スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

('A`)はキノコのようです 後編

457 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:42:48 ID:yhYALa.kO

 ツン。
 可愛い。
 可哀想。

 ツン。
 誰かに笑顔など見せたら駄目だ。
 誰かと仲良くするのも駄目だ。

 そんなことをするなら。
 みんな、君の周りから消してやる。



 カッターの刃が、きらりと光った。



458 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:43:59 ID:yhYALa.kO





('A`)はキノコのようです

          【ストーカーと借金取りとドクササコ】→後編




.

460 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:45:21 ID:yhYALa.kO

ξ゚⊿゚)ξ「つまんない部屋ですけど……」

('A`)「あー、女子高生の部屋にしちゃ殺風景だな」

 アパートの一室。
 ツンの部屋に通されたドクオは、躊躇もなく言い放った。
 ヒッキーがドクオに咎めるような目を向ける。

(;-_-)「先生……」

('A`)「何だよ。別に、殺風景なのが悪いなんて言ってねえだろ」

ξ゚⊿゚)ξ「いいよ小森君。本当のことだし。
      本当に物がないから、友達だって、ペニサスしか呼んだことないくらい」

('A`)「ペニサス……ああ、生徒会の」

 ──ドクオは内藤について知るために、ツンの家を訪れることを考えた。
 彼が借金取りと同等、あるいはそれ以上に危険な存在だった場合、
 内藤もまとめてツンの周りから排除しなければならないからだ。

 なるべくツンが警戒しないようにクラスメートのヒッキーを連れて行こうと決めていたのだが、
 結局、校内で鉢合わせたときに直接交渉して、ツンと一緒にここまで来たので
 ヒッキーは必要なかったかもしれない。

461 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:46:34 ID:yhYALa.kO

ξ゚⊿゚)ξ「それで……あの、これです。手紙……」

 ドクオ達を部屋の真ん中に座らせると、ツンは机の引き出しから紙袋を取った。
 袋を倒し、手紙を全て出す。

 手紙の山。
 白やら水色やら緑やらピンクやら、カラフルすぎて目に痛い。

 全て、ツンがストーカーからもらった手紙だという。

(;-_-)「うわあ、すごい量……」

('A`)「引くな、これは」

ξ;゚⊿゚)ξ「……あの」

('A`)「ん?」

ξ;゚⊿゚)ξ「何で、その、ストーカーのこと、先生が知ってるんですか?」

 ツンが、怯えたように訊ねた。
 授業以外で会ったことのない教師に、いきなりストーカーのことを
 言われたのだから、そりゃあ恐いだろう。

462 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:48:08 ID:yhYALa.kO

('A`)「んー……」

 パステルカラーの、水玉模様の封筒を手に取る。
 書かれている文字は全て印刷。

 ドクオは手紙の中身を流し読みし、その便箋をひらひらと揺らした。

('A`)「この間、ストーカー当人が俺に依頼してきたんだよ。
    高岡を助けてほしいってな」

ξ゚⊿゚)ξ「──え……」

('A`)「高岡が借金取りに狙われてる、って。
    そのときに、自分のストーカー行為も告白してた。
    だから、ちょっと気になってここに来たわけなんだが」

ξ゚⊿゚)ξ「……あの人が……。
      でも、何でドクオ先生に相談したんですか?」

('A`)「まあ、何つうか。
    そういうのが得意っていうか、馴染みがあるっつうかな」

(-_-)「ドクオ先生は、困ってる生徒を助けてくれるんだよ」

('A`)「んな言い方したら俺がいい人みたいじゃねえかよ」

463 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:49:31 ID:yhYALa.kO

 存外、真面目な内容の手紙ばかりで驚いた。
 他の手紙も大差ない。

 几帳面にも、手紙の最後には、執筆したときのものであろう日付まで書いてある。
 内藤の様子からして、さぞかし頭の悪そうな手紙なのだろうと思っていたが。
 意外だ。

('A`)「──手紙は、どれくらいの頻度で来るんだ?」

 ぼんやりしていたツンが、はっと我に返った。
 指を折って数えながら、ドクオの質問に答える。

ξ゚⊿゚)ξ「結構来ます。ばらつきはありますけど、週に──2、3通とか。
      たまに、一日の内に2通来たりしますし」

(;-_-)「同じ日に2通って……筆まめどころの話じゃないね」

ξ゚⊿゚)ξ「半年前まではもうちょっと多かったんですけど、
      一度玄関で鉢合わせて以来、少し減りました」

 半年前に玄関で、という話は内藤からも聞いた。
 見られた時点でやめればいいものを。

 白い手紙の最後を読むと、1週間前の日付があった。

464 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:51:31 ID:yhYALa.kO

('A`)「手紙が来るようになったのは?」

ξ゚⊿゚)ξ「去年の11月です」

('A`)「警察には……」

ξ゚⊿゚)ξ「この間、初めて行きました。でも……」

(-_-)「借金取りに邪魔された?」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」

('A`)「この間って、じゃあ、それまでは通報とかしてなかったのか」

ξ゚⊿゚)ξ「手紙の内容からじゃ危険な感じもしなかったし、
      手紙やプレゼント以外には接触してこなかったから……」

 ならば何故、最近になって急に警察へ行ったのだ。
 疑問には思ったが、それとは別に気になった部分があったので、そちらを優先させる。

465 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:52:53 ID:yhYALa.kO

('A`)「プレゼント?」

ξ゚⊿゚)ξ「はい。ぬいぐるみとか、ちょっとしたアクセサリーとか。
      箱に入って、たまに玄関先に置いてあるんです。
      手紙よりも頻度は低いですけど」

 ツンが後ろに振り返り、ドクオとヒッキーも視線を追う。
 その先には、箪笥と本棚。
 まさか、そこに飾られているものが、そのプレゼントなのか。

 ツンは、ストーカーに嫌悪感などは持っていないように思える。
 それは彼女の勝手だが、危機感くらいは抱いておいた方がいいのではないか。

('A`)「あのなあ……」

(;-_-)「高岡さん、こう言っちゃ何だけど、
     盗撮用のカメラとか、そういうのが仕掛けられてたら……って思わなかったの?」

ξ゚⊿゚)ξ「私も、初めは疑ったよ。でも──」

 それまで饒舌だったのに、突然ツンは黙った。
 顎に手を当て、瞳を揺らし、何か考え込んでいる。

 ようやく彼女が顔を上げたとき、一瞬だけ、泣きそうに歪んでいたように見えた。

466 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:54:32 ID:yhYALa.kO

ξ;゚⊿゚)ξ「あの人──もしかして、そんなところまで気を遣ってたんでしょうか」

('A`)「……何が?」

ξ;゚⊿゚)ξ「プレゼントって、大体がガラスとか透明なプラスチックとかで出来てたり、
      ぬいぐるみならとても柔らかい生地だったり……」

ξ;゚⊿゚)ξ「中にカメラやマイクなんて入れたら、
      見たり触ったりするだけでバレてしまうような素材のものばかりでした。
      だから私、安心出来てたんです」

 それきり、ツンはまた黙り込んだ。

 彼女の推測通りならば、内藤は余程ツンのことを想っているのだろう。
 同じ学校に通っているのだから、こんな手紙などより、
 直接話しかけて交流する方が手っ取り早いし、お互いの精神的負荷も少ないだろうに。

ξ;⊿;)ξ

(;'A`)「うおっ!?」

 ドクオが内藤の不器用さを哀れんでいると、いきなりツンが泣き出した。
 何とかしろとヒッキーに視線で訴えるが、思いきり首を横に振られる。

467 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:56:56 ID:yhYALa.kO

ξ;⊿;)ξ「何で、そこまで考えてくれてたのに、私の心配もしてくれてたのに、
      あんなことしたの……」

(;'A`)「あ、あんなこと?」

 聞き捨てならない。
 先程湧いた疑問が、また首をもたげる。
 警察に行くような何かが起こったのか?

 一体何があった、と問うと、ツンは泣きながら切れ切れに説明してくれた。

 ──終業式の日に届いたというプレゼントと手紙、
 盛岡デミタスが階段から突き落とされたこと、
 そして昨夜、内藤がツンを連れていこうとした話。

 度々しゃくり上げるせいで聞き取りづらかったが、何とか理解出来た。

(;-_-)「……やっぱり、内藤先生が……」

('A`)「そのときの手紙は?」

ξ;⊿;)ξ「こ、これです……」

 ピンク色の手紙が渡される。
 中身を読んで、ドクオは顔を顰めた。
 あからさまに不快感を煽ろうとする文章。これまでの手紙とは全く違う。

468 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:58:06 ID:yhYALa.kO

('A`)「高岡」

ξ;⊿;)ξ「はい」

('A`)「そういう、異常な手紙やプレゼントは、今までは一度もなかったのか?」

ξ;⊿;)ξ「ありません……──あ、でも……」

('A`)「でも?」

ξ;⊿;)ξ「……手紙をもらい始めた頃は、ちょっと、変でした」

 涙を拭って、ツンは頭を振った。
 それから手紙を何通か選び、ドクオの前へ出す。

ξ゚ -゚)ξ「少し、情緒不安定っていうか、ぐらぐらするっていうか……。
      何だか、恐かったんです」

('A`)「情緒不安定、ね」

 手紙の内容を見比べる。
 フォントや文字のサイズなどが、手紙によって違ったり同じだったりしている。
 手紙を書き始めた頃だから、まだ内藤の中での「ルール」が安定していなかったのだろうか。

469 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 22:58:48 ID:yhYALa.kO

('A`)「……ふうん」

(;-_-)「元々そういう気性だったのが、
     盛岡君に嫉妬したことで爆発したんですかね」

('A`)「まあ何にせよ、盛岡辺りが起爆剤だったんだろう」

 その後、ドクオは、いくつかツンに質問した。
 ツンも戸惑いながら答える。

 全て訊ね終えた頃、玄関から物音が聞こえた。

从 ゚∀从「──あれ……」

ξ゚⊿゚)ξ「お母さん」

 女性が、ドクオ達を見てきょとんとしている。
 ツンの言葉からして母親であろう。
 右手にスーパーの袋を提げていた。

470 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:00:17 ID:yhYALa.kO

ξ゚⊿゚)ξ「学校の先生と、クラスメートの小森君」

从;゚∀从「え……あっ、すいません、ちょっと買い物に行ってたもので。
     ツン、何か出した?

