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( ^ω^)彼らの終わりを語るようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 09:44:36.91 ID:jCu38ek10






 僕の社員寮には、少しかわった先輩が何人か居た。
 その先輩たちの話を、すこしだけきいてくれないかな。
 会社を辞めて、思い返してみれば、何だか面白い人達だった気がするんだ。






                                                          ( ^ω^)彼らの終わりを語るようです











3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 09:47:24.27 ID:jCu38ek10















 蝉時雨ががちゃがちゃと五月蠅い。
 まとわりつくような暑さに、私はひとつため息を吐いた。


('A`)「今年も、この季節がやってきたのか」


 八月二十二日。
 午後二時十八分。
 暦では秋だと言うのに、夏の盛りとも言うべき暑さが、脳天に降り注いでいた。






4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 09:50:18.02 ID:jCu38ek10





 夏の農村は過疎化が進み、暑さばかりが募っている。
 幸いな事にこの村の若者達は愛郷心が強く、村に留まって農業に従事する者が多いらしいが、それでも少子化に伴う過疎は免れない。
 さらさらと揺れて緑で目を刺す稲田が視界の端に写る。
 この前の雨続きと大風で稲が倒れて大変だと誰かが教えてくれた。


('A`)「しかし、暑い」


 盆地は熱が溜まりやすいのだろうか。
 すぐ近くの活火山の影響かもしれない。
 新聞紙にくるまれた花達も萎れてしまうのではないかと心配に思った。









6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 09:54:21.39 ID:jCu38ek10










              お試し冊子

                          番外:他には要らないようです













8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 09:57:42.51 ID:jCu38ek10












 長岡クールは既婚者で、その昔に旦那を亡くしている未亡人である。
 薄幸の美人と言うには凛とし過ぎた感のある彼女に、私は恋をしていた。
 四十を前にした良い大人の男が言うにも恥ずかしい、けれどこの感情は間違いなく恋であった。

 ただ、その恋には決して越えられない壁がある。

 死した旦那などは問題では無い。彼女が私よりも年上だと言うのも何でもない。
 ただ彼女は今も変わりなく旦那を愛しているのだ。

 八月二十一日に死んだ旦那を、今も変わらずに、恋する乙女のように。





9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:00:58.98 ID:jCu38ek10









 ゆらゆらと逃げ水が道の先に揺れている。

 八月二十二日。私は毎年此処でこうして立っているのが習慣なのだ。
 じりじりと照りつける太陽にどうもくしながら、腕時計に目を落とす。

 暑さにそう強く無い私のこの習慣。
 かちりかちりと小刻みに揺れる秒針が四を通り過ぎたとき、角の向こうから白いワンピースに日傘の彼女が現れるから、である。


川 ゚ -゚)「ああ、鬱田先生、こんにちわ」

('A`)「……長岡さん、こんにちわ」


 私はこの小さな村で開業医をして生計を立てている。
 村の何処へ行ってもせんせい、せんせいと呼ばれることに慣れたのも随分昔のことだ。
 彼女も私の事を先生、と呼んでいた。




10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:03:31.20 ID:jCu38ek10



川 ゚ -゚)「聞いて下さい、先生」


 彼女は珍しく声を弾ませて私に呼びかける。
 先生、と鳴る、鈴の音のようだと思った。


('A`)「はい、何ですか」

川 ゚ -゚)「今年も、主人が来たんです。先生の所へは訪れましたか?」


 白いワンピースに、白い日傘。
 白いサンダルとめかし込んだ彼女の行く先は墓参りだと、私は知っている。
 毎年決まって八月二十一日、彼女の元に現れる旦那の墓参りに。


('A`)「……お盆はもう過ぎたんですがねぇ」

川 ゚ -゚)「ああ、その口振りでは、行かなかったんですね」

('A`)「まぁ、奥さんのところへ行ったというなら、妥当ですよ。大方堪能して、帰っちまったんでしょう」




13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:08:04.00 ID:jCu38ek10













  _
( ゚∀゚)『先生、またやっちまったよ』

('A`)『また怪我ですか。どんだけそそっかしいだよ、奥さん泣くぞ』
  _
( ゚∀゚)『今更慣れちまって泣きゃァしねぇよ。それよか痛いから早く手当てしてくれ』

