スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

('A`)はキノコのようです 前編

227 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:18:44 ID:R9EfTjzEO


 高岡ハインリッヒは死に方について考えていた。


从 ゚∀从「……」

 閉まったばかりのドアに背を預け、ずるずると座り込む。
 じんじんと痺れる頬。右手で触れてみると、僅かに熱を持っていた。


   『──おっとっと。すみませんね。殴ったんじゃないんですよ?
    ただ、虫が飛んでたから振り払おうとしただけなんですよ。ごめんなさいねえ?』


 数分前の、男の声が耳の奥で繰り返される。
 笑い混じりの、粘つくような声。

 ──もう無理だ。
 もう耐えられない。

 死のう。
 早く死のう。
 娘と一緒に死のう。

 壁に手をつきながら立ち上がり、娘の名を呼ぶ。



228 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:19:17 ID:R9EfTjzEO

从 ゚∀从「ツン」

 何度呼んでも、彼女の部屋を覗いても娘はいない。

 そうだ、まだ学校に行っている時間だ。
 ハインリッヒは居間の中央で膝をついた。

从 ゚∀从「ツン……」

 いつ死のうか。
 方法はどうしよう。自分はともかく、娘に苦痛を与えたくはない。

 どうしよう──



*****

229 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:19:56 ID:R9EfTjzEO


 高岡ツンは喜びと不安の狭間にいた。


ξ゚⊿゚)ξ「……失礼しました」

 学生鞄を抱え、職員室を出る。
 小走りになりながら、廊下を進んでいった。

 どこへ行こう。
 教室は吹奏楽部が使っていた気がする。

 図書館ならどうだろう。
 あそこなら、広々と使える机もあるし。

ξ*゚⊿゚)ξ

 わくわくしてきて、ツンの足は徐々にスピードを上げていった。

 だが──

ξ゚⊿゚)ξ(……お母さん)

 母のことが頭を過ぎった途端、速度は落ち、ついには立ち止まってしまった。

230 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:20:45 ID:R9EfTjzEO

ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫かな)

 今日も、あいつらは家に来たのだろうか。
 母は無事だろうか。

 窓を見る。
 まだ明るいが、じきに、日が暮れる。

 いつもなら帰宅している時間。
 しかし──これからしばらく、普段より帰るのが遅くなる筈だ。
 その間、ツンの与り知れぬ内に、あいつらが母に何かしらの危害を加えるかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ(それに、『あれ』も……)

 他にも気になることがもう一つ。

 ツンにはストーカーがいた。
 身の危険を感じるほど凶悪なわけではないので、あまり気にもしていないが、
 このまま放っておいたままでいいのかと悩む気持ちもある。

 どうしよう──



*****

231 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:22:21 ID:R9EfTjzEO


 内藤ホライゾンは「キノコ」に会うべきか会わざるべきか悩んでいた。


(;^ω^)「ううんと……」

 私立ニューソク高校、特別教室棟3階。

 非常勤講師の内藤は、「実験室B」のプレートを何度も見上げては、
 引き戸に右手を伸ばしてすぐに引っ込める、を繰り返した。

 話し声がするので室内に誰かがいるのは分かるのだが、
 引き戸に付いているガラスからは教室の中が見えないので、入るタイミングが掴めない。
 というのも、すぐ向こう側で真っ黒なカーテンが引かれているのだ。

(;^ω^)(実験室Bは、放課後は科学実験同好会の活動場所……だおね)

 ニューソク高校は生徒が多い。校舎も大きい。
 故に、教室の数も多いし、部活や同好会の数も多い。

 内藤が用のあるのは、「科学実験同好会」──ひいては、その顧問だ。
 だが、他にも「科学部」やら「生物部」やら、似た系統の部活が色々あるので
 本当にここでいいのか迷ってしまう。

 ならばさっさと教室に入って確かめればいいのに──と誰しも思うだろう。
 だが、内藤は簿記会計の講師であり、科学といった方面にはとんと弱い。

 もしも重大な実験の真っ最中だったら。そして自分が引き戸を開けるせいで、
 とんでもないミスが起きたら……などと、妙な心配をしているのである。

232 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:23:57 ID:R9EfTjzEO

(;^ω^)(ノックすれば……いや、その音でびっくりさせちゃうかも……)

(*゚ー゚)「あ、内藤先生だ」

o川*゚ー゚)o「こんにちは」

(;^ω^)「ひゃっ……!」

 あげかけた悲鳴を何とか押し込んだ。
 だが、物凄い勢いで後退したので、ぱっと見のリアクションの大きさは変わらない。

 内藤に声をかけたのは、2人の女子生徒だった。
 2人共、大きなケースを抱えている。
 たしか彼女達は吹奏楽部だったと思うので、楽器が入っているのだろう。

(*゚ー゚)「キノコの部屋の前で何やってんの?」

o川*゚ー゚)o「そんなとこに居たら根暗が伝染るよー」

 けらけらと笑いながら、彼女達が去っていく。
 その背が角を曲がると、再び、廊下には内藤のみが残った。

(;^ω^)「……はあ」

 このままでは、同好会の活動が終わるまで、この場に突っ立ったままになりそうだ。

 どうしよう──



*****

233 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:24:49 ID:R9EfTjzEO


 鬱田ドクオは財布を覗いて溜め息をついた。


('A`)(マジでやべえ……)

 財布には100円玉が2枚と、5円玉と1円玉が3枚ずつ。
 これが鬱田ドクオの全財産だ。

 くたびれた白衣のポケットに手を突っ込む。紙くずがあるだけ。
 立ち上がり、軽くジャンプしてみる。何の音もしなかった。

l从・∀・ノ!リ人「何してるのじゃ?」

('A`)「いや。何も」

 怪訝そうにドクオを見る少女へ右手を振って答え、椅子に座り直す。
 彼女は首を傾げたが、それ以上追究する気もなかったらしく、自分の作業に戻った。
 作業、と言っても、スナック菓子やジュースを飲み食いするだけなのだが。

234 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:25:35 ID:R9EfTjzEO

ζ(゚ー゚*ζ「妹者ちゃん、ちょっとちょうだい」

l从・∀・ノ!リ人「構わんのじゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがと! ──はいニュッ君、あーん」

( ^ν^)「……」

ζ(゚、゚*ζ「あー、無視したー。じゃあヒッキー君どうぞ」

(;-_-)「え……ぼ、僕ですか……?」

 菓子の匂いがドクオの鼻に触れる。
 腹が鳴る気配がして、ドクオは服の上から胃袋の辺りを撫でた。
 今朝から何も食べていない。

 とにかく金がないのだ。
 友人から借りた金を返し、趣味の本などを買い、
 これ以上滞納したら供給を止められそうな光熱費を払ったら、こんなことに。

l从・∀・*ノ!リ人「うまうま」

 先程ドクオに声をかけた少女を見遣る。
 脳裏に浮かんだ考えを、慌てて振り払った。

235 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:26:52 ID:R9EfTjzEO

('A`)(さすがに、生徒に金借りるのはなあ……)

 とは言うものの、数少ない友人には「もうお前に金は貸さない」と宣言されたし、
 親も10年ほど前に亡くなっているし、
 次の給料日は来週。参った。

 元から食は細い方なので、家にある米やカップ麺で空腹は何とかなるものの。
 溜まりに溜まった3ヶ月分の家賃を明後日までに払わねば、アパートを追い出されかねない。

 どうしよう──


.

236 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:27:29 ID:R9EfTjzEO





('A`)はキノコのようです

          【ストーカーと借金取りとドクササコ】→前編




.

237 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:30:38 ID:R9EfTjzEO


('A`)「──生徒に関する相談?」


 くたびれたワイシャツにくたびれた白衣を着た、30代も終わりに近そうな男は
 椅子に腰掛けたまま、内藤を胡乱げに見上げた。

(;^ω^)「はい、聞いていただけませんかお」

('A`)「面倒臭そうだな」

 男──鬱田ドクオが肩を竦める。
 内藤は、目だけを動かして辺りを見渡した。

 入り口のガラスや窓などの全てに遮光カーテンが引かれ、
 照明もいくらか弱く設定されているので、時計を見ないと、
 まだ日も暮れていない時間だということを忘れてしまいそうだ。

(;^ω^)(これが、実験室B……通称『キノコの部屋』……)

 たっぷり悩んだ末に、内藤が「相談があるんですが!」と叫びながら教室へ入ったのが3分前。

 キノコの部屋と呼ばれる割には「それらしい」ものもないし、
 科学実験同好会の部室な割には、「それらしい」活動をしている生徒がいない。

238 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:31:26 ID:R9EfTjzEO

ζ(゚ー゚*ζ「このワンピース可愛い!」

 1人はファッション雑誌を眺め、

( ^ν^) カタカタカタ

 1人はノートパソコンのキーを打ち、

(-_-) ペラッ…

 1人は文庫本のページをめくり、

l从・∀・*ノ!リ人「今月の新商品は当たりばっかりなのじゃ」

 1人は大量の菓子を次々と口に運んでいる。

(;^ω^)(科学実験は……?)

