえてくる可愛らしいお嬢さんのかぞえうたを子守唄に、
       子犬が少しでも寒い思いをしないように、
       痩せて汚れた腹に子犬を匿って、
       その時が来るのを、恐れ、
       そして、その時が来るのを、待っていたのです」


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:07:35.10 ID:KhGCeCUl0

店主は、不躾にこちらを覗きこんでおります。
もし、私が少しでも彼に助けを求めるような合図を送ったら、
すぐにでも駆けつけて、どうもうちの女給が失礼を、などと言いながら、
この場を収めて下さるおつもりなのでしょう。

私は、すぐにでも、大声を出して、店主を呼びたかったのです。
否、別に大声でなくたっていい、ただ店主の目をじっと見て小さく頷くだけだって、
きっと店主は分かってくださるでしょう。

自分でも、どうしてそうしないのか、とんと見当がつかないのです。
しかし、私は黙って、気の毒な女給の与太話に、耳を傾けています。

ζ(゚ー゚*ζ「突然、強い光が差し込んだかと思うと、
       お手玉が二つ、湿った床下に転がって、
       直後、母犬の頭に、上から重い箪笥が打ち付けられました」





47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:10:03.02 ID:KhGCeCUl0





ζ(゚ー゚*ζ「そうして、母犬は死にましたが―――」




(゚、゚トソン「………」



そうか。
あの母犬は、
私が殺したのか。







48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:13:37.67 ID:KhGCeCUl0





目の前の女給は、
お手玉を再度、私に差し出しました。


ζ(゚ー゚*ζ「あなたのものです。お受け取りになって下さいまし」


(゚、゚トソン「………」

私は、ゆるゆるとそれを手に取りました。
柔らかい布の下に、小豆の感触が確かめられます。

ζ(゚ー゚*ζ「では、私はこれで。
       どうぞ、コーヒーを飲まれて下さいまし。
       うちの店のコーヒーは評判がよろしいのです。
       お代は私が」

(゚、゚トソン「はぁ……」

女給も兄も美味いと絶賛したコーヒーは、
私にとって、苦い色水でした。





49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:17:43.26 ID:KhGCeCUl0

( ^ω^)「ただいま都村。今日はお土産があるよ」

いつもより少し遅く、夫は、小さな包みを持って帰宅しました。

(゚、゚トソン「おかえりなさいまし。まあ、お土産ですか」

( ^ω^)「お前、昨日、甘いものを食べたがってたろう。
       大福を買ってきた」

(゚、゚トソン「有難う御座います。
     美芹にあげてください。
     それで、お夕飯が終わったら、一緒に頂きましょう」

夫はニコニコと嬉しそうにしています。
昨日、ほとんど愚痴のように漏らした些細な言葉を、
こんな風に拾って貰えるとは思いませんでした。

( ^ω^)「お?」

仏壇に大福を供えようとした夫は、
私が、同じように供えておいたお手玉に気付いたようでした。

( ^ω^)「これは?」

(゚、゚トソン「頂いたのです。折角だから、美芹にと思って」

それは、半分は本当で、半分は嘘でした。
私は、私の罪悪の証を、仏壇にあげることで少しでも。
少しでも、ゆるしてもらおうと、清めてもらおうと、思ったのです。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:21:08.01 ID:KhGCeCUl0

( ^ω^)「そうか。うん。そうか」

夫はうんうんと頷きました。

( ^ω^)「良かったなあ美芹。
       今日は玩具もお菓子も、たくさんだなあ」

(゚、゚トソン「ええ。喜んでくれると良いのですが」

( ^ω^)「喜んでるに決まってるさ。
      美芹は、良い子だもの」

(゚、゚トソン「ええ……」

( ^ω^)「ああ、それにしても良かったなあ。
      やっと、お手玉を貰えたなあ美芹」

(゚、゚トソン「え?」

( ^ω^)「だって、あの日買った豆は、全部煮てしまったろう」

(゚、゚トソン「ご存知で……いらしたのですか」

私が、腹の中の子のために、
お手玉を作ろうと思ったことを。





52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:23:37.79 ID:KhGCeCUl0

二年前のことでした。
私はその時臨月で、腹の中の子が、美芹が、生まれてくるのを今か今かと待ち侘びていました。

それは夫も同じ事で、仕事が終わるといつも飛んで帰って来ては、
私の腹を撫で摩りながら、ニコニコと嬉しそうに笑うのです。

早くおいで。
生まれておいで。
皆で、君を待っているよと。

しあわせでした。
昨日と違う明日が来るように、
あれほど願った日々は、
他にありませんでした。

それで、お手玉を、作ろうと思ったのです。
私が、母に貰えなかったお手玉を。

それで、家中から可愛らしい柄のはぎれを集めて、
重いお腹を抱えて、意気揚々と、小豆を買いに出かけました。

お手玉にするには、多すぎるほどの小豆を買って、
玄関に帰り着いた私の下腹部に、鈍い痛みが走りました。



死産でした。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:26:17.87 ID:KhGCeCUl0