ξ;゚⊿゚)ξ「そういえば、お茶も何も……ごめんなさい、今用意します!」

从;゚∀从「ああ、お菓子とか何もないっけ。えっと、どうしよ……」

('A`)「いえ、そろそろお暇しますんで」

从;゚∀从「そうなんですか? あの、どんなご用で──」

('A`)「彼女が書く校内新聞のことで、少し相談があったんです。
    それじゃあ──ヒッキー、行くぞ」

(-_-)「あ、はい。失礼します……」

 ヒッキーに声をかけ、立ち上がった。
 ツンは、手紙を紙袋へ掻き込むように放り込んでいる。

 母親にはストーカーについて話していないという。
 先程、そろそろ母に話そうと思います、と言われたのでそれは少し待ってもらうことにした。
 まだ──思うところがある。

471 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:02:12 ID:yhYALa.kO

从;゚∀从「ごめんなさい、何のお構いも出来ませんで……」

('A`)「いえいえ」

(-_-)「お邪魔しました」

 玄関に立ち、靴を履く。
 ふと、ツンの母親はヒッキーの顔をまじまじと見つめ、「あ」と声を漏らした。

从 ゚∀从「この間の……」

(-_-)「え? ──あ」

('A`)「知り合いか?」

(-_-)「はい……。前に、具合を悪くしたときに助けてもらって。
    ……高岡さんのお母さんだったんですね」

从 ゚∀从「あれから体は大丈夫か?」

(-_-)「はい、ありがとうございました」

 互いに微笑み、頭を下げる。
 手紙を詰め終えたらしいツンが、さようなら、と母親の後ろから挨拶してくれた。

 それに返事をし、彼らはアパートの前に停めていたドクオの車に乗り込んだ。
 シートベルトを締める。
 ドクオが顔を上げたとき、運転席の窓が叩かれた。

472 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:03:18 ID:yhYALa.kO

('A`)「ん?」

 ツンだ。
 窓を開ける。

ξ゚⊿゚)ξ「……先生」

('A`)「どうした?」

ξ゚⊿゚)ξ「さっき言ってたの、本当ですか……?
      ストーカー、……内藤先生が、ドクオ先生に借金取りのこと話したって。
      ……困ってる生徒を助けてくれるって」

(-_-)「本当だよ」

('A`)「まあ、内藤から金までもらったしな。
    それに、何とかするアテもある。
    もうちょっと待ってくれ。もう仕込みは始まってんだ」

 言い終えると、隣でヒッキーが「ひい」と妙な声を出した。
 どうやら、少々悪い笑みを浮かべてしまったらしい。
 ドクオは、自身の口元を手で隠した。

473 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:04:20 ID:yhYALa.kO

ξ゚⊿゚)ξ「──本当に」

('A`)「ああ。だが、俺は『守ってやる』ことはしないからな。
    これから何日かの内に借金取りが強硬手段をとってきたら、どうなるか分かんねえぞ」

(;-_-)「先生、そこは絶対に助けてやるとか守ってやるとか言うとこですよ」

 ヒッキーの言葉は無視する。
 そういう前向きな励ましは得意ではない。

ξ;⊿;)ξ

(;'A`)「げ」

(;-_-)「ほら泣いた」

ξ;⊿;)ξ「違うの、ありがとう、先生ありがとう……」

 ぽろぽろ、涙が溢れていく。
 ドクオは捲っていた白衣の袖を下ろすと、それでツンの涙を拭った。

 ヒッキーが、スラックスのポケットからタオル地のハンカチを取り出す。
 それをツンが受け取ったところで、聞き馴染みのないメロディがその場に流れた。
 ドクオがヒッキーを見る。ヒッキーもドクオを見る。互いの携帯電話ではない。

 右手で目元を擦りながら、ツンが左手を制服のスカートへ触れさせる。
 携帯電話を取り出した。そこから鳴っている。

474 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:05:13 ID:yhYALa.kO

ξぅ⊿;)ξ「エクスト先生だ……」

 すみません、とドクオに頭を下げて、ツンは電話に出た。
 このまま立ち去るのも何なので、エンジンを掛けるか掛けまいか迷いながらツンの挙動を眺める。

 そのとき、俄にツンの表情が変わった。
 驚愕しきった声で、彼女が呟く。



ξ;゚⊿゚)ξ「──ペニサスが怪我?」



*****

475 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:06:50 ID:yhYALa.kO


ξ;゚⊿゚)ξ「ペニサス!」

 ニューソク高校。
 ツンは、保健室に飛び込んだ。

('、`*川「あ、ツン」

 数人の教師に囲まれたペニサスが、ツンに手を振る。
 夏服の左袖に赤い染み。
 そこから伸びる腕に、包帯が巻かれていた。

<_フ;゚ー゚)フ「あれ……鬱田先生」

('A`)「どうも」

(;-_-)「こ、こんにちは」

 ツンの後に入ってきたドクオとヒッキー。
 彼らを見て、エクストは首を捻った。

476 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:08:34 ID:yhYALa.kO

ξ;゚⊿゚)ξ「ドクオ先生に学校まで送ってきてもらったんです。
      ──ペニサス、大丈夫!?」

('、`*川「平気平気」

 「ペニサスが誰かに腕を切られたらしい」とエクストから連絡が来たときは心臓の止まる思いをしたが、
 デミタスのとき同様、本人は至って呑気に構えている。

 ツンがペニサスに駆け寄ると、教師達は一旦は退いたものの、
 すぐに1人がツンの肩を掴んだ。

( ゚д゚ )「どうして来たんだ、高岡」

<_プー゚)フ「俺が呼びました。
       高岡は伊藤と仲がいいし──デミタスの事件のことも知ってます」

 エクストの言葉に男性教師は顔を顰めたが、ツンから手を離し、腕を組んだ。
 他の教師と顔を見合わせている。

 対して、ツンは不安げな顔でエクストを見上げた。

 デミタスのことを引き合いに出すということは──ペニサスの怪我も、関わりがあるということ。

477 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:10:02 ID:yhYALa.kO

ξ;゚⊿゚)ξ「先生……」

('A`)「何があったんです?」

 質問は、ドクオが引き受けた。
 エクストは口を開き、しかしヒッキーを見て困ったような表情を浮かべる。

(;-_-)「あ……席、外した方がいいですか」

('A`)「そうだな。実験室で待っててくれ。
    ──高岡ならいいだろ、ミルナ先生。我が校きっての優等生だ。口も固い」

( ゚д゚ )「……しょうがないな」

 渋々といった様子で教師が頷く。
 ヒッキーが一礼し、保健室を出ていった。

ξ;゚⊿゚)ξ「先生、誰がやったんですか」

<_プ-゚)フ「まだ分からないけど、多分、デミタスを突き落としたのと同じ犯人かもしれない。
       伊藤、もう一回話せるか?」

('、`*川「あ、はいはい」

 左腕の包帯を撫でながら、ペニサスは軽い調子で話し始めた。

478 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:11:08 ID:yhYALa.kO

('、`*川「ツンと別れた後に食堂行ってご飯食べて、生徒会に戻って……。
     ほら、校内新聞の話、あったじゃない。生徒会の記事」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

('、`*川「それのことでエクスト先生に渡す資料があったから、職員室に行くことになったの。
     で、階段を下りようとしたときに……」

('、`*川「後ろから押されたわけ。
     ただ、私は手すりを掴んでたし、向こうの力があんまり強くなかったのもあって、
     階段から落ちずには済んだんだけどね」

ξ;゚⊿゚)ξ「──落とされそうになったの?」

 たしかに、デミタスのことを彷彿とさせる。
 ただ、ここからはまったく違う話だ。

('、`*川「そうだと思う。
     びっくりして振り返ったら、すぐ後ろに誰かがいて──」

 ペニサスが上体を捻り、左手で、後ろにいた保健教諭の手首を掴んだ。

('、`*川「逃げようとしたから、咄嗟に相手の腕を掴んだのよ。
     そしたら相手が、もう片方の手に持ってた……多分カッターだと思うんだけど、
     それで私の腕を切ったの」

479 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:12:31 ID:yhYALa.kO

('、`*川「いやあ、驚いて手を離しちゃってさ。
     その隙に逃げられちゃった。悔しいなあ」

 肩を竦め、ペニサスは言った。
 悔しいとか悔しくないの問題ではない。
 ツンは呆れ返りながら、ペニサスの額を小突いた。

ξ;゚⊿゚)ξ「手を離してなかったら、もっと酷いことになってたかもしれないんだよ」

('、`*川「そうだけどさ」

ξ;゚⊿゚)ξ「怪我、どれぐらいなの?」

('、`*川「大したことないよ。深くまで切られてない」

 全然平気、とペニサスが左腕を動かして笑う。
 ツンは何も言わず、じっとペニサスを見つめた。
 やがて、ペニサスの笑みが収まっていく。

 ツンを見つめ返すペニサスの瞳が揺れ、じわりと涙が滲んだ。

480 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:13:37 ID:yhYALa.kO

(;、;*川「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ペニサス……」

(;、;*川「恐かった……」

 ペニサスが俯く。
 膝に乗せた手に、涙が落ちて弾ける。
 ツンは、ペニサスの頭を撫でてやった。

 こんな風に弱気な彼女は初めて見た。
 きっと、手当てを受けているときも教師達に事情を説明したときも、
 先程のように、強がって平気そうに振る舞っていたのだろう。

('A`)「今回も、例によって目撃者は……」

<_プ-゚)フ「いないそうです。
       それに、場所が北校舎の奥の3階だったもんで……」

('A`)「ああ、でかいステンドグラスがあるところですか」

<_プ-゚)フ「そのせいで伊藤からは逆光になってたし、
       混乱してたのもあって、よく見えなかったらしいです」

481 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:14:54 ID:yhYALa.kO

(;、;*川「た、多分、男の人だったと思うけど……顔は分かんなかったです」

ξ;゚ -゚)ξ「っ」

 男。
 ツンは、ペニサスから顔を逸らした。

 ──また、内藤がやったのか。

 動揺するツンに対し、ドクオは顔色一つ変えていない。
 彼だって、内藤が犯人である可能性には気付いているだろうに。

('A`)「警察は呼ぶのか?」

( ゚д゚ )「これから理事長に相談します」

('A`)「ふうん……。──高岡、行くぞ。もう話は聞いたし、俺らに出来ることもない」

ξ;゚⊿゚)ξ「……はい」

( ゚д゚ )「伊藤はもう少し残っててくれ」

(;、;*川「分かりました……」

 ペニサスの手を一度握ってから、ツンは、ドクオの後に続いて保健室を出た。

482 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:17:01 ID:yhYALa.kO

 しばらく歩き、渡り廊下を通る。
 昼よりは気温も下がっているが、未だ蒸し暑い。
 遠くに運動部の掛け声を聞きながらツンは口を開いた。

ξ゚⊿゚)ξ「あの」

('A`)「ん? ああ、帰るなら送ってくぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「……これでもまだ、警察には言わないつもりなんでしょうか」

 ドクオが足を止める。
 宙に視線をやり、どうだろうなあ、と一言。

('A`)「さすがに通報すると思うぞ。刃物まで使われちゃあな。
    まあ、昨日の時点で通報しなかったってことで色々言われるだろうけど」

ξ゚⊿゚)ξ「それならいいんですけど。
      ……盛岡君にしてもペニサスにしても、殺されてたかもしれないんですよね……」

 右手を握り締める。
 涙を流すペニサスの顔が蘇った。

483 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:19:18 ID:yhYALa.kO

ξ;゚⊿゚)ξ「──私、先生に犯人のこと言おうと思います。
      早くしないと、また誰かが狙われるかもしれません」

 昨日はデミタス、今日はペニサス。
 間をあけることなく犯行に及んでいる。
 いつ、また被害者が出るか分からない。

 踵を返そうとしたツンだったが、後ろから肩を掴まれた。

('A`)「まあ待て」

ξ;゚⊿゚)ξ「え……」

('A`)「今のお前が言ったら、ややこしいことになると思う。
    少し待っててくれないか」

ξ;゚⊿゚)ξ「ややこしいこと? 待つって──どうしてですか」

 ツンは、信じられない思いでドクオを見上げた。
 のんびり待っている暇などないのに。
 彼は事の深刻さを理解していないのか。

 それに、何がややこしいことになるというのだ。
 ツンにはストーカーがいる。そのストーカーがツンと親しい人間を襲っている。
 至ってシンプルな話なのに。

484 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:20:21 ID:yhYALa.kO

ξ;゚⊿゚)ξ「その間に、また誰かが襲われたらどうするんですか!」

('A`)「警察に通報されたら、犯人だって大人しくせざるを得ない。
    恐らく校内に警察が出入りすることになるから、妙なことは出来ない筈だ。
    とにかくお前は、この事件に関しては口を閉じてろ」