('A`)『お前が怪我しなくなりゃ、もっと楽が出来るんだろうなぁ。奥さんも不憫な』
  _
( ゚∀゚)『じゃあ診察代負けてくれよ』

('A`)『頭まで打ったのか? もう手遅れなんじゃないか』





15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:10:23.59 ID:jCu38ek10



 生前、彼女の旦那の長岡と私は中々に仲の良い付き合いをしていた。
 そそっかしく、良くけがをした長岡は私の診療所に訪れた。同年代と言うのと、長岡の人好きする性質に惹かれたのだ。
 一人身の夕食は寂しかろ、と誘われるままに呼ばれた家に居たのが、クールさんだった。

 そして私は、凛とした空気を纏いほほえむ彼女に、恋をした。

  _
( ゚∀゚)『先生、これがうちのおくさんだぜ』

川 ゚ -゚)『どうも、宜しく』

('A`)『あ……はぁ……』


 そうして幸せそうにクールさんの肩を抱く長岡と、はにかむような不器用な笑みを浮かべるクールさんをみて、私は入り込めないと悟ったのだった。
 思えば一度は一瞬にして砕けた恋心であった。
 悔しいことに、私は長岡とクールさんの仲を壊す気には到底なれそうも無かったのだ。

 彼女は只管幸せそうだった。長岡が隣にいて、それで初めて彼女足り得るような、其れほどに幸せそうだったのだ。
 クールさんと言う女性は長岡の隣にいて完成していた。
 其れを奪って自分の隣に置いたところで、どうなると言うのだろう。





16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:13:48.78 ID:jCu38ek10












川 ゚ -゚)「来年は、先生の所へも行くように言って聞かせよう」


 だが、長岡は死んでしまった。
 日頃のそそっかしさが祟ったのか、アンテナの具合が悪いと屋根に登り、転げ落ちて頭部を強打した。
 そうして私は傷一つなく横たわる長岡の死亡届けに判を押したのだ。


('A`)「勘弁して下さい、幽霊なんて滅法苦手なんです」




17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:17:16.33 ID:jCu38ek10



 そうして、『それ』が起きたのは長岡が死んだ一回忌だった。
 去年の今日に旦那が死んだのだと泣き伏せるクールさんの枕元に、長岡がたったのだと言う。
 それから毎年現れては、咽び泣くクールさんの肩を抱き、励まし慰め笑うのだと。


川 ゚ -゚)「うむ、それなら尚更会わせてやりたいな。きっと幽霊も悪くないと思いますよ」

('A`)「そうですかねぇ」

川 ゚ -゚)「だってうちの旦那ですから」

('A`)「確かに、長岡の幽霊だってんなら、怖か無いですけど」


 実の所、私はその話しをこれっぽちも信じてはいないのだ。
 非科学的な非現実的なとまで罵る気は無いが、ただ気に食わなくて信じたくない。
 あの年からまるで彼女はその日の為だけに生きているのだ。

 長岡の現れるその夜、その日の為にだけ。

 それが、たまらなく気に食わない。
 長岡は死してなおこのひとを離そうとはしないのだ。奴に悪気は無かれども。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:21:30.05 ID:jCu38ek10









川 ゚ -゚)「所で、先生はどちらへ行かれるのですか?」


 クールさんの問いに、持っていた新聞紙に包まれた花束を指し示した。
 新聞紙に包まれたそれをみて、クールさんの表情が翳る。


('A`)「……墓地の方へ」

川 ゚ -゚)「ああ……」





20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:25:32.54 ID:jCu38ek10



 私は医者だ。
 この村で開業してから、多くの者を看取ってきた。
 長岡もその一人である。

 本当はビジネスライクに徹するべきなのだと分かっては居る。
 居るが、まだ割り切れそうも無いのだ。
 この人の少ない村で、知り合いのような人々でさえなければ、このような感傷も無いだろうと思う。


川 ゚ -゚)「それでは、一緒に行きますか?」

('A`)「はい、そうさせて頂きます」


 もう一つ先の墓地の角を曲がるまでの、三十メートル。
 私が彼女と歩むことの出来る距離はそれだけだ。





22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:28:44.77 ID:jCu38ek10



川 ゚ -゚)「なぁ、先生、」

('A`)「何ですか?」


 毎年決まった会話をして、毎年同じ道を歩いて。
 毎年隣に並ぶのに、手が触れ合う事など決して無い。
 毎年毎年、私は彼女に恋をしているのに、毎年毎年、彼女は長岡に焦がれている。


