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('A`) My Baby Blueのようです

2 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:28:46 ID:bWGfUuhw0


視界は良好。
下を覗けば何とか諸島が広がってる。
俺はその中の小島の一つに、居座っていた。

('∀`)「いい天気だ」

雲がない日のフライトってのは堪らなく気分が爽快だ。
勿論雲のある日にもまた別の良さがあるが、こういうのは比べるような物じゃない。

('A`)「降りるか」

機首を下げて、スロットル・ダウン。
念のため油圧をチェック。
何も問題はない。

こういうの、なんて言うんだっけか。
システムオールグリーン?



3 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:31:21 ID:bWGfUuhw0


俺は、シートに座り直した。
肩の力を抜いて、歯を食いしばる。

着陸の瞬間ってのは何度やっても慣れないもんだ。
着陸する時の衝撃は意外ときついし。
何より億劫だ。
本当ならずっと飛んでいたいけど、腹が減るからそうもいかない。

地面が目の前まで近づいて来た。
俺は目算で、地上との距離を測る。
着地の瞬間、僅かに機首を上げた。

これは着陸の衝撃を和らげるコツだ。


がたがた揺れながら、浜辺を走る。
俺は降りるたびに、もうこんながたがたはごめんだと思うんだが、結局すぐにまた飛んでしまう。
中々折り合いが難しいところだ。

こうやってふわふわした掴みどころのない、悪く言えば朝秦暮楚とした生き方をした奴が、飛行艇乗りになるんだろう。

いや、逆か。
飛行艇乗りがそうなってしまうんだ。

なんてったって、飛行機乗りは、その身を空に打ち上げた瞬間から、どうしようもないクズに成り果てるんだから。

4 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:32:19 ID:bWGfUuhw0



('A`)My baby blueのようです



.

