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( ゚∋゚)大きな古時計のようです

89 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:30:43 ID:/YYrDWugO

ミ,,゚Д゚彡「わあ、でっかいから」

 箱を開けたお父さんの第一声は、そんな、のんびりとしたものでした。

( -∋-)

 お父さんの目の前、大きな箱の中には、これまた大きな男の人が横たわっています。
 眠っているようだけれども、呼吸をしている気配がないので、
 まるで死んでいるようにも見えました。

 男の人の胸には時計があって、秒針がしっかりと動いています。

 それを、お父さんとお母さん、そして5歳の誕生日を迎えた少年が物珍しそうに覗き込んでいました。

 お母さんが、恐る恐る、男の人の顔を撫でました。
 撫でた後に指先で突っつくと、こつこつと硬い音。

(*゚∀゚)「ひんやりする。本当に動くのか?」

ミ,,゚Д゚彡「動くから! ……えっと、まずは引っくり返して……」

 辞書みたいに分厚い説明書の一番始め。
 「時計を起こすには」のページを読んだお父さんは、男の人の背中に手を回しました。


90 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:32:06 ID:/YYrDWugO

ミ;,゚Д゚彡「お、重いから……!」

(;*゚∀゚)「わーわー、私がそっち持つ。
     ──いいか? せえの、」

ミ,,゚Д゚彡「どっこいしょ!」

 お父さんとお母さんが力を合わせて男の人を引っくり返します。

 男の人の背中には、小さな扉のようなものがありました。
 その扉の四隅を、お父さんが説明書通りの順番で押していきます。
 最後に真ん中を押すと、かちっという音の後に、扉がゆっくり開きました。

 そこにあるのは、親指ほどの大きさの画面が一つと、ボタンがいくつか。

ミ,,゚Д゚彡「何時に鳴るようにする? 一時間ごと?」

(*゚∀゚)「夜に鳴ったらうるさくない? それに、何回も鳴るのは好きじゃないし」

ミ,,゚Д゚彡「じゃあ……」

 2人が話し合うのを聞いていた少年は、ちょっと考えてから、お父さんの手を引きました。

91 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:33:45 ID:/YYrDWugO

(,,゚Д゚)「3時」

ミ,,゚Д゚彡「ん?」

(,,゚Д゚)「お昼の3時がいい」

 少年は、午後3時が好きでした。
 みんなでおやつを食べる時間でしたから。

 お父さんとお母さんは少し笑って、ボタンを何度か押しました。
 ぴっ、ぴっ、と電子音が響きます。

 一通り入力し終えると、今度は男の人を2人で抱え、床に座らせました。

(*゚∀゚)「これでいいな?」

ミ,,゚Д゚彡「準備万端だからー。……ギコ」

(,,゚Д゚)「?」

 男の人の後ろからお父さんに呼ばれ、少年は首を傾げつつ、そちら側に回り込みました。
 お母さんが、男の人の背中、開けっ放しの小さな扉を指差します。

(*゚∀゚)「ギコが起こしてあげな」

ミ,,゚Д゚彡「この黒いボタンを押したら、『時計』の前に立つといいから」

(*,゚Д゚)「うん!」

92 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:34:34 ID:/YYrDWugO

 少年は、どきどきしながら黒いボタンを押しました。
 お父さんが扉を閉め、お母さんが微笑みながら少年を見つめています。

 先程言われた通り、男の人の前に立ってみます。
 お父さんとお母さんの2人は、男の人の後ろに座ったままでした。

( -∋-)

(*,゚Д゚)

 どきどき、わくわく。
 何時間にも思える10秒間を経て、男の人の瞼が持ち上がりました。
 少年と目が合います。

( ゚∋゚)

(*,゚Д゚)

( ゚∋゚) クルックー

 鳩の鳴き声に似た音声が流れると、お父さんは、嬉しそうに手を叩きました。

ミ*,゚Д゚彡「『すり込み』完了だから!」

93 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:34:59 ID:/YYrDWugO



( ゚∋゚)大きな古時計のようです



.

94 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:36:41 ID:/YYrDWugO

 今より何十年も前、ロボットが流行り、世間に出回り始めた頃。
 ある時計会社が、どこよりも精巧なロボットを作り出しました。

 あくまで時計という名目ではありましたが、人のように動き、正確な受け答えをし、
 感情表現までするロボットは、もはや「時計」の枠を軽々と越えたものでした。

 子守りや家事、仕事の手伝いのために、たくさんの時計ロボットが買われていきました。
 時計の機能はオマケみたいなものだったのでしょう。

 その技術は他の企業にも明かされ、様々なロボットが作られていきました。
 とはいえブームの火付け役である時計会社の人気は強く、また比較的安価なのもあって、
 今でも、家庭にあるロボットの多くは時計ロボットなのでした。


.

95 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:37:48 ID:/YYrDWugO

( ゚∋゚)

 この家にやって来た男の人も、そんな時計ロボットの一つです。
 「鳩時計」と呼ばれるもので、持ち主が設定した時間になると、鳥のような鳴き声をあげます。

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

(*,゚Д゚)「あっ、鳴いた」

(*゚∀゚)「3時だなあ。おやつ食べようか」

(*,゚Д゚)「クックル、リビング行こ」

( ゚∋゚) クルックー

 大半のロボットは、命令の優先順位などを示すために「ご主人」が誰なのかを教えてあげないといけません。
 その設定方法はロボットによって違いますが、この型の鳩時計は、
 電源を入れてから最初に見た人を主人と決める「すり込み」タイプでした。