ξ;゚⊿゚)ξ「でっ、でも!」

 額に浮かんだ汗が、静かに落ちる。
 数々の言葉が出てこようとするのに、どれもが相応しくないものに思えて、声にならない。

 また、あの目だ。
 絶対的な安心感。
 この人に任せてみようという、直感じみた信頼。



('A`)「多分、内藤がやったんじゃねえと思う」

 急に鳴き出した蝉の声が、いやに大きく聞こえた。



*****

485 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:21:41 ID:yhYALa.kO


 ──夜。
 デレは、ジュースの入ったシャンパングラスを口元で傾け、あちこちへと瞳を向けた。

ζ(゚、゚*ζ「妹者ちゃん、あんまり食べすぎちゃ駄目だよ」

l从・∀・*ノ!リ人「む?」

 山盛りのローストビーフを口に詰め込んでいた妹者が、デレに振り返る。
 大食ぶりは今日も健在のようだ。

 妹者の後ろに立ったニュッが、彼女の手から皿を奪った。

( ^ν^)「お前が目立つと、周りの奴らがお前の話ばっかりするんだよ」

l从・ε・ノ!リ人「何じゃ、つまらんの」

ζ(゚ー゚*ζ「私の仕事が終わったらいっぱい食べていいからね」

l从・ε・ノ!リ人「分かったのじゃ」

 大勢の人で賑わうパーティー会場。
 そこで、高校生3人は「任務」に励んでいた。

 任務。まあ、端から見れば、食べたり飲んだりしているだけなのだが。

486 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:23:53 ID:yhYALa.kO

(´<_` )「はい妹者ピースピース」

vl从・∀・*ノ!リ人v「のじゃっ」

 背の高い男が、妹者を携帯電話で撮影する。
 彼は妹者の兄だ。妹者を溺愛しているのとは違う方の。
 付き添いとして来てくれたそうだ。

(´<_` )「おっとニュッ君、ちょっと離れてくれ。
       男と妹者が一緒に写ってると、兄者がキレる」

(;^ν^)「相変わらず面倒くせえ兄貴だな」

ζ(゚ー゚*ζ「私、ちょっとあっちの方も行ってくるね」

l从・∀・ノ!リ人「行ってらっしゃいなのじゃー」

 ──ニュッにグラスを渡し、デレが3人から離れる。
 人と人の間を抜けていき、空色のドレスに包まれた背中が見えなくなった頃、
 妹者は、感心したように呟いた。

l从・∀・ノ!リ人「デレ先輩の『地獄耳』は本当に便利じゃのう」

( ^ν^)「俺だったら御免だけどな」

l从・∀・ノ!リ人「妹者も、あんな耳だったら疲れると思うのじゃ……」

 やれやれ、と妹者は首を振った。

487 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:25:13 ID:yhYALa.kO


 さて、一方のデレは。


   『杉浦さんがマンションに囲ってるっていう女なんだが──』

   『沢近社長のお嬢様は──』

   『こんな場所で話すなよ、誰が聞いてるか分からないんだから──』

   『あっちで流石家の次女が、男と一緒に──』

   『首が回らないってんで、会社の金を──』


 適当に取り皿へ肉や野菜を乗せながら、耳をそばだてていた。

ζ(゚、゚*ζ「……」

 話し声の渦が耳に流れ込み、頭の中に留まる。
 そこから必要な情報だけ選んで、不要な分は捨てた。

 その場を後にし、妹者達のもとに戻る。

488 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:26:42 ID:yhYALa.kO

ζ(゚ー゚*ζ「ニュッくーん」

 溜め息をついたニュッがグラスを妹者に手渡した後、懐からペンとメモ帳を出した。
 デレは皿を手近なテーブルに乗せると、口の横に両手を添え、
 収穫したばかりのネタをニュッの耳元で囁き始める。

 妹者はグラスとデレを見比べ、グラスに口をつけた。
 妹者の兄が2人の前に立ち、壁となる。

ζ(゚ー゚*ζ「杉浦さんが会社のお金を使って、マンションに愛人さん囲ってるって」

( ^ν^)「杉浦?」

ζ(゚ー゚*ζ「ラウンジ電機の部長さんだね。さっき、別の人が話してた」

( ^ν^)「嫁の尻に敷かれてるって奴だな。他は?」

ζ(゚ー゚*ζ「その愛人さんっていうのが、荒巻組の関係者じゃないかって。
      あとね、あとね、沢近社長の娘さんが──」

l从・ε・ノ!リ人「ニュッさんばっかりずるいのじゃ」

(´<_` )「どうせ後で妹者も教えてもらえるだろ」

489 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:28:46 ID:yhYALa.kO

 ──昔から、デレの耳は少し変わっていた。
 物音などは普通に聞けるが、こと人の「噂話」となると、遠くのものでもよく聞こえた。
 聞くだけでなく、そこから得た情報は明確に記憶出来る。

 子供の頃は情報の整理がつけられず困っていたが、
 今は、不要なものは忘れるという術を覚えたので何とかなっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「いっぱい集まったねえ。もっと行った方がいいかな」

( ^ν^)「もう充分だろ」

ζ(゚、゚*ζ「そう?」

( ^ν^)「あんまり繰り返してたら怪しまれる」

 ニュッがメモ帳を閉じた。
 パーティー前に買ってきたメモ帳は、既にほとんどのページが文字に埋め尽くされている。
 デレが視線を下げると、妹者の輝く瞳と目が合った。

ζ(゚ー゚*ζ「あとは好きに食べていいよ」

l从・∀・*ノ!リ人 パァアッ

 ──それから間もなくして、パーティー会場は、妹者の胃袋に関する話題で持ちきりとなった。



*****

490 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:29:44 ID:yhYALa.kO

('A`)「……」

 ドクオは、あるマンションにいた。
 然程大きくもないマンションだ。

 その3階、右から2番目の部屋の前に立ち、携帯電話を見る。
 午後8時。

 学校で調べてきた住所と「内藤」の表札を確認し、チャイムを鳴らす。

('A`)「……出ねえ」

 もう一度。
 だが、やはり応答はない。
 マンションを外から見たとき、ここの窓に明かりが確認出来たのだが。

 3度ほどチャイムを鳴らしたところで、ドアが開いた。

( ^ω^)「……ドクオ先生……?」

('A`)「よう」

 目を真っ赤にした内藤が現れる。
 ず、と鼻を啜る内藤の右手には、ガラス片の乗ったハンカチがあった。

491 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:32:19 ID:yhYALa.kO

('A`)「何だそれ」

( ^ω^)「以前、ツンさんにあげたプレゼントで……き、昨日、割られちゃったんですけど……」

('A`)「それ見て一日中泣いてたのか、お前。気持ち悪いな」

( ^ω^)「放っといてくださいお……」

('A`)「ああ、待て待て」

 ドアを閉めようとする内藤。
 ドクオはそれを押し留め、ドアを引くと、するりと中へ入った。

('A`)「高岡の話をしに来た」

( ^ω^)「──ツンさんの」

('A`)「ああ。……上がるぞ」

 ここまで入ってきておいて、断る必要もなかろう。
 答えは聞かずに靴を脱ぎ、ずかずか、部屋に上がり込む。

 台所を抜け、奥の部屋へ。
 部屋の中は、案外片付いている。

 ストーカーの部屋ともなれば、壁中にツンの写真が──なんて状況でも違和感はないのだが、
 実際は、壁に掛かったコルクボードに、隠し撮りであろうツンの写真が2、3枚貼られているだけだ。

492 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:34:15 ID:yhYALa.kO

 適当に、部屋の中央にあるガラステーブルの前に座る。
 内藤は持っていたハンカチをテレビの横に置き、台所へ移動した。

( ^ω^)「今、麦茶とビールしかないんですけど」

('A`)「麦ばっかじゃねえか。残念だが車で来てる」

( ^ω^)「じゃあ麦茶にしますお」

 内藤が、プラスチックのコップに氷と麦茶を入れて運んでくる。
 テーブルの下からコンビニ袋を出し、その中身をドクオの前へ置いた。

('A`)「ビーフジャーキー、チーズ鱈、軟骨唐揚げ……。
    こういうの出されると酒飲みたくなるんだけど」

( ^ω^)「じゃあビール飲みますかお?」

('A`)「我慢する。
    ……お前、今日、補習の生徒放ったらかしてサボったろ」

(;^ω^)「ご、ごめんなさいお……」

('A`)「俺じゃなくて生徒に謝れ」

 麦茶を一気に飲み干す。
 そわそわしながら麦茶を注ぐ内藤を横目で見て、ドクオはこっそり溜め息をついた。

 ドクオの言う「高岡の話」が気になるのだろう。

493 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:37:10 ID:yhYALa.kO

('A`)「内藤」

( ^ω^)「はいっ」

('A`)「昨日、盛岡デミタスが階段から落ちたのは知ってるか」

 内藤は、ぽかんとした顔で、

( ^ω^)「いえ……」

 と答えた。
 彼がドクオに向ける目は、様々な色を代わる代わる映していて、いまいち感情が読み取れない。

('A`)「盛岡が言うことには、誰かに突き落とされたらしい」

(;^ω^)「突き落とされた!?」

495 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:38:42 ID:yhYALa.kO

('A`)「それと今日、伊藤ペニサスも階段から落とされそうになった」

(;^ω^)「ペニサスさん? ツンさんのお友達の?」

('A`)「結局落ちはしなかったが、何者かに腕を切りつけられたそうだ」

 驚きっぱなしの内藤が、麦茶を一口飲み込んだ。
 息をついて、もう一度コップに口をつける。
 そして──麦茶を吹き出した。

 向かいのドクオの顔面に、綺麗に命中する。

(;^ω^)「切りつけられた!? 腕を!? 刃物ですかお!?」

('A`)「……」

(;^ω^)「あっ、ごめんなさい、タオルタオル……。
       それで、その犯人は?」

('A`)「……伊藤は、犯人は男だったって言ってるが、他に情報がなくてな。どうにも。
    さっき警察が来てたが、警察も困ってるらしい。連絡来てないのか?」

(;^ω^)「さっき学校から電話が掛かってきたけど、出てないんですお……。
       盛岡君とペニサスさん、無事なんですかお?」

('A`)「無断欠勤の上に電話出ないなんて、下手すりゃ怪しまれんぞ。
    盛岡は足の骨にヒビ、伊藤の切り傷は浅い」

499 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:40:11 ID:yhYALa.kO

(;^ω^)「良かった……。いや、良くはないですけど。それなら命に別状はないんですおね。
       犯人は誰なんでしょう」

 そう言う内藤の顔は、真剣に生徒を心配する教師のそれだ。

 やはり、「そういうこと」なのだ。
 なんとまあ面倒な話だろうか。
 ドクオは何度も頷き、口を開いた。

('A`)「内藤。お前、どれくらいの頻度で高岡に手紙を出してる?」

(;^ω^)「え……」

('A`)「さっさと答えろ」

(;^ω^)「……今は、週に1通くらいですお」

('A`)「……そうか」

 ドクオは深々と溜め息をついた。ああ面倒臭い。



 ──高岡ツンのストーカーは、2人いる。



*****

501 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:42:10 ID:yhYALa.kO


 ツンが眠っている。

从 ゚∀从「……ツン」

 ハインリッヒが、そっと声をかけてもツンは目覚めない。
 すうすうと寝息をたて、静かに眠っている。

 ペニサスが襲われたと聞いた。その件で心労がピークに達したのだろう。
 教科書やノートを開いたまま、机に突っ伏していた。

 夜食でも、と、ハインリッヒがおにぎりを持って襖を開けたときには、もうこの状態だった。

 一旦、机に皿を置く。
 タオルケットを拾い上げ、静かに掛けようとして。
 ハインリッヒの手が止まった。

502 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:43:15 ID:yhYALa.kO

ξ-⊿-)ξ

 無防備な顔。
 前へ倒した体。

从 ゚∀从(……今、後ろから……)

