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('A`)はキノコのようです 中編

340 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:19:36 ID:njxKWDg6O

川 ゚ -゚)『こんにちはドクキノコ先生、今日もじめじめしてるな』

 ──変わった生徒だった。


 8年前、仲が良かった同僚の教師に「自分の教え子が不登校なんだ」と相談された。
 生徒数の多いニューソク高校。
 その分、不登校という問題は、そう珍しくない。

 渋々ながら同僚と共にその生徒の家に行ってみると、
 ドクオの中にある不登校児のイメージとはかけ離れた少女に出会った。

 苛められているとか、対人恐怖症とか、素行不良とか、そういったわけではなく。
 友達もいないわけでもない。

 ただ、どうにも学校で浮いている気がして、居た堪れないのだという。
 実際にはそんなことはないのだが、どうしても、そう思えてならなかったらしい。

 保健室登校という手も試したものの、明るくて小綺麗な保健室が肌に合わなかったそうだ。

 学校では何が好きかと訊くと、小学生のときから理科の実験が好きなのだと答えられた。
 だから、思い切って、ドクオは「科学実験同好会」なるものを作ってみた。

 その生徒1人のための同好会だ。
 誰かと一緒にいる必要もないし、好きなだけ、したい実験をすればいい。
 すると、彼女はあっさり登校するようになった。


341 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:20:40 ID:njxKWDg6O

川 ゚ -゚)『さあ、今日は何をしようかな』

('A`)『カルメ焼きが食いてえな』

川 ゚ -゚)『お、中学のときに理科で作ったぞ。
     実験というか、ただの料理な気もするが』

 不思議とドクオによく懐いた。
 部活の時間を待っていると考えれば、馴染めないクラスで授業を受けるのも我慢出来る──と、
 いつだか言っていた気がする。

川 ゚ -゚)『そういえばドクキノコ先生』

('A`)『その呼び方やめてくれ。キノコってあだ名、ちょっと気にしてんだから』

川 ゚ -゚)『「ドクオ」で「キノコ」なら、ドクキノコだろう。
     ──あのな、隣のクラスに、不登校になった子がいるんだ』

 科学実験同好会が発足されてから半年経った冬頃。
 彼女は、突然そんなことを言い出した。

('A`)『ふうん』

川 ゚ -゚)『苛めがあったらしい。
     保健室登校をしたときに話したことのある子だったんだが、
     悪い子じゃないんだよ。何とかしてあげられないかな』

342 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:21:57 ID:njxKWDg6O

('A`)『何とかって?』

川 ゚ -゚)『私という実績のあるドクキノコ先生だ。出来ないこともあるまい』

('A`)『そいつとお前じゃ、根本的に違うだろ。
    苛め問題ってのは面倒なんだぞ。
    色んなところに気を遣うだけ遣って、結局何も出来なくなるのがオチだ』

川 ゚ -゚)『じゃあ気を遣わなきゃいいじゃないか』

('A`)『……は?』

川 ゚ -゚)『こっそり、やりたいようにやればいい。
     なあに、教師としても人としても何かしらが欠けてるドクキノコ先生ならば
     難しくはないだろう』

 なかなか無茶を言う。

343 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:22:46 ID:njxKWDg6O

川 ゚ -゚)『ついでだ。その子を、この同好会に誘ってみてくれ。
     居場所があれば、少しは学校に来る気になるかもしれない』

('A`)『ああ? いいのか、部員増やして』

川 ゚ -゚)『あの子なら構わない。
     それにドクキノコ先生は知らないかもしれんが、
     私だって最近は普通に学校生活を楽しめるようになってきたんだぞ』

('A`)『その生徒が実験嫌いだったらどうする?』

川 ゚ -゚)『実験を強要する気はないさ。
     読書なり何なり、だらだらと好きなことをして過ごせる場所として提供するんだ』

('A`)『同好会の名前変えた方がいいんじゃねえの』

 ──そんなこんなで、気付くとドクオは何人もの不登校児を救い、
 その都度、科学実験同好会の部員は増えていった。

344 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:24:00 ID:njxKWDg6O

 何度か四季が巡り、同好会が作られてから3度目の春が訪れて卒業を迎えたとき、
 科学実験同好会の初代部長は、後輩からもらった花束を抱えて言った。

川 ゚ -゚)『全員じゃなくてもいいし、気に入った生徒だけでもいいから、
     私達みたいな生徒を助けてやってくれよ、先生。
     教師としても人としても何かしらが欠けてるドクキノコ先生の、唯一の美点だ』

川 ゚ー゚)『……それに案外、満更じゃないだろ』

 本当に、変わった生徒だった。

345 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:25:36 ID:njxKWDg6O





('A`)はキノコのようです

          【ストーカーと借金取りとドクササコ】→中編




.

346 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:27:23 ID:njxKWDg6O

ξ;゚⊿゚)ξ

 ツンは、部屋の真ん中に座り込んでいた。
 手足に力が入らない。

 何度も深呼吸をするが、先程の光景を思い出す度に心臓が跳ね上がり、
 呼吸も気持ちも、ちっとも収まらなかった。

ξ; ⊿ )ξ「う……」

 また頭の中に蘇る、ストーカーからの「プレゼント」。
 箱に詰め込まれた、数えきれない──数えるのも悍ましい──ほどの虫。

 種類の異なる大小様々な虫が重なり合い蠢く姿は、嫌悪感を煽るものだった。
 箱の内側を這ったり他の虫を食ったり、中には既に死んでいるのか、動かないものも居た。

ξ; ⊿ )ξ(……気持ち悪い……)

 思い出したくない。頭を振る。

 ツンは、震えながら左手を見下ろした。
 そこに握られているのは、一つの封筒。

347 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:28:42 ID:njxKWDg6O

 ──20分ほど前。

   ξ;゚⊿゚)ξ『ひっ……!』

 箱の中身を見たツンは、突っ張るようにして箱を地面に放り投げた。
 虫が四方に逃げる。

 その拍子に「高岡ツン様」の宛名が剥がれると共に、
 箱の中から、虫ではない何かが飛び出した。

 ピンク色の、紙のようなものに見える。

 ツンは虫の残骸に触れないよう、つまむようにして「それ」を拾い上げた。
 セロファンの袋に入れられた「それ」は、どこからどう見ても手紙だ。

 へばりつく脚や体液にぞわぞわと不快感を覚えながら封筒を取り出す。
 袋に守られており、封筒は汚れ一つ無かった。

 中の便箋を抜き、文面に目を通す。
 そこに書かれた内容は、ツンの混乱を助長した。
 よろけながら部屋に入り、今に至る。

 あの箱は、触る気になれなかった。


.

348 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:30:25 ID:njxKWDg6O

ξ;゚⊿゚)ξ

 顔を上げる。
 箪笥の上に座っているテディベアや、ガラス細工が目に入った。
 今までの、ストーカーからの贈り物。

 ツンは机に移動すると、引き出しから紙袋を取った。
 中に入れていた手紙を何通か取り出し、封を開ける。

ξ゚⊿゚)ξ(……最近めっきり暑くなりましたが、体調は如何でしょうか──)

 筆跡を調べられないようにしているのか、手紙は全て印刷されたものだった。
 言葉遣いも丁寧で、何だか、ストーカーらしさ──ツンだって詳しくはないが──というものが
 欠けているように思える。

 たとえばニュースや物語で見る「ストーカーの手紙」といえば、陰湿だったり、
 いたずらに不快感と恐怖を与えたりするようなイメージが強い。
 だが、彼の手紙はそういった類のものではなかった。

 たしかに、見知らぬ男から好きだ何だという手紙が何十通も送られてくる、
 そのうえ郵便ではなく直接届けられている──という事実そのものは不気味である。
 しかし内容だけ見れば、うぶな少年が書く恋文のようなのだ。

 ツンへの想いが随所に綴られているからラブレターだと分かるが、それが無ければ、
 程々に親しい人から送られてくる手紙のような健全さだった。

 ツンがストーカーをあまり警戒していなかった理由の一つが、それだ。

349 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:31:48 ID:njxKWDg6O

ξ゚⊿゚)ξ(……お体に気を付けて、無理をしない程度に勉学に励んでください。乱筆乱文にて失礼致します)

 一通読み終え、また別の手紙を読む。
 どれも、話題はそれぞれ違っても、全体的に抱く印象は変わらない。

 だが──

ξ゚⊿゚)ξ

 先程の、あの箱の中に入っていたピンク色の封筒を持ち上げる。
 おっかなびっくり、再び手紙を読んだ。

 文面に滲む悪意。
 脈絡なく「好き」とか「愛してる」とかいう言葉が繰り返され、
 ともすれば吐き気を催しそうな淫猥で下卑た表現が多用されている。

 本当に同一人物かと疑うほど、嫌な内容だった。

ξ゚⊿゚)ξ(『校内新聞』……)

 その中で、新聞について触れられていた。

 ここだ。
 ここが一番気になった。

350 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:33:01 ID:njxKWDg6O


 ──僕のいないところで、随分と楽しそうにしていらっしゃるではありませんか。
   あんな男やあんな女に、どうして、ああも可愛い顔を見せるのですか。
   僕を無視しないでください。僕も見てください。