('A`)「そもそもな」

(;^ω^)「え? あっ、は、はい。何ですかお」

('A`)「俺、あんたの名前も知らねえんだよ」

239 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:32:36 ID:R9EfTjzEO

(;^ω^)「あ、僕、内藤ですお。内藤ホライゾン。
       非常勤講師をやってますお」

('A`)「ふうん……。
    悪いな、あんまり職員室にゃ行かねえから、若い先生の顔は覚えてねえんだ」

(;^ω^)「いえ……」

 ──科学教師、鬱田ドクオ。
 たしか30代後半で、独身だと聞いている。

 彼は生徒から「キノコ」と呼ばれていた。

 普段から、じめじめした薄暗い科学準備室──実験室の隣にある──に籠り、
 授業や同好会の活動中も、実験室のカーテンを閉めっぱなし。

 そういった場所を好むのと、ドクオ本人もまた陰気な顔と性格をしているために、
 キノコと呼ばれるようになったらしい。
 愛称というより蔑称である。

 この部屋が「キノコの部屋」と呼ばれるのも、それが理由。

240 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:33:43 ID:R9EfTjzEO

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、道理で見覚えがないと思った!
      ちょっと太ってて、にやけ顔で若い男の『内藤先生』っていったら、
      商業科で簿記教えてる人でしょ!」

 不意に、雑誌を読んでいた女生徒が手を叩いた。
 てっきり内藤達の話を聞いていないと思ったのだが、しっかり聞き耳は立てていたようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ね?」

(;^ω^)「そ、そうだお」

 ──ニューソク高校には、普通科、普通科特進、商業科の3つのコースがある。

 商業科には特有の教科が多いので、そういった科目を担当する教師や講師は、
 その他のコースの生徒とはなかなか授業で会うことがないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「私は普通科3年D組の、デレっていいます! この同好会の部長やってます。
      こっちは同じクラスのニュッ君。
      はいニュッ君、よろしくお願いしまーす。ぺこりっ」

(#^ν^)「やめろ」

 デレと名乗った女生徒は、隣に座る男子生徒──ニュッというらしい──の頭を強引に下げさせた。
 手を振り払われてもデレは意にも介さず、「えへへ」なんて笑う。

 デレが色々話しかけるが、ニュッは碌に返事もせずにノートパソコンのキーを叩き続けた。

241 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:35:16 ID:R9EfTjzEO

(-_-)「あの、ぼ、僕は小森ヒッキーです。……特進の2年です」

 文庫本を置き、どこかおどおどした雰囲気で挨拶する小森ヒッキー。
 「特進」の響きに、内藤は僅かに反応した。

 商業科や普通科よりも、今の内藤の関心は、特進へ多大に向けられていた。
 その理由は追々。

( ^ω^)「えっと、よろしくお。……で、そっちが、」

l从・∀・ノ!リ人「内藤先生、3時間目ぶりなのじゃ」

 正直、この部屋に入ってから真っ先に内藤が気になったのは、この生徒だった。
 紙パックにストローを刺して、その人は内藤に右手を振ってみせた。

242 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:37:09 ID:R9EfTjzEO

( ^ω^)「妹者さんだおね。
       今日返したテストに僕の採点ミスがあったお」

l从・∀・*ノ!リ人「じゃろう! 何回計算しても純利益にしかならないから、おかしいと思って……。
        あ、じゃあ採点し直しなのじゃ?」

( ^ω^)「それでも妹者さんは赤点のままだけど」

l从・∀・;ノ!リ人「ふぐっ……」

 流石妹者。
 商業科の1年生で、内藤とも面識がある。

 高校生より中学生──下手をすれば小学生──に見えるほど体が小さく、
 顔も幼いため、クラスメートと一緒に授業を受けている姿はいささか目立つ。

( ^ω^)「……彼らで、科学実験同好会の部員は全部ですかお?」

('A`)「ん? ああ。科学実験っつっても、実際は各自適当に好きなことやるだけなんだけどな」

 内藤は、改めて4人の顔を見比べた。
 最後に妹者を凝視し、ドクオへ振り返る。


244 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:38:59 ID:R9EfTjzEO

( ^ω^)「やっぱり、『不登校児の救世主』って噂は本当なんですかお」

('A`)「……」

 ドクオから返ってきた視線の冷たいこと。
 半ば睨むような目だ。

('A`)「その恥ずかしい呼び方やめろ」

ζ(゚ー゚*ζ「キノコよりはマシじゃない。『不登校児の救世主』」

( ^ν^)「だっせえ」

 デレとニュッが、くすくす笑う。
 ドクオは心底嫌そうに顔を顰めた。

 「不登校児の救世主」。
 キノコが生徒達の付けたあだ名なのに対し、
 こちらは、一部の教師間で囁かれているドクオの異名である。

(-_-)「まあ、あながち間違ってませんよね」

 言って、ヒッキーが苦笑する。
 内藤の顔が、ぱっと明るくなった。

245 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:40:51 ID:R9EfTjzEO

l从・∀・ノ!リ人「何なのじゃ、それ?」

 いらんことを訊くな、とドクオが妹者を睨みつける。
 しかし怯みもせず、妹者は内藤の顔を真っ直ぐに見つめて答えを待った。

 そんな目をされたら答えぬわけにもいくまい。
 内藤は、こくりと頷いた。

(*^ω^)「学科、学年、学級問わず!
       不登校だった生徒が、ある日急に学校に登校し始める。
       担任の先生にも保健室の先生にも理由は分からないけれど──」

 そこまで言って、右手でドクオを示した。
 少々大仰な仕草だったが、妹者は楽しそうに聞いている。

(*^ω^)「決まって、そういう生徒はドクオ先生に懐く!
       実験室に入り浸って、ドクオ先生が顧問をやってる科学実験同好会に入部するんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、先生達が言うんだよ。
      『ドクオ先生が悩みを解決してやったんじゃないか』って。ね、ニュッ君」

l从・∀・ノ!リ人「ほうほう。それで『不登校児の救世主』」

 ドクオは呆れたような表情を向けていたが、特に否定はしなかった。
 反対に、内藤の中の期待はどんどん大きくなっていく。

 やはり──やっぱり、噂は事実だった。

246 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:42:13 ID:R9EfTjzEO

ζ(゚ー゚*ζ「実際、不登校だったヒッキー君や妹者ちゃん、ニュッ君は
      ドクオ先生のおかげで登校するようになったしね」

 そうなのだ。
 妹者は最近まで不登校だった。

 3ヶ月前、入学して間もない頃から登校する頻度が疎らになっていき、
 5月にはすっかり学校に来なくなっていた。

 そんな彼女だったが、先月──6月の中旬。
 久しぶりに登校したかと思うと、それから毎日、しっかり朝から放課後まで
 授業を受けるようになったのである。

 何か心境の変化があったのだろう、としか思っていなかった内藤の耳に、
 ある日、教師達の会話が入ってきた。

 「『救世主』が流石妹者に何かしてやったのでは」──と。

247 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:43:10 ID:R9EfTjzEO

('A`)「……で?
    その噂を知った内藤センセイは、どんな生徒の相談に来たってんだ?」

(;^ω^)「それがですね。その子はまだ不登校ではないんですけど……」

 内藤のテンションが、がっくり下がる。
 そう、ここからが本題だ。
 深呼吸。

 ──プライバシー等を理由に、妹者達には席を外してもらおうかとも考えた。
 しかし内藤も必死なのだ。
 一刻も早く、ドクオに話したかった。

 結局、そのまま話を始める。

( ^ω^)「……高岡ツンさんという生徒が、危ない輩に狙われてるんですお」



*****

248 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:44:52 ID:R9EfTjzEO


 高岡ツン。
 それは、ドクオも知っている生徒だった。

('A`)(ああ、あいつか)

 吊り目がちな女生徒の顔が、ドクオの脳裏に浮かぶ。
 彼女のクラスの授業を受け持っているから、よく知っていた。

 しかし、簿記の講師だという内藤と、どういう風に知り合ったのやら。

( ^ω^)「特進の、2年A組の子ですお。出席番号は……」

('A`)「28番だな」

ζ(゚ー゚*ζ「聞いたことある。すっごく頭いい子でしょ。
      ヒッキー君と同じクラスじゃなかった?」

(-_-)「高岡さん、うちのクラスの学級委員長です。
    ……何かに悩んでるって様子は、なかった気がするけど……」

 ヒッキーが首を傾げる。
 昨日授業で会ったばかりだが、ドクオの見た限りでも、普段と変わりないように思えた。
 一体、彼女の身に何が起こっているというのだろう。

249 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:46:18 ID:R9EfTjzEO

('A`)「その高岡が、誰に狙われてるって?」

 ニュッを除く全員が内藤を注視した。
 おやつに夢中になっていた妹者も、カステラを頬張りながら内藤に顔を向ける。

 彼は一呼吸置いて、痛ましげな表情で口を開いた。

( ^ω^)「……借金取りですお」

(-_-)「しゃ、借金取り、ですか?」

 ヒッキーが引っくり返りそうな声で言う。
 彼には、そういった類の人種に散々苦しめられた過去がある(それが去年登校拒否になった原因でもあった)。

 嫌な記憶を思い出したのか、ヒッキーは頭を振った。

( ^ω^)「彼女のお父さんが、所謂まあ、ダメ人間でして。
       借金繰り返して膨らませてった挙げ句に、ついに今年の2月、
       『妻も娘も好きにしていいから俺は見逃してくれ』っつって逃げ出したそうですお」

ζ(゚、゚*ζ「わあ酷い」

( ^ν^)「クズだな」

 今まで黙っていたニュッが、ぽつりと呟いた。
 にやにや楽しそうに笑いながら話を聞いている奴が、どの面下げて。

 内藤にニュッの笑顔が見えないよう、ドクオは腕を広げて大仰なリアクションを返した。

250 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:47:16 ID:R9EfTjzEO

('A`)「ろくでもねえところから金を借りてたみたいだな」

( ^ω^)「はいお。シベリア金融ってとこから」

('A`)「シベリア金融」

 聞き覚えはない。
 ちらり、ドクオは妹者に視線をやった。
 妹者は無言でスナック菓子の袋を開けている。

( ^ω^)「僕も詳しくは分かりませんが、随分たちの悪いとこらしいですお」

('A`)「残された高岡の母さんには、借金返すアテもないわけだな?」

( ^ω^)「あったらとっくに返してますお。
       ……正直に言ってしまうと──彼女の家、貧乏で。
       利息分を払うのも追いつかないとか」

('A`)「だよなあ……」

( ^ω^)「それに、頼れる親戚もいないみたいですし」

 高岡ツンの家庭の経済状況が芳しくないのは、何人かの教員も知っていることだ。

 彼女は特待生なので学費を免除されているが、
 それがなければ、この高校に通うことなど不可能なのだという。

251 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:48:07 ID:R9EfTjzEO

( ^ω^)「今じゃ、毎日のように取り立てに来てるんですお。
       このままではツンさんが学校に来れなくなるどころか、
       最悪の事態にまで陥りそうで……」

('A`)「最悪?」

( ^ν^)「風俗に売られるとか人身売買とか臓器売買とか」

ζ(゚、゚*ζ「そういうのって本当にあるのかなあ?」

(;-_-)「さあ……でも、まともな会社じゃないらしいし……」

( ^ω^)「僕にお金があったら何とかしてあげるんですけど、
       僕には、せいぜい20万くらいしか用意出来ないし。
       こんな程度じゃ、どうにも……」