 なので、彼の主人は、この小さな少年です。

96 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:39:32 ID:/YYrDWugO

ミ,,゚Д゚彡「クックル? もう名前決めたから?」

(*,゚Д゚)「うん! くるっく、って鳴くから、クックル」

(*゚∀゚)「クックルー」

( ゚∋゚) クルックー



 その日の午後3時は、少年のお誕生日会と、新しい家族の歓迎会が開かれました。



*****

97 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:40:32 ID:/YYrDWugO


 彼らの住む場所は田舎と言って差し支えないほどの小さな村でしたので、
 鳩時計──クックルのようなロボットは非常に珍しくありました。

 お父さんの畑を耕すのをクックルが手伝うと、皆、クックル見たさに近付いてきます。

( ^ω^)「ほら、ツン、ショボン、これが例のロボットだお」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンが言った通り、背が高いのねえ。フサよりも頭一つぶん大きいわ」

(´・ω・`)「胸の時計さえなけりゃ、ロボットだって分かんないね」

ミ,,゚Д゚彡「名前はクックルっていうから」

( ゚∋゚) クルックー

ξ゚⊿゚)ξ「クックルは喋らないの?」

ミ,,゚Д゚彡「さすがに、お喋り出来るロボットは高過ぎて買えなかったから」

 会話は出来ませんが、言葉の意味を理解することは出来ます。
 話しかけられると、クックルは頷いたり、一度だけ鳴いたりして答えていました。

98 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:41:55 ID:/YYrDWugO

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

( ^ω^)「お、3回鳴いたお」

ミ,,゚Д゚彡「もう3時だから。それじゃあ、家に戻るからー」



 家に帰ると、すぐに少年がクックルに駆け寄ってきました。
 クックルと手をつないで、リビングのテーブルに向かいます。

(*゚∀゚)「すっかり気に入っちゃったなあ」

(*,゚Д゚)「クックル、今日のおやつはクッキーだぞ!」

( ゚∋゚) クルックー

ミ,,゚Д゚彡「クックルは食べられないから」

 家族みんなで席に着いて、おやつの時間。
 クックルは、少年達の話をじっくり聞いていました。

 話の端々から、家族のちょっとした情報を拾って、記憶します。
 たとえば少年は温かい牛乳が好きだとか、お母さんは笑うときに顔をちょっと上向けるとか、
 お父さんはお母さんと少年を見るときは普段よりも幸せそうな表情を浮かべるとか。

 そういった些細な好みや癖を覚えることで、ロボットは家族に馴染み、成長していくのです。

99 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:45:38 ID:/YYrDWugO



(,,゚Д゚)ミ,,゚Д゚彡「ごちそうさま!」

(*゚∀゚)「ごちそうさまー。ほら野郎共、マグカップ寄越せ」

( ゚∋゚) クルックー

(*゚∀゚)「ん? クックル、洗うの手伝ってくれんの?」

( ゚∋゚) クルックー

(*゚∀゚)「ありがとな! どこぞのいたずらっ子も見習ってくれないかなあ」

(;,゚Д゚)「うぐ……。……て、手伝えばいいんだろー」

ミ,,^Д^彡「ははは、ギコもクックルも偉いから」



 その日の午後3時は、何だか、のんびりとしていました。



*****

100 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:47:05 ID:/YYrDWugO


(*,゚Д゚)「クックル、行けー!」

( ゚∋゚) クルックー

( ^ω^)「おっおっお、今日も遊んでるお」

(´・ω・`)「仲いいね」

ミ,,゚Д゚彡「楽しそうで良かったから」

 クックルがお父さんやお母さんの手伝いをしないときは、もっぱら少年と遊んでいました。

 肩車をして外を駆け回るのが少年のお気に入りでした。
 お父さんにされるよりも目線が高くて、とてもどきどきするのです。

 右へ左へと指示を出していると、女の子と男の子に会いました。

(,,゚Д゚)「しぃとモララーだ!」

(*゚ー゚)「あー、ギコ君とクックル」

101 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:48:23 ID:/YYrDWugO

(*・∀・)「いいなあ、クックル、俺も肩車してよ」

(,,゚Д゚)「今日は俺だけー。また今度な」

( ・∀・)「けち」

(*゚ー゚)「私も乗せてね」

(,,゚Д゚)「うん。──クックル、原っぱまで走れ!」

( ゚∋゚) クルックー

 何だか胸がざわざわして、それを誤魔化すように、少年は前方を指差しました。
 少年の様子がおかしいのを感じつつ、クックルは言われた通りに走り出します。

 「じゃあね」、と手を振る男の子と女の子の声は、すぐに遠ざかっていきました。


.

102 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:50:15 ID:/YYrDWugO


 誰もいない原っぱには、大きな樹が何本かありました。
 いつもなら、すぐにクックルから降りて追いかけっこを始めるところですが、
 今日の少年はクックルの肩に跨がったままです。

 ぎゅう、と、クックルの頭を抱き締めました。

(,,゚Д゚)「俺さ、何かさ、やだなあ」

( ゚∋゚) クルックー

(,,゚Д゚)「しぃも、モララーも、好きなんだけど。
     あいつらが2人でいるとさ、嫌なんだよ。
     俺、変だよなあ。どうしようクックル」

 それが可愛らしい嫉妬なのは、クックルにも分かりました。
 けれどもクックルは喋られませんし、そもそもロボットが口を出すことでもありません。
 「嫌われちゃうかなあ」という少年の呟きには首を横に振って答え、あとは黙っていました。