   ああ悔しい。
   あんな奴らがツンさんの傍にいてはいけません。
   あんな奴らにツンさんが微笑んではいけません。──


 言い様のない不安が煽られる。
 あんな男。あんな女。
 脳裏を過ぎるのは、盛岡デミタスや都村トソン、伊藤ペニサスの姿。

 嫌な予感がして堪らなかった。



*****

351 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:34:38 ID:njxKWDg6O


 3時間ほど、時を戻して。

 ドクオと内藤が実験室Bで睨み合い、妹者と入れ替わるように
 内藤が実験室を出ていってから、約20分後のこと。

l从・∀・ノ!リ人「シベリア金融について!」

 妹者が黒板の前に立ち、腕を組んで言った。

('A`)「おー」

 ヒッキーの隣に座ったドクオが、気のない声をあげ、緩く拍手する。
 デレとヒッキーもそれに続いた。
 ニュッはいつも通り、ノートパソコンに向かっている。

 どちらかと言えばドクオは今、内藤の様子が気になっているのだが
 妹者が情報収集の結果を発表したくて堪らないようなので、付き合ってやるしかない。

352 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:36:03 ID:njxKWDg6O

l从・∀・ノ!リ人「シベリア金融自体は、そんなに大きな会社じゃないのじゃ」

 黒板に白いチョークで丸を描き、その中に「シベ金」と書き込む妹者。
 彼女は字が汚い。

l从・∀・ノ!リ人「ただ、大本を探っていくと──途中で色々と入り組んでてややこしいのじゃが、
       荒巻組というのに辿り着く」

('A`)「やーさん?」

l从・∀・ノ!リ人「なのじゃ」

 今度は、でかでかと赤いチョークで黒板の中央に丸を描く。
 その円には「あらまき組」と記した。
 「あらまき組」から「シベ金」へ矢印が引かれる。

l从・∀・ノ!リ人「荒巻組は色んな名前の消費者金融を抱えていて、
       悪徳経営の会社も多いのじゃ。
       まあ所謂ヤミ金じゃの」

 青いチョークで、数々の円と会社名が「あらまき組」の周りに描かれていく。
 途中、会社同士で矢印が繋がったり繋がらなかったりするが、
 最終的には全て「あらまき組」へと通じていた。

353 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:37:22 ID:njxKWDg6O

l从・∀・ノ!リ人「ぱっと見では関係なさそうに装っている会社でも、
       結局は荒巻組の傘下というわけじゃな」

(-_-)「……そうなんだ……」

 ヒッキーが、緊張した面持ちで呟く。
 彼の視線の先を見て、ドクオは、ヒッキーの表情の意味を察した。

 金融会社の名前の中に、ヒッキーと彼の両親が苦しめられていた会社があった。
 ツンが陥っている現状は、昨年のヒッキーによく似ている。
 今はもう平穏に過ごしているが、過去に受けた傷はまだ癒えていないだろう。

l从・∀・ノ!リ人「たちの悪いことに、奴らは警察とも繋がりがある。
       どんなに横暴な取り立てをされても、被害者は泣き寝入りを余儀なくされるそうじゃ」

ζ(゚、゚*ζ「ドラマみたいだねえ。そんなの本当にあるんだ」

l从・∀・ノ!リ人「そ、し、て! ここからが面白い!」

354 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:38:27 ID:njxKWDg6O

l从・∀・ノ!リ人「この荒巻組、なんと、
       かの大企業『AAグループ』と陰で仲良くしてるらしいのじゃ」

 今までで一番大きい円が描かれる。
 AA、の文字を付け足し、「AA」から「あらまき組」へ太い矢印が繋がった。

l从・∀・ノ!リ人「兄者達に調べてもらったから、まず間違いない」

('A`)「あー……」

 ドクオの頭の中に、妹者を溺愛している兄の顔が浮かんだ。
 妹者を可愛がるあまり、高校へ通うのを妨害していたような男だ。
 彼女に頼まれれば、すぐさま正確な情報を用意することだろう。

l从・∀・ノ!リ人「ここら辺を上手く利用すれば、大打撃を与えられると思うのじゃ」

('A`)「そうだな……このご時世、条例やら何やらうるせえし」

355 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:39:59 ID:njxKWDg6O

 ──不意に。

 甲高い声が、室内に響き渡った。
 艶っぽいというか煽情的というか。
 女の喘ぐ声のような。

(;^ν^)「うわっ、音でかっ……!」

 ニュッが狼狽しながらパソコンを操作すると、その声は小さくなっていった。

 人が真面目に話しているときに何をしているのだ、こいつは。
 ドクオとヒッキー、妹者がニュッのもとに近付き、パソコンを覗き込む。

(;*-_-)「わっ」

 ヒッキーが顔を逸らした。
 そこに映っているのは、裸の男と女。
 ぼかしもモザイクもない、大変いかがわしい映像だ。

356 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:41:21 ID:njxKWDg6O

ζ(゚、゚*ζ「なあにニュッ君、学校でこんなの見て。欲求不満? 同じことしてあげようか?」

( ^ν^)「いらっ……いらねえよ」

('A`)「ちょっと心揺らいでんじゃねえよ」

l从・∀・ノ!リ人「ニュッさんが妹者にいやらしい動画を見せつけてきたって父者達に言うのじゃ……」

(;^ν^)「やめろよ! やめてくださいよ!」

ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君の雑魚っぽいとこ、嫌いじゃないよ」

 ニュッは動画を早送りさせると、女の顔がアップになったところで止めた。
 その顔が、女というより少女と呼ぶのが相応しいほど若いことに気付き、ドクオは眉を顰めた。

( ^ν^)「キノコ。この顔、よく覚えとけ」

('A`)「ため口と呼び方が気に食わないが、分かった」

( ^ν^)「それと……」

 再び早送り。
 今度は少女の首から下が映ったところで一時停止した。

 ニュッの指が、少女の右腕を指差す。
 肘の内側辺りに、ほくろが2つ並んでいる。

357 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:42:09 ID:njxKWDg6O

('A`)「ほくろがあるな」

(;*-_-)「で、ですね」

l从>∀・ノ!リ人「よい子の妹者は目をつぶってるから分からんのじゃ」

ζ(゚、゚*ζ「片目開いてるよ」

( ^ν^)「今度はこっちだ」

 ウェブブラウザを起動させ、ブックマークを開くと、
 ニュッは一番下のサイトを開いた。

 やたらピンク色で彩られた、どうやら、誰かのブログらしい。
 最新記事は2年前の3月で終わっている。

 それより数ヶ月前の記事の一覧を表示させ、一番下までスクロール。

( ^ν^)「女子中学生のブログだ。
       友達に見せるのを主とした、よくある内輪向けな感じの。
       途中までは、至って普通に日々の出来事とか愚痴とか書いてるだけだったんだが──」

ζ(゚、゚*ζ「女子中学生だって……」

l从・∀・ノ!リ人「そんな子のブログを見て楽しんでるんじゃな……」

( ^ν^)「ひそひそすんな」

358 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:43:01 ID:njxKWDg6O

 期末テストが終わっただの何だのと書かれた記事。
 一番下に写真が貼ってある。

 半袖のセーラー服を着た少女が2人、こちらに向かって笑っている。
 彼女達の前にはジュースとパフェ。
 どこかのファミリーレストランらしい。

( ^ν^)「右に写ってるのが、このブログの管理人」

ζ(゚、゚*ζ「あ、さっきの子だ」

(-_-)「ほくろ……」

 大体予想はついていたが、そこにいる少女は、先程の動画の少女によく似ていた。
 右腕、肘の内側に2つのほくろもある。

( ^ν^)「ついでに、制服の襟に付いてる校章はヴィップ中の校章だ」

l从・∀・ノ!リ人「ヴィップ? すぐそこなのじゃ」

( ^ν^)「別の記事では20分歩いて学校に通ってるって書いてたから、家も大して離れてねえな」

ζ(゚ー゚*ζ「ニュッ君すごい! 気持ち悪い!」

( ^ν^)「傷付くから褒めるなら普通に褒めてくれ」

359 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:44:07 ID:njxKWDg6O

('A`)「それで……この子が裏ビデオに出てるから何だってんだ?
    特定して晒すわけじゃねえだろ」

( ^ν^)「まあ今回はな」

(;-_-)「今回はって……」

 3つ上の記事を開く。
 その日の日記は、短文で終わっていた。

('A`)「『これからどうしよう』……? 何だ、いかにも意味深だな」

( ^ν^)「この後の記事を見ていけば、ある程度は読み取れる。
       大方、親父が知り合いの連帯保証人になってて、
       その知り合いに裏切られた──ってとこだろうな」

l从・∀・ノ!リ人「ほう」

( ^ν^)「この日から更新頻度が下がって、内容もネガティブなものが増える。
       で、3ヶ月くらい経った日に……」

 12月の中旬某日。

 抽象的な文章の中に、しべりあ、という単語が紛れていた。
 そこから先は、絶望しきった言葉が続く。

360 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:45:11 ID:njxKWDg6O

('A`)「しべりあ……」

ζ(゚、゚*ζ「この子の家もシベリア金融の取り立てにあってたんだね……」

(-_-)「それじゃあ──さっきの動画って」

( ^ν^)「多分、『そういう』ことだろうな」

 ヒッキーが表情を歪め、「可哀想に」と呟いた。

 偽善者、と返しながら、ニュッがノートパソコンからディスクを取り出す。
 真っ白な表面に小さくDVD-ROMの印字がある、その辺で売られているようなものだ。
 市販のAVのような加工は見られない。

 内容からしても、正規ルートで販売されたものではないだろう。

l从・∀・ノ!リ人「こんなもん、どこで手に入れたんじゃニュッさん」

 妹者の問いには答えず、ニュッはくつくつと笑った。

 そんなDVDを手に入れたのも、それに出ている少女を特定してシベリア金融との関連を見付けたのも、
 手柄といえば手柄なのだが、いっそ不気味と言うしかない。

361 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:46:21 ID:njxKWDg6O

ζ(゚、゚*ζ「で、そのDVDどうするの?」

( ^ν^)「え?」

ζ(゚、゚*ζ「持って帰るの? 1人で見るの? 使うの?」

( ^ν^)「男にそういうこと訊くんじゃありません」

ζ(゚、゚*ζ「悪い大人に嫌々そんなことさせられてる女の子を見て喜ぶの? にやにやするの? 最低なの?」

( ^ν^)「やめてよ。そうやって言うのやめてよ」

l从・∀・ノ!リ人「背徳感と優越感と興奮を同時に得るの?」

( ^ν^)「加わるなよ」

 女子2人組にねちねち苛められているニュッは置いといて。

 ドクオは腕組みし、溜め息をついた。

('A`)「高岡が同じ目に遭う可能性があるわけだな」

(-_-)「場合によっては、もっと酷いことになりかねません」

('A`)「そうだな……」

362 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:47:10 ID:njxKWDg6O

 黒板を横目に見て、唸る。
 キノコの図鑑を思い浮かべ、思考を巡らせ、絡ませ──

('A`)「決まった」

 ドクオが両手を打った。
 デレ達が口を噤み、視線を向けてくる。

 ゆったりと教卓に近付いたドクオは、そこにある図鑑を持ち、目的のページを探した。

ζ(゚ー゚*ζ「……今回のキノコは?」

 ドクオの手が止まると同時にデレが問いかける。
 完璧なタイミングだ。

('A`)「ドクササコでいこう」

l从・∀・ノ!リ人「ドクササコ?」

 黒板に書かれた図を全て消し、チョークを手に取った。
 図鑑を見ながら、黒板に人体の輪郭を描く。

363 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:51:07 ID:njxKWDg6O

('A`)「ドクササコってのは、ヤケドキンとも呼ばれる毒キノコだ。
    こいつの毒は即効性じゃない。4、5日程度の潜伏期間を経てから発症する。
    その症状の陰湿さと言ったらない」