ζ(゚、゚*ζ「内藤先生、優しいねえ」

( ^ν^)「偽善者」

ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君はどうしようもないね」

 デレがニュッの頬を抓る。
 それを横目で眺め、内藤は目を伏せた。

252 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:49:39 ID:R9EfTjzEO

( ^ω^)「──まあ、仮に、もっとお金があったとしても、
       彼女は受け取ってくれないだろうとは思うんですけどね」

l从・∀・ノ!リ人「そうなのじゃ? 妹者なら喜んで貰うのじゃ」

( ^ω^)「きっとツンさんは、簡単には受け取らないお」

 憂えるような瞳で足元を見下ろす内藤。
 ドクオは善人でも悪人でもないが、人の心を慮ることは出来る。

 彼は、ツンのことを心から案じているのだろう。
 きっと彼女も、それが分かっている。
 だからこそ内藤を巻き込みたくないと思って──

253 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:50:19 ID:R9EfTjzEO



( ^ω^)「受け取る前に、多分すぐさま通報とかされて僕捕まりますし」

('A`)「──あん?」



 ドクオの脳内で繰り広げられた美しい人間ドラマが、一瞬で崩れ去った。

254 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:51:27 ID:R9EfTjzEO

 通報? 誰が? 内藤が? 何で。

(;-_-)「通報……?」

('A`)「いやいやいや、いや……何をもってして逮捕されんだよ」

 ツンを救うために内藤が金を渡すだけで、何故警察が動く羽目になるというのか。

 疑問符を飛ばしながら問い掛けると、内藤は、照れ臭そうに頬を掻いた。
 そして、答える。


(*^ω^)「僕がストーカーなの、バレちゃうと思いますんで」

('A`)


 ──ドクオが理解するには、一向に情報が足りなかった。
 理解出来ていないのはドクオだけではない。

 普段はにこにこしている妹者とデレが眉を顰めているし、
 先程までノートパソコンしか見ていなかったニュッも、怪訝な表情で内藤を凝視している。
 ヒッキーに至っては「どういうこと?」と動揺をそのまま口にしていた。

255 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:53:52 ID:R9EfTjzEO

('A`)「……ちょっと待て」

(*^ω^)「お?」

('A`)「え? ストーカーなの?」

(*^ω^)「世間一般には、ストーカーと呼ばれるものだと思いますお。
       ラブレターたくさん送ったり、後を尾けたり、こっそり写真撮ったり……」

(;'A`)「……いつから?」

(*^ω^)「去年の夏に、学校で彼女を見て一目惚れして……。
       それから一方的に付け回しちゃったりなんかして」

(;'A`)「た、高岡は、お前のこと知ってんのか?」

(*^ω^)「彼女は僕のこと、名前も知らないんじゃないですかお」

 彼女は特進の子だし、と内藤は付け足した。
 「ストーカー」が「自分の学校で講師をしてる男」だというのも知らないだろう、とも。

256 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:55:38 ID:R9EfTjzEO

(*^ω^)「あ、でも、半年前に一度だけ顔は合わせてるんですおね。
       ストーカーとして」

(;-_-)「……って、いうのは」

(*^ω^)「僕、彼女の家の郵便受けによくラブレターを入れてたんですお。
       で、1月22日の午前5時、いつものように手紙を持っていったときに鉢合わせちゃって……。
       向こうは可愛いパジャマ姿でちょっと得しちゃったなって思ったりえへへへ」

(;^ν^)「郵便受けに手紙って、直接かよ」

ζ(゚、゚*ζ「大胆だねえ。それからどうしたの?」

(*^ω^)「ストーカーですかって言われたからすぐ逃げましたお。
       でも、それから学校ですれ違っても一向に通報も何もされないんで、
       僕の顔までは覚えてないんじゃないかなあ、と」

 今はもう手紙の頻度もかなり減らしましたけど、と内藤が頭を掻く。
 知ったことか。

257 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:56:55 ID:R9EfTjzEO

(*^ω^)「まあ、そういう事情があるので、いきなり僕が彼女にお金なんか渡したら……
       彼女は頭がいいから、すぐに正体バレかねませんお」

(*^ω^)「それに僕、こんな喋り方じゃないですか。
       半年前、鉢合わせたときに少しだけ会話しちゃったんで、
       下手すりゃ口調だけで気付かれるかもしれませんお」

(;'A`)「……」

 ドクオは額に手をやった。

 反芻、整理する。
 去年の夏に学校で高岡ツンに一目惚れした内藤は、
 彼女に対してアプローチ──という名のストーキング行為──をしていた。

 しかし1月某日、彼女本人に犯行の瞬間を見られた。現行犯だ。
 顔は覚えられていないようだが、彼の特徴的な口調を聞かれているから
 不用意に接触を図れない。

 ツンに借金の話題を出してしまえば、それだけでストーカーだと悟られる可能性もある。

 だから内藤にはどうしようも出来ない、というわけか。
 何だこれは。
 何の話だ。

258 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 22:58:25 ID:R9EfTjzEO

l从・∀・ノ!リ人「とんだ犯罪者だったのじゃ……」

(*^ω^)「いやあ、ははは」

(;^ν^)「何で照れ臭そうなんだよ。
       何で『お恥ずかしい話ですが』的なノリなんだよ。本当にお恥ずかしいわ」

ζ(゚ー゚*ζ「ねえねえ、ストーカーってやっぱり盗聴とかするの?」

(*^ω^)「いやあ、さすがに、盗聴器までは仕掛けられないお。
       借金云々の情報は、お家の近くをうろついたり借金取りとの会話を立ち聞きしたりして……」

ζ(゚、゚*ζ「なあんだ。ニュッ君は盗聴したことある? やりそうだよね」

( ^ν^)「やんねえよ死ねよ」

(;'A`)(関わりたくねえ……)

 どこから突っ込めばいいのだろう。

 とりあえず──内藤が「まとも」な人間でないことだけは分かる。

 だが、彼に何を言うべきなのかが分からない。
 「ストーカーはいけないことですよ」、とか。しかし既に自覚はしているようである。
 「自覚してるならやめなさい」? 言われてやめるなら、とっくにやめているだろう。

259 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:00:43 ID:R9EfTjzEO

(;'A`)「あー……」

 ドクオが口ごもっていると、次第に内藤の表情が曇り出した。

(;^ω^)「……ドクオ先生にも、助けることは出来ませんかお」

 残念そうな内藤の声。
 そうだ。そもそも、これは高岡ツンを借金取りから助けてくれという話だった。

 ドクオは咳払いをし、首を振った。

('A`)「……噂の通り、俺は今まで、ガキ共の悩みを何度か解決してやったことがある。
    最初は8年くらい前。それからちょくちょく続けてきた」

(-_-)「そんな前からなんだ……」

('A`)「だが、俺は誰彼構わず助けてるわけじゃねえんだ。
    気に入ってた奴だとか、たまたま知って興味が沸いた奴だとか……
    まあ、ごく稀に、あんたみたいに『依頼』される場合もあったが」

 ちらりとデレを見る。
 他の部員と違って、彼女は不登校でも何でもなかった。

 昨年、登校しなくなった幼馴染みのニュッを何とかしてくれないかとドクオに頼んできて、
 それから何となく実験室に入り浸り、気付けば同好会の一員になっていただけ。

260 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:02:07 ID:R9EfTjzEO

('A`)「何にせよ、俺の気が向いたときだけ、そういうことをしてきた。
    俺は教師だが善人じゃないんでね。
    困ってる生徒全員を救ってやろうなんざ思ってねえんだよ」

(;^ω^)「そんな……」

('A`)「それで結論を言うと、高岡に関しては、気が向かない。
    特に気に入ってるわけでもねえし、面倒臭い」

 良心が痛まないでもない。
 けれど、ドクオにも出来ることと出来ないこと、したいこととしたくないことがある。

 生徒を助けるために危険な思いをしたことも何度かあった。
 正直、楽な仕事ではないのだ。
 見た目通りくたびれきった大人であるドクオには、億劫という言葉が付いて回る。

 特に今は、先月に妹者を助けたばかり。
 しばらく静かに学校生活を送りたかった。

(;^ω^)「ぼ、僕も、出来る限りのことは手伝いますお!」

('A`)「そもそも関わりたくねえんだよ。ストーカーなんていう人間にもな」


262 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:03:36 ID:R9EfTjzEO

(;^ω^)「ドクオ先生──どうか、どうかお願いしますお! このままじゃツンさんが……!」

('A`)「駄目駄目、諦めろ」

(;^ω^)「お礼ならしますから!」

 内藤は、ズボンのポケットから何かを抜き取った。
 両手でドクオに向けて差し出したそれは──茶色い封筒。

 「いいから帰ってくれ」と言おうとしたドクオは、口を開いた状態で黙った。

 お礼、と内藤は言った。
 封筒に入った「お礼」。大人が大人に封筒で渡す「お礼」。

 ドクオの頭を掠めたのは、侘しい財布の中身。

263 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:07:00 ID:R9EfTjzEO

('A`)「……それは」

(;^ω^)「お金……20万ぽっちですけれど、僕の貯金じゃ、これくらいしか」

 封筒から中身を出した内藤が、紙の束を広げてみせる。
 それはどこからどう見ても、一万円札の団体様だった。
 お礼のお札。お札のお礼だ。

ζ(゚ー゚*ζ「わあ、20万ってことは諭吉さんが20人だ」

( ^ν^)「本物?」

(;^ω^)「本物に決まってるお!」

(;-_-)「そんなお金、ドクオ先生にあげちゃっていいんですか?」

(;^ω^)「どうせ、こんな金額じゃ借金返済の足しにならないし。
       ツンさんに渡しようもないし……」

l从・∀・ノ!リ人「でも……」

 ドクオは、内藤の手から「お礼」を引ったくった。
 数える。20枚ぴったり。20万円だ。

 ドクオが住んでいる安アパートの家賃なら、3ヶ月分払っても充分足りる額。

264 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:07:51 ID:R9EfTjzEO

('A`)「──分かった」

(;^ω^)「……え……」

('A`)「引き受ける。普段は金で動きはしないんだが、特別だ」

(*^ω^) パァッ

 内藤の顔が明るくなった。
 本当に? という問いを、視線でぶつけてくる。

('A`)「ただし前払いだぞ」

(*^ω^)「構いませんお! ツンさんを助けてくれるなら!」

('A`)「ああ──」

 お札を指で弾く。
 ドクオは、にやりと笑った。


('A`)「──このキノコ様が、何とかしてやるよ」



*****

265 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:09:09 ID:R9EfTjzEO


 ツンは、くしゃみをした。

ξ゚⊿゚)ξ(冷房は丁度いいくらいなんだけど……)

 ちり紙で鼻をかみながら、図書館の中を見渡す。

 ニューソク高校の図書館は2階建てになっていた。
 2階は小説や漫画本、雑誌などの娯楽に特化した本が多く、
 テレビやプレイヤーといったAV機器も充実している。

 対する1階には、史料だとか文献だとか、小難しい本が並ぶ。
 2階に比べると利用者は少ない。

 その分1階は2階より静かだし、それに机が大きいので
 今のツンにはこちらの方が合っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「えいっ」