 首を。
 首を締めたら。

 きっと、ツンは碌な抵抗も出来ない。

 ハインリッヒの手から、タオルケットが落ちる。
 細い指を折り曲げ、指先の感覚に集中した。

 心臓が速くなる。
 それに伴い、息が乱れる。

 大丈夫。
 すぐに自分も後を追うから。
 ツンよりも、ずっと苦しい方法を選ぶから。

503 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:44:32 ID:yhYALa.kO

从; ∀从

 指がツンの首に触れる。
 このまま指を滑らせて、両手で首を掴めばいい。
 あとは力を込めれば。それで、ツンは。

从; ∀从「……つん……」

 ああ。
 なんて、あどけない寝顔だろう。

 こんなにいい子が、何で自分の子に生まれてきてしまったのだろう。
 もっとお金持ちで、もっとマトモな親のもとで生まれていれば良かったのに。

 父親に裏切られ、母親に殺されるなんて。
 あまりにも可哀想だ。

 両手の指が、ツンの首に回る。
 とくとく、ツンの鼓動が手に伝わる。

504 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:45:59 ID:yhYALa.kO

 ハインリッヒは──そのまま手を離し、ツンの部屋を出た。

从 ;д从「ふ、──う、ううっ、うあ……っ」

 トイレに駆け込み、ドアを閉める。
 壁に凭れかかったハインリッヒは、右手に噛みついて、泣き声を無理矢理抑え込んだ。

从 ;д从「うく、ぐ、うううう……!」

 殺せない。
 自分には、やはり出来ない。

 殺さなきゃいけないのに。
 今の内に死ななきゃ、もっともっと苦しい目に遭うのに。
 出来ない。

 愛しい我が子。可愛いツン。

 母親が、どうして自分の子供を殺せようか。

505 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:46:56 ID:yhYALa.kO

从 ;д从「ひっ、ひぐ、ん、」

 ごめんなさい。ごめんなさい。
 ツンへの謝罪を、頭の中で何度も繰り返す。

 娘を殺すなど、あまりにも惨い話だ。
 だが、このまま生かしていても、彼女は苦痛に晒される。

 死にたい。殺したい。
 殺したくない。
 子供を愛するが故に、相反する衝動がぶつかり合う。壊れる。壊れてしまう。

 どうして。
 どうして、ツンは自分の子に生まれてしまったのだろう。
 どうして自分はツンを生んでしまったのだろう。

 痛い。右手に歯が食い込んで、ぶつりと皮膚が破ける。

 痛い。痛い。痛い。
 涙が溢れる度、息をする度、体の、どこか奥深くが痛む。


 自分なんかが子供を生んだのは間違いだった。
 そう思い知らされるのが、こんなにも辛い。



*****

506 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:48:01 ID:yhYALa.kO


ξぅ⊿゚)ξ「ん……」

 目を覚ます。
 しばらくぼうっとしていたツンは、はたと顔を上げ、窓を見た。
 明るい。

ξ;゚⊿゚)ξ「わっ!」

 突っ伏していた体を起こす。
 腰と首が僅かに軋む感じがした。
 昨夜、机に向かった後、そのまま寝てしまったようだ。

 慌てて時計を見て、ほっと息をついた。
 午前7時。
 今すぐ支度を済ませて行けば、夏期講習には間に合う。

ξ゚⊿゚)ξ(……おにぎりだ)

 机の隅に、おにぎりの乗った皿があった。
 触ってみる。固くなっていた。
 母が夜食に作ってくれたのだろう。

 腹が鳴る。
 誰が聞いているわけでもないのだが、何となく顔を赤らめながらおにぎりを手に取った。
 冷めて固くなっても、食べられぬということはない。

 ツンは急いで食事を済ませると、髪を整え、制服に着替えた。
 机の上の教科書などを鞄に詰める。

507 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:48:59 ID:yhYALa.kO

 携帯電話に触れた彼女はそれを制服のポケットにしまおうとしたが、思い直した。

ξ゚⊿゚)ξ(ペニサスと盛岡君、大丈夫かな)

 新規メールの作成画面を開く。
 「宛先」の欄で決定ボタンを押し、ペニサスのアドレスを選んだ。

 色々と言葉に悩んだが、シンプルに怪我の具合を訊ねる程度にして、メールを送る。
 デミタスにも同様の内容を送信した。

 それから襖に手をかけ──ツンは、振り返った。
 棚や箪笥の上からツンを見送る、ぬいぐるみ達。

 昨日の、ドクオの言葉が蘇る。


   ('A`)『多分、内藤がやったんじゃねえと思う』


 まだ推測でしかないから、と、真犯人が誰なのかは教えてくれなかった。
 だったら、自分は誰に気を付ければいい。
 誰から逃げればいい。

 あの手紙は?
 内藤の存在は?
 真犯人なんてものがいるのなら、そいつの目的は?

 ──昨日からずっとツンを悩ませている疑問が、また頭の中を巡る。

508 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:51:57 ID:yhYALa.kO

ξ゚ -゚)ξ「……」

 深呼吸。目を閉じ、ゆっくり開く。

 携帯電話のアドレス帳から、エクストの番号を呼び出した。
 コール音。4度目でエクストが出た。

ξ゚⊿゚)ξ「もしもし。……はい。……。
      ……突然で申し訳ないんですけど。
      私、臨時新聞部から抜けたいんです。……はい。ごめんなさい」

 理由を問うエクストには答えず、通話を切った。

 ツンには、ドクオの考えが分からない。
 何も分からない。
 ただ──自分がデミタス達に関わりさえしなければ、彼らの安全は保障されるであろうことは分かる。

 虚無感。

 頭を振って、襖を開ける。
 無人の居間。
 母は、今日は早番だ。

 行ってきます、と誰に告げるでもなく言って、ツンはアパートを出た。

509 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:53:28 ID:yhYALa.kO

 少し歩いたところで、携帯電話がメールの受信を知らせた。
 見てみると、デミタスから。
 この間も、一番に返信してくれたのは彼だった。

 怪我は問題ない、今日の臨時新聞部の活動も参加出来る──というような内容だった。

 自分からメールを送っておきながら、どう返事をすればいいか分からなかった。
 間もなくペニサスからもメールが届いたので、それも開く。

『心身ともに元気元気。
 でも今日は学校で警察さんといろいろ話さなきゃいけないみたい。めんどい!
 あ、生徒会の記事については会長が引き継ぐらしいので、どうぞよろしく。』

 いつもと変わらぬ調子のメールで、ほっとした。

 警察と話すということは、学校側が通報したのだろう。
 ならばデミタスにも話が行くかもしれない。
 何にせよ、これで解決に近付けばいいのだが。

 携帯電話を閉じ、とぼとぼ、歩を進める。

510 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:54:25 ID:yhYALa.kO

 ──背後から車の音がした。
 通り過ぎるだろうと思ったそれは、減速し、ツンの真横で停まる。

 黒い車。

ξ゚⊿゚)ξ「え──」

 出し抜けに後部座席のドアが勢いよく開いた。
 ドアに弾かれたツンは、その場に転んでしまう。
 鞄が落ちた。

 間を置かずに、運転席から降りてきた男がツンの腕を引っ張った。

ξ;゚⊿゚)ξ「なっ……!」

(,,゚Д゚)「暴れるな」

 ギコだ。
 無理矢理、後部座席へ押し込まれる。
 背中が誰かにぶつかった。
  _
( ゚∀゚)「おはようございまあす」

 誰か──長岡ジョルジュが、ツンを羽交い締めにした。
 ツンの両足、膝から下が車の外にはみ出ている。
 その足を折り曲げようとギコが持ち上げた。

511 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:55:52 ID:yhYALa.kO

ξ;゚⊿゚)ξ「何すんのよ!!」

 ギコの顎を蹴りつける。
 あまり力が入らず、ろくなダメージを与えられなかったが、
 ギコを怒らせるような行動ではあったようだ。

 鋭い眼光に貫かれる。

(#,゚Д゚)「暴れんなっつったろうが!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「っ……」

 びくりと体が震え、力が抜けかける。
 しかし何とか自身を奮い立たせると、ツンは自由になっている足だけでめちゃくちゃに暴れた。

ξ;゚⊿゚)ξ「触らないでよ!! 離して!」

(#,゚Д゚)「痛っ……くそっ、こいつ!」

 左足を掴まれた。
 それにも構わず暴れていると、ギコの指が引っ掛かったのか、靴が脱げた。

 後ろから回されているジョルジュの腕に、力が篭る。

513 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:57:10 ID:yhYALa.kO
  _
( ゚∀゚)「はいはいツンちゃん、いい子だからおとなしくしましょうね?」

ξ;゚⊿゚)ξ「んぐっ……」
  _
( ゚∀゚)「落ち着けって。俺はツンちゃんを助けに来たんだぜ。
     ……ストーカーがいるんだって?」

 驚きはしなかった。
 警察からジョルジュの方へ連絡が行っていても、おかしくはなかったから。
  _
( ゚∀゚)「水くせえなあ、どうして俺らに相談してくんなかったんだ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……借金取りにストーカーの相談をして、どうするの」
  _
( ゚∀゚)「はは、正論。つまんねえ。
     もう警察には行ったよな? それでも警察は相手にしてくれなかった。
     そうだろ」

 誰の差し金だか。
 ツンは、ジョルジュを睨んだ。
 暑さによるものか、別の理由か、汗が頬を伝った。

514 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:58:30 ID:yhYALa.kO
  _
( ゚∀゚)「可哀想になあ。アテにならねえよな、警察なんてよ。
     あんな奴らよりよっぽど俺らの方がツンちゃんのこと心配してんだぜ」

ξ;゚⊿゚)ξ「心配……?」
  _
( ゚∀゚)「そう。守ってやらなきゃなんねえと思ってる。
     ──そこで、ツンちゃんを安全な場所に連れてってやりたいんだ」
  _
( ゚∀゚)「丁度、俺の知り合いが持ってるマンションに空き部屋がある。
     しばらくそこに置いてあげようじゃねえか。
     後でお母さんも連れてきてやるから。安心だろ? なあ?」

 ぞくりと、背筋を寒気が這い上がった。
 安全な場所? 何が安全だ。笑えない。
 体よく誘拐しようとしているだけではないか。

 ギコに足首を掴み上げられる。


 ──そのとき。


.