 少年はクックルの頭のてっぺんに頬を押しつけました。

(,,゚Д゚)「……時計の音」

 ちくたく、ちくたく、微かに時計の音が聞こえます。
 一定のリズムで鳴り続けるそれは、どうしてか、少年の気持ちを落ち着かせてくれました。

103 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:51:37 ID:/YYrDWugO

 しばらくそのままでいましたが、不意に、クックルが3回鳴きました。
 3時です。

(*,゚Д゚)「おやつ食べなきゃ! クックル、帰ろう」

( ゚∋゚) クルックー

 まだまだ子供ですから、幼い恋の悩みなんて、おやつには敵いません。
 すっかり元気を取り戻した少年は、家の方角へ顔を向けました。

 クックルがいなければ、きっと、おやつの時間にも気付かないで、ずっと悩んでいたでしょう。

(*,゚Д゚)「行け行けー!」

( ゚∋゚) クルックー



 その日の午後3時は、甘酸っぱいお菓子が迎えてくれました。



*****

104 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:53:03 ID:/YYrDWugO


 働き者で、子供達の遊び相手にもなってくれるクックル。
 少年が青年と呼ばれる歳に成長した頃には、すっかり、村の一員でした。



( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

(,,゚Д゚)「お。親父、3時なったぞ」

 3時の合図を聞き、青年は手を止めました。
 お父さんやご近所さん達も、畑の真ん中で息をついたり伸びをしたりと、作業を中断させます。

ミ,,゚Д゚彡「ああ、休憩にするからー」

(´・ω・`)「腰が痛いや。歳だね、もう」

105 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:54:19 ID:/YYrDWugO

( ´∀`)「フサさんは息子が孝行者で羨ましいモナ。
       うちのモララーなんか、全然手伝いもしない」

( ^ω^)「まあ、モララー君は勉強で忙しいし──」

(*゚∀゚)「おーい!」

(*゚ー゚)「おやつ持ってきたよー!」

ミ,,゚Д゚彡「あ」

 そこへ、お母さんと、かつての女の子がバスケットを抱えてやって来ました。
 おやつという言葉に、大人達は子供のように喜んでいます。

(*^ω^)「おー、今日は何だお?」

(*゚∀゚)「ドーナツだよ! あ、こらこら、食べる前に手を拭くように」

(*゚ー゚)「みんなお疲れ様。クックル、調子はどう?」

( ゚∋゚) クルックー

(*゚ー゚)「今日も元気そうだね」

 女の子は、とても綺麗な、大人の女性になりました。
 近い内に青年と結婚する予定です。

106 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:56:29 ID:/YYrDWugO

(*゚ー゚)「はい、ギコ君。ドーナツ」

(,,゚Д゚)「おう。ありがとな」

(´・ω・`)「いただきまーす。……しかし、分かんないもんだなあ。
      昔は、しぃちゃんとモララーが結婚するんじゃないかって思ってたもんだけど」

(*゚ー゚)「いえいえ、モララーは昔から私の妹ばかり追っかけてましたよ」

( ´∀`)「でぃちゃんモナね。あの子はいい子モナ。モララーには勿体ないくらい」

(*゚∀゚)「で、その隙にギコはクックルに恋の手伝いをしてもらって、見事しぃをゲットしたと」

(*,゚Д゚)「う、うっせえな」

ミ,,゚Д゚彡「自分で渡すの恥ずかしいからって、
      クックルに代わりにプレゼント渡してきてもらったり」

(*^ω^)「おっおっお、それ見たお」

(*゚ー゚)「あのときは何事かと思っちゃった」

( ゚∋゚) クルックー

107 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:57:17 ID:/YYrDWugO

 子供達の、特に青年の思い出話の中には、ほぼ必ずクックルもいました。
 いつも一緒でしたから、それも当然でしょう。
 そして思い出のほとんどが、楽しいものばかり。



 その日の午後3時は、笑い声が絶えませんでした。



*****

108 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 19:59:13 ID:/YYrDWugO


( ・∀・)「俺、村を出る」

 青年と女の子が結婚して間もない、ある日。
 かつての男の子は、真剣な顔で2人に告げました。

( ・∀・)「外で働くんだ」

(,,゚Д゚)「ああ、昔から言ってたもんな。街に行きたいって」

(*゚ー゚)「どこに行くの?」

( ・∀・)「外国」

 親友の言葉に、青年と女の子は目を丸くさせました。
 村を出ると言っても、精々、街に引っ越す程度だと思っていたのです。

 青年があんぐりと口を開け放しているので、
 クックルは青年の頭と顎を両手で挟み、口を閉じさせました。
 それを見て、親友が声をあげて笑います。

 一頻り笑うと、彼は腕を組みました。

110 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:00:33 ID:/YYrDWugO

( ・∀・)「……向こうに行ったら、多分、こっちには帰ってこれないと思う」

(;,゚Д゚)「モナーさんは何て言ってんだよ」

( ・∀・)「親父達も最初は反対してたけど、この間、やっと認めてもらった」

(;,゚Д゚)「でぃは? でぃはどうするんだ?」

( ・∀・)「でぃも一緒に行くよ。引っ越したら結婚する。
      あっちの親御さんも理解してくれてるし」

(;*゚ー゚)「聞いてない! 何で姉にだけ黙ってるのよ、あの子ってば!」

( ・∀・)「怒られるからじゃないかね」

 この親友は、女の子の妹と付き合っています。
 女の子は妹に対して少々過保護なところがあるので、言い出しづらかったのでしょう。