 ごみ箱に丸めたティッシュペーパーを投入れる。
 ツンは上機嫌に微笑み、机の上のルーズリーフへ向き直った。

 何を書こう?
 どこにどんな文字を置いて、どんな構成にするか、自分で決められる。

266 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:10:53 ID:R9EfTjzEO

ξ*゚ー゚)ξ(写真だけじゃなく、イラストも入れられるといいんだけど……。
      誰か、絵が得意な人いるかな)


 ──校内新聞を書いてくれないか。

 今日、放課後になってすぐ職員室に呼ばれたツンは、現代国語の教師にそう言われた。


   <_プー゚)フ『高岡、面白い文章書くだろ』

   ξ゚⊿゚)ξ『……そうですか?』

   <_プー゚)フ『お前が書いた小論文とか作文、好きなんだよなあ。
          正直、コンクールに出しても優勝出来るような文体じゃないけどさ。
          何ていうか、ちょっと、ふざけて書いてるだろ? 笑わせようとしてるっていうか』

   ξ゚⊿゚)ξ『あれでも抑えて書いてるんですけど……』


 その教師、エクストは、新聞部の顧問なのだという。
 新聞部と言っても現在は2人の3年生しかおらず、
 難関大学の受験を控えた彼らには、とても部活動をしている暇はないらしい。

 それで、ツンに白羽の矢を立てたわけだ。

267 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:13:00 ID:R9EfTjzEO

   <_プー゚)フ『テストも終わったばっかで申し訳ないんだけどさ。
          いや、無理にとは言わないぞ? 特進は夏期講習もあって忙しいだろうし』

   ξ゚⊿゚)ξ『……それ、いつまでに書けばいいんですか?』

   <_プー゚)フ『9月の半ばに配付するやつだから……
          チェックして手直しするのも考えると、
          夏休み明けまでには、校正刷りが出来るとありがたいな』

   ξ゚⊿゚)ξ『手書きより、パソコンでやった方がいいですかね?』

   <_プー゚)フ『好きな方でいいよ。手書きなら、俺がパソコンに打ち直すし』

   ξ゚⊿゚)ξ『あの──何を書けば』

   <_プー゚)フ『メインにしたい記事は大体決まってるんだ。運動部の大会とかさ。
          それ以外は、書きたいものがあるなら高岡が決めてもいいぞ』

   ξ*゚⊿゚)ξ『……私が……』

   <_プー゚)フ『お前も知ってるだろうけど、うちの高校の新聞、ページ数が多いんだ。
          勿論お前1人で書けなんて言わない。他の生徒にも頼む。
          ただ、全体の構成とかの指揮をとってほしいんだ。……どうかな』

268 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:14:22 ID:R9EfTjzEO

 ツンの答えは決まっていた。
 快諾し、エクストと軽く打ち合わせをして、職員室を後にした。

 メインの記事は彼と相談しながら進めていかなくてはならないが、
 その他は、ツンに任せてくれるそうだ。

ξ*゚⊿゚)ξ(何書こう? 運動部がメインなら、文化部にもスポット当てようっと。
      秋には文化祭もあるし、それに触れて……。
      そうだ、先月結婚した先生にインタビューしよう!)

 ルーズリーフに、思いつく限りの「話題」を書き連ねる。
 次から次へとアイディアが湧いて、とてもじゃないが全てを新聞に載せられそうにない。

ξ*゚⊿゚)ξ(楽しい新聞にしよう……。
      みんなじゃなくっても、なるべく多くの人が読んでくれるような)

 ──ツンは、文章を書くということが非常に好きだった。

 文章といっても小説や詩ではなく、
 例えるならエッセイのような、時事ネタを扱ったり、自分の考えを述べたりする類のものだ。

 それも真面目に書くのではない。
 読んだ人がくすりと笑うような、誰かを楽しませられるようなものを好んだ。

 将来は雑誌記者か随筆家になるのが夢である。
 そんなツンにとって、今回の話は願ってもないことだった。


270 :>>269投稿ミス:2012/07/26(木) 23:16:55 ID:R9EfTjzEO

ξ*゚⊿゚)ξ(ずっと書きたかったんだよなあ……)

 本当は、この学校に新聞部があると知ったとき、入部したくて堪らなかった。
 しかし特待生でいなければならないツンには
 部活動というものは少々難しい問題だったのだ。

 代わり映えもせず、つまらなそうに皆が流し読みする校内新聞を見ながら、
 自分ならこう書くのに──と、ずっと歯痒く思っていた。

 それが今、この状況にあって、張り切らないわけがない。

('、`*川「──おいっす」

ξ*゚⊿゚)ξ「あ、ペニサス」

 肩を叩かれて振り向くと、友人、伊藤ペニサスが立っていた。
 ツンの向かいへ移動し、椅子に腰を下ろす。

271 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:18:32 ID:R9EfTjzEO

ξ゚⊿゚)ξ「急に呼んでごめんね、生徒会の方は大丈夫?」

('、`*川「今は特に仕事ないし、私1人いなくても平気。うち、人手は足りまくってるから。
     で、何々? 今回はツンが新聞の『編集長』なんだって?」

ξ゚ー゚)ξ「編集長ならエクスト先生なんじゃないの」

('、`*川「それもそうか。じゃあ──責任者かね」

 ペニサスは商業科に通う2年生だ。
 生徒会の書記をやっている。

 中学校の頃からの友人で、ツンとは非常に仲がいい。

('、`*川「あんたが書く作文とか面白いもんねえ。
     中学の卒業文集なんか、読んでて笑っちゃったもん」

ξ*゚⊿゚)ξ「そう? ありがとう」

 生徒会に所属しているペニサスなら、学内のことにも詳しいのではないか。
 そう思ったツンが、先程、協力してほしいという旨のメールをペニサスに送ったのである。

272 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:20:15 ID:R9EfTjzEO

('、`*川「それで、メインはやっぱり運動部になるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。──多分だけど、特に野球部を大きく取り扱うことになると思う。
      今年の野球部、強いんでしょ?」

('、`*川「ああ、そうそう。中でも1年の斉藤がエースって呼ばれて注目されてるね。
     この間の試合じゃ完封だったし」

 野球に詳しくないツンには、完封、が何を表すのかよく分からなかったが、
 すごいことなのだろうとは理解した。

 頭の中で記事の構成を組み立てていく。

 野球部の記事は、そのエースのインタビューを──いや、他の部員が埋もれるのもいけない。
 あくまで校内新聞。生徒達のための新聞だ。
 エースと部長、顧問の話を心持ち多めに。そして他の部員の活躍も載せなくては。

 ツンだけでは難しい。
 野球を全く知らぬ者がインタビューしても、いい話は聞けない。

('、`*川「メインは運動部の記事で埋まるだろうけど……。
     それ以外はどうすんの?」

ξ゚⊿゚)ξ「色々、ネタは思いつくんだけどね」

 ルーズリーフをペニサスの手元へ滑らせる。
 そこに書かれたネタを見て、ペニサスは感心したように「へえ」と声をあげた。

273 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:21:34 ID:R9EfTjzEO

('、`*川「面白そうなの結構あるじゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、やるのは私だけじゃないからね……
      他の人達に何か書きたいものがあるなら、自由に書いてもらいたいの。
      ほら、私だけじゃ、ふざけすぎちゃうでしょ。真面目なのもあった方がいいわ」

('、`*川「真剣すぎて恐いわ、あんた。
     他って、誰が協力してくれるの?
     折角あんたが面白いもの書いても、他が散々じゃあ……」

ξ゚⊿゚)ξ「私だって大したことないけどさ。
      ──先生が、めぼしい生徒に声をかけてみるらしいの。多分大丈夫じゃない?
      それに、私も書いてほしい人がいるから頼んでみるつもり」

('、`*川「お、誰?」

ξ゚ー゚)ξ「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。
      文芸部の人。2年生の男子と3年生の女子。
      たしか、どっちも普通科の生徒だったかな」

 ツンは席を立つと、本棚に移動した。
 目当てのものを見付け、机に戻る。
 厚めの冊子を机の上に置くと、ペニサスは首を傾げた。

274 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:23:05 ID:R9EfTjzEO

('、`*川「何それ」

ξ゚ー゚)ξ「文芸部の部誌。去年出したやつ。
      私、文芸部にも興味あったからチェックしてたの」

('、`*川「へえ! 分厚いわね」

ξ゚⊿゚)ξ「部員が多いからね……あ、これ。この人」

 目次を開き、「随筆」の項目にある名前を指差す。
 ペニサスは身を乗り出させ、ツンの指の先を見た。

('、`*川「都村さんと……盛岡君?」

ξ゚⊿゚)ξ「都村さんは綺麗な文を書くの。
      ただ、固めだから学生受けはどうだか分からないけど……。
      盛岡君は、まさに私好みって感じ」

('、`*川「馬鹿馬鹿しさ重視ってことね」

ξ*゚⊿゚)ξ「そう! 私より、よっぽど面白い記事を書いてくれると思うの。
      都村さんは都村さんで、知的な記事になって読みごたえがありそうだし」

 どうやって声をかけよう、先生に推薦しようかな、都村さんは受験で忙しいかしら──
 語るツンに、ペニサスは、くすくすと笑った。

 ツンは口を閉じ、何よ、と目で問い掛ける。

275 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:24:24 ID:R9EfTjzEO

('ー`*川「いや、張り切ってるなあって。
     最近のツン、ちょっと暗かったからさ。そんなにはしゃいでるの久々に見た」

ξ゚⊿゚)ξ「──あ……」

('ー`*川「こっちも楽しくなってきたよ。
     生徒会として、文芸部に口を利いてやろうじゃないか」

 口が、思ったように動かなかった。
 何とか笑顔を作り、ありがとう、と礼を言う。

('、`*川「どういたしまして。っと、そうだ、先生にプリント渡さなきゃ。
     じゃあねツン、また明日」

ξ゚ー゚)ξ「……またね」

 ペニサスが図書館から出ていくと、ツンは溜め息をついて表情を消した。
 新聞のことでいっぱいだった思考は、すっかり様変わりしている。

 借金取り。
 ストーカー。
 面倒な問題が、たくさんある。

276 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:26:23 ID:R9EfTjzEO

ξ゚ -゚)ξ(……)

 これからどうなるだろう。
 ツンは文芸部誌を元の場所に戻すと、
 帰宅するため、ルーズリーフを挟んだファイルとペンケースを鞄に突っ込んだ。



*****

277 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:26:58 ID:R9EfTjzEO

从 ゚∀从「──おかえり」

 玄関のドアが開く。
 ハインリッヒは顔を上げ、帰宅した娘に声をかけた。

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま……」

 ツンは居間を通り、襖で仕切られている隣の部屋に入った。

 年頃の娘なのに、ろくにプライバシーも守れないような部屋しか与えられずに
 申し訳なく思う。

 ツンは何も言わないが、不満がないわけではないだろうとハインリッヒは思っている。

从 ゚∀从「母さん、今日は夜勤だから」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、知ってる。ご飯は適当に食べとくね」