 蝉時雨が五月蠅い。
 死にかけの命を叫ぶようだ。
 不意に、今彼女を抱き締めて好きだと叫んだら、一体彼女はなんと言うのだろう、と思った。

 そんなことにも構わず、彼女は言葉を続ける。


 蝉時雨が五月蝿い。
 今年の夏も終わりだと告げるように。
 毎年毎年この日の蝉は一段と五月蝿いのだ。





23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:31:33.57 ID:jCu38ek10









川 ゚ -゚)「私はそろそろ、」





 その所為で、私はこの言葉の続きを聞けた試しが一度も無い。










24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:33:53.41 ID:jCu38ek10









('A`)「……」

('A`)「……また、この季節がきましたね」



 瞬きをすると、隣には誰も居ない。




26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:37:19.85 ID:jCu38ek10









 水道の上にいくつもぶら下がった薬缶を一つ取り、蛇口を捻って水を入れる。
 どの墓にも新しい花が供えられている。だいだい色のほおづきが風に揺れていた。
 通い慣れた砂利の通路を歩き、まだ真新しい墓の前に立ち止まる。

 長岡家の墓は立派に鎮座していた。


('A`)「よぉ、長岡。奥さんとは仲良くやってるか」


 薬缶を端に置き、新聞紙を開いて花を供え、水を注いだ。
 近くの墓を掃除した人が引いていってくれたのか、草はあまり生えていない。
 竹藪の近くの墓場は涼しく、けれども蝉の声は喧しい。




27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:42:48.36 ID:jCu38ek10


 咽喉が貼り付くように、水を求めていた。
 早く診療所へ帰って、水の一杯や二杯でも煽りたい。


('A`)「さっき奥さんが帰ってきたろ。墓ン中で夫婦団欒、宜しくやってるか」


 夫婦揃って殆ど身よりの無かった二人を参る人間は少ないらしい。乾いた墓石に水をかけた。
 蝉時雨が五月蠅い。
 ぴかぴかに磨かれたとある墓石が太陽を反射して、私の目を刺した。


( ・∀・)「先生、こんにちわ」


 それに瞠目していると、背後から声が飛んでくる。

 数年前に進学の為に村を出た青年だった。
 お盆なので、少し外して帰ってきたんです、とほほえむ。
 それから片眉をあげて、私の前の墓石を認めた。どちらともなく息を吐き、肩を下ろす。




29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:45:38.65 ID:jCu38ek10



( ・∀・)「長岡のおくさん、お元気でしたか」

('A`)「ええ、はい」

( ・∀・)「……また今年もこの季節が来たんですねぇ」

('A`)「お盆ですから」


 長岡クールが死んだのは、その旦那が死んだ三年後だった。
 墓参りに向かう途中に車にひかれた彼女の死亡届けに、私はやはり判を押したのだ。
 そして、彼女は毎年八月二十二日に現れるようになった。




31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:49:14.93 ID:jCu38ek10



('A`)「まだ、気づいていないんでしょう、自分の死んだという事に」

( ・∀・)「そうかも、しれませんね」

('A`)「ずっと若いままなんです、彼女は」

( ・∀・)「……」

('A`)「もう、五年も経つのに」


 青年はそうですね、と呟き、ぶら下げた二つの薬缶の水を自分の家の墓にかけた。
 二代分の墓に丹念に水を流していく。

 ふと、まだ彼が小学生だった頃、庭木から落ちたと泣きながら診療所に駆け込んできたのを思い出した。
 その事をふと口に出すと、青年は眉を寄せて私を軽く睨む。
 軽く頬を引き攣らせたその様子に、何処となく好感が持てた。




32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:52:37.55 ID:jCu38ek10



( ・∀・)「恥ずかしい話しなんですから、思い出させないで下さいよ。もう何年前の話なんですから」

('A`)「いえ、良くもあんなに見事に骨を折れたものだと、良く覚えているんです」

( ・∀・)「それは褒めているんですか」

('A`)「どうでしょう……確か木登り対決をしたんでしたよね。相手だった彼は元気ですか」

( ・∀・)「ギコはこの村に住んでいますよ。先生の方が良く知っているでしょう」

('A`)「……そうですね」


 蝉時雨は止まなかった。
 汗がじわりと額に浮かんでいる。
 暑くてかないませんね、と言うと家へ来ますかと誘われた。


( ・∀・)「出るときに母が西瓜を切っていたので、今から行けば先生もありつけますよ」

('A`)「それは、」




34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:56:18.36 ID:jCu38ek10



 大変魅力的な提案に思えた。私は何より、水分が足りなくて仕様が無かったのだ。
 医師として人としての衛生観念さえ無ければ、薬缶に入っている水を飲んでしまいたかった。
 そこに西瓜と言う誘惑だ。言葉を聞いただけで果肉に噛みつき、水が滴るのを想像できる。