(;*゚ー゚)「もう……。……いつ出るの?」

( ・∀・)「明日の朝」

 先程の宣言以上の衝撃はないだろうと思っていたのに、あっさり飛び越えてきました。
 いくら何でも、明日なんて急すぎます。

111 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:02:22 ID:/YYrDWugO

(;,゚Д゚)「……それ、いつから決めてたんだ」

( ・∀・)「3ヶ月くらい前」

(;,゚Д゚)「何で黙ってたんだよ!」

( ・∀・)「なかなか言えないもんだなあ。
      お前らと別れると思うと、何か寂しくてさあ。あ、勿論クックルも含めてな」

( ゚∋゚) クルックー

(;*゚ー゚)「ああ、目眩がする……」

( ・∀・)「ま、そういうわけだから。
      今までありがとう。楽しかったよ。
      親父とお袋のこと、よろしく頼むな」

 呑気に言い放つ親友を、青年も女の子も、呆れた顔で見つめています。
 が、やはり、長い付き合いです。
 その内、2人共、「仕方ないな」と苦笑いを浮かべていました。

112 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:03:08 ID:/YYrDWugO

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

( ・∀・)「おっと。3時か」

(*゚ー゚)「おやつ食べてってよ。レモンパイなの。モララー好きでしょ」

(*・∀・)「ほんと? いいの?」

(,,゚Д゚)「送別会ってことで」

(*・∀・)「じゃあ、でぃも呼ぶよ」



 その日の午後3時は賑やかで、どこか、しんみりしていました。



*****

113 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:04:29 ID:/YYrDWugO


 子供が生まれて、お父さんは「お祖父さん」に、お母さんは「お祖母さん」に。
 青年は「お父さん」、女の子は「お母さん」に変わりました。


( ^Д^)「クックル遊んでー」

ミセ*゚ー゚)リ「だめ! 私がクックルと遊ぶの!」

( ゚∋゚) クルックー

 7歳の息子と5歳の娘は、よくクックルを取り合って喧嘩をしました。
 クックルは2人共と遊ぶつもりなのですけれど、どうやら彼らは独り占めしたいようでした。

( ^Д^)「クックル、こっち来い!」

ミセ*゚ー゚)リ「クックル!」

( ゚∋゚) クルックー…

(*゚ー゚)「クックルが困っちゃうでしょ。みんなで遊びなさい」

ミセ#゚ -゚)リ「だって、昨日はお兄ちゃんがクックルと遊んだんだよ。
      だから今日は私と遊ぶ番でしょ?」

114 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:06:24 ID:/YYrDWugO

(#^Д^)「昨日、すぐにお前がクックル連れてっちゃったじゃんか!」

ミセ#゚ -゚)リ「クックルがお父さんのお手伝いするのについてっただけだもん!」

 かっとなってしまったのでしょう、お兄ちゃんが、妹の頭を叩きました。
 妹は一瞬ぽかんとして、それからすぐに泣き出してしまいました。

ミセ*;д;)リ「わああああん!」

(#゚ー゚)「こら、プギャー!」

 兄妹が喧嘩したとき、どちらかが手を上げたら、
 先に叩かれた方を庇うようにとクックルは教えられています。
 ですので、クックルは、迷うことなく泣きじゃくる妹を抱え上げたのでした。

 そのせいで、味方がいないと思ったのでしょうか。
 お兄ちゃんはぼろぼろと涙を零し、子供部屋に駆け込んでいってしまいました。

( ;Д;)「もうクックルもミセリも嫌いだ!」

(#゚ー゚)「そんなこと言うんじゃ──……、……まったくもう! あの子ったら」

ミセ*; -;)リ グスッ、グスッ

( ゚∋゚) クルックー

 妹を抱えながらリビングの中を歩いていると、やがて泣き疲れたのか、
 彼女はクックルの首にしがみついたまま眠り込みました。
 お母さんの腕に妹を移動させます。

115 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:08:40 ID:/YYrDWugO

(*゚ー゚)「ごめんね、プギャーの様子見てきてくれる?」

( ゚∋゚) クルックー



 お兄ちゃんは、子供部屋の隅っこで泣いていました。
 クックルに気付いて少しだけ嬉しそうな顔をした後、慌ててそっぽを向いてしまいます。

 言葉遣いや振る舞いに乱暴なところがありますが、本当は気が小さく、寂しがり屋な子です。

 「お兄ちゃん」として我慢させられることが多い分、ああやって取り合いの喧嘩になると、
 つい意地を張る節がありました。
 それさえなければ、妹とも仲良く遊べるのですが。

( ゚∋゚) クルックー

( ;Д;)「わっ」

 クックルはお兄ちゃんを抱え、外に出ました。
 離せ、とか、クックルなんか知らない、とか騒いでいた彼も、
 肩車へと体勢を帰ると、おとなしくなっていました。

 そのまま、お父さんとお祖父さん、お祖母さんのいる畑へ歩いていきます。

116 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:10:35 ID:/YYrDWugO

(,,゚Д゚)「お、プギャーとクックル。どうした?」

 お父さん達は2人に気付くと、農具を足元に下ろしました。
 今は泣き止んだものの、目を腫らしているお兄ちゃんを見て、大体の事情を察したようでした。

ミ,,゚Д゚彡「また喧嘩したから?」

(*゚∀゚)「喧嘩するほど仲がいいってね」

(,,゚Д゚)「ちゃんと仲直りしろよー」

( ゚∋゚) クルックー

 お父さんの水筒に入っている水をちょっとだけお兄ちゃんに飲ませてもらい、
 それが済むと、クックルは畑を離れました。

 2人の後ろ姿を眺めていたお父さん達が、顔を見合わせ、肩を竦めて微笑みます。

ミ,,゚Д゚彡「あと5分で仲直りの時間だから」

(,,゚Д゚)「だな」


.