从 ゚∀从「ごめんな」

ξ゚⊿゚)ξ「謝らなくていいよ」

278 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:28:20 ID:R9EfTjzEO

 ──昔は、こうではなかった。
 裕福とまではいかなくとも、それなりの家で、それなりの暮らしをしていた。

 だが、娘が小学校に上がった頃、夫の事業が失敗して。
 それからは、こんな安普請の、狭苦しいアパートでの生活を余儀なくされた。

 夫は碌に働かない。ハインリッヒもパートくらいしか仕事が見付からない。
 何とか娘をここまで育て、そこそこ立派な高校に入れて。

 こんな暮らしでもしっかり育ってくれた娘の成長に喜んでいた矢先に、これだ。
 夫は借金を残して逃げた。
 妻と娘を犠牲にする形で。

 よりによって悪質なところから金を借りたらしく、
 取り立ては日に日に激しさを増していった。

 そして、ついに今日、顔を殴られた。

279 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:29:18 ID:R9EfTjzEO

ξ゚⊿゚)ξ「お母さん?」

 ツンの声で、ハインリッヒは我に返った。

从 ゚∀从「ん? 何だ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ぼうっとしてたから」

从 ゚∀从「ああ、いや、ちょっと考え事」

ξ゚⊿゚)ξ「ふうん……」

 制服から私服に着替え、ツンは頭を振った。
 机の上の鏡を見ながら髪を軽く整える。

 ──部屋の中が女の子らしくなったな、と、ハインリッヒは思った。

 ツンの部屋にあるのは、昔に買った勉強机と、あまり大きくない箪笥。
 それと古ぼけた本棚に、畳んで部屋の隅に寄せられた布団。

 以前はそれだけだった。

 だが最近は、可愛いぬいぐるみや、ちょっと洒落た小物などが目につくようになった。
 友達からもらったの、と前にツンは言っていたが、少し目が泳いでいたので
 彼氏でも出来たのではないかとハインリッヒは勘繰っている。

280 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:30:24 ID:R9EfTjzEO

从 ゚∀从「……それじゃ、そろそろ行ってくる」

ξ゚ー゚)ξ「うん、行ってらっしゃい──」

 ぱっと顔を上げて微笑むツン。
 不意に、彼女は眉を顰めた。

ξ゚⊿゚)ξ「……お母さん、頬っぺた、どうしたの?」

从 ゚∀从「え……──あ、」

 見る見る内、ツンの顔が赤くなる。
 怒りの表情だ。
 ツンはハインリッヒに駆け寄ると、肩を掴んできた。

ξ#゚⊿゚)ξ「まさか、殴られたの!? 信じらんない、あいつら……!」

从;゚∀从「だ、大丈夫だよ、痛くないし」

 嘘だ。
 若干腫れているし、触れば痛い。
 もう少し時間が経てば、痣の色が変わって、さらに目立つだろう。

 ツンは唇を噛み締めると、一気に、泣きそうな表情を浮かべた。
 やがて、ぽろぽろ、涙が零れ出す。


282 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:31:19 ID:R9EfTjzEO

ξ;⊿;)ξ「……お父さんが悪いのに、何でお母さんが殴られるの……」

从;゚∀从「ツン……」

 ハインリッヒは、殴られた自分より、ツンの方が哀れでならなかった。

 借金の問題がなければ、人並みに食べていける財力のもとで育っていれば、
 もっと──楽に、普通の女子高生として過ごせただろうに。

 ツンが座り込む。
 それに合わせてハインリッヒもしゃがみ込んで、ツンを抱き締めた。

从 ゚∀从「……ツン」

 死のうか。

 そう言おうと口を開いたハインリッヒだったが、
 背後で鳴り響いた電子音に邪魔された。

283 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:31:58 ID:R9EfTjzEO

ξ;⊿;)ξ「お母さん、時間……」

从 ゚∀从「──うん」

 音の発信源は、居間の卓袱台に乗せていた腕時計。
 仕事に遅刻しないように、アラームを設定していたのだ。

 ツンの頭を撫で、立ち上がる。
 アラームを止めて、腕時計を着けると、ハインリッヒは鍵を持って玄関に向かった。

从 ゚∀从「行ってきます!」

 殊更元気に言って、ドアを開ける。
 行ってらっしゃい、と、ツンも大きな声で応えた。

 外に出たハインリッヒはドアと鍵を閉め、しばらくそこに立っていた。
 涙を何とか引っ込めて、ようやく歩き出す。

 ──彼女がアパートを離れるのを眺める人影があったが、ハインリッヒは気付かなかった。



*****

284 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:33:37 ID:R9EfTjzEO


 玄関で物音がして、ツンはびくりと震えた。

ξぅ⊿;)ξ「……」

 涙を拭い、腰を上げると、足音をたてないように玄関へ歩いていった。
 息を殺してドアスコープを覗く。
 誰もいない。

 郵便受けを見下ろした。
 白い封筒が入っている。

 そっと取り出し、施錠を確認して、部屋に戻った。

ξ゚⊿゚)ξ(……まただ)

 真っ白な封筒は、隅にリボンのプリントがあり、同じくリボンのシールで封をされた、
 何だか可愛らしいものだった。

 表に「高岡ツン様」と印刷されている。
 中には便箋が一枚。
 一通り読んでから、封筒の中に戻した。

 ストーカーからの手紙だ。
 昨年の秋頃から届くようになった。
 宛名などは書かれていないので、本人が直接投函しているのだろう。

285 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:34:29 ID:R9EfTjzEO

ξ゚⊿゚)ξ「これで何通目だろ……」

 よくもまあ、返事のない相手にラブレターを送り続けられるものだ。

 学習机の一番下の引き出しを開け、そこにある紙袋に手紙を入れた。
 紙袋の中には、もう、数十通に及ぶ手紙が入っている。
 いざというときの証拠のために取っておいているのだ。

 以前は週に5通ほど届いていたが、半年前にストーカーらしき男と遭遇して以来、
 警戒しているのか週に2、3通程度に落ち着いていた。
 それでも多いが。

ξ゚⊿゚)ξ(……あれはびっくりしたわ)

 ツンの思考は、半年前の早朝へと巻き戻る。


   ξ゚⊿゚)ξ『──え……』


 あのときは、いつもより早く目覚めて、散歩に行こうかとドアを開けたところだった。

 水色の封筒を持った男が、目の前に立っていた。
 ツンも驚いたが、男も驚いたらしく、2人はしばらく向かい合ったまま沈黙する。

286 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:35:15 ID:R9EfTjzEO

   (    )『いや──あの』

   ξ゚⊿゚)ξ『あ、え、はい』

   (    )『お』

   ξ゚⊿゚)ξ『お?』

   (    )『おは、よう、ございますお……』

   ξ゚⊿゚)ξ『お、おはようございます……?』

   (    )『今日も寒いですお……』

   ξ゚⊿゚)ξ『はあ……』


 性別と、変わった語尾と、声が若かったことくらいしか把握出来なかった。
 というのも、男は口にマスクをしていたし、まだ薄暗かったので顔までは見えなかったのだ。

 ただ──封筒を持っていたことで、彼がどういった人間なのかは察しがついた。

 パジャマの上に羽織ったカーディガンの裾を、ぎゅっと握り締める。

287 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:36:17 ID:R9EfTjzEO

   ξ゚⊿゚)ξ『あのう』

   (    )『はいっ』

   ξ゚⊿゚)ξ『……ストーカーさんですか?』


 男は、すぐさま逃げ出した。
 何よりも分かりやすい肯定だった。

 その日から、手紙の頻度が下がったのである。
 やめるつもりはないようなので、なかなかしつこいというか、懲りない人だと思う。

ξ゚⊿゚)ξ(あのとき、通報するべきだったかなあ)

 被害と言えるようなものがないし、ただ手紙が届くだけだし、
 母に心配もかけたくなかったので、警察には黙っていた。

 まあ、今となっては、借金取りがツン達を狙っている間は警察に相談しても無駄だろう。
 あの借金取りは警察と密接な関係があるようだから、ツンの相談など黙殺される。

288 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:37:21 ID:R9EfTjzEO

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 しかし。
 どっちみち、ストーカーが直接的な危害を加えてこない内は、どうにかしようという気はなかった。

 ツンは机から離れると、本棚の上に乗せていた熊のぬいぐるみを持ち上げた。
 柔らかな毛糸と綿で出来ており、支えがないと、くったり倒れてしまう。
 ぬいぐるみの頭を撫でて、微笑む。

ξ*゚ー゚)ξ「……かわいい」

 これもストーカーが送りつけてきたものだ。
 ツンの部屋にあるぬいぐるみや小物は、ほとんどが彼からのプレゼントである。
 ガラス製のものが多いのは、彼の趣味だろうか。

 いつも気付くと玄関先に箱が置いてあって、中に、プレゼントと手紙が入っていた。

 普通の女の子なら、ストーカーからの贈り物なんて部屋に飾らないだろう。
 だが、友達の家に行く度、女の子らしく飾りつけた部屋を羨ましく思っていたツンは、
 こういったものへの憧れが強かったのだ。

 そんな理由から、証拠品として取っておくためという名目で、
 ストーカーが送ってくれる可愛らしい小物が手に入ると、部屋に飾るようにしていた。

289 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:38:03 ID:R9EfTjzEO

ξ*゚ -゚)ξ(……いつかは返した方がいいんだろうけど)

 もうしばらく、女の子らしい部屋を楽しみたい。

 それと、もしストーカーが──そんなことがあるのか分からないが──心優しい人ならば、
 通報なんかせず、礼を言いたいなとも思っている。

 少なくとも嫌がらせらしい嫌がらせをしてこないストーカー男について、
 ツンは、そんなに悪い人ではないのでは、と考えていた。



*****

290 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:39:26 ID:R9EfTjzEO


(#^ω^)「お義母さんを殴ったんですお!? 許せませんお!」

 翌日、昼休み。
 実験室B。
 内藤は怒りに任せた勢いで、机に拳を打ち付けた。

 正面のドクオは目をぱちくりさせながら、
 紙パックに差したストローでコーヒー牛乳を吸い込んだ。

('A`)「まあ……そりゃあ、酷い話だな」

( ^ν^)「ていうかお義母さんて」

 昼休みにも科学実験同好会のメンバーは実験室に集まっていた。
 ヒッキーは菓子パン、デレと妹者は弁当を食べ、
 ニュッは片手にゼリー飲料を持ちながらノートパソコンに興じている。