 図の、手足や鼻、耳、股間の辺りを赤く塗った。

('A`)「手足や性器といった体の末端が、激痛を伴って赤く腫れ上がるんだ。
    ちんこに焼けた鉄を押しつけられるのを想像してみろ。いかにも痛そうだろ。
    火箸を刺すような、って表現もあるな」

 ヤケドキンという別名がついた理由も、そこに関係している。
 ヒッキーとニュッが顔を青ざめさせ、こっそり内股になった。
 デレと妹者も痛そうな表情を浮かべる。

('A`)「しかも、それが一ヶ月以上、24時間続くらしい」

ζ(゚、゚;ζ「うええ……。どうやって治すの?」

('A`)「治療法は見付かってないな。モルヒネなどの鎮痛剤も効かないとか」

l从・∀・;ノ!リ人「うげえ」

364 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:56:38 ID:njxKWDg6O

('A`)「さらに陰湿なのは、このキノコの毒には致死性がないってとこだ。
    子供や老人なら分からんが、普通の成人はまず死なねえ。
    激痛に苦しめられながら、地獄のような日々を過ごす」

(;-_-)「もういいです、もうその話いいです」

('A`)「ええと、痛みを和らげるために冷水に患部を浸け続けた結果、ふやけた肉が崩れて
    そこから感染症にかかって死ぬ、ってパターンがあるみたいだな。
    あとは自殺や衰弱死も。毒に致死性はないが、死亡者は結構いるのか」

l从・∀・;ノ!リ人「恐いのじゃ……最悪なのじゃ……」

(;^ν^)「それを使うのかよ、今回は。えげつねえな」

('A`)「えげつない相手にえげつない方法で対抗して何が悪い」

 こつり。
 チョークで黒板を軽く叩き、ドクオは図鑑を閉じた。
 にっこり笑ってみせる。

('∀`)「さあ、作戦会議といこうか」



*****

365 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:58:33 ID:njxKWDg6O


 せっかく頬の痣が消えたと思ったのに、昨日、また殴られた。

 川の上、コンクリートの橋の上で、ハインリッヒはぼうっとしながら頬に触れた。

从 ゚∀从「……前より、腫れてるなあ」

 橋の上から川を見下ろして黄昏れる人間など、
 見る人が見れば、非常に危険な光景に思えるであろう。

 それだって、あながち間違った解釈でもない。
 彼女は今、死について考えていた。

从 ゚∀从「……」

 顔にガーゼを貼って行ったら、仕事場の人達にまた変な目を向けられるだろう。
 だが仕方がない。金がないのだから。
 金がないのだから殴られる。

 奴らの言うように、その気になればまとまった金が稼げる筈だ。
 だが、その方法は──きっと、ハインリッヒには受け入れがたいものになる。
 そして間違いなくツンまで巻き込まれるだろう。

 そんなことになるぐらいなら。
 死ぬ方がいい。

366 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 22:59:42 ID:njxKWDg6O

从 ゚∀从「明後日……かな」

 明後日は夜勤だ。
 その翌日の午前4時には帰ってこれる。

 そのときならツンも寝ているだろうから、自分の力でも何とかなる。
 ツンの後で自分も死のう。
 そうしよう。

 ガーゼなど剥がしていってしまおうか。
 どうせ死ぬのだから、隠す必要も、治す必要もない。

从 ゚∀从(どうやって死のうかな)

 この川に飛び込んで死ねるだろうか?
 ここは、職場へ行く際にしょっちゅう通るので見慣れているのだが、
 水が汚れて濁りきっているから川の深さがよく分からない。

 ハインリッヒはしばらく川を眺め、ふと時間を確認すると、踵を返した。
 ツンが、今日は昼前に授業が終わると言っていたのを思い出す。

 仕事に行く前に昼食の準備をしていなかった。
 ツンだって料理ぐらいは出来るが、ハインリッヒに気を遣っているのか
 無断で食材に手を出すことがないので、腹を空かせているかもしれない。


.

367 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:00:38 ID:njxKWDg6O

从 ゚∀从「ツン、ただいま」

 アパートに戻ったハインリッヒは、玄関にツンの靴があるのを見て、彼女の部屋へ声をかけた。
 少しの間をあけて、ツンが襖を引く。
 まだ制服を着たままだ。もう5時なのだが、帰ってきたばかりなのか。

ξ゚⊿゚)ξ「……おかえり。ほっぺ、大丈夫?」

从 ゚∀从「うん……。ツン、何か食べた?」

ξ゚⊿゚)ξ「学校で、友達がパン分けてくれた。
      何かね、2つ買ったけど、あんまりお腹すいてないから一個あげる、って」

从 ゚∀从「そっか、良かった。……友達って、ペニサスちゃん?」

 友達と聞き、伊藤ペニサスの顔が思い浮かんだ。
 ツンは友人を滅多に家に呼ばない──友人を呼ぶには不都合が多いからだろう──が、
 ペニサスはちょくちょく遊びに来るので、ハインリッヒにも馴染みがある。

 とはいえ借金取りが来るようになってからは、
 もっぱらツンがペニサスの家に遊びに行くばかりになってしまったが。

 箪笥から私服を引っ張り出しながら、ツンが答える。

368 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:04:20 ID:njxKWDg6O

ξ゚⊿゚)ξ「ううん、臨時新聞部のメンバー」

 聞き慣れない言葉が出てきて、ハインリッヒは首を傾げた。
 臨時新聞部、と呟くハインリッヒに、はっとした様子でツンが振り返る。

ξ゚⊿゚)ξ「あのね、私、新聞部に代わって校内新聞を作ることになったの。
      それで『臨時新聞部』。パンくれたのって、それに協力してくれる人」

从 ゚∀从「へえ……」

 高校に入学してから間もない頃、新聞部に入りたいとツンは言っていた。
 結局、勉強に専念するために諦めていたようだが──

ξ゚ -゚)ξ「……ごめん、夏休み中は短期のバイトしようと思ってたんだけど……」

从 ゚∀从「いいよ。新聞書きたかったんだろ?」

ξ゚ー゚)ξ「うん!
      面白いのが出来そうなの。すっごく楽しみ」

 Tシャツを着て、ツンはハインリッヒに笑顔を見せた。
 だが、すぐに真剣な顔つきになり、後ろを向く。

 その表情の変化の意味は、ハインリッヒには分からなかった。

369 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:06:42 ID:njxKWDg6O

ξ゚⊿゚)ξ「……明日、夏期講習があるから。予習しなきゃ」

从 ゚∀从「ああ、──これ、洗濯しとくな」

ξ゚⊿゚)ξ「あ……ごめん、ありがとう」

 ツンのブラウスと靴下を拾い上げる。

 それから、居間とツンの部屋を仕切る襖が閉められた。
 他に洗濯するものがないか確認し、脱衣所へ移動する。

 洗濯機に衣類を放り込んだ。
 洗剤の箱をとる。

 ──先程の、ツンの笑顔が脳裏を過ぎった。

 さぞかし嬉しいのだろう。
 さぞかし張り切っているのだろう。

从 ゚∀从(……昔から、ああいうの好きだったもんな)

 死にたいか、と訊かれて、今のツンが頷くだろうか?
 ハインリッヒが頷いても、きっとツンは首を横に振る。
 食い違う。

 絶望しかないハインリッヒと違って、ツンには希望がある。
 こんなに死にたい死にたいとハインリッヒが思っているのに、
 ツンは、楽しみだと言い切れるものがある。

370 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:07:49 ID:njxKWDg6O

 自分だけ死んだら、残ったツンに皺寄せが行く。
 自分もツンも生きていたら、いずれ奴らの餌食になる。
 ツンを殺せば、娘の希望を母親である自分が奪うことになる。

从 ∀从「……」

 ハインリッヒは、両手で顔を覆った。

 どれが正解なのか、教えてほしい。



*****

371 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:08:36 ID:njxKWDg6O


('A`)「眩しい……」

 昼。
 この日の実験室Bは珍しく明るかった。

 いつものようにカーテンは閉めきられていたが、
 全ての照明が、自身の持てる最大の明るさを放っている。

 天井を見上げたドクオが顔を顰めた瞬間、実験室の入口が開かれた。

(-_-)「こんにちは……わっ、何か明るい」

l从・∀・ノ!リ人「おおっ、ヒッキー先輩も来たのじゃ。
       やはり夏休みも暇を持て余しておるのじゃな」

('A`)「お前らと違って、夏期講習ってもんがあんだよ」

 科学実験同好会は、夏休みも活動している。
 活動といっても、暇な者が集まって適当に過ごすだけなのだが。

 夏休み初日の本日、早速4人全員が集まった。
 貴重な青春を「キノコの部屋」で消費していていいのかと、
 彼らを眺めながらドクオはこっそり嘆いている。

372 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:09:37 ID:njxKWDg6O

ζ(゚ー゚*ζ「ヒッキーくーん、見て見てー」

(;-_-)「うわっ、何ですかその格好」

 机の上に立って両手を広げるデレを見て、ヒッキーはぎょっとした顔で後ずさった。

 いつも顔を合わせている女子生徒が校内でドレスを着ていれば、驚きもしよう。

ζ(゚ー゚*ζ「似合う? 似合う?」

(;-_-)「似合ってますけど……どうしたんですか、それ」

ζ(゚ー゚*ζ「妹者ちゃんが持ってきてくれたの」

 ヒッキーが訊きたいのは、何故そんなものを着ているか、だろう。
 ドクオも、隣の準備室から出てきたデレがいきなりドレスを着ていたときは困惑した。

 ちなみに今、彼女は机の上を歩いて1人パリコレ遊びをしている。

373 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:10:44 ID:njxKWDg6O

( ^ν^)「いいから下りろ、邪魔くさい」

ζ(゚、゚*ζ「そんなこと言って、さっきからパンチラ狙ってたくせに」

(;^ν^)「狙ってねえよ!
       通常の制服姿のときですら狙ってねえのに
       ロングドレスでパンチラ狙うほど無謀じゃねえよ!!」

ζ(゚、゚*ζ「わざとらしく机の下にペン落として拾ったりしてたじゃない」

(;^ν^)「わざとじゃねえし!」

(;-_-)「……何でドレスなの?」

 デレの方に回答を求めるのは諦めたらしく、ヒッキーはデレを指差しながら妹者に訊ねた。
 ドーナツを齧っていた妹者が、得意気に答える。

l从・∀・ノ!リ人「今度、AAグループの系列会社のパーティーがあるのじゃ」

(-_-)「AA──ああ、昨日の話に出てた……」

l从・∀・ノ!リ人「そうなのじゃ。……まあ、系列とは言っても、
       妹者から見れば大したことない小さい小さい会社なんじゃが」

 その「小さい小さい会社」とやらの社名を訊いてみたヒッキーは、
 妹者の答えを聞いて、何とも言えない表情を浮かべた。
 国民の多くが知っている会社なのだから、そんなリアクションにもなろうというものだ。