6 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:33:09 ID:bWGfUuhw0


俺は、宿屋の個室にいた。
目の前には依頼主であろう老貴族がいる。

何の因果か、ちょうど着陸直後に来た電信を頼りにここまで来たというわけだ。

/ ,' 3「あの子を頼む」

俺が、腰掛けるより早くこいつは言った。

あの子、というのは隣室にいる少女の事だろう。
さっきちらっと見たけれど、まだ十歳にも満たないんじゃないか。

('A`)「俺は確かに何でもやるが、本業は運び屋であって幼稚園とは違うぞ」

俺は、言った。
直感で分かる。
この依頼はめんどくさい。

7 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:33:59 ID:bWGfUuhw0


/ ,' 3「引き受けては…くれんのか?」

老貴族は、眉根を顰めた。

('A`)「そうは言ってないが……」

内密で輸送とかなら引き受けてもいい。
だけど、頼む、と言われても何をどう頼まれればいいのかが分からないし、虚偽の依頼をされたらたまったもんじゃない。

とりあえずは慎重に進めることにする。

('A`)「まず…一つ目、依頼内容が不明瞭だ。
二つ目、この子の素姓が分からない」

俺はあえて偉そうに言った。
貴族には下手に出るとダメなんだ。

8 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:35:01 ID:bWGfUuhw0


/ ,' 3「この子はデイラントと言って、私の孫だ」

老貴族は言った。
そもそもあんたは誰なんだ。

俺は、思った事をそのまま口にした。

/ ,' 3「あぁ、すまない。私はアラマキ、お主らでも名くらいは聞いたことがあるだろう?」

('A`)「……あぁ」

俺はから返事をした。

一度も聞いた事が無かったが、どうせどこぞの金持ちだろうし、あまり興味は無い。

恐らく民間では有名なんだろう。
ちょいと俗世間から離れている自分には、知る由も無いことだが。

9 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:38:53 ID:bWGfUuhw0



/ ,' 3「それで、依頼内容じゃが…」

アラマキは身を乗り出した。

/ ,' 3「あの子を預かって欲しいんじゃ」

('A`)「期間は?」

俺は尋ねた。
直感で裏があると感じていた。

/ ,' 3「…一週間」

アラマキは先ほど俺に提示した、少女の写真を一瞥し、視線を下に向けた。
嘘を付くつもりなのが、バレバレだ。

('A`)「断る」

/ ;' 3「どうしてかね?金なら積むが」

('A`)「俺は死にたくないんでな、嘘の依頼掴まされるほど平和ボケしてないんだ」

俺は吐き捨てた。
そろそろ痺れを切らして本性を現す頃合いだろう。
そしたら後はさっさと出て、飲みにでも行こう。

だいたいまだ仕事上がりの煙草も吸ってないんだ。

10 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:41:15 ID:bWGfUuhw0

/ ,' 3「…分かった。二億ベルだそう」

('A`)「何…?」

俺は耳を疑った。
二億ベルって言ったら、俺が一生遊んで暮らしてもまだお釣りが来るくらいだ。

別に金が欲しい訳じゃないが、そこまでして飛行機乗りみたいな下衆に頼む理由って一体なんなんだ。

('A`)「…そのガキ、一体何者だ?」

/ ,' 3「何も無い普通の子供だ。本当にただの可愛い私の孫なんだ…」

アラマキは震えだす。
俺は、そこに確かに孫への愛を感じた。

貴族ってのは、金に目が眩んだどうしようもない奴ばかりだと思っていたが、そうでもないらしい。

だからといって依頼を受ける理由にはならないが。

11 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:42:41 ID:bWGfUuhw0

('A`)「そんな事は聞いてない。どこに二億ベルも費やして飛行艇乗りなんぞに押し付ける必要があるのかと聞いているんだ」

/ ,' 3「…答えたら、受けてくれると言ってくれ」

('A`)「そりゃ無理だ」

/ ;' 3「くっ…」

商談は不成立。

俺は席を立って、帰ろうとした。
早く煙草を吸って、飯を食いたいところだ。

/ ;- 3「あの子は…適合者なのだ」

(;'A`)「ッ!」

/ ;- 3「だが絶対に軍には渡したくない…」

/ ,; 3「頼む…!あの子を…あの子を連れて逃げてくれ!」

アラマキは俺に対して、膝を折り、頭を下げた。
飛行艇乗りである俺に対してだ。

12 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:45:09 ID:bWGfUuhw0


('A`;)「…飛行艇乗りに頼む意味が分からない」

俺は窓の外を見ながら言った。
目を合わせたくなかった。

/ ,; 3「飛行艇で逃げなければ、すぐに捕まってしまう」

('A` )「軍に売られる可能性の方が高い」

俺は言った。
そんなつもりなど欠片も無いのに。

/ ,; 3「そうかもしれない。だが飛行艇乗りならば、適合者の痛みが分かると思ったのだ」

勝手なことを言う。
だから貴族は嫌いだ。
自分の事だって、分からない事の方が多いのに。

13 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:47:13 ID:bWGfUuhw0

('A` )「……知らないのか?実際に人身売買を生業にしてる空賊なんてごまんといるぞ」

/ ;' 3「だがあなたはしていない。そうだろう?」

アラマキは俺の顔をじっと見た。
否が応でも視線を合わされたしまう、そんな瞳だ。

('A`;)「チッ…。ムカつくじじぃだ」

吐き捨てた。
この老貴族、何もかも考えて来ている。
俺はなぜかその事に酷く腹が立った。

14 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:49:02 ID:bWGfUuhw0

('A`;)「アテはあるのか?」

/ ;' 3「アテ、とは?」

('A`;)「逃げるアテだが…その様子だとなさそうだな…」

/ ;' 3「…申し訳ない」

謝るアラマキに背を向けて俺は考えた。
逃げるアテなら、無くはない。