291 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:40:27 ID:R9EfTjzEO

ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君、せっかくお弁当作ってきたんだから食べてよう」

l从・∀・ノ!リ人「ニュッさんが食べないなら妹者がもらうのじゃ」

(;-_-)「3重の重箱弁当食べといて、まだ食べる気……?」

('A`)「そんだけ食べて、よく太らねえな」

(#^ω^)「そんっっっな話! どうでもいいですお!」

 怒鳴る。
 耳に指を突っ込んで、ドクオは気怠そうに内藤を睨んだ。

('A`)「……で、あんまり訊きたくねえが、高岡の母さんが借金取りに殴られたってのを
    お前は何で知ってるんだ?」

(#^ω^)「盗み聞きですお!」

 ──昨日も高岡ツンの住むアパートに出向いた内藤は、
 ドアに耳を押しつけて高岡親子の会話を聞いた。

 あのアパートはあまり立派なものではないので、
 ある程度の声量ならば聞き取ることは可能だ。

292 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:42:16 ID:R9EfTjzEO

('A`)「盗み聞きは良くないな」

(#^ω^)「それよりも、借金取りの行いの方が卑劣じゃありませんかお!
       ツンさん、泣いてましたお……!」

ζ(゚、゚*ζ「可哀想だねえ。いつ、ツンちゃんの方にも危害が加えられるか分からないし……」

(#^ω^)「そう! そうなんだお!」

l从・∀・ノ!リ人「ふうむ……」

 ニュッが手をつけない弁当箱から卵焼きを盗み、妹者が唸る。
 じろりとニュッが妹者を睨んだが、すぐに目を逸らした。

ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君のビビりー」

(;^ν^)「ビビってねえよ馬鹿死ねビビってねえよ何言ってんだよ」

 ビビっているらしかった。
 言っては何だが、体が小さく精神も幼い感じのする妹者のどこに怯むというのか。
 少し気になったものの、今の内藤には、そんな些細な疑問に構っている暇はない。

 深呼吸をして心を落ち着ける。

293 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:43:12 ID:R9EfTjzEO

( ^ω^)「……今までも、たまに、取り立ての現場を見ることはありましたお。
       でも、直接的な暴力に出たことはなかったんですお」

( ^ω^)「それが、突然ツンさんのお母さんを殴ったとなると……。
       これから、段々過激になっていくんじゃないかって思えてならないんですお」

(-_-)「そうですね……。可能性は高いと思います」

( ^ω^)「せっかく彼女、校内新聞の担当に選ばれたのに……」

('A`)「校内新聞? あいつ新聞部だったか?」

( ^ω^)「いえ、今の新聞部は部員が受験生しかいないので、
       顧問のエクスト先生がツンさんに依頼したんですお」

 今日、職員室で聞いた話だ。
 エクストが、何人かの運動部の顧問に話していたのである。

ζ(゚ー゚*ζ「聞いた聞いた。ツンちゃんって、そういうの書くの好きなんでしょ?」

(-_-)「そうなんですか?」

('A`)「クラスメートも知らねえようなことを、よく知ってんなお前は」

ζ(゚ー゚*ζ「へへへー」

294 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:44:08 ID:R9EfTjzEO

( ^ω^)「きっと、すごく張り切ってる筈ですお……」

('A`)「だが、向こう──借金取りの出方によっちゃあ、それどころじゃなくなるわけだな。
    早いとこ何とかしてやんねえとな」

(;^ω^)「お願いしますお、本当に!」

('A`)「分かってるって」

 本当に分かっているのだろうか。
 あまりやる気が感じられないのだが。

 不平は口にしないものの、納得出来ないまま、
 午後の授業の準備をするために内藤は実験室を後にした。



.

295 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:45:02 ID:R9EfTjzEO


 ──職員室の前に愛しい人の姿を見付け、どきりとした。

ξ*゚⊿゚)ξ

 高岡ツンが、男子生徒の手をぎゅっと握り締めている。
 傍にはエクストもいた。

( ^ω^)(……何だお?)

 殊更ゆっくり歩き、耳を澄ませる。
 どうやら男子生徒は、文芸部の部員らしい。

ξ*゚⊿゚)ξ「──私、高岡ツンっていうの」

(´・_ゝ・`)「あ、特進の……。去年、入学式で挨拶してた人?」

ξ*゚⊿゚)ξ「うん、よろしくね」

<_プー゚)フ「高岡もデミタスに目つけてたんだなあ」

ξ*゚⊿゚)ξ「はい! 文芸部誌で、すごく面白いエッセイを読んで……!」

(*´・_ゝ・`)「な、何か、嬉しいけど照れるよ」

296 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:46:20 ID:R9EfTjzEO

<_プー゚)フ「良かったな高岡。デミタスも新聞手伝ってくれるってよ」

ξ*゚⊿゚)ξ「ありがとう! 本当に嬉しい……。
      ……ねえ、盛岡君から、都村さんにもお願い出来ないかな?
      あの人にも手伝ってもらいたいの」

(´・_ゝ・`)「都村先輩? 大丈夫だと思うよ。
        あの人、実家でお店やってるらしくて、受験も就活もなくて暇だもの」

ξ*゚⊿゚)ξ「ほんと!?」

 校内新聞の話か。
 やはり内藤の思った通り、かなり意気込んでいるようだ。

 だが──

( ^ω^)(……ツンさん、すごく喜んでるお)

 あの男子生徒に随分と入れ込んでいるではないか。
 彼の方だって、満更でもなさそうだ。

 ちりちりと内藤の胸を焼いたのは、間違いなく嫉妬だった。

297 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:48:04 ID:R9EfTjzEO

ξ*゚⊿゚)ξ「ますます楽しくなってきたわ。一緒に頑張りましょうね!」

(*´・_ゝ・`)「うん、そうだね」

( ^ω^)(……顔が近いお。いつまで手を握ってるんだお)

 ツンが喜ぶのは嬉しい。
 だが、彼女を喜ばせているのは、自分ではない別の男だ。

 自分は彼女に話しかけられないのに、彼は、あんなに近距離で会話している。
 悔しい。妬ましい。

 内藤は目を逸らし、早足で職員室の中に入っていった。



*****

298 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:49:17 ID:R9EfTjzEO


('A`)「シベリア金融、シベリア金融……」

 ──放課後、実験室B。
 ドクオは、内藤から聞いていた金融会社の名前を呟いた。

 聞き覚えのない会社だ。

('A`)「妹者、知ってるか?」

l从・∀・ノ!リ人「聞いたことはあるのじゃ」

 チョコレート菓子を頬張りながら、妹者が頷く。
 彼女の前には菓子袋が山盛りになっていた。
 よくもまあ、あれだけの量を食べられるものだと毎度感心する。

l从・∀・ノ!リ人「ただ、うちの流石グループの所有する会社ではないからのう。
       どんな悪徳ぶりかまでは知らんのじゃ」

 妹者は、ノートパソコンに向き合うニュッを一瞥し、にっこり笑った。
 ニュッは気付かないふりをしているが、すっかり顰めっ面だ。

299 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:50:45 ID:R9EfTjzEO

ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君、妹者ちゃんには愛想良くしとかないと。
      お父さんがお世話になってるんだから」

( ^ν^)「うるせえな」

l从・∀・ノ!リ人「よいよい、この間みたいに『死ね』とか暴言吐いてきたらどうなるか分からんが」

 もはやニュッも舌打ちしか出ないようで、パソコンのキーを叩く力が強くなる。
 思わず吹き出しそうになって、ドクオは俯いた。

 妹者の家は、とんでもない大金持ちだ。
 そしてニュッの親は、妹者の親の直属の部下である。
 「お嬢様」の扱いに対して、気苦労は絶えないだろう。

('A`)(親の苦労は子も背負う……)

 心中で呟きながら、机の上に広げておいた本のページをめくる。

 毒々しい色をしたキノコの写真。
 赤字で「毒」と書かれたマークが付いている。

('A`)(カエンタケ……呼吸困難、脱毛、言語障害、運動障害、小脳萎縮、その他多数……致死量3グラム。
    摂取後10分で症状が現れる速効性……)

 顎を撫で、頭の中で「計画」を組み立てる。
 だが、上手く成功しそうなものではない。
 すぐさま諦め、ページをめくった。

 ふと顔を上げる。

300 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:52:56 ID:R9EfTjzEO

('A`)「そういや今日はヒッキー来ないのか?」

 放課になってから2時間弱。
 まだヒッキーは来ていなかった。
 特進には週3回ほど7時限目の授業が行われる日があるが、今日はその日ではない。

ζ(゚、゚*ζ「あ、ヒッキー君、何か午後から具合悪そうだったらしいの。
      だから授業終わったらすぐ帰ったみたい。先生達が話してた」

('A`)「ふうん」

 どこで聞いてくるんだか。
 校内のことならデレに訊けば大体分かるので便利といえば便利だ。

 本に視線を戻しながら、今度は、違う男の顔を思い浮かべる。
 昼休みに会った非常勤講師、内藤。
 彼も来ていない。

 あの怒りようと焦りようだと、放課後にも来ると思ったのだが。
 とはいえ、来られたところで今はどうしようもないので、構いやしない。

301 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:53:38 ID:R9EfTjzEO

('A`)(……ただ、あいつの動向は気になるな……)

 借金取りと同様に、高岡ツンにとって有害になり得る存在なのは内藤である。
 何と言っても、奴はストーカーだ。


   ( ^ω^)『せっかく彼女、校内新聞の担当に選ばれたのに……』


 今は、純粋にツンを心配してやっているが──

 ただでさえ歪みかけている彼の「愛情」が、何かしらの要因によって
 余計に捩じ曲がる可能性は充分に高い。

 最悪なのは、そのせいで話が拗れること。

('A`)(おとなしくしててくれよな、頼むから……)



*****

302 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:55:02 ID:R9EfTjzEO


 夕方、とあるドラッグストア。

 店から出てきたハインリッヒは、ふと、店の前に置かれているベンチに目をやった。
 少年が横たわっている。

从;゚∀从「?」

 ぎょっとして辺りを見渡すが、彼の関係者らしき人間はいない。
 誰も、彼に声をかけずに通り過ぎていく。

 ただ寝ているだけならいいが、具合を悪くしているのなら大変だ。
 ハインリッヒは、恐る恐るベンチに近寄った。

从;゚∀从「……おーい」

(;-_-)「あ……はい……」

 起きている。顔色が悪い。
 少年の着ている制服を見て、自分の娘と同じ高校の生徒だと気付いた。

303 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:56:36 ID:R9EfTjzEO

从;゚∀从「どうしたんだ?」

(;-_-)「お腹が痛くて……ここで薬を買ったんですけど、今度は暑さにやられちゃって」

从;゚∀从「熱中症? 何か飲んだか?」

(;-_-)「いえ……」

 数メートル先に自動販売機がある。
 ハインリッヒはそこまで走って行くと、スポーツドリンクを買って、ベンチに戻った。
 500ミリリットルのものが買いたかったのだが、10円足りなかったので、小さなサイズしか買えなかった。