374 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:12:31 ID:njxKWDg6O

('A`)「ヒッキー、そのチビとお前じゃ住む世界が違いすぎる。理解するのは諦めろ」

(;-_-)「そうですね……」

l从・∀・ノ!リ人「で、これはグッドタイミングってことで
       デレ先輩を連れていくことにしたんじゃ。誘われてはおらぬが、
       父者のちょっとした知り合いのちょっとしたコネを使えば、どうとでもなる」

ζ(゚ー゚*ζ「パーティーなんて初めてだよ。お金持ちに見初められたらどうしよう!」

( ^ν^)「金持ちには物好きが多いって聞くしな」

ζ(゚ー゚*ζ「ニュッ君のばあか」

(-_-)「それでドレスを……」

l从・∀・ノ!リ人「のじゃ。姉者のお下がりじゃがのう」

ζ(゚ー゚*ζ「迷ってるんだよねえ。こっちにするか、こっちにするか……」

(;-_-)「あ、他にもあったんですか」

 右手にオレンジ色、左手に薄い空色のドレスを持ったデレ。
 ヒッキーはたった今来たばかりだから知らないが、
 かれこれ一時間、どのドレスを着ていくかで悩み続けているのである。

 よくもまあ、そんなことで一時間も。
 見ているだけでドクオは疲れてしまった。

375 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:14:08 ID:njxKWDg6O

l从・∀・*ノ!リ人「妹者はピンク色を着るつもりなのじゃ!」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私は青い方にしようかなあ……」

 ひとまずは決定する方向になったらしい。
 制服に着替えるためにデレが準備室に入ったところで、
 妹者はトートバッグから三つ揃いの背広を引っ張り出した。

l从・∀・ノ!リ人「次はニュッさんじゃな。
       兄者のお下がりじゃからちょっと大きいかもしれんが」

(;^ν^)「えっ俺も行くの!?」

l从・∀・ノ!リ人「デレ先輩のサポートを頼みたいのじゃ。
       スーツは一色しかないが、ネクタイはどの色と柄がいいかのう」

('A`)「何でもいいだろ、別に」

(-_-)「僕は無地の紺色が好きだな……地味なやつ」

l从-∀-ノ!リ人「ふう……。ここの男共ときたら揃いも揃って色気のない……。
       だからみんなして童貞なのじゃ」

(;'A`)「どっ、童貞じゃないもん! お店のお姉さんがた優しかったもん!」

 妹者が見下げ果てた目を向けてきたが、ドクオは視線を逸らして耐えた。
 耐えたというか逃げた。



*****

376 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:16:13 ID:njxKWDg6O


 ──じゃあ、巡回を増やしておきますね。

 結論はそんなものだった。
 ツンは、釈然としない気分で警察署を出た。

ξ゚⊿゚)ξ(何が巡回よ)

 右手に提げた紙袋を見下ろし、一度だけ振り返って、警察署を睨む。

 ストーカーについて相談しに行ったのに、
 身を入れていないというか──真剣に聞いてくれなかった。
 事の経緯を軽く訊ねただけで、証拠である手紙も、きちんと調べないまま返された。

 正直、想像はついていたのだ。

 シベリア金融のジョルジュ達は、警察とも繋がりがある。
 以前、ジョルジュのことを相談しに来たときに知った。
 知った、というか、そのときの向こうの態度で気付いた、と言うべきか。

 だから、ツンがストーカーについて警察に訴えても
 ろくに対応してもらえないだろうとは思っていた。
 なるべく面倒なことにならない方が、ジョルジュ達には都合がいいのだから。

 念のためにと夏期講習が終わってすぐ来てみたが、
 やはり結果は予想と何ら変わらない。
 どうせ巡回だって、適当に言っただけに決まっている。

377 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:16:50 ID:njxKWDg6O

ξ゚ -゚)ξ(何なのよ……)

 暑い中、時間をかけて歩いてきたのが馬鹿みたいだ。
 ツンは額に浮かぶ汗を拭った。

 どうしたらいいのだろう。
 警察は頼れない。
 ツンを守ってくれる人などいない。

 また、汗を拭う。
 汗も、目尻から溢れた涙も、止まらなかった。


 誰も助けてなんかくれない。



*****


379 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:18:16 ID:njxKWDg6O

  _
( ゚∀゚)「ストーカーの相談だあ?」

 長岡ジョルジュは、携帯電話に向かって相手の言葉を繰り返した。
 事務所のソファに腰を下ろす。
  _
( ゚∀゚)「本当に高岡ツンだったんだろうな。
     ……ふうん。で? それに、どう対処したんだ。
     ……そうか、ああ、それでいい」

 足を組み、ジョルジュは眉根を寄せた。
 ポケットから煙草の箱を出し、傍らにいるギコに投げる。
 ギコが箱から出した煙草をジョルジュの口元まで運び、火をつけた。
  _
( ゚∀゚)「そいつはまた厄介な話になってやがんな……。
     ……馬鹿、俺がやったわけねえだろ。
     そんな面倒なことするかよ」

 それから二言ほど発し、通話を切った。
 煙草を口から離して灰を皿に落とす。

380 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:19:01 ID:njxKWDg6O

(,,゚Д゚)「どうかしたんスか?」
  _
( ゚∀゚)「高岡ツンにストーカーがいるんだってよ。
     今日、警察に相談しに行ったらしい」

 はあ、とギコが気の抜けた返事をした。
 この部下は、ろくに物事を考えようとしない。
 ジョルジュはギコに苛立ちながら、足を組み替え、思考を巡らせた。
  _
( ゚∀゚)「……おい、ギコ。こっちで所有してるマンションのリスト持ってこい」

(,,゚Д゚)「っス」

 夏休みともなれば、たった1人の生徒に異変があってもすぐには気付かれにくい。
 そう考えて今まで待ってやったのに、ここまで来て、
 ストーカーなんてものに邪魔をされて堪るか。
  _
( ゚∀゚)「大事な金づるを、誰が逃がしてやるかよ……」



*****

381 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:20:17 ID:njxKWDg6O


 あくる日。
 夏期講習の後、ツンは図書館へ向かった。

 様々な悩みがあっても、新聞のことを考えると、前向きになろうという気分になれた。

(´・_ゝ・`)「や、高岡さん」

ξ゚ー゚)ξ「こんにちは」

 ツンが図書館の1階に入ると、臨時新聞部の部員が何人か集まっていた。
 今日は、臨時新聞部のミーティングの日だ。

<_プー゚)フ「おう、高岡。今日は全員集まれそうだぞ」

ξ*゚⊿゚)ξ「そうなんですか?」

 今のところ、誰からも欠席の連絡は入っていない。

 それから10分もすると、エクストの言葉通り、8人全員が揃った。
 ついでに、「おまけ」も1人。

382 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:21:22 ID:njxKWDg6O

('ー`*川「やあやあ、臨時新聞部諸君」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ペニサス」

 伊藤ペニサスが、ひらひらと手を振りながら2階から下りてきた。
 どうしたの、とツンが問う。

('、`*川「おつかい頼まれたの。
     校内新聞で、生徒会について扱ってもらえないか交渉してこいって。
     今回の責任者であるツンと仲がいいってことで、私が駆り出されちゃった」

<_プー゚)フ「生徒会?」

('、`*川「そうそう。1ページ丸ごと、とは言わないから
     せめて──1ページの半分くらい。駄目ですかね?」

(゚、゚トソン「生徒会は、たまに『生徒会だより』を出してるじゃありませんか」

('、`;川「それもそうなんですけど……。
     生徒会だよりって、ほら、生徒会が出してる広報なわけでしょ?
     だからー、そのー、ねえ?」

 ペニサスが言い淀む。
 ツン達が首を傾げる中、デミタスが、ぽんと手を打った。

383 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:22:32 ID:njxKWDg6O

(´・_ゝ・`)「第3者の目線から、生徒会の働きぶりを書けってこと?」

('、`*川「そう! そういうこと!
     ……だって生徒会だよりで『我々はこんなに頑張ってますよー』なんて言えないじゃない?
     だから校内新聞で……いや、私だって、多少は思うところはあるけどさ!」

ξ゚⊿゚)ξ「自分達の苦労を校内新聞でアピールしたいわけね」

(;、;*川「そうなのよ~頼むよ~。
     交渉失敗したらご飯奢れって先輩達に言われてんのよ~。
     うちの会長目立ちたがりなのよ~」

 哀れっぽい声を出して、ペニサスが泣き真似をする。
 ツンは苦笑しながら彼女の頭を撫でた。
 そこに勝機を見たか、ペニサスは、がばりと顔を上げた。

('、`*川「お願い! ね!
     お礼に、生徒会のコネや特権使って新聞づくりに協力するから!」

ξ;゚⊿゚)ξ「もう、しょうがないなあ……」

('ー`*川「ツン! アイラービューアイニージュー!!」

 ツンの手を握り、ぶんぶん上下に振るペニサス。
 その様子にエクスト達が笑った。

ξ;-⊿-)ξ「はいはい」

('、`*川「そして次の生徒会長選挙で有利になるよう、私を贔屓目でよろしく」

ξ;゚⊿゚)ξ「したたかって、こういうことを言うのね……」


.