 が、


('A`)「すみません、実は今日は、三時から診察をするんですよ」

( ・∀・)「あれ、それは残念です」

('A`)「有り難い申し出ですが、」

( ・∀・)「ああいえ、気になさらないで下さい。後で持っていきますよ」

('A`)「え、あ、お願いします」

( ・∀・)「……先生、結構欲望に忠実ですね……」

('A`)「はい?」

( ・∀・)「いえいえ、それじゃあ」




36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 10:59:39.58 ID:jCu38ek10



 手を振り、去っていく青年を見送る。

 蝉時雨が五月蠅い。
 蝉時雨が五月蝿い。
 思考を食い破っていくように、意識を塗りつぶしていくように。
 
 熱中症かもしれない、急いで帰ろう、と私は踵を返した。
 そうして、一歩を踏み出





37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:02:53.45 ID:jCu38ek10

















( ・∀・)「母さん、ただいま」

('、`*川「お帰りー、ギコくん来てるわよ」

( ・∀・)「えっ、何で?」

('、`*川「何でって、あんた薄情者ねぇ。もっと人間関係を大切にしないと結婚も出来ないわよう」

( ・∀・)「何だこの言われよう……そこまで言うかよ」





40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:06:02.34 ID:jCu38ek10



 モララーが顔をひきつらせながら座敷にあがると、我が物顔で腰を下ろす幼馴染みがいた。
 簡単な挨拶を交わし、机の一辺に肘を突くようにして座る。
 机の上には、真っ赤な西瓜と塩、それから何故か暖かい緑茶が置かれていた。ミスマッチ、とモララーは眉を寄せる。