515 :名も無きAAのようです:2012/08/01(水) 23:59:25 ID:yhYALa.kO

(;,゚Д゚)「うおっ!?」

 ギコに何かが突っ込んできた。
 その「何か」とギコが、共に地面へ転がる。

 ツンはその正体に気付くと、瞠目して口を大きく開け放した。


(#^ω^)「お前ら何をしてるんだお!!」


 ギコに怒鳴る男。
 内藤。

516 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:00:47 ID:a1PtAbYMO

(;,゚Д゚)「なっ、何だお前……!」

(#^ω^)「彼女から離れろお!」

 ジョルジュの腕の力が弱まる。
 ツンは拘束から抜け出して、車を飛び降りた。

 転げるように地面に倒れる。
 彼女が両手をついて身を起こした瞬間、ギコが内藤の頭を車に叩きつけたのが見えた。

(; ω )「あ゙……っ」

(#,゚Д゚)「くそっ! くそっ!!」

 ギコの手が、足が、内藤の顔や体を痛めつける。
 ろくに反撃も出来ないまま、内藤は降りかかる暴力を受けていた。
  _
( ゚∀゚)「──ギコ!」

 名を呼ばれ、ギコの手が止まった。
 車内のジョルジュと内藤を交互に見て、やがて舌打ちをすると
 最後に内藤を蹴り飛ばして運転席へと戻っていった。

 ジョルジュが後部座席のドアを閉めてまもなく、車が走り去る。

 どうやら、ひとまず諦めたようだった。

517 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:02:10 ID:a1PtAbYMO

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

 角を曲がり、ツンの視界から黒塗りの車が消える。
 そうして、ようやくツンは内藤へ意識を向けられた。

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ……ええと──内藤先生、内藤先生」

(;^ω^)「おー……いたた……」

 頬や脇腹を押さえ、内藤は身じろぎした。
 ゆっくりと体を起こす。
 口の端に血が滲んでいた。

 ハンカチを出して、ツンは内藤の口元を拭った。

(;^ω^)「お」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 目が合う。
 内藤は、気まずそうに視線を逸らした。

518 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:02:47 ID:a1PtAbYMO

ξ゚⊿゚)ξ「……どうして、ここにいるの?」

(;^ω^)「……し」

ξ゚⊿゚)ξ「し?」

(;^ω^)「心配だったから……」

 答えは、ひどく単純だった。

519 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:05:05 ID:a1PtAbYMO

(;^ω^)「一昨日、ツンさんには拒絶されたけど──それでも心配なのは変わらないから。
       せめて、無事に登校出来るか見守りたくて……そしたら、あんなことになってて」

 それ以降の言葉は、もごもごと内藤の口の中で消化されていった。
 沈黙。

 一昨日のことを思い返し、ツンは口を開いた。

ξ゚⊿゚)ξ「……盛岡君とペニサスに、何かした?」

(;^ω^)「え……」

 不思議と、彼に対する恐怖や怒りはなかった。
 内藤は犯人ではない、というドクオの言葉が、ようやくツンの中でしっかりと繋がり始めていた。

 真っ直ぐに内藤を見つめる。
 内藤もツンを見つめる。
 ツンが再び内藤の口元にハンカチを当てたとき、ようやく彼は答えた。

( ^ω^)「何の話だお」

 きょとんとした顔で。
 いかにも、不思議そうに。

 それで充分だった。

520 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:07:23 ID:a1PtAbYMO

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ虫が入った箱を私に寄越してきたのって、先生じゃないんですね」

(;^ω^)「虫!? そんなもの贈るわけないお!」

 今度はぎょっとしながら答えている。
 ツンの中で、ゆっくり、何かが消化された。

 「良かった」。
 胸の内に浮かんだ言葉は、それだった。

(;^ω^)「そんなの渡されたのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「家の前にあったんです。手紙も入ってて。
      そこに、盛岡君達に嫉妬するような文章があったから──私、てっきり」

 その先は口にしなかった。
 しかし内藤にも察しがついたようで、見る見る内に顔が青ざめていく。

521 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:09:55 ID:a1PtAbYMO

(;^ω^)「も、もしかして、僕が盛岡君に嫉妬して彼を突き落としたと思ってたのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「……はい」

(;^ω^)「やるわけないお! そりゃあ嫉妬はしたし悔しかったけど……
       でも、ツンさんは盛岡君と一緒に新聞作るのを喜んでたじゃないかお。
       それを邪魔出来る筈ないお」

(;^ω^)「──あ! 一昨日のツンさん、変なこと言ってたと思ったら、道理で……」

ξ;゚⊿゚)ξ「す、ストーカーの内藤先生に変って言われたくないです」

 それもそうか、と内藤が納得する。
 本当に変な人だ。
 何度か頷いて、ふと、彼は首を傾げた。

( ^ω^)「内藤先生って。僕のこと、知ってるのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「たまたま友達の話を聞いてて気付いたんです。
      ……先生が虫の犯人じゃないなら、一昨日うちに来たのは何だったんですか?」

522 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:10:55 ID:a1PtAbYMO

(;^ω^)「さっきみたいなことにならないように、避難させるつもりだったんだお……。
       僕には、それしかツンさん達を守る方法が思い浮かばなくて」

ξ;゚⊿゚)ξ「それならそうって言ってくださいよ」

(;^ω^)「言ったお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「言い方が悪い!」

 応酬が途切れる。
 脱力しすぎて、もう立てないのではないかと思った。

 体を傾け、内藤の胸元に頭を押し当てる。
 内藤が息を呑んだ。

(;*^ω^)「あう」

ξ ⊿ )ξ「馬鹿みたい……」

(;*^ω^)「……ごめんなさいお」

523 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:13:19 ID:a1PtAbYMO

ξ ⊿ )ξ「……私も悪かったんです。
      天使の花瓶、割っちゃった。気に入ってたのに」

(;*^ω^)「え、駅前の雑貨屋にあるお」

ξ ⊿ )ξ「うん……。
      ……助けてくれてありがとう」

 2人は、じっとしていた。

 ぐちゃぐちゃだった頭の中で、思考が整えられていく。
 ドクオは既に気付いていたのだ。
 内藤そっくりな手法をもって「プレゼント」を送りつけてきた、もう1人の存在に。

 ならば、それは誰なのだろう?

 そこへ鳴り響く電子音。
 内藤が携帯電話を取った。

( ^ω^)「……ドクオ先生だお」

 その呟きの後、内藤は電話に出た。
 ツンは体を離し、内藤の顔を見る。

524 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:14:52 ID:a1PtAbYMO

( ^ω^)「はい。──今? ……ツンさんといますお。
       はいお。……ごめんなさい、ツンさんが心配で。いやでも今そんな悪い雰囲気でも……。
       ……はあ。……はい。ええと、とりあえず分かりましたお」

 携帯電話を見下ろした内藤が、それをポケットにしまって立ち上がる。
 そして、ツンに手を差し伸べた。

( ^ω^)「──犯人をほぼ特定出来たから、今すぐ来いって言ってるお」



*****

525 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:15:53 ID:a1PtAbYMO


(-_-)「こんにちは──って、いないや」

 午後1時。実験室B。
 ヒッキーは、無人の室内を見渡して溜め息をついた。

 ドクオや妹者、デレもニュッもいない。
 珍しい。

(-_-)(高岡さんが夏期講習に来なかったこと、先生に言おうと思ってたのに)

 いつもの席へ向かうと、机の上に携帯電話が重なっているのを見付けた。

 3台ほど。
 どれも会社は別々だが、CMでよく見かける人気の機種だ。

 その下に、ルーズリーフが何枚か。
 一枚だけわざとらしくはみ出させているものがあったので、引き抜いてみる。
 案の定、手紙だった。

527 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:17:03 ID:a1PtAbYMO

(-_-)「ひ、っきー、くん、へ……」

 やたら丸い字。
 デレだ。


 「私とニュッ君、妹者ちゃんは、妹者ちゃんの家で『ドクササコ作戦』の仕上げをします。
  ドクオ先生は、一旦ツンちゃんのストーカー事件の方に専念するそうです。
  というわけでヒッキー君は1人ですね。さみしい?

  そんなヒッキー君にも、作戦の仕上げを手伝ってもらおうと思います!

  えーっとね、ケータイを、」

 ぐしゃぐしゃと塗り潰し、書き直したような記述がいくつかあって、
 途中から綺麗に整った文字に変わった。
 ニュッが代わったのだろう。


 「めんどいから、もう他の紙に書いた指示通りにやってろ
  アホでも出来る」


 ヒッキー君はアホじゃないよ特進の子だよ、と添えられたデレのツッコミを最後に、手紙は終わった。

 携帯電話をどかし、ルーズリーフの束を手に取る。

528 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:17:57 ID:a1PtAbYMO

 一枚目には、複数のURL(掲示板やコミュニティらしい)が書かれていた。
 あとの数枚には、様々な会社のきな臭い情報がたっぷりと。

 どのURLにどの情報をどの携帯電話でどんな風に書き込むか、
 ニュッの字で事細かに説明されている。

(;-_-)(ええっと……要するに、この指示通りに、
     色んな会社の悪口を色んな場所に書けばいいってことか)

 端的に言えばそういうことだ。

 一番最後には、妹者の汚い字で

 「兄者に用意してもらったケータイだから安心安全。
  万が一の場合でも、これなら足が付きにくい!」

 と、あった。

(;-_-)「スマートフォンもある……使い方よく分かんないんだけどな」

 ヒッキーは改めて周りを見回した。
 薄暗い教室に、1人きり。
 再び、溜め息を一つ。

529 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:19:39 ID:a1PtAbYMO

(-_-)「家でやろう……」

 携帯電話とルーズリーフを鞄にしまう。

 実験室を出て、とぼとぼと歩き出す。
 その背中に漂う哀愁は高校生には似つかわしくないほどであった。

(-_-)(僕なんて……)

 ドクオ、デレ、ニュッ、そして妹者。
 皆がツンのために行動を起こしているのに対し、ヒッキーは何もしていない。
 精々が、ちょっとした手伝い程度。ヒッキーじゃなくても出来ることばかり。

 そりゃあ誰かのためになるなら、自分で出来る限りのことはしたいけれども。
 今のところ、何の役にも立てていないのが現状だ。

 そのことについてこの間からずっと悩んでいたのだが、今日、一層気分が落ち込んだ。
 己の情けなさに、嫌気が差す。

 たとえば目の前に困っている人がいたとして、自分一人で何か出来るだろうか。



*****

530 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:20:48 ID:a1PtAbYMO


 ハインリッヒは、橋の欄干に寄り掛かった。

从 ゚-从「……はあ」

 溜め息。
 蝉の鳴き声と日差しが降り注ぐ中、じっと川を見下ろす。

 つい先程、仕事が終わったところだ。
 早番の日は昼過ぎに帰れる。

 昨夜からずっと鬱々とした気分でいるが、
 不思議と、仕事の時間が近付けばいつも通りに準備をして、普通に働けた。
 習慣というやつだろうか。

 ハインリッヒは財布を取り出した。

从 ゚-从「……これから、どうしよう」

 財布に付いている小さな巾着を撫でる。
 夫がくれた指輪を入れるために、ツンが作ったピンク色の巾着。
 ハインリッヒにとって、家族の証。

531 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:21:53 ID:a1PtAbYMO

 ツン。
 殺せなかった。

 きっと、ハインリッヒには一生出来ない。

 次にジョルジュ達が来るのは、いつだろう。
 自分とツンだけでは、あいつらから逃げ切れない。
 2人で死ぬことも出来ない。

 なら。
 なら、自分だけで、ジョルジュ達のもとに行くしかない。

 ハインリッヒ1人で、どんなことをすれば借金を全額払えるほど稼げるのだろう。
 最悪、命の危機だってあるかもしれない。
 でも、そうするしかないのだ。

 今更、自分の身を守ろうとは思わない。
 しかしツンだけは、どうしても、この状況から逃がしてやりたい。

 初めからこうしておけば良かった。

532 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:23:18 ID:a1PtAbYMO

从 ゚-从(……ツンはまだまだ若いし、頭もいい子だから……)