117 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:11:52 ID:/YYrDWugO


 ゆったりと歩を進めるクックル。
 お兄ちゃんは、少年だった頃のお父さんがそうしたように、クックルの頭に頬を乗せました。

 ちくたく、ちくたく。
 時計の音。

 何だか無性に、ほっとします。

( ^Д^)「……クックル……」

( ゚∋゚) クルックー

( ^Д^)「ごめん、クックル……」

( ゚∋゚)

( ^Д^)「嫌いなんて言って、ごめん」

( ゚∋゚) クルックー

 嫌いじゃないよ、とお兄ちゃんは言います。
 そんなの、クックルにはお見通しです。
 妹のことだって嫌いな筈がありません。

118 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:13:08 ID:/YYrDWugO

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

( ^Д^)「……あ」

 3時。
 おやつの時間。

 お兄ちゃんは、困ったようにクックルを見下ろしました。

 おやつは食べたいけれど、家には妹がいます。
 喧嘩をしているのに同じテーブルでお菓子を食べるなんて。

( ^Д^)「……」

( ゚∋゚)

( ^Д^)「……」

( ゚∋゚)

( ^Д^)「……クックル、帰ろ」

( ゚∋゚) クルックー

119 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:13:54 ID:/YYrDWugO

 家に帰れば、もう喧嘩は終わるでしょう。
 妹は素直な子ですから、お兄ちゃんが謝れば、彼女も謝る筈です。

 クックルは踵を返し、お父さん達を呼ぶため、再び畑へ向かいました。


 その日の午後3時は、和やかでした。



*****

120 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:16:28 ID:/YYrDWugO


 お兄ちゃんも妹も、大人になると街へ引っ越してしまいました。
 お祖父さんとお祖母さんは、2人共、数年前に亡くなっています。

(*゚ー゚)「3人だけになっちゃったわねえ」

(,,゚Д゚)「そうだなあ」

( ゚∋゚) クルックー

(*゚ー゚)「ちょっと、寂しいな」

(,,゚Д゚)「プギャーとミセリも、やりたいことを見付けて街に行ったんだ。
     悪いことじゃねえさ」

(*゚ー゚)「そうね……」

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

(,,゚Д゚)「ん、3時だな」

(*゚ー゚)「おやつにしましょうか。今日はキャロットケーキなの」

(,,゚Д゚)「ああ」



 その日の午後3時は、いやに静かで、ちょっぴり寂しいものでした。



*****

121 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:19:46 ID:/YYrDWugO


 兄妹とも、街で出会った異性と結婚し、
 先に妹が「お母さん」、数年遅れて兄が「お父さん」になって。
 お父さんとお母さんは、「お祖父さん」「お祖母さん」になりました。


 それから少し経って、お祖母さんは、心臓を悪くして亡くなってしまいました。
 あまりに急なことで、彼女の死を看取ったのはお祖父さんとクックルだけでした。



(,,゚Д゚)「あんまり苦しくはなさそうだったよ」

( ^Д^)「……それなら良かった」

ミセ*; -;)リ「お母さん……」

o川*゚ー゚)o「おばあちゃん、ここに入ったの?」

 4歳になる妹の娘は、クックルの肩の上から、お祖母さんの眠るお墓を指差しました。
 クックルは、孫娘がしがみついている頭をあまり揺らさぬように、小さく頷きます。

( ゚∋゚) クルックー

o川*゚ー゚)o「そっかあ……」

 彼女は、いまいち、死というものを理解しきれていないようでした。
 不思議そうに、まじまじとお墓を見つめています。

122 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:21:44 ID:/YYrDWugO

o川*゚ー゚)o「ねえミルちゃん、おばあちゃん、ここにいるんだって」

( -д- ) スースー

o川*゚ー゚)o「あー、ミルちゃん寝てる」

 兄の息子はさらに幼いため、この場に来ている理由すら把握していないのでしょう。
 父親の腕の中で、ぐっすり寝ていました。

o川*゚ー゚)o「ミールーちゃん」

ミセ*; -;)リ「キュート、静かにしなさい」

(,,゚Д゚)「はは、キュートとミルナは墓なんか見ても退屈だよな」

 お祖父さんは、花とりんごをお墓の傍に置き、そっと立ち上がりました。

123 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:22:30 ID:/YYrDWugO

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

( ^Д^)「……もう3時になったか」

(,,゚Д゚)「キュート、りんごは好きか?」

o川*゚ー゚)o「好きー」

(,,゚Д゚)「じゃあ、祖父ちゃんの家でりんご食べような。
     ミルナは食えるか?」

( ^Д^)「ああ、うん。起きれば食うと思う」

(,,゚Д゚)「……しぃが、りんご好きだったんだ。
     みんなで食おう」



 その日の午後3時は、しゃくしゃくとりんごを齧る音の中に、ぐすぐすと鼻を啜る音が混じっていました。



*****

124 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:23:47 ID:/YYrDWugO


 一緒に街に住まないかという兄の誘いを断り、お祖父さんは元の家に残りました。
 クックルと2人きりの生活です。

( ゚∋゚) クルックー、クルックー、クルックー

(,,゚Д゚)「ああ、今日のおやつは何にしようか」

 お祖父さんは料理には不馴れでしたから、おやつは果物が多くなりました。
 あとは、たまに気が向けば、比較的簡単なホットケーキを作るくらい。

(,,゚Д゚)「果物──は、この間買った分はもう無いな。
     小麦粉も切らしてるし。……今日は、いいか」

 また、何も食べない日も増えました。

( ゚∋゚) クルックー…

(,,゚Д゚)「畑見に行くか、クックル」

 以前なら楽しくテーブルを囲んでいた時間ですが、
 お祖父さんは寂しそうな顔をすると、外に出ていってしまいました。


.