だけど、出来るなら避けたい場所だ。

というか何で俺は受ける前提で考えてるんだ。
完全にこいつのペースじゃないか。

('A` )「追手は?」

/ ;' 3「恐らく当分は大丈夫だろう。この件はまだほんの一部しか知らない」

15 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:52:35 ID:bWGfUuhw0

そこで俺は気付く。

('A`)「…なぜ揉み消さない?」

貴族なら、それも二億ベルもポンと現ナマで出せるほどの貴族が、たかだか子ども一人くらいもみ消せないはずがない。

/ ;' 3「…デイラントの父親が、許さんだろう」

('A`)「どういう意味だ」

/ ;' 3「父親は、娘がどうなろうとも厭わんだろうということだ」

つまり親父がクズという事か。
俺は妙に納得した。


数秒間、沈黙。

('A` )「まぁどのみち俺には関係ない」

俺は荷物を手に取る。
アラマキをちらりと見て、立ち上がる。

16 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:54:29 ID:bWGfUuhw0

/ ,' 3「こういう事は言いたくはなかったが…」

不意にアラマキは口を開いた。
俺は立ち止まる。

/ ;' 3「また逃げるのか」

( 'A`)「あ?」

/ ;' 3「一度くらい守りきりたくはないの…」

(#'A`)「黙れ!!!」

俺は壁に拳を打ち付けた。
鈍い音が響く。

('A`#)「…ハナから俺狙いってわけだ」

/ ;' 3「あなたくらいしか頼める人はいない」

こいつは俺がさっき思ったよりもはるかに多くの事を知っていて、計算してここに来ていた。
俺の過去と彼女の今ですら、知っていてもおかしくはない。

17 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:55:38 ID:bWGfUuhw0

/ ;' 3「受けてくれるのだね?」

('A` #)「…」

俺は、言葉を発せなかった。
喋ると、口がYesと動きそうだったから。

怒りは止まらない。
こんなクソ野郎の顔なんざ見たくもない。
そう思って、口を開こうとした。
いつもみたいに、断るって。
だけど、動かなかった。

('A`#)「……チッ」

もう俺の中では決まってるんだ。
この依頼は、受ける。

18 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:56:59 ID:bWGfUuhw0

('A`#)「あぁ、いいだろう」

俺は言った。
拳は震えて今にも突き出しそうだったが、抑えた。
Be Coolってやつだ。

/ ,- 3「恩に着る…」

('A`)「礼より金だ」

俺は手を出した。
アラマキは頷いて、従者へ目配せした。
忠誠なのか金なのかはともかく、物凄く忠実だな。
身の回りの事なんでもやってくれるんだろう。

俺的には煩わしくてあまり羨ましいとも思わないが。

19 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:58:04 ID:bWGfUuhw0

扉が再び開いた。
さっきの従者が大きなケースを抱えて入ってきた。
目が覚めたのか、少女も一緒だ。

/ ,' 3「ご苦労」

アラマキは従者を促した。
従者が机にケースを置く。

俺はそれを無言で受け取った。
開けて、中の札束をパラパラめくる。
どうやら偽造はないみたいだ。
二億あるかは、定かじゃないが、もし無くてもこれだけあれば別に構わない。

('A`)「よし、交渉成立だ」

/ ,' 3「任せたぞ」

('A` )「ふん」

いちいち癪に障るじじぃだ、そう思った。
金を渡してさっさと帰らせてくれ。

20 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:59:15 ID:bWGfUuhw0

俺は従者の持つ契約書にサインした。
その傍で、アラマキは少女と話し始めた。

/ ,' 3「デイラント…。この人の言う事をしっかり守りなさい」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、おじいさま」

幼いのに毅然としていて、聡明そうな子だ。
アラマキが溺愛するのも頷ける。

('A`)「…」

俺は、少しだけ同情を禁じ得なかった。
何も知らない少女と、哀しみを押し殺す祖父。
恐らくは二度と会えないのに、マトモな別れすら告げられない。
悲哀小説にしたらちょっとはいいのが書けるだろう。

('A`)「…煙草吸ってくる」

俺は居た堪れない気持ちになって、部屋を出た。

21 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:02:44 ID:bWGfUuhw0


………………………………………………






|・ω・`)「うちは昼はやってないよ」
|と

酒場の扉を少しだけ開けて、店主のショボンは言った。

('A`)「まぁ、入れてくれよ」

(´・ω・`)「…君か」

ショボンは扉を開けて、俺を招き入れた。
デイラントが入る前に扉を閉めようとしたので、俺が止める。
怪訝そうな顔をするショボンを無視して、俺は迎え入れた。

22 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:05:52 ID:bWGfUuhw0
'A`)「面倒な事になった」

俺はカウンターに座って言った。
デレは、俺の隣にちょこんと座っている。

(´・ω・`)「見れば分かるさ」

ショボンはデイラントを一瞥した。
そして再び俺を見る。
どこから攫ってきたの?とでも言いたげだ。

ショボンは、カウンターへ歩いていって、何やら作業をし始めた。
開店準備みたいだ。

ζ(゚、゚*ζ「こんにちは。お名前は?」

デイラントが立ち上がり、ショボンに対して言った。
スカートを掴んでふわりと上に上げるアレだ。
やはり貴族ってことで礼儀は正しいらしい。

(´・ω・`)「僕?ショボンだよ」

ショボンはグラスを擦っていた。
それをじっと見詰めて、デイラントは動かない。

23 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:07:02 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚、゚*ζ「……」