 ハインリッヒの有り金すべてをツンに渡し、その金で、どこか遠くへ逃げるように言おう。
 ツンなら、きっと1人で生きる方法も見付けられる。
 そう信じるしかない。

 ジョルジュ達ならすぐに見付けてしまうだろうが、
 少しでも時間が稼げればいい。
 その間に、何をしてでも自分が金を作る。

 ツンにどれだけ渡せるだろうかと、ハインリッヒは財布を開けた。
 大した金額はない。

533 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:24:28 ID:a1PtAbYMO

从 ゚-从「ん……」

 ──視界の下を、何かが落ちていった。
 小さな、ピンク色。

从;゚д从「……あっ!?」

 巾着だ。
 それは吸い込まれるように、川の中へ消えた。

 財布を引っくり返す。
 紐が切れていた。
 10年近く付け続けていたのだ。擦り切れてしまったのだろう。

从;゚д从「ツン……」

 折角ツンが作ってくれたのに。
 すごく嬉しくて、娘の優しさが愛しくて、ずっと付けていたのに。

 へたり込む。
 自分は──ずっと、失ってばかりだ。

534 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:25:29 ID:a1PtAbYMO

从 ∀从「……はは……」

 なんて、しょうもない人生だろうか。
 こんなもの。こんなものなのだ。所詮。

 欄干の隙間から川へ視線をやった。
 相変わらず川は濁っていて、不透明な水は巾着をすっかり飲み込んでしまった。

 もはや喜劇だ。涙も出ない。
 こめかみを伝って、汗が落ちる。

 巾着をくれたときのツンの笑顔。
 何年経ってもハインリッヒが手放さないのを見て、照れていたツンの表情。

 それらの記憶が巡って、ハインリッヒの胸をめちゃくちゃに切りつける。

从 ∀从「ごめん……」

 ここにはいないツンへ、謝罪する。
 宝物ひとつ守れやしない。


    「──あの……」


 肩を叩かれた。
 のろのろと振り返る。

535 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:26:37 ID:a1PtAbYMO

(-_-)「あ……やっぱり。高岡さんのお母さんですよね。こんにちは」

从 ゚-从「……昨日の」

 昨日、家に来ていた少年だ。
 これで会うのは3回目。

 ツンは、彼を何と言って紹介していたっけ。
 ハインリッヒが名前を思い出せないでいると、少年は、小森ヒッキーです、と自己紹介した。

(-_-)「どうかしたんですか? あ、ぐ、具合悪いとか」

从 ゚-从「いや……」

 ヒッキーは、ハインリッヒの手元に落ちている財布に目を留めた。
 しばらく何かを考え込むように財布を凝視し、ふとハインリッヒに顔を向ける。

(-_-)「あれはどうしたんです? あの、高岡さ……ツンさんが作ってくれた、ピンク色の」

 ドラッグストアでの会話を覚えていたらしい。
 ハインリッヒは数秒沈黙して、川を指差した。

 ハインリッヒと川を交互に見て、ヒッキーが、「えっ」と声をあげた。

536 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:27:33 ID:a1PtAbYMO

(;-_-)「落としちゃったんですか?」

从 ゚-从「……紐が切れたみたいだ」

(;-_-)「あー……」

 それきり2人が黙り込み、ただただ蝉の鳴き声が耳の中で谺する。

 ようやくヒッキーが口を開いたのは、どれほど経ってからだったろうか。

(;-_-)「……僕、拾ってきます」

从;゚-从「──は?」

 ぽかんとするハインリッヒ。
 ヒッキーは鞄を置くと、踵を返して土手の方に回り、慎重に川原へと下りていった。

从;゚д从「ちょっ……何してんだ!」

 ヒッキーが川に足を突っ込む。
 深さを確かめながら進んでいくと、あっという間に太腿まで浸かってしまった。

 ハインリッヒは立ち上がり、欄干から身を乗り出させる。
 そんな彼女に、ヒッキーは手を振った。

537 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:28:39 ID:a1PtAbYMO

从;゚д从「そ、そこまで……そこまでしなくていいから!
     溺れたらどうするんだよ!」

(-_-)「そんなに深くないから大丈夫で──うわっ」

 足を取られたか、ヒッキーが転んだ。
 水飛沫が上がる。
 全身隠れてしまったヒッキーが、すぐさま顔を出した。

(;-_-)「あー、全身ずぶ濡れ……」

从;゚д从「危ないよ、戻ってこい!」

(;-_-)「まあ、ここまで濡れちゃうと、もう踏ん切りもつきますから」

 彼は屈み込むと、川に腕を入れた。
 底まで手を伸ばせば顔も沈んでしまうようで、
 何度か息継ぎをしながら巾着を探している。

 ある程度探したら、少し移動して同じことを繰り返す。
 ハインリッヒは、はらはらしながらヒッキーを見守った。

 無謀だ。
 底は見えないし、緩やかとはいえ、川はずっと流れている。
 そんなところから小さな巾着など見付けられる筈がない。

538 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:29:50 ID:a1PtAbYMO

(;-_-)「あ、違う……」

 ヒッキーは何かを持ち上げたが、ただのゴミだと分かると肩を落とした。
 そうだ。こんなに汚い川なのだ。
 鋭利なものでも落ちていたらどうする。

从;゚-从「小森君……溺れなくたって、怪我するかもしれないじゃんか。
     やっぱり駄目だよ」

(;-_-)「出来ます!」

 何故だか、むきになっているようだった。
 勢いよく川に潜り込む。
 数秒後に顔を出し、右手に握りしめた布の切れ端を確認して首を振る。

从;゚-从「小森君」

(;-_-)「……僕、科学実験同好会の部員なんです。
     お金も特技もないけど──僕だって、困ってる人ぐらい助けたいんです」

 そう言って、ヒッキーはまた川に潜った。
 その同好会と、この状況の関係はよく分からないが──
 ただ、止めても無駄であろうことだけ、分かった。



*****

539 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:31:59 ID:a1PtAbYMO


('、`;川「ああもう怠い……」

(;´・_ゝ・`)「警察と話してると、被害者なのに自分が犯人な気がしてくるね」

 生徒指導室のドアを閉めたペニサスは、デミタスと顔を見合わせ、肩を竦めた。

 今まで、事件について警察から事情聴取を受けていたのである。
 ペニサスの現場とデミタスの現場や、校内のあちこちを行き来した挙げ句、
 同じ話を何度も繰り返させられて、くたくただ。

 それで碌な情報が集まらなかったのだから、余計に。

('、`;川「生徒会に顔出さなきゃ……。しんどいよー。
     デミタス君はもう帰る?」

(´・_ゝ・`)「臨時新聞部の活動があるんだ。
        こんな騒ぎになったのに、まだ校内新聞作るのかは分かんないけど」

('、`*川「たしかにねえ……。あ、大丈夫? 肩貸す?」

 ペニサスはデミタスの持つ松葉杖を見下ろした。
 現場検証の際、歩きづらそうにしていた。
 まだ松葉杖に慣れていないのだろう。

540 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:32:48 ID:a1PtAbYMO

(´・_ゝ・`)「大丈夫だよ。早く慣れなきゃいけないし」

('、`*川「大変ねえ」

<_プー゚)フ「──あ、いたいた!」

 後ろから声をかけられた。
 振り返る。エクストがデミタスのもとへ駆け寄ってきた。

<_プー゚)フ「デミタスは歩くの大変だろうから迎えに行けって、都村が」

(;´・_ゝ・`)「はあ。心配性だよなあ、都村先輩……」

('ー`*川「いい先輩じゃん」

<_プー゚)フ「そうそう。
       ──で、どうだった? 何か分かったことはあったか?」

('、`*川「いやあ、全然。嫌になっちゃいますよ」

 前述したように、長時間拘束された割には捜査自体に進展はなかった。
 証拠も何もない上、被害者2人に他人から恨まれる覚えがないのだから、仕方ないことかもしれない。
 他の生徒や教師にも聞き込みをするらしいが、新事実が出るかは怪しいところだ。

 ペニサスの答えを聞いて、エクストは腕を組んで首を振った。

541 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:33:29 ID:a1PtAbYMO

<_プ-゚)フ「生徒も不安がるよなあ……早く何とかなればいいんだけど」

('、`*川「ほんとに」

<_プ-゚)フ「事件は起こるし高岡は臨時新聞部抜けるって言うし……。
       困ったもんだ」

(;´・_ゝ・`)('、`;川「──ええっ!?」

 2人共、同時に声をあげた。
 びくりとエクストの肩が跳ねる。

('、`;川「し、新聞部やめる? あのツンが!?」

<_フ;゚ー゚)フ「あ、ああ。臨時部長は都村に任せるってよ」

(;´・_ゝ・`)「何でまた急に」

<_プ-゚)フ「俺も訊いたけど、教えてくんなかったんだよなあ。
       まあ元々俺が無理に頼んだようなもんだし、高岡の意思を尊重しないとな」

 残念そうに呟くエクスト。
 しばらく3人は黙ってしまった。
 気まずい。

542 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:35:45 ID:a1PtAbYMO

 ──行くか、というエクストの声が沈黙を破り、3人は動き出した。

<_プー゚)フ「じゃあな伊藤」

('、`*川「はい。先生もデミタス君も、頑張ってください」

(´・_ゝ・`)「ばいばい」

 エクストとデミタスが図書館の方へ歩いていく。
 その背を見送り、ペニサスは、生徒会室の方向へ進んだ。

('、`*川(ツン、あんなに新聞作るの楽しそうだったのに……やめちゃうんだ)

 痛む左腕を摩る。

 階段に差し掛かった。
 上を見る。
 踊り場に、誰かがいた。

543 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:38:08 ID:a1PtAbYMO

('A`)「よう、伊藤。やっと警察との話終わったか」

 白衣の男。
 キノコ──鬱田ドクオだ。
 授業を受けたことはないが、ある意味有名な男。

('、`*川「はい……って、ツン」

 彼の隣に、ツンと内藤もいた。
 何故か内藤の顔に怪我があるが、触れていいものか迷う。
 とりあえず階段を上り、ツンの前に立った。

('、`;川「あんた、新聞メンバーから抜けるんだって? 何でよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとね……」