125 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:27:18 ID:/YYrDWugO


 そんな日々が、ずっと続いて。
 ある朝、クックルに異変が起きました。

( ゚∋゚) クルック、ク……

 声が変なのです。
 それだけではなく、左足も思ったように動きません。

 お祖父さんはクックルを運ぶのを兄に手伝ってもらって、街の整備士を訪ねました。



(-@∀@)「──いやあ、こりゃ、部品替えないと駄目ですね」

 クックルを調べ終えた整備士は、そう言いました。

(,,゚Д゚)「部品?」

(-@∀@)「ええ。あちこちにガタが来てますよ。
      中身ほとんど替えなきゃ、近い内に動かなくなるかと」

126 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:30:05 ID:/YYrDWugO

( ^Д^)「いくら掛かるんだ?」

(-@∀@)「ううーん、だいぶ古い型ですから、部品揃えるのも大変だと思うんで……。
      ──まあ、ざっと、こんな感じで」

 提示された額は、とんでもないものでした。
 ですが、お祖父さんは、「古い型」という言葉にも驚いていました。

 あの村にはクックル以外にロボットらしいロボットがいないので
 今時のロボットがどういったものなのか、とんと分かりません。

 ですが、言われてみれば、たしかにクックルは何十年も昔に発売されたロボットなのです。
 時代遅れと見なされるのも無理からぬ話でした。
 寧ろ、手入れをせずにここまで持ったのが凄いくらいではありませんか。

(-@∀@)「それよか、新しい時計を買った方が現実的かつ経済的ですよ。
      いかがです、安いとこ紹介しますけど──」

( ^Д^)「んなもんいらねえよ」

(,,゚Д゚)「……クックル、帰るぞ」

( ゚∋゚) クルルル…

 別に、時計が欲しいのではありません。
 整備士が手渡した時計会社のパンフレットを突き返し、
 2人はクックルを支えて工場を後にしました。


.

127 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:33:11 ID:/YYrDWugO


 その後、何人かの整備士に見てもらいましたが
 値段に僅かな差はあれど、返事はどれも似たようなものでした。


(;^Д^)「あんな金払えねえっつうの……」

(,,゚Д゚)「だなあ」

( ゚∋゚) クルクク…

(,,゚Д゚)「……ごめんな、クックル」

 結局、クックルを直すことは出来ませんでした。

 村に帰るなり、お祖父さんは説明書を引っ張り出してきて、
 慣れない操作に四苦八苦しながらもクックルの設定を変更しました。

 「鳩時計」の機能をオフに切り替えたのです。

(,,゚Д゚)「あまり負担かけないようにしないとな」

( ゚∋゚) クルル…

 お祖父さんなりの気遣いだったのでしょう。


 しかし、それから3ヶ月もしない内に、今度はお祖父さんの様子がおかしくなり始めました。

128 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:34:57 ID:/YYrDWugO

(,,゚Д゚)「あ……? クックル、今何時だ……? まだ昼前……」

 黙って椅子に座っていたかと思うと、お祖父さんは、急にクックルに問い掛けました。

 もう、日が暮れかけた夕方です。

 クックルの胸元の時計と橙色の窓を見比べて、お祖父さんはぼんやりとしながら
 両手を幾度も組み替えました。

(,,゚Д゚)「……もう夕方か。そうか。そうだな。そうだった。うん」

( ゚∋゚) クルク…



 初めは、時間が分からなくなりました。
 次に、隣に住む住人の名前が出てこなくなって。
 ついには、農作業の手順さえ、ど忘れするようになったのです。

 クックルが、手紙でお祖父さんの容態を兄妹に知らせようと思い立った、丁度その日。
 たまたま会いに来た妹によって、お祖父さんは病院へ運ばれることとなりました。


.

129 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:37:14 ID:/YYrDWugO


( ^Д^)「……もう、じいちゃんだったからなあ……」

ミセ*゚ -゚)リ「でも、あんなに元気だったのに……」

 病室の前で、兄妹は悲しそうな顔で話していました。

 ロボットのクックルは部品を取り替えれば元気になるけれど、
 人間、ましてや脳の問題は、そうもいきません。

( ゚∋゚)

o川*゚ー゚)o「ね、クックル」

( ゚∋゚) ク…

o川*゚ー゚)o「お祖父ちゃんね、体の具合も悪いから、入院しなきゃいけないんだって。
      クックルはどうする?」

 廊下のソファ。
 クックルと並んで座っていた孫娘は、手を繋ぎながら、そう訊ねました。
 彼女も、もう12歳です。

 孫娘の発言を聞いて、兄妹は一層深刻な表情を浮かべます。

130 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:40:01 ID:/YYrDWugO

( ^Д^)「そうだ、クックルを何とかしねえと」

 クックルの不調は、今や、喉と左足には収まりません。
 両手両足が軋みますし、10歩進むのにも、かなりの時間を要しました。

 きっちりと昔通りに動き続けるのは、胸の時計だけです。

o川*゚ー゚)o「うちに来る? トソンっていう掃除ロボットいるから、お友達出来るよ」

ミセ*゚ー゚)リ「そうだね、そうしようか、クックル」

( ^Д^)「俺の家でもいいんだぞ」

 こんなロボット、スクラップ工場に送られたって文句は言えません。
 なのに、みんな、家においでと声をかけてくれました。

( ゚∋゚) ククルル…



*****

131 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:42:04 ID:/YYrDWugO



(,,-Д-)

 何ヵ月も、何ヵ月も、お祖父さんはベッドの上にいました。

( ゚∋゚)

 何ヵ月も、何ヵ月も、クックルはベッドの隣にある椅子に座っていました。

 兄か妹の家に行くより、お祖父さんの傍にいたかったのです。

(,,-Д-)

 お祖父さんのあちこちにチューブが繋がっています。
 細いコードが、手首から壁へ伸びていました。
 何か異変があれば、そのコードが、お医者さん達へ信号を送るそうです。

 今は何の信号もないので「普通」の状態らしいのですが、
 クックルには、どうしてこれが普通と言えるのか、分かりません。

132 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:44:04 ID:/YYrDWugO

 お祖父さんは畑仕事で鍛えられた体が自慢でしたし、出された食事は残さず食べる人でしたし、
 笑ったり怒ったりと感情豊かでしたし、クックルにたくさん話しかけてくれていました。

 なのに今の彼はすっかり窶れているし、食事を半分も残すし、
 起きている間は天井や壁をぼうっと眺めているだけですし、

(,,゚Д゚)「……そこにずっと座ってる人、誰なんですかね……」

 3日に一度は、クックルを見ながら、お医者さんにそう訊ねます。

 たまにクックルのことを思い出しはするけれど、少しすると、また忘れてしまうのです。
 手足──いえ、体とはもっと別の、ずっとずっと奥のところが軋むような気がします。



 何もない午後3時が、続きました。



.