(´・ω・`)「なんだい?」

ショボンはグラスを拭く手を止めた。
デイラントと睨み合っている。

あぁ、そう言えば俺の時も催促して来たな。

俺は、ショボンに助け舟を出してやる。

('A`)「お前も聞いてやれ」

(´・ω・`)「え?」

('A`)「名前だよ」

一瞬、思案したような顔をして、ショボンはデイラントに向かって、ニッコリ笑った。

(´・ω・`)「これは失礼。お嬢さんは名前はなんていうのかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「デイラントよ」

デイラントはニッコリ笑い返した。
とことこと俺の隣に歩いて来ると、再び座り直す。
どうやら満足したらしい。

24 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:10:40 ID:bWGfUuhw0

(´・ω・`)「この子、誰?」

('A`)「貴族の娘らしい」

俺たちはなるべくデイラントに聞こえないように話した。
別に聞かれて困るわけじゃないが、一応の気遣いだ。

(´・ω・`)「……おいおい、誘拐じゃないだろうね?流石に貴族は敵に回しちゃあだめだろ」

('A`)「まさか。押し付けられただけだ」

それでも怪訝そうな顔をするショボンに、俺は適合者だと付け加えた。

(´・ω・`)「…せめてもの親の愛ってことか」

('A`)「厳密に言えば祖父だが、一緒に逃げないあたり、貴族らしいな」

俺が言うと、ショボンは肩を竦めた。

25 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:12:24 ID:bWGfUuhw0

ζ(゚ー゚*ζ「何のお話?」

デイラントが割って入ってきた。
大人しくてもやっぱり年相応な所はあるのか。

('A`)「秘密の話だ」

ζ(゚ー゚*ζ「私もお話ししたい」

('A`)「また後でな、ガキンチョ」

ζ(゚ー゚*ζ「私、ガキンチョじゃないわ。もう立派なレディーよ」

デイラントは急に澄ました顔をして、背筋を伸ばした。

ζ(゚ー゚*ζ「それに私、デイラントって言う立派な名前があるもの」

('A`)「そりゃ悪かった。だからちーっと黙ってな?賢いレディなら分かるだろ?」

26 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:13:35 ID:bWGfUuhw0

ζ(゚ー゚*ζ「むっ。仲間外れは良くないわ」

(´・ω・`)「デイラント。これはね、大事な話なんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「大事って…お仕事かしら?」