384 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:24:27 ID:njxKWDg6O


(゚、゚トソン「──じゃあ、5ページ目の記事は生徒会で確定ですね」

 数分後。
 都村トソンがルーズリーフに「5面 生徒会」と書き込み、言った。

 あれから、生徒会の記事をどのページに入れるかで話し合ったのだ。

('、`*川「よろしくお願いします!」

ξ゚ー゚)ξ「1面丸々使う予定だけど、面白いネタがなかったら半分に減らすからね」

('、`;川「そこが新聞部の腕の見せ所でしょうが」

(゚、゚トソン「この記事は誰が担当しますか?」

(´・_ゝ・`)「やっぱり、伊藤さんがいる分、高岡さんが適任じゃないでしょうか」

<_プー゚)フ「だな……。他にも生徒会に友達がいるって奴は?
       そういう奴らでグループになってやるのも有りかもな」

 トソンを含め、5人ほどの部員が手を挙げる。
 対してツンは、きょとんとした顔でデミタスを見た。

385 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:27:46 ID:njxKWDg6O

ξ゚⊿゚)ξ「えっ。私、盛岡君に書いてもらおうと思ってたんですけど」

(;´・_ゝ・`)「僕? 何で?」

ξ*゚⊿゚)ξ「だって盛岡君の文章なら面白おかしく生徒会を紹介出来るし、
      嫌みっぽくなく生徒会の苦労を伝えられそうだもの!」

(;-@∀@)「ああ、出た、臨時部長の盛岡先輩びいき」

('、`;川「おお……君も分かるか、ええっと……名前は分かんないけど1年生くん」

ミセ*゚ー゚)リ「この間の顔合わせのときも、デミタス先輩にきらきらした視線送ってましたもん。
      まあ同じ文芸部の身としては、デミタス先輩とトソン先輩が頼られるのも分かりますけどね」

(;*´・_ゝ・`)「何かもう、いっそ恥ずかしいよ僕……」

(゚、゚トソン「いいじゃないですか、ファンがいて」


.

386 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:28:38 ID:njxKWDg6O





 ──はしゃぐツンを、2階から眺める男がいた。

( ^ω^)「……」

 彼は胸を押さえ、名残惜しそうにその場を立ち去っていった。



*****

387 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:31:53 ID:njxKWDg6O


 同時刻、実験室B。
 ドクオの前に、デレがメモ帳を差し出した。

ζ(゚ー゚*ζ「はいっ」

('A`)「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「昨日、妹者ちゃんと一緒にシベリア金融の近くに行ってきたの。
      そこで色々『聞いて』きたから、そのメモ」

 ドクオはデレとメモ帳を見比べ、それを受け取った。
 ぱらぱら、中身を読む。

('A`)「あんまり危ないことするなよ」

ζ(゚、゚*ζ「金融会社の近くを歩くことが、そんなに危ないこと?」

('A`)「あの辺りは他にも怪しげな建物があるだろ」

ζ(゚、゚*ζ「まあ、そうだけど」

388 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:32:50 ID:njxKWDg6O

l从・∀・*ノ!リ人「──おお!」

 そこへ、妹者の感嘆の声が飛び込んだ。
 ドクオとデレの目がそちらに向かう。

 ノートパソコンのキーを打ち込むニュッに寄り添って、
 妹者がばしばしと彼の背中を叩いていた。
 ゲームでもしてるのかと思ったが、どうも、そうではなさそうだ。

l从・∀・*ノ!リ人「流石なのじゃニュッさん!
        ネットを駆使した特定技術は右に出る者がおらんのう!」

( ^ν^)+「いってえな、叩くんじゃねえよ」

l从・∀・*ノ!リ人「とか言いつつ顔は得意げじゃ! 邪魔くさいのう! 流石じゃ!」

( ^ν^)「褒めたいの? 馬鹿にしたいの?」

389 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:35:26 ID:njxKWDg6O

('A`)「何かあったか?」

l从・∀・*ノ!リ人「ニュッさんが、また新たな被害者を見付けたのじゃ」

ζ(゚、゚*ζ「ええっ、ほんと?」

l从・∀・*ノ!リ人「風俗店の写真に写っておった女の子なんじゃがの、
        去年、えす……そーしゃる……SNSと言うのじゃ?
        そこで借金取りについて愚痴って以来消息不明になっていた子にそっくりでな!」

 デレがニュッ達の傍に駆け寄り、パソコンを覗き込む。
 ニュッが操作を続けていくと、また妹者が歓声をあげた。
 何か新しい情報が引っ掛かったらしい。

 ドクオは苦笑し、ふと、視線をデレ達より後ろへずらした。

('A`)「ヒッキー、何ぼうっとしてんだ」

(-_-)「え……」

 少し離れた席に座っているヒッキーへ声をかける。
 ヒッキーは、はっとした様子でドクオを見ると、しょんぼりしながら首を振った。

390 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:38:22 ID:njxKWDg6O

(-_-)「いや、何でもないです」

('A`)「……そうか」

 そんな反応をしておいて、何でもなくはないだろう。
 だが深く踏み込むことはせずに、ドクオは腰を上げた。

 妹者達と違って、ヒッキーにはこれといった特技や縁故がない。
 大方、そのことに引け目を感じているのだ。
 構ってやるのも面倒なので、とりあえず今は放っておく。

 隣の準備室に入り、机の上にある電話の受話器を取る。
 内線で職員室へ掛けた。

('A`)「──ああ、ミルナ先生。内藤先生いるか? 簿記の非常勤の……。
    ……いない? まだ帰ってはないんだよな?
    んー、いや、いい、ありがとう。それじゃあ」

 受話器を置く。
 これで、今日3度目だ。

 色々と「準備」が進んできたので、思いきって内藤に作戦を説明しようと考えたのだが。
 内藤がなかなか職員室に寄らないらしく、捕まらない。
 荷物はあるので少なくとも学校にはいる筈である。

391 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:39:10 ID:njxKWDg6O

 そこへ、ひょいと妹者が顔を出した。

l从・∀・ノ!リ人「内藤先生、見付かったのじゃ?」

('A`)「駄目だ」

l从・ε・ノ!リ人「ふむう……。どこ行ったのかのう」

     「妹者ちゃあん、ニュッ君がまた何か見付けたよー!」

l从・∀・*ノ!リ人「おおっ! 本当なのじゃ!?」

 そう言って、妹者は小走りで戻っていった。
 よほどニュッの特定ぶりをお気に召したようだ。

 ドクオは首を掻き、準備室を出た。


.

392 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:40:54 ID:njxKWDg6O


 それから3時間ほど経った頃、
 にわかに校内が騒がしくなってきた。

 救急車が近付いてくる音。
 ドクオはカーテンを僅かに開け、外を見た。

l从・∀・ノ!リ人「救急車?」

('A`)「だな。学校の前に停まった」

(-_-)「何があったんでしょう……」

ζ(゚ー゚*ζ「私聞いてくる!」

 そう言うと、デレは実験室を飛び出していってしまった。
 ドクオが腕時計を見る。

393 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:42:54 ID:njxKWDg6O

 それから2分ほどして、デレが戻ってきた。

ζ(゚、゚*ζ「デミタス君っていう男子生徒が階段の下で倒れてたんだってー。
      普通科の2年F組で文芸部の人」

(;^ν^)「早っ」

(;'A`)「2分しか経ってねえぞ」

 広大なインターネットから情報を集めるのが得意なニュッに対し、
 デレの「耳」は、狭い範囲での情報収集に向いている。
 ニュッもデレも、不気味さでは然程変わらないように思う。