―都村。都村。気がついたかい。良かった。君が無事で良かった。

―あなた。あの子が。私の、私たちの子が。

―もういい。もういいんだよ。大丈夫。大丈夫だ。

―だって。ごめんなさい。ごめんなさい。

―謝らなくていい。謝る必要なんかないんだ都村。辛かろう。苦しかろう。

―ああ、ああ、どうしてあの子が。私の子、私しか守れなかったのに。

―いい。大丈夫だから。あの子はこれが寿命だったんだ。決められた運命だったんだ。

―いやだ。いやですそんな。ああ、私だけ、私だけ生き残ってしまった。

―お願いだ。後生だから、そんな悲しい事を言わんでおくれ都村。君まで失ってしまったら、僕はどうしていいか分からない。





―だって!だって!私の母は、私を産んで逝ったのに!






55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:28:46.58 ID:KhGCeCUl0


( ^ω^)「おいで都村。夕飯にしよう」

いつまでも仏壇の前で呆けていた私を、現実へ引き戻すように夫が声をかけました。
夫は、いつだって私がふと心の中の冷たいぬかるみに足を取られそうになった時、そっと手を差し出して下さいます。

(゚、゚トソン「ああはい。今すぐに」

( ^ω^)「焦らないでいいよ。ゆっくりでいい」

(゚、゚トソン「はいはい」

( ^ω^)「ところで、それ」

(゚、゚トソン「どれですか?」

( ^ω^)「その、お手玉。どなたから頂いたんだい?
      僕も、お礼を言いたい」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:32:07.17 ID:KhGCeCUl0


(゚、゚トソン「それは……」

言いなずんだ私の次の言葉を、夫は黙って待っていて下さいます。

(゚、゚トソン「犬、です」

( ^ω^)「そうか、犬かあ」

(゚、゚トソン「ええ」

その、夫の、柔らかな笑顔を見て、
どうしてだか、
愛しくて、泣きたくなったのです。

殺してしまった、美芹、私の子。
殺してしまった、母親。

殺してしまった、あの母犬。






58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:35:04.30 ID:KhGCeCUl0

(゚、゚トソン「あの、あなた」

お盆から、味噌汁を卓袱台に移しながら、私は尋ねました。
夫は読んでいた新聞を脇に畳み、私の顔を見ます。

( ^ω^)「どうした?」

(゚、゚トソン「いつか、あなたが拾ってきた、こねこがいたでしょう。
     あの子、どんな名前でしたでしょう」

夫にとって、その質問は意外だったなようで、一瞬、驚いた様子を見せました。

( ^ω^)「綺麗な黒い毛並みだったから、クロと」

(゚、゚トソン「ああ……」

そうだ。そうだった。
それは、生き残ったあの子犬と、一緒の名前でした。

クロ。クロ。ごめんなさい。
あなたのことも、愛していたのよ。
あの、生き残った可愛い子犬のクロと、同じように。

クロ。クロ。ごめんなさい。
あなたの母は、私が殺してしまった。
あなたとは随分長い付き合いで、私なりに可愛がっていたつもりだけれど、
もしかしてあなたは、私の事を、恨んでいたのかしら。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:39:22.47 ID:KhGCeCUl0




あの日買った小豆は、しばらくの間台所に置いていたのですが、
いないあの子のために、お手玉を作る事は、酷くかなしい事に感じられて、
全て、大鍋に入れて、一緒くたに、煮てしまいました。

餅も、砂糖も、何も入れずに煮たその豆を、
二人きりで、食べました。

(゚、゚トソン「女の子……でしたねえ」

暗い赤紫に艶めく小豆を匙に載せて、私はぽつりと零しました。

( ^ω^)「ああ、女の子だった。君に似て、美人だった」

( 、 トソン「ああ……」

( ^ω^)「都村、都村。聞いて。聞いてくれるかい」

( 、 トソン「何でしょう」

( ^ω^)「勝手だが、僕はあの子に名前をつけたんだ」

( 、 トソン「名前……?あの子にですか?」


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:41:57.69 ID:KhGCeCUl0

( ^ω^)「ああ、美芹。美しい芹と書いて、美芹と」

私の記憶の、産婆の腕の中で冷たくってしまったあの子が、目を開きました。
今にも泣きそうな顔でこちらを見つめ、まるこい指を、伸ばしてきます。
私は、その子に、声をかけました。