('A`)「あぁそうだ」

俺は頷いた。
デイラントは、途端につまらなそうな顔をした。

ζ(゚ー゚*ζ「お仕事なら仕方ないわ」

(´・ω・`)「ありがとね」

ショボンは答えて、デイラントの前にグラスを置いた。
オレンジの液体、察するにジュースだ。
デイラントは、目の前のものに一瞬目を輝かせ、平静を装う。

ζ(゚ー゚*ζ「私はもう子供じゃないから気遣いくらい出来るのよ」

デイラントは頷いた。
だけど口が笑おうとしている。
喜びを隠しきれていなかった。

27 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:14:57 ID:bWGfUuhw0


(´・ω・`)「貴族の子にしてはえらく素直じゃないか」

ショボンが再び小声で言った。

('A`)「そうみたいだな」

(´・ω・`)「で、僕に何の用だい?」

('A`)「いや、用という用があるわけじゃあないんだが…」

俺は時計を見る。
時刻は既に一時を回っている。
そういえば結局何も食べてない。

('A`)「とりあえず、酒を頼む」

(´・ω・`)「…君、緊張感ないね」

('A`)「まぁそう言うな。今日中には発つつもりなんだ」

(´・ω・`)「いいね。駆け落ちみたいだ」

('A`)「バカ言え」

28 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:15:46 ID:bWGfUuhw0



(´・ω・`)「ははは。はいビール」

ショボンは俺に銀のジョッキを差し出す。
中には並々と注がれたビール。
ようやく、といった感じだ。

('A`)「さっきも言ったが、今日中に発つ」

俺はジョッキに口を付ける。
冷たい感覚が喉を通り過ぎた。

(´・ω・`)「うん、それで?」

('A`)「俺への仕事の依頼、全部切っといてくれ」

(´・ω・`)「無期限?」

('A`)「無期限」

(´・ω・`)「そう」

ショボンはそう、一言だけ言った。
後ろの棚から何やら取り出して、書き込み始める。

29 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:17:32 ID:bWGfUuhw0

俺が生計を立てていけるのは、ひとえにショボンのおかげだ。
いわゆる依頼の中継みたいなことを引き受けてくれているのだ。

おそらく今書いてるのはその帳簿みたいなものだろう。

('A`)「ま、しばしの別れってやつだ」

(´・ω・`)「僕としては君でもう少し稼ぎたかったんだけど…」

ショボンは憎まれ口を叩く。
こいつは昔からこういうやつだ。
湿っぽい別れなんてない、ドライな関係。

('A`)「なんなら違約金でもやろうか?」

(*´・ω・`)「ホントかい!?」

ショボンは顔をほころばせて見せた。
これもこいつの性分で、それゆえに飛行艇乗りなんて輩とのビジネスも引き受けているわけだ。

30 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:20:42 ID:bWGfUuhw0

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇねぇ。いやくきんって何かしら?」

('A`)「…あー、約束破ってごめんなさいって事だ」

ζ(゚ー゚*ζ「それでお金を払うの?」

('A`)「まぁそんなようなもんだ」

俺は答える。
正直相手をするのが面倒だった。

今更だけど、俺はお喋りな子供が苦手なんだ。
あれは何これは何と矢継ぎ早に質問してくるし、なにより遠慮がない。

その点こいつは、割り合い静かだし礼儀正しいから、好感が持てる。
ちょっと質問は多いけれど。

31 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:22:09 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚、゚*ζ「ダメよお金で解決しちゃ。ちゃんと謝らなきゃダメなんだから」

デイラントは憤慨している。
まさか貴族に金で解決するなと言われるとは。

('A`)「だそうだ。さっきの話は無しで」

(;´・ω・`)「え?」

('A`)「申し訳ない、ショボン」

(;´・ω・`)「おいおい冗談だろう?」

('A`)「おい、ショボンが許してくれねーよ。なんとかしてくれ」

俺はデイラントに対して冗談混じりに言った。

ちらりと見ると、ショボンは本当に落胆した表情。
別に払っても構わないんだけど、払わない方が面白そうだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、おじ様もちゃんと謝ってるのだから許してあげましょう?」

(;´・ω・`)「う…」

ζ(゚ー゚*ζ「ね?」

(;´・ω・`)「…悪かったよ」

ζ(^ー^*ζ「ですって、おじ様!」

('∀`)「おうおう、ありがてぇな」

ショボンは恨めしそうに俺を見ている。
その姿がなんだが妙に面白くて、俺は笑った。

32 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:23:38 ID:bWGfUuhw0

………………………………………………


('A`)「いいか、俺が今から言うことを絶対に守れ」

ζ(゚、゚*ζ「…う、うん」

俺はデイラントを抱き上げた。
飛行艇の翼の上に乗せる。

普段、大きな貨物を入れたりするところに、無理矢理シートを据え付け、デイラントはそこに座らせた。
無理矢理と言っても、構造上何ら問題はない。
ただ子供じゃなきゃかなり狭いだろうというだけだ。

('A`)「動き始めたら俺がいいって言うまで口を開けるな、歯を食いしばれ。手を離すな。暴れるな」

ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ」

デイラントの返事を待たずに俺はシートベルトに手をやった。

33 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:24:33 ID:bWGfUuhw0

('A`)「これ、苦しいかもしれねーが我慢しろ」

そう言って、俺はシートベルトを締めた。
デイラントは身動きが取りづらそうに、モゾモゾ動いた。
少し気の毒だが仕方ない。
途中で落っこちるよりかよっぽどマシだろう。

('A`)「じゃあ、出るぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ」

('A`)「…怖いのか?」

ζ(゚、゚;ζ「そんなことないわ!」

('A`)「目瞑ってな」

俺はスロットルを握って、操縦桿を確かめた。

34 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:25:50 ID:bWGfUuhw0

案外、デイラントは騒ぐことをしなかった。
俺の言いつけを守っていたのか、単にビビって声も出なかっただけなのかは、後ろを見ていなかったから分からないが、多分前者だ。