ζ(゚、゚*ζ「場所は南棟の美術室近くの1階と2階の間の踊り場で、
      発見したのは美術部員の商業科1年M組、鈴木ダイオード……」

(;'A`)「いや別にそんな詳しすぎる情報いらない気持ち悪い気持ち悪い」

(;-_-)「2分でそんなに情報集められます?」

ζ(゚ー゚*ζ「集められます」

l从・∀・*ノ!リ人「流石なのじゃ! 今回の作戦に関して、頼もしいことこの上ないのう」

(;'A`)「それはそうだが……」

394 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:43:41 ID:njxKWDg6O

ζ(゚、゚*ζ「あ、そうだドクオ先生」

('A`)「ん?」

ζ(゚、゚*ζ「さっき言ってたデミタス君って、
      ツンちゃんと一緒に校内新聞作る人だった筈だよ」

 何だか不意打ちされたような気分で、ドクオはすぐに返事が出来なかった。
 ぐるぐる、色々な記憶と言葉が混ざる。

('A`)「……本当か」

 ようやく出た一言は、愚問に過ぎるものだった。
 こういったデレの情報が間違っていたことはない。

 案の定、デレは自信満々に頷いた。

ζ(゚ー゚*ζ「前に聞いたことあるもん」

('A`)「高岡と新聞を……」

395 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:44:57 ID:njxKWDg6O

   ( ^ω^)『ツンさんに悪い虫がつく……』


 まさか内藤が?
 いや、いくら何でも、そんな馬鹿なことをするわけがない。
 だが、もしも──

('A`)「……」

 救急車のサイレンが遠ざかる。
 デミタスとかいう生徒が運ばれていったのだろう。

 ドクオはしばらく前方を睨み、やがて実験室を出た。
 内藤を探して職員室などを回ってみたが、結局、彼は見付からなかった。



*****

396 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:47:32 ID:njxKWDg6O


 デミタスが階段から落ちた。


 その報せをツンが聞いたのは、夕方になろうという頃、
 家路を歩いているときであった。





(´・_ゝ・`)「──骨にヒビが入ったけど、松葉杖を使えば歩けるし、手も無事だから平気だよ」

 病院のロビー。
 ソファに腰掛けているデミタスが、ぽんぽんと松葉杖を叩いて言った。
 右足に包帯が巻かれ、顔や腕にはガーゼが貼りつけられている。

 それでもデミタス自身は、1時間ほど前に図書館で別れたときと
 何ら変わりない様子であった。

397 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:48:36 ID:njxKWDg6O

ξ゚⊿゚)ξ「でも……」

(´・_ゝ・`)「インタビューも執筆も出来るよ、問題ない問題ない」

<_フ;゚ー゚)フ「新聞の心配をしてるんじゃないっつの」

 馬鹿、と言って、エクストがデミタスの頭を小突いた。
 デミタスの怪我をツンに知らせたのは、このエクストである。

 エクストからの電話を受けてツンが病院に駆けつけたときには、
 もうデミタスの手当ては済んでいた。
 本人が言うように、大怪我というわけでもなさそうだ。

(゚、゚トソン「君の心配ですよ、盛岡君」

(´・_ゝ・`)「それこそ問題ありませんって」

<_フ;゚ー゚)フ「いやあ、怪我も心配だけど……精神面とかもさ」

 ツンより先に来ていた──エクストと一緒に学校から飛んできたという──トソンの言葉に、
 デミタスはあっけらかんと返す。

 元気そうで何よりだが、しかし正直なところ、
 どうにも、怪我云々よりも気になる問題があった。

398 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:49:21 ID:njxKWDg6O

<_フ;゚ー゚)フ「……だって、お前、誰かに突き落とされたんだろ?」

 そうらしい。

 階段から落ちた原因を医者に訊かれたデミタスが、
 ぽつりと「背中を押された気がする」と答えたことで発覚した。

 それが事実なら、紛うことなき事件だ。
 だが、警察はまだ呼んでいないのだという。
 何となく、その理由は察しがついた。

ξ゚⊿゚)ξ「あの……盛岡君、どこの階段で落ちたの?」

(´・_ゝ・`)「学校だよ」

 デミタスの答えを聞き、ツンが「理由」を確信する。
 校長か理事長か、何にせよ誰かが大事にしないよう指示したのだろう。

399 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:50:43 ID:njxKWDg6O

(´・_ゝ・`)「臨時新聞部の活動が終わった後、都村先輩と一緒に文芸部の部室に行ったんだ。
        ちょっとコンクールに出す作品があってさ、それの最終チェックのために」

(゚、゚トソン「ええ。盛岡君の方はすぐ終わったから、私より先に帰りましたね」

(´・_ゝ・`)「そうそう。で、階段を下りようとしたら」

 どん、と呟きながら、デミタスは両手を前に出す仕草をした。

<_プー゚)フ「……間違いなく、誰かが背中を押したのか?」

(´・_ゝ・`)「正直、今はちょっと自信ないです。
        落ちてる途中で気絶したし、誰かを見たわけじゃないし……」

(´・_ゝ・`)「かといって、自分で足を踏み外した記憶はないですから、
        やっぱり押されたか、何かが背中にぶつかるかはしたと思います」

ξ゚⊿゚)ξ「目撃者はいなかったの?」

(´・_ゝ・`)「さあ……どうだろ」

<_プー゚)フ「美術部の部員がデミタスの転げ落ちる音を聞いて、階段を見に行ったらしい。
       そのときは近くにはデミタスしかいなかったってよ」

400 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:51:47 ID:njxKWDg6O

(;´・_ゝ・`)「誰かに恨まれる覚えはないんだけどなあ」

(゚、゚トソン「たとえば、誰かがうっかりぶつかってしまったって可能性もありますよね。
     落ちていく盛岡君を見て、びっくりして逃げたのかも」

 4人で話していると、診察室の方から女性が近付いてきた。
 デミタスの母親らしい。学年主任の教師と一緒に歩いている。

 もう帰るというので、ツン達も病院を離れることにした。

ξ゚⊿゚)ξ「お大事にね、盛岡君」

(´・_ゝ・`)「ありがとう。
        明後日も臨時新聞部の活動あるんだよね? ちゃんと行くよ」

<_プー゚)フ「無理はするなよー」

(´・_ゝ・`)「僕も楽しみにしてるから、多少無理してでも参加します」

(゚、゚トソン「君が来ないと、ツンさんが残念がるでしょうしね」

(;´・_ゝ・`)「先輩まで、そうやってからかう……」

401 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:52:43 ID:njxKWDg6O

 病院の前でデミタスと別れた。

 エクストがツンとトソンを車で送ってくれるというので、甘えておく。
 3人で駐車場へ向かいながら、ツンは、デミタスを突き落とした人間について考えていた。

ξ゚⊿゚)ξ(もし本当に誰かが盛岡君を突き落としたのなら、誰がやったんだろう……)

 骨にヒビが入る程度で済んだというが、もし頭を打っていたなら、
 場合によっては死んでいた恐れもある。

 ただの悪戯だとか、ほんの出来心では許されない。
 そこには、明確な悪意があった筈だ。

 不意に、記憶の隅をつつくものがあった。
 悪意。
 怖気立つような悪意を、ついこの間に見たばかり。

ξ;゚⊿゚)ξ(──まさか……)

 そのときツンの脳裏に浮かんだのは、あのストーカーからの手紙であった。



*****

402 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:54:06 ID:njxKWDg6O

 今日は夜勤。
 仕事から帰ってくるときには、きっとツンは寝ている。
 実行するなら、そのとき。

 財布に付いているピンク色の巾着を撫でてから、ハインリッヒは財布をポケットにしまった。

从 ゚∀从(……躊躇ったら駄目だ。確実にやらなきゃ。
     じゃないと、また迷う。迷っちゃいけないんだ。
     何にしたって後悔するんだから。思いきらないと)

 死ぬ気なのだから、仕事など、もう、行かなくてもいいのだ。
 だが、いつも通りでなければならない。
 ツンを不審がらせてはいけない。

 いつも通りにご飯を作って、いつも通りに夜勤へ行く。
 そうすればツンだって、いつも通りに眠ってくれる筈だ。

 ハインリッヒは冷蔵庫から野菜を出して、台所に立った。
 その直後、玄関のドアが開く。

403 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:54:49 ID:njxKWDg6O

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま……」

从 ゚∀从「おかえり。新聞、どうだった?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……ちょっと、大変かも」

 ツンが、ひどく疲れた様子で自室へ歩いていった。
 包丁を手に取り、ハインリッヒは炊飯器を確認した。
 あと5分で炊き上がる。

从 ゚∀从「夕飯、作っとくから。腹減ったら食べといて」

 ハインリッヒが声をかけるのと同時に、ツンが襖を閉めた。
 襖の向こうから、ありがとう、と返事が飛んでくる。

 ハインリッヒは鈍く光る包丁を見つめ、まな板の上のキャベツに刃を滑らせた。



*****

404 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:56:12 ID:njxKWDg6O


ξ゚⊿゚)ξ「……」

 机の引き出しから紙袋を引っ張り出す。
 ピンク色の封筒を取った。

 部屋の隅に座り、ツンは、畳んで重ねてある布団に突っ伏した。
 部屋着に着替えるのも億劫だった。

 病院を出てから、ずっと、ストーカーの手紙の文章が頭の中を巡っている。
 折り畳まれている便箋を封筒から抜き取り、広げた。

ξ゚⊿゚)ξ(やっぱり、この人が犯人なのかな……)


 ──あんな男やあんな女に、どうして、ああも可愛い顔を見せるのですか。──


 「あんな男」は、まず間違いなくデミタスのことだ。

 ストーカーがデミタスに対して並々ならぬ敵意を抱いているのなら。
 彼を階段から突き落とすくらい、出来るのではないか。

405 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:57:55 ID:njxKWDg6O

 さらに気になるのは、「あんな女」という記述。

 デミタスに嫉妬するのは、まだ分かる。
 彼への憧れが顔や言動に表れているのはツンも自覚していた。
 それが恋愛感情ではないにしろ、あからさまな好意は、ストーカーを不快にさせるものなのかもしれない。

 だが、同性にまで嫉妬するのは理解も予想も出来なかった。
 ペニサスやトソンまで敵意の対象になるのだろうか。
 下手をすると、彼女達までデミタスのように──

ξ゚⊿゚)ξ(恐い……)

 ストーカーは、多分、学校に出入りしている。
 そうでなければ知り得ない情報が、いくつも手紙に含まれていた。
 臨時新聞部やデミタス達のことだ。

 何より、デミタスは学校の中で襲われたのだから。

 ということは。
 校内でペニサス達と親しくすれば、奴に知られる可能性がある。

 そうしたら──今度は、彼女達が被害に遭いかねない。

 ツンは手紙を放り、布団に顔を埋めた。

406 :名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 23:58:53 ID:njxKWDg6O

    「ツン、母さん仕事に行ってくる」

 居間からハインリッヒの声がした。
 顔を上げ、行ってらっしゃい、と返す。

    「ご飯、ラップかけとくから」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。──お仕事頑張ってね」

    「ありがとう、行ってきます」

 少しして、ハインリッヒが玄関から出ていく音が聞こえた。
 こつこつ、足音が遠ざかる。

 しばらく考え込んだツンは、立ち上がり、机に近寄った。
 机の上、電気スタンドの傍に置かれているものに手を伸ばす。


408 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:00:22 ID:atVRl4YIO

 淡い緑色のガラスで出来た、高さ5センチほどの小さな天使の置物。

 胸の辺りに穴があいているので実際は花瓶なのだろうが、
 花を飾るより、こうして置物としておく方がツンの趣味に合っていた。
 ストーカーからのプレゼントで、一番気に入っているものだ。

ξ゚⊿゚)ξ「……綺麗だな」

 目の高さまで持ち上げる。
 一層きらきら輝いて見えた。

 ──外で足音が聞こえた。
 ハインリッヒとは違う。
 急いでいるようなそれは、アパートの前で止まった。

 間髪入れずにチャイムが鳴らされる。
 思考が止まり、鼓動が速まった。

409 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:01:29 ID:atVRl4YIO

 車の音がしなかったから、ジョルジュではないだろう。
 ならば──

 ガラスの天使を握り締め、そっと玄関へ歩く。
 その間に、再びチャイムが鳴った。

 息を殺してドアの前に立つ。
 ドアスコープを覗こうとしたが、ドアノブが回される音に気をとられ、そちらに目を向けた。

ξ;゚⊿゚)ξ「……!」

 瞠目し、戦慄する。

 鍵が閉まっていない。

 母が閉め忘れたのだろうと考える間もなかった。
 ドアが開く。
 手を伸ばしたが、僅かなところでドアノブに届かなかった。

410 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:04:27 ID:atVRl4YIO

( ^ω^)「──ツンさん」

 男が立っていた。
 半年前に会った「ストーカー」と、同じ背丈。
 声も、記憶が確かなら似ている。

ξ;゚⊿゚)ξ「だ、誰……?」

( ^ω^)「急に来てごめんなさいお」

 妙な語尾。
 やはり、同じだ。

 夏ともなれば日が落ちるのも遅い。
 うっすらと明るい中では、男の顔もよく見えた。

 見覚えがある。
 ごく最近──学校で。

 ツンの記憶にいる男は、少し遠い距離から見下ろすような顔をしている。
 自分は、どこで彼を見た?