从 ゚∀从「これ飲んで。ごめんな、今、手持ちの金じゃあ小さいのしか買えなくて」

(;-_-)「あ、す、すみません、ありがとうございます」

 少年の頭の下に手を当てて軽く持ち上げ、スポーツドリンクを口に含ませた。
 ゆっくり飲ませていき、やがて、ペットボトルが空になる。

从 ゚∀从(体、冷やすんだっけ……)

 どうしよう、とハインリッヒが考えていると、少年は上半身を起こした。
 ハインリッヒに、「ありがとうございます」と再び礼を言う。

304 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:57:39 ID:R9EfTjzEO

(-_-)「ちょっと楽になりました」

从 ゚∀从「起きて大丈夫か?」

(-_-)「はい。日陰のおかげで、体も冷えましたし……」

从 ゚∀从「なら良かった。……ところで、これからどうすんだ? 帰る?
     出来れば、親御さんに迎えに来てもらった方がいいんじゃないか」

(-_-)「そうですね……そうします」

 少年はベンチの下に落ちていた鞄を拾い上げると、携帯電話を取り出した。
 誰かに電話をかけ、迎えに来てくれないかと話をしている。
 彼の口振りからすると、相手は母親らしかった。

(-_-)「──10分くらいで来るそうです」

从 ゚∀从「そっか。良かったな」

(;-_-)「……あっ! 助けてもらったってこと、言いそびれた……」

从 ゚∀从「いいよいいよ、私は飲み物買っただけだし」

 そう言って、笑う。
 ハインリッヒを見上げる少年の瞳が彼女の頬に向けられ、すぐに逸らされた。

305 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:59:08 ID:R9EfTjzEO

从 ゚∀从「──あ、これ、ちょっと転んだときにテーブルにぶつけたんだよ」

 嘘で誤魔化し、ハインリッヒは右手に提げたビニール袋を掲げた。

 腫れは引いたが痣の色が濃くなって目立つので
 ガーゼとテープを買ってきたのである。

(-_-)「大丈夫ですか? 痛そう……──あっ。
    すみません、僕、お金返すのも忘れてて」

 少年は声をあげると、今度は鞄から財布を引っ張り、
 小銭をハインリッヒに差し出した。

从 ゚∀从「いいよ、大した金額じゃないんだから」

(-_-)「駄目です、受け取ってください」

从 ゚∀从「駄目って……」

(-_-)「お金は大切なものなんです。大したことない金額なんかありません」

 少年の顔は、真剣だ。
 断ってはいけない気がして、ハインリッヒは頷いてから小銭を受け取った。

306 :名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 23:59:57 ID:R9EfTjzEO

从 ゚∀从「20円多いな」

 余分な20円は返し、残りは財布に入れる。
 財布に付けていたピンク色の巾着が揺れた。
 長さ5センチもないような、小さな小さな巾着だ。

(-_-)「それ……」

从 ゚∀从「ん?」

(-_-)「手作りですか」

 少年は巾着を指差している。
 ハインリッヒは少し笑って、「そうだよ」と答えた。

从 ゚∀从「手作りって感じ丸出しだろ。娘が小学生のときに作ってくれたんだよ」

(-_-)「へえ……いいですね、何か」

从 ゚∀从「だろ。──さて、帰って夕飯の支度しないとな。
     じゃあ、ばいばい。お大事に」

(-_-)「はい、さようなら。……本当に助かりました、ありがとうございます」

从 ゚∀从「どういたしまして」

307 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:00:51 ID:K6tcPMHEO

 手を振り合い、ハインリッヒはその場を後にした。
 しばらく歩き、ふと、財布を持ち上げる。

 ハインリッヒが歩くのに合わせ、巾着が揺れた。

从 ゚∀从「よっと」

 巾着を開いて中身を出す。
 ハインリッヒの左手に、ころりと銀色の指輪が転がった。

 ──昔、仕事に行く前は必ず結婚指輪を外していくハインリッヒに、
 ツンが理由を訊ねたことがある。

 ハインリッヒは、指輪をつけたまま仕事をするのが嫌なのだと答えた。
 傷が付いたり、紛失したり、壊れたりしてしまわないか不安なのだ、と。

 すると、当時小学生だったツンが、この巾着を作ってくれた。
 これなら指輪を入れて持ち歩けるでしょ、と微笑んだツンの顔を、今でもはっきり思い出せる。

308 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:02:10 ID:K6tcPMHEO

从 ゚∀从「……指輪、か」

 未だ、逃げた夫とハインリッヒは夫婦の関係にある。
 だがそれは戸籍上の話であって、今となっては夫への愛など欠片も存在しない──筈だ。

 なのに指輪をこうして持ち続けているということは、
 もしかして、自分はまだ夫に未練があるのだろうか。

 最低な男だと、絶対に許してなるものかと、何度も思ったのに。

从 ゚∀从「……」

 巾着に指輪を戻して、ハインリッヒは唇を噛んだ。



*****

309 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:03:39 ID:K6tcPMHEO


ξ*゚ー゚)ξ「本当にありがとう!」

(´・_ゝ・`)「何回言うのさ、高岡さん」

 図書館、1階。
 ツンは男子生徒の手を握り、何度も頭を下げた。

 盛岡デミタス。
 ツンがどうしても新聞制作の協力を仰ぎたかった1人だ。
 エクストがデミタスを勧誘してくれたのである。

('ー`*川「文芸部の人だよね? 良かったじゃないの、ツン。
     生徒会のコネ使うまでもなかったか」

 言って、ペニサスがツンの肩を叩いた。
 ツンのことを気にかけてくれたらしく、今日も図書館に来たのだという。

310 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:04:26 ID:K6tcPMHEO

ξ*゚ー゚)ξ「幸先いいわよね……。
      盛岡君、何か詳しいスポーツある?」

(´・_ゝ・`)「サッカーとテニスはよく見るよ」

ξ*゚⊿゚)ξ「あ、じゃあ、部活のインタビューもしてもらえるかな……。嫌ならいいんだけど」

(´・_ゝ・`)「いいよ、出来る」

('、`*川「生徒会にサッカー部とテニス部の人いるから、話しとくわ。
     今度こそ役に立っちゃる」

ξ*゚⊿゚)ξ「ペニサス……! 大好き!」

('ー`*川「ほっほっほ、苦しゅうない苦しゅうない」

(´・_ゝ・`)「仲いいね」

 抱き合うツンとペニサスを見て、デミタスは微笑んだ。
 ツンも思わず笑ってしまう。
 暑いよ、とペニサスに頭を小突かれるまで、ツンはペニサスに引っ付いていた。

311 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:05:34 ID:K6tcPMHEO

('、`*川「どうせ抱きつくならデミタス君に抱きつきなさいよ、もう。ファンなんでしょ」

ξ;*゚⊿゚)ξ「な、ば、馬鹿」

(;*´・_ゝ・`)「ファンってそんな、僕なんか素人中の素人だし」

ξ*゚⊿゚)ξ「そんな、素人かプロかなんて関係ないわよ! 私、デミタス君の随筆すごく好きだわ」

 デミタスは真っ赤になってしまった。それをペニサスがからかう。
 とても楽しくて、ツンは口に手を当てて笑った。

(´・_ゝ・`)「──そういえばそろそろ夏休みだけど、休みの間も集まるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、うん、そうなの。
      定期的に学校に集まって、記事の進捗具合を確かめ合った方がいいと思う。
      そんなに頻繁じゃないし、必ず来なきゃいけないわけじゃないけど」

('、`*川「担当する部活によっちゃ、合宿とか大会に付いていくことになるかもしれないしねえ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうなのよね……毎回全員が集まるってのは出来ないかも」

312 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:07:00 ID:K6tcPMHEO

(´・_ゝ・`)「僕、夏休みは特に予定なかったんだ。これで退屈しなくて済むかな」

('、`*川「私は、今年も生徒会活動に貴重な夏休みを捧げるのかと思うと憂鬱だわ……」

ξ゚⊿゚)ξ「ペニサスは去年の夏休みも忙しそうだったわよね──」

 何気なく、ツンは顔を上げた。

 図書館は一部が吹き抜けになっており、
 ツンの位置からは、2階の一角がよく見える。

 そこにある本棚の前に、男がいた。

( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ「……?」

 本を片手に持っているが、男の目線はツンに向けられている。

 見た目の年齢や服装からして教師だろうが──誰だろう。
 ツンがぺこりと会釈すると、男も同様に返し、ツンから視線を外した。

313 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:07:47 ID:K6tcPMHEO

('、`*川「ツン、どうしたの?」

ξ゚⊿゚)ξ「いえ……」

<_プー゚)フ「──おお、いたいた!」

 そこへ、エクストがやって来た。
 女子生徒を引き連れている。

(゚、゚トソン「どうもこんにちは、高岡さんですね」

ξ゚⊿゚)ξ「え……は、はい、2年の高岡ツンです」

 制服の襟についている校章の色からして、3年生だ。
 どなたですか、というペニサスの問いに答えたのはエクスト。

<_プー゚)フ「都村トソン。昼休みに、お前、手伝ってほしいって言ってたろ」

ξ*゚⊿゚)ξ「ええっ! 本当ですか!?」

 ──先程の男のことなど、ツンの頭からすっかり消えてしまった。

 彼がしばらく同じ場所に留まり、ずっとツン達を見つめていたことも、気付きはしなかった。



*****

314 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:09:30 ID:K6tcPMHEO


 それから数日が過ぎて。
 1学期が終了し、ついに明日から夏休みが始まる、終業式の日。

 いつもより早く放課となるその日、授業が終了するや否や、
 真っ先に実験室Bに現れる者がいた。

( ^ω^)「ドクオ先生」

('A`)「おう、何か久しぶりだな」

 ドクオは内藤に気付くと、片手を挙げた。
 それからすぐに手元の本へ目を戻す。

( ^ω^)「何の本を見てるんですかお?」

('A`)「毒キノコ」

( ^ω^)「そうかお。……もう夏休みになりますお」

('A`)「だな」

315 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:10:54 ID:K6tcPMHEO

( ^ω^)「昨日、ツンさんのお母さんがまた借金取りに殴られましたお」

('A`)「──そうなのか。いや、そりゃ……お気の毒というか」

 ドクオの手から本が奪われた。
 その本を、目の前に叩きつけられる。
 ばん、と、大きな音が響いた。

( ^ω^)「僕はあなたに20万円払いましたお」

('A`)「……ああ」

( ^ω^)「『何とかしてやる』って、あなた、言いましたおね」

('A`)「言ったな」

( ^ω^)「それで何をしてくれたんですかお?
       ここで生徒と遊んで、何をしてるんですかお?
       毒キノコの本を読んで、何になるんですかお?」