(,,゚Д゚)「よー、一年ぶり」

( ・∀・)「おう、久しぶりー」

(,,゚Д゚)「元気そうだな、良かった」

( ・∀・)「お前は俺のお父さんかって」


 この幼馴染みは毎年、仏壇に参るのを口実にモララーの帰ってくる頃に訪ねてくるのだ。
 一応遠く、かなり浅くではあるが血は繋がっているので、おかしくは無いのだが。

 扇風機がかちかちと首を振っている。
 ブラウン管のテレビは、遠くであったらしい地震の速報を流していた。




42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:09:44.60 ID:jCu38ek10



(,,゚Д゚)「お前さぁ、正月とかにも帰って来いよ」

( ・∀・)「正月は色々と稼ぎ時なんだよ。本当はお盆だって働いてたいんだからな」

(,,゚Д゚)「バイト……いや、勉強しろよ」

( ・∀・)「でも働かないと食っていけないだろ」

('、`*川「何よう、仕送りしてやってるのに」

( ・∀・)「……」


 襖から顔を出した母親は苦い視線を向ける。
 そんなことはどうでも良いよ、とモララーはその視線から目を逸らした。
 蝉時雨がじりじりと降っている。





43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:12:18.05 ID:jCu38ek10



( ・∀・)「そう言えば、さっき墓場で鬱田先生と会ったよ」

(,,゚Д゚)「……あー、長岡さんってもう、七年だっけ? 十回忌か?」


 幼馴染みはひひ、と下卑た笑みを浮かべる。
 モララーは皿に載った西瓜に手を伸ばそうとして、やめた。
 ぶぅん、と巨大な虫の羽音のような、扇風機の稼動音がする。


(,,゚Д゚)「鬱田先生も一途だな、もう大層昔に死んだ人に」

( ・∀・)「大層ったって高々七年かそこらだろ」

(,,゚Д゚)「七年もあったら小学生が大学生になるぜ」

( ・∀・)「……まぁ確かに、大学生は社会人になれるな」

(,,゚Д゚)「俺だったら飽きるけどなぁ、一年に一度の逢瀬だなんて」

( ・∀・)「……俺は飽きないけどね」

(,,゚Д゚)「ん?」




44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:17:01.25 ID:jCu38ek10



 一年に一回でも、とテレビから視線を移さないままにモララーは続ける。
 俺なら飽きないよ、と。


( ・∀・)「死んだ人に会えるなんて、奇跡だろ? 去年はその奇跡があったけど、今年はもしかしたら無いかもしれない。今年は会っても、来年は?」

(,,゚Д゚)「……会えないかもってか」

( ・∀・)「そう、だからこそ余計に縋るんだろ。年に一度しか会えないから、って。行かなきゃ、次はもう会えないかもしれないからさ」

(,,゚Д゚)「それは、分からないでも無いけど」

( ・∀・)「大体、鬱田先生の中では何時まで経っても五年目のままだ。あの人は、あの日だけに生きているんだから」


 モララーは梁の出た天井を見上げる。
 不気味な染みも、振り子を揺すっている時計も、何一つ変わっては居ない。
 がちゃがちゃと五月蠅い蝉時雨も、只管に騒ぎ続けている。





46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:20:29.89 ID:jCu38ek10



(,,゚Д゚)「この村では時々あるけど、本当はあんまり無いんだよなぁ」


 幼馴染みは、自分の前にあった西瓜を一口かじって呟いた。


(,,゚Д゚)「外では、死んだ人はきちんと自分が死んだって、気づけるんだ」

( ・∀・)「まぁ、大概はそうなんじゃないの」


 この村の死人は、時々自分の死に気付かない。
 そうして、気付かない死人は、一日のためだけに生き続ける。
 自分が死んだと気付くまで。







47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:23:58.23 ID:jCu38ek10






(,,゚Д゚)「……俺は時々思うんだよ」

( ・∀・)「ん?」

(,,゚Д゚)「お前が実は死んでて、この日にだけ生きてるんじゃないかって。内藤さんみたいに、鬱田先生みたいに」


 かたり、とモララーの指の先が畳に落ちる音がする。
 テレビの音声と、蝉の声と、扇風機の稼動音だけが響き渡った。



( ・∀・)「なんだよ、それ。失礼、だな」

(,,゚Д゚)「いや、冗談だけどさ」

( ・∀・)「俺は生きてるっつーの」

(,,゚Д゚)「……まぁ、なんだっていいや、年に一回は会える訳だし」

( ・∀・)「なんだよお前」




48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:26:48.04 ID:jCu38ek10



 蝉は今の命と泣き続ける。
 壁に掛かった時計が四つ鐘を打って、そういえば診療所に西瓜を持っていくと言ったな、とモララーは思った。
 随分昔の夏もそうだった。

 ギコと話し込み、忘れていたと慌てて西瓜をぶら下げて行ったのだ。
 その時、彼は、先生は既に息を引き取っていた。
 急性心不全。いわゆる変死だが、医者の不養生と片付けられて死亡届けに判が押された。

 彼の墓はこの村には無い。
 元々外から来ていた人間なのだから、遺体は当たり前のように家族が引き取ったのだろう。


( ・∀・)「ロマンス、なのかなぁ」

(,,゚Д゚)「ロマンスなんじゃねぇの」

( ・∀・)「ホラーなロマンスだ」


 死人同士の年一度の逢瀬。
 本人たちに自覚は無いが、丸で七夕の織り姫彦星のようだと思わなくもない。
 彼らは八月二十一日と、八月二十二日の為だけに生きているのだ。




49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:30:24.15 ID:jCu38ek10



(,,゚Д゚)「俺も死んだらああなるのかと思うと、なんだか嫌だなぁ」


 ギコがぼやくように呟く。
 それは彼らへの侮蔑というより、未練がましくこの世に遺りたがる自分への叱責のようだった。
 モララーはひょいと片眉をあげる。


( ・∀・)「なったら俺としぃちゃんで会いにいってやるよ」

(,,゚Д゚)「しぃだけで良いっての」

( ・∀・)「そういや、お前等の式って来年の春だっけ」

(,,゚Д゚)「ん、教えたか?」


 首を傾げる幼馴染にお前が言ったんだろうがとモララーは笑う。
 去年は、まだ結婚式の日程なんて決まっていなかったけど、とギコはさらに首をかしげた。
 まぁ、と顎を掻く。