 あのとき彼は何か持っていた。
 たしか、本だったような。

411 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:05:32 ID:atVRl4YIO

ξ;゚⊿゚)ξ「──あ……!」

 図書館だ。
 図書館で彼を見た。

 芋づる式に、そのときの状況まで思い出される。
 ペニサスやデミタスと一緒にいた。
 臨時新聞部の話をしていた。

 この男は、デミタスのことを知っている。

( ^ω^)「お母さんはどこだお?」

 男は忙しなく辺りを見渡しながら、何か言っていた。
 ツンに近付いてこようとはしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「あなた……」

( ^ω^)「お?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あなた、盛岡君のこと……」

( ^ω^)「──……」

 男の表情が歪んだ。
 そこに滲んだのは、怒りや不愉快の色。

412 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:07:18 ID:atVRl4YIO

( ^ω^)「文芸部の盛岡デミタス君かお。知ってるお。調べたお。
       君に悪い虫がついたと思って慌てて調べたんだお」

 それだけ言って、彼は黙った。
 数秒の沈黙。

 ツンは、震える声でようやく言葉を口にした。

ξ; ⊿ )ξ「……帰って……」

( ^ω^)「……嫌だお」

ξ; ⊿ )ξ「帰って」

( ^ω^)「帰らないお。
       ツンさんが一緒に来てくれないなら、僕は帰れないお」

413 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:10:24 ID:atVRl4YIO

ξ; ⊿ )ξ「……一緒に? 一緒にって何でよ。何で私が……」

( ^ω^)「ツンさんはここにいたらいけないし、学校に行くのも駄目だお。
       しばらく──僕の家にいるといいお。
       ……嫌だろうけど、君のためなんだお。ツンさん」

( ^ω^)「僕が君を守るには、それくらいしか出来ないんだお」

 男が手を伸ばす。
 肩に触れられて──


 ツンは、右手で男の頬を引っ叩いた。


.

414 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:12:19 ID:atVRl4YIO

(;^ω^)「え……」

 呆然とする男の胸を押すと、彼は尻餅をついた。

 何が起こったのか分かっていないような顔で、頬を押さえる男。
 その姿が、3日前、ジョルジュに殴られた母を連想させた。

 途端、ツンの胸がぎりぎりと痛み、そこから湧き出た熱が急速に首と顔を通って
 頭へと上っていった。

 熱が、言葉になって口から飛び出す。

ξ#゚⊿゚)ξ「──触らないで! 近付かないで!! このっ、……この、変態!!」

(;^ω^)「つ、ツンさ……」

ξ#゚⊿゚)ξ「何が『君のため』よ、何が『君を守る』よ!!
      あんなもの寄越すのが私のためなの? 盛岡君を突き落とすのが私のためなの!?」

 ぱくぱくと口を開閉させる男を見ていると、何故だか無性に腹が立った。
 握り締めていた置物を振りかぶる。

 男にぶつけるつもりで投げたが、僅かに逸れた天使は、
 地面の上でただのガラス片へと変わった。

415 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:14:13 ID:atVRl4YIO

ξ#゚⊿゚)ξ「結局自分勝手な理由で他人を犠牲にしてるだけじゃない!
      そんなの──」

 ガラスの砕ける音が、やけに大きく響いて。
 悲鳴のように聞こえた。

 声になりきらない感情が、逃げ道を探して目元に這い上がる。
 頬を伝って落ちたそれは、ひどく熱い。


ξ#;⊿;)ξ「そんなの、お父さんやジョルジュ達と変わらないわよ!!」


 男が腰を上げようとしている。
 また何か投げようかと考えて、すぐに思い直し、ドアを閉めた。

 名前を呼ぶ男よりも大きな声で、ツンは叫んだ。

ξ#;⊿;)ξ「どっか行ってよ! 二度と来ないで!!」

 男はすぐには諦めなかったが、警察を呼ぶ、とツンが怒鳴ると
 間もなくドアの前から去っていった。

 ドアスコープで男がいないのを確認し、鍵をかける。


417 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:16:09 ID:atVRl4YIO

 ふらふらと部屋へ戻ったツンは、部屋の真ん中に座り込んだ。
 机の前で紙袋が倒れ、手紙を数枚吐き出している。

 ──自分が馬鹿だった。
 ストーカーを、悪い人ではなさそうだと思っていた自分が馬鹿だった。

ξ;⊿;)ξ「う、……っく、う、うう……」

 手紙やプレゼントをもらったから信用するなんて、小さな子供と変わらない。
 本当に、間抜けで、愚かな話だ。

 泣きじゃくる。
 いくら泣いても泣き足りない。
 止まらない。

 どうしてこんなに悲しいのだろう。どうしてこんなに苦しいのだろう。

 考えて──それに気付いたとき、また自分の愚かしさに涙が出た。



 自分は、今の今まで、ストーカーなんかに恋をしていたのだ。



*****

418 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:18:04 ID:atVRl4YIO


 翌日、昼。
 実験室Bで、ドクオは苛々しながら宙を睨んでいた。

('A`)「あの野郎……」

 内藤が来ていない。
 非常勤という肩書きではあるが、正味、内藤の業務は普通の教員と変わらないそうだ。
 今日だって簿記の講習があるらしいし。

 なのに、一向に姿を現さない。
 1時間おきのペースで職員室に電話をしてみるが、回答は「まだ来てません」のみ。

(;-_-)「ね、ねえ、何でドクオ先生怒ってるの……?」

l从・∀・ノ!リ人「内藤先生が来てないらしいのじゃ」

 ヒッキーと妹者がこそこそと話している。
 そのとき、実験室の戸が開いた。

ζ(゚、゚*ζ「やっぱり内藤先生いないみたいだよ。簿記の講習にも来なかったってさ」

 教室に入りながら、デレはそう言った。
 ドクオが「校内回って調べてこい」と命令したのである。
 デレの答えを聞き、ドクオは背もたれにぐったりと寄り掛かった。

419 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:19:34 ID:atVRl4YIO

('A`)「あー、嫌な予感がする。面倒なことになってるニオイがぷんぷんしやがる」

( ^ν^)「何をそんなに気にしてんだよ。放っときゃいいだろ」

('A`)「そうもいかねえよ……」

 今朝の職員会議で、デミタスの話があった。

 ──デミタス本人は誰かに突き落とされたと言っている。
 ──生徒達を動揺させないためにも、口外しないこと。

 そういった内容だった。
 現在、数人の教師で調査をしているそうだが
 目撃情報も何もないため、犯人を見付けるのは簡単なことではないという。

 その話を聞いてから、ドクオの頭の中には嫌な憶測が広がっていた。

('A`)「……昨日の、盛岡デミタスについてなんだが」

ζ(゚、゚*ζ「階段から落ちた人?」

420 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:21:39 ID:atVRl4YIO

('A`)「内藤が突き落とした可能性がある」

(;-_-)「ええっ!?」

 驚いたのはヒッキーだけだ。
 ニュッはノートパソコンを見つめているし、妹者とデレは顔を見合わせ、

l从・∀・ノ!リ人「ないない」ζ(゚ー゚*ζ

 と、まともに取り合いもしなかった。

l从・∀・ノ!リ人「内藤先生は、そんな大それたこと出来るような根性ないのじゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「商業科の生徒から人気あるって聞くしねえ」

(;-_-)「……まあ、ちょっと変だけど悪い人じゃないと思います」

( ^ν^)「ストーカーに、いい人も悪い人もあるかよ」

 キーを打つのをやめ、ニュッは馬鹿にしきった表情と声で言った。
 それを受けてヒッキーが困ったように首を捻る。

421 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:23:40 ID:atVRl4YIO

('A`)「内藤はこの間、高岡に悪い虫がついたって俺に言ってきた。
    あれが盛岡デミタスのことなら……。
    まあ、そうでなかったとしても、高岡に近付く男を良しとは思ってないだろうな」

ζ(゚、゚*ζ「悪い虫? 一緒に校内新聞作るだけで?」

( ^ν^)「あいつはストーカーなんだから、そんぐらいの思考には至るだろ」

ζ(゚、゚*ζ「でもさ、でもさ、それなら、まずシベリア金融の人に手を出すと思わない?
      ツンちゃんに一番近付けたくないのはそっちの方でしょ」

(-_-)「僕がストーカーなら、恐い人よりも、一般人の恋敵の方を何とかしようとするかな……」

l从・∀・ノ!リ人「何じゃ何じゃ、ヒッキー先輩はストーカーの心理に詳しいのか?」

(;-_-)「そういうわけじゃないけど! ていうか語弊があるな! その発言は語弊があるな!」

ζ(゚、゚*ζ「ううん……内藤先生じゃないと思うんだけどなあ……」

 この議論には結論など出なさそうだ。
 証拠もなければ内藤もいない。

 デレとニュッ、ヒッキーは商業科の生徒ではないし、
 妹者だって授業を受けるようになってから1ヶ月程度。
 内藤の人格など、ここにいる誰にも分からない。

422 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:24:11 ID:atVRl4YIO

('A`)「……」

 ふと、ドクオは視線を上げた。

 内藤は来ない。
 内藤を詳しく知る者はいない。


 ならば、自分が知ればいいのだ。



*****

423 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:25:11 ID:atVRl4YIO


('、`;川「突き落とされたあ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ、こら、静かに、静かに!」