('A`)「何って言われてもな……」

( ^ω^)「奴らに毒キノコでも食べさせるんですかお?
       そりゃあいいですお、それであいつら殺すんですおね?
       ツンさんに近付く奴らを殺してくれるんですおね、ははは、面白い。面白い冗談だお」

 内藤の目が据わっている。
 よほど怒っているようだ。
 警戒したドクオは、後ろへ椅子ごと下がった。

316 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:13:20 ID:K6tcPMHEO

( ^ω^)「あんたがもたもたしてるから、
       借金取りは付け上がるしお母さんは殴られるしツンさんに悪い虫がつく……」

('A`)「──あ?」

 ドクオは片眉を上げた。
 悪い虫? 何の話だ。

 内藤が、はっと我に返り、口を押さえた。

('A`)「何だって?」

( ^ω^)「何でもないですお」

 内藤の顔を眺めるが、追及はしないでおく。
 溜め息をつき、本を持ち上げた。

('A`)「……まあ、今は『下準備』の最中なんだ。
    安心しろ、必ず高岡は救ってやる」

( ^ω^)「信じられませんお」

('A`)「あのなあ」

l从・∀・*ノ!リ人「──いっちばん乗りなのじゃ!」

 明るい声と共に、実験室の入口が開かれた。
 声の主、妹者は、内藤を見ると首を傾げた。

317 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:14:54 ID:K6tcPMHEO

l从・∀・ノ!リ人「何じゃ、内藤先生が先じゃったか」

( ^ω^)「……失礼しますお、ドクオ先生」

('A`)「おい!」

 内藤は踵を返して、大股で歩いていった。
 妹者が脇に退き、道を開ける。

l从・∀・ノ!リ人「内藤先生?」

('A`)「──余計なことはするんじゃねえぞ!」

 去っていく内藤に声をかけるが、返事はなかった。
 内藤が進んだ方向をしばらく眺めていた妹者は、
 やがて息をつくと実験室に入って、いつもの定位置に座った。

l从・∀・ノ!リ人「どうしたのじゃ、内藤先生は」

('A`)「どうやら焦ってるらしい」

l从・∀・ノ!リ人「ほう。せっかく、ちょっとした情報が入ったんじゃがのう……」

318 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:15:24 ID:K6tcPMHEO

 ドクオは顎に手をやり、目を伏せた。

 内藤が何を考え、どんな行動に出るのか全く予想がつかないので、
 作戦などは下手に話さない方がいいと考えていたのだが。
 裏目に出てしまったかもしれない。

 それに──彼が口走った「悪い虫」という言葉が気になる。

('A`)(悪い『ストーカー』の面が出たんじゃねえだろうな……)

 無性に、嫌な予感がした。



*****

319 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:17:04 ID:K6tcPMHEO


 「臨時新聞部臨時部長、高岡です。
  これからよろしくお願いします、一緒に頑張りましょう」。

 当たり障りのないシンプルな文章を打ち終え、ツンは、メールを一斉送信した。

ξ゚⊿゚)ξ(よしっと)

 今日の放課後、ついに「臨時新聞部」のメンバーが全員集まった。
 盛岡デミタスと都村トソンの他、エクストが選んだ生徒達を加えた、総勢8名。

 顔合わせの際、いざというときの連絡のために
 エクストを含めた全員の電話番号とメールアドレスを訊いておいた。
 臨時新聞部、と名付けたグループにフォルダ分けをしたとき、何故だか妙に嬉しかった。

 それから記事に関する話し合いや役割分担をし、今日のところは解散となった。
 意外にも皆が乗り気だったのが印象的だ。

ξ*゚⊿゚)ξ(面白そうな特集の案もいっぱい出たし、いい人ばっかだったなあ)

 帰路につくツンの足取りも、軽快になろうというものである。

 メールの受信音が響く。
 真っ先に返信してくれたのは、盛岡デミタス。
 彼お得意の、とぼけた文章で書かれた返事に、ツンは吹き出した。

320 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:18:12 ID:K6tcPMHEO

 続いて他の臨時部員達からのメールが届く。
 それぞれの返事を楽しみながら歩いていたツンは、アパートが近くなるのに気付いて視線を上げた。

 ──ツンの顔が強張る。

 アパートの前に、黒塗りの車が停まっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 車内に人がいる。向こうもツンに気付いているだろう。
 逃げたところで追いかけられるのは目に見えているので、
 ツンは、せめて怯んでいるのを悟られぬよう、気丈に歩みを進めた。
  _
( ゚∀゚)「──こんにちはあ」

 後部座席から降りてきた男が、ツンの前に立って言った。
 少し遅れて、運転席の男も降りてくる。
  _
( ゚∀゚)「お母さん、いないみたいでさあ。仕方ねえからツンちゃん待ってたんだよ。
     なあギコ?」

(,,゚Д゚)「うす」

 体が大きく、強面の男が2人。
 片方は長岡ジョルジュ、もう片方はギコという名前。
 いっそ笑えるくらい、「いかにも」な見た目だった。

 今日も取り立てに来たらしい。

321 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:19:53 ID:K6tcPMHEO
  _
( ゚∀゚)「待ったわあ、死ぬほど待ったよう。2時間も健気にさあ」

(,,゚Д゚)「ジョルジュさん、20分くらいでした」
  _
( ゚∀゚)「正直なのはいいことだけど、黙ってろよ糞馬鹿」

(,,゚Д゚)「すんません」

ξ゚⊿゚)ξ「あの……どいてください」
  _
( ゚∀゚)「うん? 疲れてるから早く休みたいの?
     そうだよなあ、今日は昼前に学校終わる筈なのに、もう3時になるもんなあ」

 そんなことまで知っているのか。
 ツンはジョルジュから顔を背けた。
  _
( ゚∀゚)「まあ、ツンちゃんが俺らの相手したくないっていうなら、別にいいよ?
     それならお母さんの仕事先に行ってくるし」

ξ;゚⊿゚)ξ「──駄目!」

 考えるより先に声が出た。

 昨夜、母はまたジョルジュに殴られた。
 それなのに勤務先にまで顔を出されたら、母の精神がもたない。

 ジョルジュが笑う。
 ツンは歯噛みし、拳を握り締めた。

322 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:21:13 ID:K6tcPMHEO
  _
( ゚∀゚)「……そう言われてもさあ、俺らも困ってるんだよ。必死なんだよ。
     お金返してもらわないと……なあ? 安い額じゃないんだぜ?
     だよなあ、ギコ」

(,,゚Д゚)「うす」

ξ;゚ -゚)ξ「……でも、うちにお金なんか……」
  _
( ゚∀゚)「金がないなら作ればいいだろ?
     ツンちゃんなら、だーいじょうぶだってえ。
     可愛いお顔に生んでもらえて良かったねえ? んん?」

 ジョルジュはツンの肩を抱き寄せると、もう片方の手でツンの顔を撫で回した。
 きつい香水の匂い。
  _
( ゚∀゚)「お母さんも、歳はちょっとアレだが顔はそう悪くないし……。
     親子で頑張りゃ、あっという間だよあっという間」

ξ;゚⊿゚)ξ「──いやっ!!」

 制服の中に手が忍び込んできて、ツンはジョルジュの胸元を強く突いた。
 ジョルジュがにやにや笑いながら一歩引く。

 そのとき、アパートの一室のドアが開いた。
 現れたのは、上の階に住む大学生だ。
 ツン達を見て、慌てて目を逸らしている。

 階段を下りたいのだろうが、下にいるジョルジュとギコに怯えているらしかった。
 ジョルジュが小さく舌打ちし、ギコに振り返る。

323 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:22:33 ID:K6tcPMHEO
  _
( ゚∀゚)「今日はもういい、帰るぞ」

(,,゚Д゚)「っす」

 それを合図に、ツンは急いで自分が住む部屋に駆け込んだ。
 ドアを閉め、鍵を掛ける。

 間もなくして、車が走り去る音が聞こえた。
 ツンが、ほっと息をつく。

 大学生のものだろう、階段を下りてアパートから離れていく足音。
 それきり、しばらく何も聞こえなかった。

ξ;-⊿-)ξ「……」

 溜め息。
 自室に行って着替えようかと思った瞬間、また新たな音が耳に飛び込んだ。

 ことん、と、何かが落ちるような。
 すぐ目の前、ドア一枚挟んだ向こうで鳴った。

 ツンは、ドアスコープを覗いた。
 誰もいないし、何もない。
 ドアを開ける。


325 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:23:55 ID:K6tcPMHEO

ξ゚⊿゚)ξ「……あ」

 ドアの脇に、白い箱が転がっていた。
 片手で持てる程度のサイズ。

 その箱の表に貼られている、「高岡ツン様」と印刷された紙。
 宅配便で使われるような宛名カードの類はない。
 住所も何もなく、ただツンの名前だけが記されている。

 こういった届け物には覚えがあった。
 ストーカーからのプレゼントだ。

 辺りを見渡すが、無人である。
 少し離れた場所から投げてきたのだろう。

 箱を拾い上げる。
 あまり重くない。

326 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:24:48 ID:K6tcPMHEO

 ふと、中から、かさかさと音がするのに気付いた。

ξ;゚⊿゚)ξ(……何だろ)

 動くもの?
 不穏な予感がして、ツンは、恐々と蓋を開けた。

ξ゚⊿゚)ξ「……え……」

 すぐには、何が何だか分からなかった。

 まじまじと見つめ、それを理解した瞬間、全身が粟立つ。

327 :名も無きAAのようです:2012/07/27(金) 00:26:23 ID:K6tcPMHEO



 ──箱の中で蠢く、大量の虫。


 その内の一匹が羽を広げて飛び出すと同時に、ツンは、か細い悲鳴をあげた。





【続く】




→中編

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2013/11/06 21:46 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

修正しました
ミス指摘は本当にありがたいです
ありがとうございましたm(_ _)m
[ 2013/11/07 01:29 ] [ 編集 ]

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://tanpentokanohokanko.blog118.fc2.com/tb.php/228-74d27673





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。