52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:34:45.67 ID:jCu38ek10



(,,゚Д゚)「そんときくらいは帰ってこいよ、絶対帰れよ、招待状出すからな」

( ・∀・)「……あー、花嫁かっさらいイベントとかしたいなぁ」

(,,゚Д゚)「ええっ」

( ・∀・)「いや、しないけど。やっぱあの神社で神前式なのか? ウェディングしないの」

(,,゚Д゚)「俺はウェディングが良かったんだけど、しぃがなぁ」


 ウェディングドレス似合いそうなのにな、と呟くとギコはがっくりと項垂れてぶつぶつと文句を始める。
 絶対似合うのに、といった何となく微笑ましい呟き。

 小さな頃から仲の良かった彼らは、モララーが村を出る頃には時代外れの婚約を結んでいた。
 産まれてからの付き合いで、此処まで初心を続けられるのはあるいみ奇跡だと、モララーは思う。


( ・∀・)「白無垢か……みたかったなぁ、結婚式。何だか俺は娘を嫁に出す親父みたいな気分だよ」

(,,゚Д゚)「だから見に来いって言ってんだろ」




53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:38:24.87 ID:jCu38ek10


 その口じゃあ来ない気かよ、と目を釣り上げる幼馴染みに、モララーはひひっとひきつった笑みを向けた。
 蝉時雨がひりひりと降り注いでいる。
 ポケットから取り出したバスの時刻表を眺め、モララーが畳に寝転がった。

 いかにも今思いついたかのように「そうだ」と口の端を釣り上げる。


( ・∀・)「俺、今日の六時には村でるから、二人で見送りしてよ」

(,,゚Д゚)「六時? 早くないか、朝来たばっかだろ?」

( ・∀・)「社会人ってのは忙しいんだよ」

(,,゚Д゚)「……? まぁ、分かったけど……」


 腑に落ちない表情で、けれど幼馴染みは頷いた。







54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:41:18.92 ID:jCu38ek10






(*゚ー゚)「モララー、もう帰るの? 私全然話して無いんだけど。モナーにも会ってないでしょ」

( ・∀・)「んー、ちょっと用事があってさ。モナーには、宜しく言っておいてよ」


 投げやりな言いぐさが引っかかったのか、しぃが眉を寄せる。
 ひきつるような日暮の声がする。村の外れの国道に繋がる道は舗装もされていなかった。
 まだ日中の熱気はじっとりと三人の首筋にまとわりついている。


(*゚ー゚)「もっとゆっくりしてけば良いのに」

( ・∀・)「……そうだなぁ、もっとゆっくりしてけば良かった」


 その物言いに、ギコとしぃは顔を見合わせてから眉を寄せる。
 訝しげに自分を伺う幼馴染み達に微笑みかけ、モララーは山に隠れかけた太陽を仰いでいた。
 東側がうっすらと青紫に染まりだした空に、鈴虫の鳴き声が響く。




56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:45:11.59 ID:jCu38ek10


( ・∀・)「じゃあ、来年も来るから」

(,,゚Д゚)「いや、だから正月にも帰ってこいって」

( ・∀・)「帰れたら帰ってるっての」

(*゚ー゚)「あっ、あのね、来年の春に私たち式挙げるから、モララーも来てね!」

( ・∀・)「んー」


 モララーは既に幾度聞いただろうその言葉に頷いた。
 忘れたら駄目だよ、招待状送るからね、としぃは恋人と同じように念を押す。
 ぼってりとした太陽が山へと落ちていった。




59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:48:18.28 ID:jCu38ek10



( ・∀・)「……それじゃあ、そろそろ行くよ」


 モララーの顔は、山から差し込む逆光で見えない。
 暗く翳っている。


(*゚ー゚)「ん、じゃあね」

( ・∀・)「うん、またね」


 そうしてモララーは両手をポケットに突っ込み、踵を翻して歩き出す。
 その後ろ姿を見ていたギコが、大きく息を吸った。
 日暮が鳴いている。鈴虫も鳴いている。坂道を上っていくモララーの背中は、驚くほど早く小さくなっていく。