133 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:45:51 ID:/YYrDWugO



ミセ*゚ー゚)リ「お父さん、来たよ。……あ、寝てるか」

 仕事で忙しい兄は休みの日にしか来れませんが、
 妹は頻繁にお見舞いに来てくれました。
 また、学校から解放される夕方以降は、孫娘もついてきます。

o川*゚ー゚)o「クックルー」

( ゚∋゚) クー…

ミセ*゚ー゚)リ「キュート、この間みたいに病室で騒いじゃ駄目よ」

o川*゚ -゚)o「あれはミルちゃんが怒ったからだもん」

ミセ*゚ー゚)リ「ミルちゃんなんて呼ぶからでしょ。ミルナ君、照れ屋なんだから」

134 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:48:35 ID:/YYrDWugO

 妹が花瓶の位置を直していると、眠っていたお祖父さんが目を覚ましました。
 「ミセリ」、と妹の名を呼びます。

ミセ*゚ー゚)リ「あ……今日は、調子いいみたいだね」

 嬉しそうに妹が微笑んだのも束の間、お祖父さんは、きょとんとして。

(,,゚Д゚)「……どちら様で?」

 もごもごと口を動かしながら、呟きました。
 妹の唇が歪んで、それから何とか元通りに笑って、「ミセリだよ」と答えます。
 名前を聞いてもぴんと来ていないようで、お祖父さんは妹から目を逸らしました。

 そして孫娘とクックルを見つめてから、ゆっくりと目を閉じ、再び寝息をたて始めます。

ミセ*^ー^)リ「しょうがないよね」

 妹は微笑んだまま言って──顔を両手で覆いました。

 そう、仕方がないことなのです。
 けれども、分かっていたって、辛いことには変わりないでしょう。

 孫娘が駆け寄り、妹を慰めます。
 クックルも何かしたかったのですけれど、もう、自力で立ち上がるのも儘なりません。

 泣き止んだ妹はしばらくお祖父さんを眺めて、外が暗くなると、孫娘と共に帰っていきました。


.

135 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:50:59 ID:/YYrDWugO


 思い出したり忘れたりを何度も繰り返し、
 食事の量がますます減って、反対にチューブの数が増えていって、
 手首のコードがお医者さんに信号を送る頻度も上がって。


(,,-Д-)


 ついに、お祖父さんは言葉すら口にすることはなくなりました。
 ああ、とか、うう、とか、呻き声をあげるばかり。

 彼が何を覚えて何を忘れているのか、そもそも何を理解しているのかすらクックルには分かりません。
 どのチューブがどんな役割を果たしているのかも、それによりお祖父さんの体がどうなるのかも。

 クックルに分かるのは、お医者さんが兄妹に告げた、
 「そろそろだと思います」という一言の意味だけです。


.

136 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:53:16 ID:/YYrDWugO

 クックルが見てきた「家族」の死は、3人分。
 お祖父さんの両親と、お祖母さん。
 そのどれもが、静かで、安らかなものでした。

 でも、今のお祖父さんは、これまでの3人とは明らかに違っていました。

 咳の音や、詰まった痰を機械で吸い取る音、意味をなさない声。
 それらが絶え間なく続き、かと思えば静かになり、また音が繰り返されて、
 まるで生死を往復しているようでした。

(,,-Д-)

( ゚∋゚)

 クックルの「主人」はお祖父さんです。
 何よりも彼を優先させなければなりません。
 何よりも彼の幸福を優先させなければなりません。

137 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:54:27 ID:/YYrDWugO

 今のお祖父さんにとっての幸福とは何でしょう。
 病気を治すこと。
 けれども時計ロボットのクックルには出来ません。

 病気から逃れること。
 これならクックルにも何とか出来そうです。
 死んでしまえば病気なんて関係ないのですから。

 でも。それは「したくない」ことでもあります。

( ゚∋゚) クルク…

 だから、クックルには、何も出来ません。


.

138 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:56:31 ID:/YYrDWugO


 ──そうやって考え続けていた、ある夜。


(,, Д ) ゲホッ、ゲホッ

 眠っていたお祖父さんが、突然激しく咳き込み始めました。
 クックルが聞いてきた中で一番嫌な音です。

 コードが信号を送り、お医者さんと看護師さんが駆けつけます。
 彼らの対応は、今までとは違うものでした。

 クックルが見たことのない器具や機械が、たくさん使われました。
 看護師さんの1人が「ご家族に連絡を」なんて言って病室を飛び出します。
 別の看護師さんは、ちらりと、悲しそうな目でクックルを見ました。

 それら全てが示すことなんか、一つしかありません。

 クックルは辛うじて右手を持ち上げましたが、忙しなく動く看護師さん達の邪魔になりそうで、
 すぐに元の位置に戻しました。
 自分だけが、ただの傍観者。

139 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 20:58:06 ID:/YYrDWugO

 お祖父さんの呼吸が浅くなり、そこに咳が混ざるものですから、ひどく苦しそうです。

( ゚∋゚)

 このまま──苦しいまま、お祖父さんは死んでしまうのでしょうか。

 色々なことを忘れて、何も分からないまま、苦しんで死ぬのでしょうか。

 クックルはそれを見ているだけ。

 一瞬だけでもお祖父さんを安心させるには、どうしたらいいだろう。
 どうしたらお祖父さんを幸せに出来るだろう。
 好きなものを与えれば、もしかしたら。

140 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:00:59 ID:/YYrDWugO

 お祖父さんが好きだったこと。好きだったもの。
 家族と、あの村と、お祖母さんが作ったお菓子。

 お菓子──おやつ。

 お祖父さんの暮らしの中で一番大事な時間は、きっと、おやつの時間でした。
 お菓子を食べながら家族と取り止めのない会話をしたり、思い出話をしたり、
 親友との別れを惜しんだり、愛しい人のことを考えたり。

 そうです、それで、その時間を教えるのは──


.