('、`;川「エクスト先生残念がってたよ。
     ……んで、何で内藤先生もいるの? 何の集まり?」

('A`)「それがな、聞いてくれよ伊藤」

 問いに答えたのはドクオ。
 彼は深刻そうな顔でペニサスを見つめている。
 わざとらしく作ったような表情で、何となく滑稽だった。

545 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:39:37 ID:a1PtAbYMO

('A`)「あんまり口外しないでほしいんだが、高岡に、悪質なストーカーがいる」

('、`;川「すっ……」

 もう何を言えばいいのやら。
 ぱくぱくと口を動かし、ペニサスはツンを見遣った。
 ツンが目を伏せる。

('A`)「その犯人を捕まえるために、協力してほしい。
    お前の腕に怪我を負わせたのもストーカーだと思う」

('、`;川「えええ……。いや、うん、そりゃ、協力はしますけど。
     随分と急だなあ……」

('A`)「協力してくれるんだな?」

('、`;川「はあ。とりあえず悪い人なんでしょう? なら捕まえないと」

('A`)「そうかそうか。偉いぞ伊藤」

 わざとらしい。
 全体的にわざとらしい。

 嫌な予感がした。

547 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:40:50 ID:a1PtAbYMO

( ^ω^)「……」

 ツンの前に、内藤が右腕を出す。
 まるでペニサスからツンを守るように。

('A`)「じゃあ、行こうか。今は学校のあちこちに警察がいるし。
    通報する手間が省けるな」

 ドクオがペニサスの背後に回り込む。
 視界の端に、彼の顔が見えた。
 近い。

 耳元で、ドクオが囁く。


('A`)「自分で腕切りつけんのは、なかなか勇気がいったんじゃねえか?
    ──ストーカーさんよ」


 存外、取り乱しはしなかった。

 ドクオとツン、内藤を順繰りに眺め──
 ペニサスは、しょうもない演技をやめて表情を消した。



*****

548 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:43:15 ID:a1PtAbYMO


 何分経ったか。
 ヒッキーが、ぶんぶんと頭を振った。

从 ゚-从「小森君……もういいよ。風邪引くぞ」

(-_-)「……」

 彼は俯き、そのまま、ざぶざぶと川を横切っていった。

 川辺に上がり、土手を上る。
 その足取りはふらふらだ。

 やっぱり、見付からなかった。
 何と声をかければいいか、ハインリッヒは迷っていた。

 近付いてくるヒッキー。
 全身から滴る水が、彼の歩く道筋をコンクリートに描いている。

550 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:44:11 ID:a1PtAbYMO

 大丈夫か、と問おうとした。
 しかし、ハインリッヒが開いた口は、言葉を発することはなかった。

(*-_-)「ありました」

 ヒッキーがハインリッヒへ突きつけたもの。

 ピンク色の。小さな、巾着。

从 ゚∀从「……あ……」

 震える手で受け取る。
 間違いなく、ツンが作ってくれたものだ。

551 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:45:06 ID:a1PtAbYMO

 ぽたり。
 巾着から雫が落ちる。

 ぽたり。ぽたり。
 それを眺める内──いつの間にか、ハインリッヒの目からも、雫が零れていた。

 何だか、どうしようもないほど、ほっとした。

从 ;∀从「あ、ああ……ツン、ツン……!」

 そして、同時に気付く。

 川に落としてから、ずっと、ツンが作った巾着のことばかり考えていた。
 中に入っている指輪など、少しも気にかけなかった。

 解放された気分だった。

 ハインリッヒの家族は、ツンだけだ。
 夫など関係ない。

 あんな男。絶対に見付け出してやる。
 縁を切って、借金なんてものから、ツンと一緒に逃げきってやる。

552 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:45:53 ID:a1PtAbYMO

 くずおれる。
 巾着を抱き締め、わんわん泣いた。
 悲しくはなかった。

 救われたような思いでいっぱいで。
 目の前が急に明るくなったような心持ちだった。

 ハインリッヒの前にしゃがみ、おろおろするヒッキーに何度も礼を言った。

 泣いてばかりでちゃんと喋れなかったが、
 それでも目一杯、礼を言った。



*****

554 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:47:18 ID:a1PtAbYMO


('A`)「まず、高岡のストーカーは2人」

 歩きながら、ドクオは言った。
 後ろからは、しっかりとペニサスがついてきている。
 さらにその後ろに、内藤とツン。

 そこらを調査している警察官に、今すぐペニサスを突き出すことも可能である。
 だが、どうせなら、自分の推理を披露してやりたいものだ。

 実験室Bの前で立ち止まる。
 入口を開けた。
 ヒッキーがいたら追い出そうと思っていたが、幸い、彼はいなかった。

('A`)「1人は内藤だ。
    内藤は、週に1通程度の手紙とたまにプレゼントを贈っていた」

('A`)「だが、高岡が言うことには、手紙は週2、3通届く。数が合わないよな。
    ってことは、他にも手紙を書いてる奴がいたわけだ。
    そいつがもう1人のストーカー」

 中に入り、ペニサスの腕を引く。
 ペニサスは抵抗もせず、実験室へ足を踏み入れた。

556 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:49:42 ID:a1PtAbYMO

('A`)「そのストーカーは──」

 内藤とツンも入り、入口が閉められる。
 暗い。

 ドクオは振り返ると、ペニサスを指差した。

('A`)「内藤の模倣犯。
    内藤が送った手紙を見て、それを真似て手紙を書いていた」

('、`*川「……」

('A`)「高岡から聞いたところによれば、手紙が来始めた頃は『不安定』な感じがして恐かったそうだ。
    見せてもらって納得した。微妙に文体が違ったんだ」

('A`)「そのときにはまだ、内藤の文体や、奴が書くであろう内容を真似しきれていなかったんだろう」

ξ;゚⊿゚)ξ「真似……」

('A`)「まあ段々慣れてきたのか、そのズレもどんどん解消されてったがな。
    ──さて次の問題に移ろう。
    高岡以外に、内藤の手紙を読めた者は誰か?」

 朝、内藤とツンを呼び出したドクオは、彼らに犯人であろう人間の名前と
 大まかな根拠しか説明しなかった。

 そのせいか、内藤は一言も聞き漏らすまいと、真剣な顔をドクオに向けている。

557 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:51:43 ID:a1PtAbYMO

('A`)「一番最近……とんでもねえプレゼントと一緒に入っていた手紙には、
    学校関係者でなければ知らない情報があった。
    だから、十中八九、教師か生徒が犯人であろうことが分かる」

('、`*川「それじゃあ、容疑者はたくさんいるじゃないですか」

('A`)「だが、ここから一気に1人に絞ることが可能だ」

 右手の人差し指を立てる。
 ペニサスは、感情のない瞳でドクオの指を見た。

('A`)「その時点で高岡の家に行ったことがある教師はゼロ。内藤は除く。
    そして生徒は、」

 立てた人差し指を、再びペニサスに向ける。

 昨日、ツンの部屋に行ったときに、ツンがぽつりと零した言葉がヒントだった。
 「本当に物がないから、友達だって」──

('A`)「たった1人。
    お前だ、伊藤」

558 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:53:01 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「……ふうん。そう。光栄だね」

('A`)「部屋に入れさえすれば、あとは高岡がトイレに行くなり何なり、
    席を外した隙に手紙を見ることも出来る。
    高岡の部屋は狭い上に物が少ないし、探すのは簡単だろう」

 ペニサスはドクオから顔を逸らした。
 ぼんやりと黒板の方へ視線をやっている。
 何かを見るわけでなく、ただ、無意味にそちらを向いているだけだろう。

 沈黙。
 蒸し暑さを感じて、ドクオはエアコンのスイッチを入れた。

 それと同時に、ペニサスの口が動くのが見えた。

560 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:55:16 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「──前からね。
     ツンの家に行ったら、ツンがトイレとか行ってる間に色々チェックしてたの」

 ツンが目を見開く。
 ペニサスは、黒板からツンへ視線を移した。

 ドクオの話など、その気になれば、妄想だと撥ねつけることも出来る筈だ。
 だが、彼女は──認めた。

('、`*川「そしたら去年、引き出しに手紙入ってるの見付けてさ。
     正直、最初はストーカーとは思わなかった。真面目なラブレターだと思ったよ。
     学校で受け取ったんだろうなと。だって住所とか書いてなかったし」

 たしかに、そう思ってもおかしくはない。
 ドクオだって、あれが1通や2通程度しかなければ、普通の手紙だと判断しただろう。

('、`*川「怒ったなあ、あのとき。
     あんなラブレター、大事に引き出しにしまってさ……もう腹立って腹立って」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんで……」

 ツンが後ずさる。
 よろけた彼女を内藤が支え、ペニサスは眉根を寄せた。

561 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:56:32 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「だから手紙の差出人、ストーカーに仕立て上げようと思った。
     家のポストに直接手紙入れりゃあ、ツンも気味悪く感じるかなって……。
     まあ、しばらくしてから本物のストーカーだったって気付いたけど」

('、`*川「それはそれで成功だよね。
     馬鹿みたいな数の手紙送ってくるなんて、いくら内容が普通でも気持ち悪いもんね」

('A`)「高岡が警察に相談することは考えなかったのかよ」

('、`*川「本物のストーカーに全部押しつけりゃ済むでしょ。
     ねえ?」

 ペニサスが内藤に微笑む。その表情も一瞬だけで、すぐに元に戻った。
 内藤がストーカーであることは知っているようだ。
 手紙を入れに行ったときにでも見たのであろう。

('A`)「……手紙の差出人が本当にストーカーだって気付いてからも、まだ手紙を真似てた理由は?」

('、`*川「ツンを恐がらせたかったから」

 ひどく、あっさりした答えだ。
 ドクオがツンに目を向けると、ツンは唇を震わせながら、ペニサスに問いかけた。

562 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:57:22 ID:a1PtAbYMO

ξ;゚⊿゚)ξ「何で……何で、そんなことしたの……」

( ^ω^)「……君は、ツンさんが好きなのかお?」

 ペニサスはすぐには答えず、首を捻った。
 ううん、と唸っている。

('、`*川「好きだよ。恋愛とかじゃないと思うけど」

('A`)「恋愛じゃない? 盛岡に嫉妬したんじゃねえのかよ」

('、`*川「嫉妬じゃないよ」

 つまらなそうな顔だ。
 ペニサスは一呼吸置いて、言った。


('、`*川「私はただ、可哀想なツンが好きだっただけだもん」


.