( 、 トソン「美芹」

美芹は、にこりと笑いました。
それは、夫によく似た笑顔でした。


( 、 トソン「あぁ……」


だけど私は、
あなたの泣き声が、
聞きたかったの。


      

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:56:10.38 ID:KhGCeCUl0



      
( ^ω^)「あの子に名前をつけることは、君にとって、つらい事かもしれないが」

( ^ω^)「でも僕は、どうしても、どうしても」



( ^ω^)「あの子を、名前で呼んでやりたかったんだ」



君と一緒に、同じ名前で。


そう、夫は言いました。


あのとき以来、小豆のお汁粉を、私はひとつも食べていません。





69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 23:58:34.51 ID:KhGCeCUl0





次の日、夕刻に私はまた、あのカフェへと足を運びました。
理由は分かりません。
ただどうしてか、あの女給に、謝りたくなったのです。

ζ(゚ー゚*ζ「あら」

昨日、何か得体の知れないもののように感じられた女給は、
改めて相対すると、私より随分若い、ただの娘さんでした。
私が再び訪れた事を喜んでくれて、
店主と何言かを交わした後、また私の向いの椅子に腰を下ろしました。

ζ(゚ー゚*ζ「良かった。昨日帰るとき、顔色が悪かったから、心配していたのです」

(゚、゚トソン「こちらこそ、ろくに礼も言わず、申し訳ありませんでした」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、いいのです。そんなことはどうでも。
       それよりも、もしかして、私は随分と残酷なことを言ってしまったかと思って」

(゚、゚トソン「残酷?」

ζ(゚ー゚*ζ「あの母犬が死んだのは、あのお嬢さんの所為ではないんです。
       もしかしたら気にしていらっしゃるのかと思って」

私は、もう何を疑っていいかも分からずに、ただ女給の言葉を受け入れます。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:03:31.30 ID:h2HjSlPk0


ζ(゚ー゚*ζ「私にとっては、あまりにも当たり前の事だったから、すっかり気にせず喋ってしまいました。
       どうにも、無神経なのです。
       自分のしたい事ばかりが先に立ってしまって、誰かの気持ちを充分に考えられないのです。
       ええ、でも、どうぞ分かって下さいまし。デレはずっと、ずっとこの時を待っていたのです。」
       

(゚、゚トソン「待っていた、とは」

ζ(゚ー゚*ζ「やっと、あなたたちにお会いできたのです。
       お父様のことは、大変残念に思いますが、あの家と、あなたたち兄弟と、
       私が、どれだけお会いしたかったことか」

(゚、゚トソン「私には、あなたのことは、よくわかりません」

女給はうつむいて首をふりふり答えました。
西日に赤く染まった彼女のエプロンのフリルが揺れるのを、私はじっと見ていました。

ζ(゚ー゚*ζ「私は、お嬢さんの事を、知っておりますよ」

静かです。
今日は不思議と、店主の視線も気にはなりません。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:05:51.46 ID:h2HjSlPk0

(゚、゚トソン「あなたは、まるで、私とは違う世界に生きられているようです。
     おおよそ私の日常にはそぐわない事ばかり仰る」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。デレは、デレの魂の踏んだちょっとしたドジのために、すこうし、おかしいけれど、
       あとは、ずーっと、おんなじです。
       生まれる前から、おんなじなのです」

(゚、゚トソン「眩暈のするような、おはなしですね」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ。そうなんですお嬢さん。
       長い間、眩暈するまんまで、生きてきたのです。
       どうしても、私の思い違いだと、どこかで聞いたお話を、自分の事のように思っているだけだと、
       そうやって思うことが出来なくて、くらくらと、眩暈を抱えたまま、ここまで来たのです。
       お嬢さんに、お坊ちゃんに、ただ、お伝えするために。
       恩を、お返しするために」

女給は熱心に語ります。
その真っ赤な頬は、夕暮れの所為でしょうか。

(゚、゚トソン「何、を……」

ζ(゚ー゚*ζ「あの母犬は、一声鳴いて、その存在を認めて貰う事も出来ぬほど、弱っていたのです。
       あれは、母犬の寿命だったのです」


ああ、またです。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:08:49.90 ID:h2HjSlPk0