 2年A組の教室。
 ペニサスの大声に、ツンは慌てて周囲を見渡した。

 残っていた何人かの生徒が驚いたように一度振り返ったが、
 すぐに、帰宅の準備やお喋りなど、各々の作業に戻った。

 デミタスの怪我について生徒会にも情報が行ったらしく、
 夏期講習が終わったのを見計らって、ペニサスが教室に入ってきたのが20分ほど前。

 昨日デミタスから聞いた話をペニサスにも説明したところ、
 先程のようなリアクションが返されたのである。

424 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:26:08 ID:atVRl4YIO

ξ;゚⊿゚)ξ「あんまり言い触らさないでね」

('、`;川「つったってさあ……普通に傷害事件じゃん。警察に言わないわけ?」

 小声で言葉を交わす。
 ツンは、そっと溜め息をついた。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、校内で起きた事件でしょ?
      学校の関係者が犯人だとしたら世間体が悪くなっちゃうから、
      公表は控えてるんじゃないかな」

('、`*川「はあ……。嫌な話だねえ。事なかれ主義っていうかさ。
     ──にしても、何でデミタス君が狙われたかね。人畜無害そうなのに」

ξ゚⊿゚)ξ「分かんない……」

 その理由も、犯人も、ツンは既に知っている。
 今すぐ教師や警察に告げることも可能だ。
 しかし、どうしても踏み切れない。

 正直に言ってしまえば、恐かった。

 学校は犯人を見付けても通報はしないだろう。精々が免職処分。
 警察は元から信用ならない。

 よって、あのストーカーは自由に動けるわけで。
 そんな状態でツンが告発したと知られれば、一体どうなるか分からないのだ。
 報復される可能性だってある。

425 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:28:33 ID:atVRl4YIO

ξ゚ -゚)ξ「……」

('、`*川「ツン?」

ξ゚⊿゚)ξ「……え?」

('、`*川「や、何か、ぼうっとしてるから。どうかした?」

ξ゚ー゚)ξ「──ううん、別に」

 無理矢理笑って、ツンは答えた。
 それから欠伸を噛み殺す。
 昨夜は眠れなかった。

ξ゚ー゚)ξ「……それよりペニサス、生徒会は放っといていいの?」

('、`*川「補習があったから、途中で生徒会抜け出してきたのよん」

 言って、ペニサスが頭を掻く。
 ツンは小首を傾げた。
 テストで悪い点でもとったのだろうか? ペニサスは昔から頭がいいのだが。

 疑問が顔に出ていたのか、ペニサスは「いやいや」と右手を振った。

426 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:29:19 ID:atVRl4YIO

('、`*川「補習っていうか講習かな。簿記の。
     次の検定に向けて、希望者だけが参加する講習があってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「何だ、そうなの」

('、`;川「でもさあ、聞いてよ。内藤が来なかったから、結局やらなかったの」

ξ゚⊿゚)ξ「内藤?」

('、`*川「あ、ツンは知らないか。
     簿記の先生。非常勤だけどさ、若いし面白いから、他の先生より人気あるんだよ。
     こう、にこにこっとしてて、変な喋り方で……」

 ペニサスが、内藤というらしい教師の特徴を説明する。
 それから声色を変えて──物真似だろうか──妙な語尾の言葉を一言吐いた。

 その特徴が。
 昨日の、ストーカーに酷似していた。

427 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:31:02 ID:atVRl4YIO

ξ゚⊿゚)ξ「……内藤先生っていうの?」

('、`*川「うん。内藤……何つったかな、ホライゾンだっけ」

ξ゚⊿゚)ξ「内藤……」

 内藤。内藤ホライゾン。

 その名前を口の中で呟く。
 もしも彼とストーカーが同一人物なら、補習に来なかったというのは
 昨夜のやり取りが原因だろう。

 内藤はどう思っているのだろうか。
 自身の行いの異常さに気付いたか。
 それとも拒絶したツンを恨んでいるか。

 危惧すべきは後者だ。
 嫌な想像ばかりが湧いてくる。

('、`*川「──さて。お腹すいたし、食堂でも行こうかね。
     ツン、何か予定ある? ないなら一緒にご飯食べようよ。安いので良けりゃ奢るし」

ξ゚⊿゚)ξ「予定はないけど……」

 そこまで言って、ツンは口を噤んだ。

 内藤。手紙。デミタス。
 色々なものが頭の中を巡る。

428 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:31:47 ID:atVRl4YIO

ξ;゚⊿゚)ξ「……ごめん」

('、`*川「へ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ごめん、ちょっと──用事思い出した。行けない」

 立ち上がる。
 学生鞄に教科書やノートを突っ込んで、ツンは駆け出した。

('、`;川「あっ、ツン!?」

 ペニサスと一緒にいてはいけない。
 仲良く話してはいけない。

 今度は、彼女に危機が迫るかもしれないのだ。

 廊下を走る。
 特別教室棟へ回った。

 しばらく行けば、図書館に下りる階段がある。
 そこに行こう。
 心を落ち着けて、静かに考え込みたかった。

429 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:33:10 ID:atVRl4YIO

('A`)「──ん?」

(-_-)「あ」

 唐突に、ある教室から2人の男が出てきた。
 どちらも知っている顔だ。
 走るスピードを緩め、彼らの前で足を止める。

('A`)「よう、高岡」

ξ;゚⊿゚)ξ「ど、ドクオ先生……。……こんにちは。小森君も」

(-_-)「さっきぶり。何か急いでるの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ううん、そういうわけじゃないけど」

 鬱田ドクオと小森ヒッキー。

 同級生達はドクオのことを「キノコ」なんて呼んで馬鹿にしているが、
 ツンはドクオのことを嫌ってはいなかった。
 彼の授業は面白い。

 実験室B、のプレートが目に入る。
 キノコの部屋。

430 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:33:48 ID:atVRl4YIO

('A`)「用でもあるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いえ……」

('A`)「おお、そうかそうか。丁度いい。実に丁度いいぞ、高岡」

ξ;゚⊿゚)ξ「は、はい?」

('A`)「──これからお前の家に行こうと思ってたんだ」



*****

431 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:34:49 ID:atVRl4YIO


从 ゚∀从

 ハインリッヒはスーパーの野菜コーナーの前で、ぼうっと考え込んでいた。

从 ゚∀从(……殺せなかったな……)



 ──早朝、夜勤から帰ったとき、ツンが居間で出迎えてくれたのを見て
 ハインリッヒは内心で動揺してしまった。

   ξ゚⊿゚)ξ『おかえり』

   从 ゚∀从『……ただいま』

 卓袱台の上には、手つかずの夕飯が乗っている。
 食欲がなかったの、とツンが申し訳なさそうに言った。

   ξ゚⊿゚)ξ『朝に食べるね。……あ、お母さん、お腹すいてるなら食べて』

   从 ゚∀从『いや、母さんはすぐ寝るから。
        ──これ、休憩のときに分けてもらったやつ。後で食べな』

   ξ゚⊿゚)ξ『ん、ありがとう』

 菓子が入ったビニール袋をツンに渡す。
 心ここにあらずといった様子のツンは、受け取った袋の中身も確かめずに頷いた。

432 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:35:50 ID:atVRl4YIO

 時計を見る。
 午前4時を少し回ったところ。
 外はもう明るくなり始めていた。

   从 ゚∀从『まだ寝てなかったんだな』

   ξ゚⊿゚)ξ『夏休みの課題やってて、気付いたらこんな時間だったから
         もう朝まで起きてることにしたの』

   从 ゚∀从『寝なくて大丈夫か?』

   ξ゚⊿゚)ξ『……うん』

 いつものハインリッヒなら、娘の様子がおかしいのに気付いたろう。
 だが、そのときの彼女には、冷静に娘を観察する余裕はなかった。

 どうやって娘を殺すか、どうすれば苦しめずに殺せるか、どうやって自分も死ぬか。
 そればかり考えて帰路につき、覚悟も決めていたため、
 実行に移せなくなったことによる反動が大きかったのだ。

433 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:37:06 ID:atVRl4YIO

   从 ゚∀从(後ろからタオルで首を……、……無理だよな……)

 ツンだって高校生で、歳相応の腕力はある。あまり暴れられのは好ましくない。
 だから彼女が寝入っているときを狙いたかった。
 なのにツンは起きている。

 今日はもうツンを殺せない。
 自分も死ねない。
 早く死なないといけないのに。早く死なないと、取り返しのつかないことになりかねないのに。

 残念というわけでもなく、安堵というわけでもなく、
 自分でもよく分からない複雑な感情を抱えたまま、ハインリッヒは眠ったのであった。

434 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:37:43 ID:atVRl4YIO

 昼前に目覚め、冷蔵庫が空なのに気付いてスーパーにやって来た今になっても、
 彼女の思考はずっと同じ内容で占められている。

从 ゚∀从(次は、いつチャンスがあるかな……)

 ──ハインリッヒはもう、すっかり精神的に参ってしまっていたのだ。

 「死」という道が、ひどく合理的で救いに溢れているように思えてならなかった。



*****

435 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:39:47 ID:atVRl4YIO


 白い車。
 ドクオが助手席のドアを開ける。
 手で促されたので、ツンは一礼してから助手席に乗り込んだ。

('A`)「ヒッキーは後ろな」

(-_-)「はい」

 ヒッキーが後部座席、ドクオが運転席にそれぞれ座り、エンジンが掛けられる。
 車内には熱気が篭っていた。
 クーラーのスイッチが入れられる。

('A`)「んじゃあ、道案内よろしく」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かりました」

436 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:41:29 ID:atVRl4YIO

 「ストーカーの手紙を見せてくれ」。
 実験室の前で、ドクオはそう言った。

 何故知っているのか。
 何故そんなことをするのか。
 尽きぬ疑問はあったが、ツンは、知らず知らず頷いていた。

 ドクオの目が、勝手にツンを頷かせたのだ。
 縋る者を許すような。
 得も言われぬ何かが、彼女を安心させる何かが、瞳の奥にあったから。

 車が動き出す。
 ツンは、シートベルトを引っ張った。


.

438 :名も無きAAのようです:2012/07/29(日) 00:43:27 ID:atVRl4YIO



 ──伊藤ペニサスが何者かに襲われたという電話がツンに掛かってくるのは、
 それから約2時間後のことである。





【続く】



→後編

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