60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:50:41.85 ID:jCu38ek10



(,,゚Д゚)「ゴルァ! モララー!」

( ・∀・)「あー?」

(,,゚Д゚)「来年も、来いよ! 絶対!」


( ・∀・)「分かってるよ!」





 モララーは振り返らないまま坂道を上りきって、











63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:54:03.20 ID:jCu38ek10

























( ・∀・)「言われなくても、帰ってくるよ」


 振り返ると、もうそこには何も無い。
 山際から差し込んでいた夕日は、一筋残していた光の帯をかき消した。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 11:57:41.85 ID:jCu38ek10


















 社員寮の裏手の庭、いくつも用意された鉄板に肉や野菜が焼かれている。
 毎年恒例、遅めのお盆祭り、らしい。


( ・∀・)「たっだいまー」

(=゚ω゚)ノ「おー、おかえりだょぅ!」


 宴もたけなわといったところで、モララーさんはひょっこりと現れた。
 昨日の夜に出発して、てっきり一泊くらいはしてくると思っていた僕は思わず面食らってしまった。




69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 12:01:05.73 ID:jCu38ek10



( ・∀・)「よーよー」

ζ(゚ー゚*ζ「先輩、お帰りなさーい」


 社員寮で僕の隣の部屋に住むモララーさんは、正月にも家に帰らない。
 仕事人間なのかと思いきや、そうでも無く、寧ろあまり真面目で無い方なのだが。

 僕の隣に腰を下ろして、モララーさんは「取り合えず肉」と僕の皿から肉を奪った。
 まだ鉄板では肉野菜がけたたましい音を立てて焼けているのもあって、どうこう言う気は起きない。


( ^ω^)「実家、どうでしたお」

( ・∀・)「一年前と全く一緒でした。幼馴染みが結婚するって言ってた。後幽霊も見た」


 矢継ぎ早に言われた報告の中に、二つの意味で反応に困る発言があった気がするが、聞き流す。
 先輩は冗談は好かない性質の癖に、変なところでふざけ癖があるのだ。




71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 12:04:01.50 ID:jCu38ek10



( ^ω^)「泊まってこなかったんですか?」

( ・∀・)「泊まってこれるかよ、帰ってこれなくなっちゃうだろ」

( ^ω^)「……? 先輩の実家って何処なんですかお?」

( ・∀・)「ん、」


 もぐもぐと豚トロをかみしめる。長旅の疲れがちっとも見えない健啖っぷりだった。
 それからぽろりと地名を呟く。最後に村が付く辺り、結構な田舎のようだ。
 都会育ちといった印象を受けるモララーさんだが、そうでもないらしい。

 効くところによると、県境に位置する小さな村らしい。
 県境、ならば一泊くらいしても明日には帰れたのではないだろうか。


(*゚∀゚)「あ、そこ何か聞いたことあるぞ!」


 ひょこりと僕の頭の後ろから顔を出したつーさんが声を上げた。
 モララーさんは気だるげな目つきでそれを見遣る。




72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 12:05:24.69 ID:jCu38ek10



( ^ω^)「お?」

(*゚∀゚)「何かだいぶ前に流行って無かったか、テレビで言ってた気がする」

( ・∀・)「……あー、うん。十年くらい前にやったら騒いだから、知ってんじゃないの」


 それきり食べる事に集中する事にしたのか、がつがつと肉にかぶりつきだした。
 缶ビールを片手にしたつーさんが、何で聞いたんだったか、とうんうん唸りだすのに構いもしない。
 僕も唸ったほうが良いのか、悩みながらも割箸を鉄板にのばす。




73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 12:06:45.76 ID:jCu38ek10




(*゚∀゚)「あっ、思い出した!」

( ^ω^)「お? 何ですお?」

( ・∀・)「……」






(*゚∀゚)「確か、夜中に火山が噴火して埋もれ、て……」






 鉄板の熱気で開いていた毛穴がぞわりと縮まる音が聞こえた気がした。
 僕とつーさんは同時にモララーさんの方を見る。
 モララーさんは変わらずもりもりと焼き肉を頬張っていた。








76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 12:08:08.29 ID:jCu38ek10










              お試し冊子

                          番外:他には要らないようです

                                      終り

















77 名前: ◆sT..geuM6KXG :2009/08/22(土) 12:09:33.07 ID:jCu38ek10


終わりました。
朝っぱらからしえんありがとうございました。
良く考えたら朝ごはん食べてませんでした。食べてきます




>8の一部を勝手ながら修正させていただきました(ブログ中の人)
[ 2010/09/24 00:37 ] スレ立て短編 | TB(0) | CM(0)

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