141 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:02:32 ID:/YYrDWugO

( ゚∋゚)

 クックルは、僅かに身を乗り出させました。
 回路に流れている電気を、無理矢理喉へと通します。


( ゚∋゚) …クルックー

 1回、

( ゚∋゚) クルックー

 2回、

( ゚∋゚) クルックー…

 3回。


.

142 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:04:39 ID:/YYrDWugO

 機械の音や看護師さんの声に比べると、ずっと小さな音でした。

 それなのに。


(,, Д )

 お祖父さんは、微笑みます。

(,, Д )「……もう、おやつの、時間だなあ……」

 クックルの方に、ほんの少しだけ、手を動かして。

(,, Д )「クックル……」

 名前を──彼が付けた名前を、呼んでくれました。


.

143 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:06:34 ID:/YYrDWugO

 ひゅうう、と遠くで風が鳴るような弱々しい音と共に、お祖父さんが息を吐き出します。
 それきり、彼は動かなくなりました。


(,, Д )

( ゚∋゚)


 お医者さん達は尚も手を休めませんでしたが、段々と機械や器具の出番が減り、
 最後にお医者さんが何か呟いて、辺りは完全に静まり返りました。

 いえ。
 完全ではありません。

 ちくたく、ちくたく。
 クックルの胸で、時計の針が鳴っています。

144 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:08:13 ID:/YYrDWugO

 ちくたく、ちくたく。
 お祖父さんが死んでから、これで3分28秒。
 お祖父さんがいなくなってから、3分29秒。
 お祖父さんと話せなくなってから、3分30秒。

( ゚∋゚)

 お祖父さんのいない時間なんて、知りたくありません。

( ゚∋゚) …クルックー…

 クックルは背もたれに寄り掛かると、目を閉じました。

 おやつを食べるときは、いつも、クックルがお祖父さんの傍にいました。
 お祖父さんが待っています。
 早く行かないと。

145 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:08:59 ID:/YYrDWugO


( -∋-)


 ──そうして、クックルの体の中にある全てのものが活動を停止させたのでした。

 お医者さんがそれに気付いたのは、兄妹が病室に到着した頃。


.

146 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:10:13 ID:/YYrDWugO





 その日の午後3時は、真夜中にやって来ました。



*****

147 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:12:43 ID:/YYrDWugO





( ゚д゚ )「おーおーきな、のっぽの、ふるどけいー」

 ぱしゃぱしゃ。
 合羽を着た少年が、傘を振り、水溜まりを踏みながら歌っています。

( ^Д^)「何だ、その歌」

o川*゚ー゚)o「あ、それ知ってる。ずーっと昔の歌なんだって。学校で習ったよ」

 孫娘も歌に加わり、雨音と稚拙な歌声が墓地に響きました。
 どこか寂しそうな声です。

148 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:15:20 ID:/YYrDWugO

o川*゚ー゚)o「おじいーさんのーとけいー」

ミセ*゚ー゚)リ「何か、クックルみたい。のっぽの古時計って」

( ^Д^)「あ? あー……そうだな」

 兄はお墓を見下ろし、頷きます。

 ──お祖父さんは、微笑んだまま亡くなっていました。
 お医者さんの話によれば、それまで苦しんでいたのに、急に笑ったらしいのです。
 クックルの名を呼んだというので、どういった形にしろ彼のおかげなのでしょう。

 だから、兄妹とも、悲しくはあっても辛くはありませんでした。

149 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:17:54 ID:/YYrDWugO

ミセ*゚ー゚)リ「ロボットって、一緒に埋めていいのかしら」

( ^Д^)「許可はもらってるし、大丈夫だと思うけど」

 言って、兄は腕時計を確認しました。
 短針と長針が3時を指しています。

 傘をくるくる回しながら歌っている2人に振り返り、声をかけました。

( ^Д^)「ミルナ、キュート、何か食ってくか」

o川*゚ー゚)o「伯父さんの奢り? 私お小遣い少ないの」

ミセ*゚ー゚)リ「何言ってんのよ、もう」

( ^Д^)「はは、奢り奢り」

( ゚д゚ )「俺アイス食べたい」

o川*゚ -゚)o「えー、寒いじゃん。ケーキがいい」

( ^Д^)「まあ、歩きながらゆっくり考えよう」

 ぱしゃぱしゃ。
 水溜まりを踏む度、靴底の下で水が弾けます。
 雨は止み始めていました。

151 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:20:25 ID:/YYrDWugO

o川*゚ー゚)o「おーおーきな、のっぽの、ふるどけいー」

( ゚д゚ )「おじいーさんのーとけいー」

ミセ*゚ー゚)リ「こら、ちゃんと前向きなさい。転んじゃうわよ」

 子供たちが前を歩くのを眺めながら、兄は、そっと腕時計を耳元に当てました。

 ちくたく、ちくたく。
 その音を聞いていると、昔、妹と喧嘩した日のことを思い出します。

 ちくたく、ちくたく。
 あのとき彼の中から聞こえた音は、とても優しく感じられました。

152 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:21:14 ID:/YYrDWugO

( ^Д^)「……ミルナに、時計ロボット買ってやるかなあ」



 ちくたく、ちくたく。


 あれはきっと、あの時計が生きていたことを示す、温かな心音。



.

153 :名も無きAAのようです:2012/03/07(水) 21:21:42 ID:/YYrDWugO





( ゚∋゚)大きな古時計のようです



おわり

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