( 、 トソン「………」



ζ(゚ー゚*ζ「お優しいお嬢さん。
       あなたは、なんにも悪くないのです。
       これっぽっちだって、恨まれる事はないのです。
       あれらは、確かに、運命だったのです」


椿のように真っ赤に染まった頬。
栗色に煌いて、結うとこの上なく華やぐ、少し癖のある髪。
小枝のような手首。長い指。いかにも女らしい形の爪。


まるで、冗談のように美しい娘さんのそれらの言葉は、
私にとって、あまりにも美しすぎて、
まぶしく、疎ましくすら、感じられるのです。




76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:11:00.22 ID:h2HjSlPk0



(゚、゚トソン「運命だの。寿命だの。
     みな、生きている人間の、勝手なのではないですか…!」


自然、張り上げてしまった声は、私にとって、ほとんど悲鳴のようでした。


だけれど女給は、まるで凪いだ海のよう、たおやかに微笑んで、
確信を含んだ声で、言います。




ζ(゚ー゚*ζ「いいえ」

ζ(゚ー゚*ζ「だって、デレは、あなたの家の犬ですもの」





77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:14:10.57 ID:h2HjSlPk0



(゚、゚トソン「………」


( 、 トソン「ふ、ふふ……」

どうして、笑う以外出来るでしょう。

頭のおかしい女給の、頭のおかしい話が、どれだけ私に関係があると言うのでしょう。

ああ、しかし、不思議なものです。
何もかもがどうでもいいような、それでいて暖かいような、妙な気持ちになるのです。

ζ(゚ー゚*ζ「今朝のお煮しめも、大変美味しゅう御座いました。
       有難う御座います」


(;、;トソン「もう、わけがわかりません……。
       どうして、兄が関わると、いつもいつも……」




79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:17:55.36 ID:h2HjSlPk0


次から次から、涙がぽろぽろと零れてきます。
ああ、しかしちっとも嫌じゃありません。

('A`)「あの……」

ζ(゚ー゚*ζ「マスター!デレ、別に失礼はしてませんよう!」

見るに見かねたのでしょう。
店主が、盆を持って、こちらに来ていました。

('A`)「お前はもう、黙ってなさい。
    うちの女給が、失礼をしました。
    よろしければこれを。
    店には出してないものですが、
    苦いコーヒーよりは、いいかと思って」


そうして、店主がテーブルに置いたのは、
透き通る硝子の器に上品に盛り付けられた、
だけれども、白玉のたくさん入った、
お汁粉でした。



(;、;トソン「ああ……」




80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:20:23.12 ID:h2HjSlPk0


こんなことって。
こんなことって、あるでしょうか。

私、本当は、お汁粉、好きなんです。
大好きなんです。



どうして。
こんな事をされてしまったら、
運命を、信じてしまうではないですか。




ζ(゚ー゚*ζ「わあ、デレの分も!いいんですかマスター」

('A`)「そんなにしっかり座っておいて、お前だけ水ってわけにもいかないだろう。
    特別だからな」

ζ(゚ー゚*ζ「有難う御座いますマスター!」



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:22:50.80 ID:h2HjSlPk0

('A`)「全く……。
   奥さん、大丈夫ですか?」

(;、;トソン「有難う御座います……。有難う……」

('A`)「いいんです。何も、気にすることはありません。何も。
    どうぞ、これからもご贔屓に」

何も。
気にすることはありません。
何も。


美芹。美芹。
お母さんのこと、ゆるしてくれるの?



ζ(゚ー゚*ζ「お嬢さん」

(;、;トソン「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「デレはね。あなたのことが、大好きです」

私もです。
可愛らしいお方。

あなたがいて良かった。
あなたが、お手玉をくれて良かった。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/21(日) 00:25:57.91 ID:h2HjSlPk0


小豆を買って帰りましょう。
帰ったら、今度はちゃんとしたお汁粉を作って、
あの人に、あの優しい夫に食べさしてあげましょう。

私は、スプーンで一匙、お汁粉を口に運びました。
その甘さに、何もかもが穏やかに解けていくように感じられて、
また新しい涙が零れました。

店主がカウンターに戻って、どうやら今度はコーヒーを落としているようでした。
日が長くなってきた、春の夕刻時に、
店の内はただ、その優しい水音に包まれておりました。






元スレ:( ФωФ)ささやかな怪異を含む静かな群像劇のようですζ(゚ー゚*ζ(リンク先( ^ω^)ブーン系小説とか読み物とかの倉庫様)

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