563 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 00:58:47 ID:a1PtAbYMO

 その意味を理解しきれた者は、この場にはいなかった。
 ペニサスが動く。
 彼女は、ツンの眼前に迫った。

ξ;゚⊿゚)ξ「ひっ……」

('、`*川「ツンって可愛いと思う。
     可愛くて頭いいのに、すごく貧乏でしょ?
     おしゃれ出来ないし好きなことも出来ない。
     しかも特待生でなきゃいけないから、楽しくもない勉強をたくさんしてさ……」

('、`*川「先生の言うこと聞いて、学級委員としてクラスの面倒見て、
     毎日一生懸命で大変そうで……。
     それがすごく可愛い」

 ツンの顔に、怯えの色が浮かぶ。
 ペニサスは満足そうに頷いた。

('、`*川「可愛いツンが悲しそうな顔したり、悩んだりすると、もっと可愛いの」

('、`*川「いっぱい苦しんでればいいって思ってた。
     楽しみなんか何もなくて、ずっと困って悩んでればいい」

(;^ω^)「……っ!」

 内藤がツンを抱き寄せた。
 ペニサスは内藤をじとりと睨み、一歩引いた。
 溜め息。

564 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:00:11 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「せっかく、最近すごくいい表情してたのに……。
     新聞なんてやり始めるんだもん。
     デミタス君達に、にこにこしてるんだもん。馬鹿みたいに」

('、`*川「ぶっ壊したくなるでしょ、そりゃ」

('A`)(……ううむ)

 ドクオは腕を組んだ。
 ツンを退室させようか、どうしようか。
 だが、ここで席を外させるのも酷か。

565 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:03:16 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「だから、まず、気持ち悪ーいプレゼントと手紙贈ったの。
     あ、私がストーカーとしてプレゼントあげたの、あれが初めてだよ。
     ツンに何かあげるなんてしたくなかったもん」

('、`*川「で、それからデミタス君を階段から突き落として、私も襲われたふりして……」

('、`*川「そうすりゃツンは『自分が傍にいるからだ』って考えるでしょ?
     そしたら、きっと新聞作りなんてやめてくれる筈だよね。
     実際、今日やめてたし」

('、`*川「あわよくば友達みんなと距離置いて、ひとりぼっちになればいいなあって考えてた」

('A`)「その計画だと、高岡はお前からも離れることになるんじゃねえのか?」

('、`*川「別にいいよ。友達じゃなくても、ツンの顔を見ることは出来るでしょ。
     私は可哀想なツンさえ見られればいいから」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ペニサス……」

 ドクオには、ペニサスのその感情が、どういった分類に属するかまでは判断出来ない。
 せいぜい──ろくでもないもの、ということくらいしか。

566 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:06:01 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「……あーあ。上手く行ってたのになあ……。
     何で邪魔するかなあ、キノコも内藤も。
     ツンなんか助けなくていいんだって」

 ペニサスが天井を見上げた。
 彼女は、ツンが傷付くような言葉を選んでいる。

 自白のときにすら、彼女はツンの不幸を考えているのだ。
 あるいは、この状況さえも、彼女が仕組んだものだったのではないか。

('、`*川「……ま、いいか」

 顔を下ろす。
 ペニサスはツンに向き直って──満足そうに、笑った。


('ー`*川「ツンの、今までで一番可愛い顔見れたし」


 ツンの瞳から、涙が零れ落ちる。
 内藤は少し躊躇ってからツンを抱き締め、ペニサスからツンを隠した。

567 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:07:02 ID:a1PtAbYMO

('、`*川「邪魔しないでよ……。
     ……ツン、悲しい? 友達に裏切られて辛い?
     もっと泣いてよ。絶望しきった顔してよ。すっごく可愛い」

('A`)「……そろそろ黙っとけ」


 ドクオは、入口を見遣った。
 さっさとペニサスを警察官に渡してしまおう。

 彼女の言葉は、ツンにとって、何よりも強力な毒だ。



*****

568 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:09:34 ID:a1PtAbYMO



('A`)「『ラウンジ電機のS部長、荒巻組関係者と泥沼不倫関係』──」

('A`)「『SSメーカー、専務が借金返済理由に横領』──」

('A`)「『一流企業と暴力団の黒い噂』──」

 ドクオは、週刊誌を閉じた。

('A`)「世間は騒ぎに騒いでやがる。大成功だな」

 ストーカー事件が解決してから、はや2週間ほど。
 盆も近付き、夏はピークを迎えている。

569 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:10:20 ID:a1PtAbYMO

(;^ω^)「……あのう」

 そこへ、内藤が声をかけた。
 ドクオの前に積み重なっている週刊誌を胡散臭そうに見つめている。

(;^ω^)「結局、ドクオ先生は借金取りに関して何をしたんですかお?」

('A`)「ドクササコ作戦」

(;^ω^)「ドクササコ?」

 まず、ドクササコというキノコについて、以前妹者達に話したのと同じ説明をした。
 内藤の反応も、概ね生徒と同じだった。

(;^ω^)「はあ、体の末端を……。……で、それが何なんですかお?
       まさか、そんな恐ろしいキノコを誰かに食べさせたんじゃ」

('A`)「馬鹿め」

 円筒状に丸めた週刊誌で内藤を叩く。
 ぱこん、と、いい音がした。

570 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:11:26 ID:a1PtAbYMO

('A`)「俺らがやったのは、
    荒巻組やAAグループに関係する会社のスキャンダルを集めて、
    それを色んな場所にばらまいただけだ」

(;^ω^)「ばらまいた?」

('A`)「そうすりゃ、あとはネットの有志とマスコミの手によって広がってく」

(;^ω^)「たしかに最近、色んな会社のニュースが多いですけど……。
       ……。……え、あれ、え、ドクオ先生の仕業ですかお!?」

ζ(゚ー゚*ζ「ほとんど私達がやったんであって、ドクオ先生は指示を出しただけだよ」

 横からデレが訂正を入れる。
 彼女は週刊誌のいかがわしい袋綴じを眺めていた。
 後でドクオが切り取る予定だったのに。

572 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:13:56 ID:a1PtAbYMO

('A`)「……で、まずは下っ端の企業や事務所がスキャンダルで炎上。
    そこからどんどん火は広がっていく」

('A`)「症状が進めば進むほど、本体──AAグループと荒巻組は追い込まれていくわけだ」

(;^ω^)「……はあ」

('A`)「ドクササコの毒は遅効性でな。
    昔の人間は、毒にあたっても、まさか数日前に食ったキノコが原因だとは思わなかったらしい」

('A`)「この『ドクササコ作戦』も、そういうもんだ。
    俺らはぽつりと各地に『噂』の種を撒いただけ。
    それがどんどん広がってって今に至るわけだから、情報源の特定なんて難しい」

 説明している内、何だか楽しくなってきた。
 今頃真っ青になっている「お偉いさん」を想像して、笑いが込み上げる。

 不自然にスキャンダルを揉み消そうものなら、
 ストックしてある、さらに重大でとんでもない情報をリークしてやるつもりだ。

573 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:16:14 ID:a1PtAbYMO

('A`)「もう炎上炎上、大炎上の大火傷。
    末端から火がついてじわじわ本体にも毒が回ってんだよ。
    火消しに必死になりゃあ逆効果、下手すりゃ本体まとめてアボン」

('∀`)「しばらく大人しくしてりゃあ、いずれ収まって被害も最小限で済むさ。
    まあ大人しくしてられればの話だけどよお! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

(;^ω^)「……それに巻き込まれた人達の中にも、いい人がいただろうに……」

('A`)「は? 馬鹿か。善人なら毒キノコ食っても大丈夫だってのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「教師としても人としても何かしらが欠けてるよねえ」

(;^ω^)「僕、とんでもない人に依頼してしまったのでは……」

ζ(^ー^*ζ「今更今更」

 良心の呵責に身悶えする内藤。
 しかし、入口が開いて飛び込んできた声に、すぐさま復活した。

574 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:17:39 ID:a1PtAbYMO

ξ゚⊿゚)ξ「失礼します」

(*^ω^)「ツンさん!」

 ツン。
 デジタルカメラとメモ帳を持っている。

 ツンは内藤を見ると僅かに頬を染めたが、軽く一礼だけして、ドクオのもとへ歩み寄ってきた。

('A`)「おう、高岡」

ξ゚ー゚)ξ「校内新聞で、文化部に触れようと思いまして。
      科学実験同好会の活動インタビューに来ました」

('A`)「話は昨日聞いた。……とりあえず、名前に相応しい活動をさせてるから、それ撮ってくれ」

 ドクオは正面を指差した。
 妹者、ヒッキー、ニュッが実験器具を囲んでいる。

 最近のヒッキーは明るい。
 何があったのかは知らないが、いい傾向だ。

575 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:18:40 ID:a1PtAbYMO

('A`)「おーい! 高岡が来たぞ!」

l从・∀・*ノ!リ人「おお! ツン先輩、これ撮って撮って!
        本当に膨らんだのじゃ! すごいのじゃ!」

( ^ν^)「うるせえ」

(*-_-)「懐かしいなあ。美味しそう」

 ニュッが持っているお玉を見て、妹者は興奮しきりだ。
 火で炙られ、膨らむ褐色。
 それが何なのか認識すると、ツンは呆れたような顔をした。

ξ;゚⊿゚)ξ「か、カルメ焼き……。中学の実験レベル……」

l从・∀・*ノ!リ人「妹者は初めて見るのじゃ! 美味しそうなのじゃ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ああ、そう。妹者ちゃんはいつも楽しそうね」

 3人の傍に行き、ツンがカメラを構える。
 それを、内藤が嬉しそうに眺めていた。

576 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:21:00 ID:a1PtAbYMO

('A`)「……前の調子に戻ったな」

( ^ω^)「ですお」

ζ(゚ー゚*ζ「シベリア金融はもう生きてないらしいし。
      内藤先生はストーカー行為をやめて仲直りしたし。
      ツンちゃんの両親は離婚したし……もう問題はないもんね」

 ──今、ツンは、母と一緒に妹者の家に住んでいる。
 ドクオ達の仕掛けた「毒」が完全に回るまで、という名目で避難させたのだ。

 その甲斐あって、あれからツンが借金取りに遭遇することもなく
 今やシベリア金融には毒が回りきり、潰れたも同然の状況へと相成った。

 ツンの母はといえば、妹者の家で紹介された仕事に就き、
 ツンとの新しい住まいを探すための資金を稼いでいる。
 妹者の兄が見付け出してきたツンの父親とは、問答無用で縁を切ったそうだ。

 ツンも臨時新聞部に戻り、まあ、ひとまずは解決ということで。

577 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:24:39 ID:a1PtAbYMO

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ、焦げてる焦げてる!」

l从・∀・;ノ!リ人「ニュッさんやりすぎなのじゃ」

(;^ν^)「お前がいつまでも眺めてるからサービスしてやってたんだよ!」

(;-_-)「あーあ、勿体ない……」

 ──だが、ツンの中では、まだ全ては終わっていない。
 ペニサスの毒が残っている。

 ペニサスはもう、この学校の生徒ではない。
 ツンに近付くことも──きっと、ない。

 1週間ほどは塞ぎ込んでいたツンも、今となっては、以前と変わらぬ振る舞いをしている。
 だからといって、ツンの受けた傷が癒えたとは思えなかった。
 ドクオですらそう感じるのだから、内藤など、言わずもがな。

 一度ツンに代わってペニサスに復讐してやろうか、と提案したことがある。
 だが、ツンも内藤も首を横に振った。
 今にして思えば、それで正しかったかもしれない。

 下手に復讐などすれば、ツンの中に、毒が根強く染み付くだけだ。

578 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:26:14 ID:a1PtAbYMO

ζ(゚ー゚*ζ「私達も作ろっか」

( ^ω^)「……そうするかお」

 デレと内藤が、ツン達のもとへ向かう。
 インタビューはどこへ行ったのか、カメラとメモ帳を手離し、
 ツンもすっかりカルメ焼き作りに夢中になっていた。

579 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:27:18 ID:a1PtAbYMO

 ペニサスが残した毒が、ツンにとって、どれほどの強さを持っているか分からない。
 しかし──


ξ;゚⊿゚)ξ「あれ、膨らまない……」

(;^ω^)「何でだお?」


 どれだけ時間をかけてでも、きっと内藤が毒を抜いてくれる筈だ。


('A`)「……ったく、へたくそ共が。ちょっと俺に貸してみろ」

 ドクオは少し笑って、腰を上げた。

.

581 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:28:27 ID:a1PtAbYMO



 今日もキノコの部屋は薄暗い。
 けれど本当は、どこよりも光に溢れている。


.

582 :名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 01:29:12 ID:a1PtAbYMO





('A`)はキノコのようです



【終わり】




.

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tanpentokanohokanko.blog118.fc2.com/tb.php/230-1903b23d





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。