空はもう暗みかけている。
ずっと飛んでいたわけじゃない。
むしろまだ一時間程度しか経っていない。

なのにこんなに暗いのは、単に念のため明るいうちのフライトは避けようと思ったからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじ様」

('A`)「どうした」

ζ(゚ー゚*ζ「ここ、よく見たら何か書いてあるわ」

俺は後ろを振り向いた。
デイラントがシートに潜り込んでいる。

35 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:28:00 ID:bWGfUuhw0

('A`)「あぁそれな」

ζ(゚ー゚*ζ「どういう意味?」

('A`)「常に冷静にってことだ」

ζ(゚、゚*ζ「ふぅん。よく分からないわ」

('A`)「……」

俺は押し黙った。
それからは特に会話もなくて、一時経つと、後ろから規則正しい呼吸が聞こえて来た。
よくあんな狭いとこで寝れるもんだ。

恐らく飛行艇に乗ったのは初めてだろうし、その上見知らぬ男と二人きりだ。
肝が座っているのか単に頭が悪いのか。
きっとその両方だろう。

さぁどの辺りまで行こうか。
とりあえずは諸島が、出来れば陸地が見えなくなるくらいまでは飛ぼうか。
なんて考えて、首を振る。

('A`)「……なんでこんなことやってんだか…」

呟いたけれど、飛行艇は進路を変えなかった。

36 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:28:40 ID:bWGfUuhw0
やはり朝ともなると、海上はやっぱり寒くて、俺は毛布をかけてやった。
念のため言っとくが、操縦しながらじゃない。
今は海上に飛行艇を下ろしていて、つまり俺たちは見渡す限り水しかない場所にポツンと浮かんでいる。
と言っても陸地からそんなに遠くないところではあるが。

ζ(-、-q*ζ「ここ、どこ?」

デイラントが目を擦りながら言った。

('A`)「どこだろうなぁ」

俺は適当に返した。
海の上なんだからどうしようもない。

ζ(゚、゚*ζ「うわぁ!お水が一杯!」

('A`)「そりゃ海だからな」

まさか海を見たことがないんだろうか。
別に内陸にいたわけじゃないんだからいくらでも機会はあっただろうに。

37 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:29:34 ID:bWGfUuhw0

ζ(゚ー゚*ζ「これが海なのね!」

('A`)「見たことないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!ほんとはね、お家を出るのも初めてなの」

('A`)「かーちゃんがダメって言うのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん。お父様よ」

('A`)「そうか」

家を出るのは危ないと言って出してくれなかったらしい。
時折祖父がこっそりと庭へ出してくれるから、その時はとても楽しいのだと、そう言った。
俺は家の窓から空を眺める様を想像し、吐き気がした。

ζ(^ワ^*ζ「だからね、私昨日からとっても楽しいわ!」

デイラントは、これ以上ないほど眩しい笑顔を見せた。

('A`)「そりゃ良かった」

俺は返事をした。
笑うつもりはなかったけど、少し口角が上がった。

38 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:30:38 ID:bWGfUuhw0


多分俺は、この少女に早くも情を抱き始めていた。

素直だし、従順で嫌味がない。
貴族の娘とは思えないほどだ。
だけどこの感情が本物なのか、ただ適合性を持つが故の単なる代用であり慰みなのか俺は判断しかねていた。

ただ、俺は紛れもなく同情も感じていた。

生まれてこの方家に缶詰だったこと。
適合者であること。

その他全てに対して俺は下卑た同情、あるいは憐憫すらも抱いていた。



例えるなら…そう、捨て猫だ。

捨て猫を拾って来た子供の心境に似たようなものを俺は感じているんだ。

39 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:31:21 ID:bWGfUuhw0


ζ(゚ー゚*ζ「海って大きな池みたいなものかしら?」

俺は我に返った。
見ると、デイラントは未だに海を眺めていた。

('A`)「知らないのか?海ってのは甘いんだ」

俺は考えるのをやめた。
こうやって会話をするのも悪くない。

ζ(゚、゚*ζ「えぇっ。そうなの…?」

('A`)「おう、舐めてみりゃ分かるぞ」

ζ(゚、゚*ζ「……」

デイラントは、迷いながらも海水に手を入れた。
素直というか馬鹿正直というか。
とにかくからかいがいはあるみたいだ。
俺は抑えきれなくなって、吹き出す。


ζ(x、x;ζ「~~~ッ!!…かひゃい!!」

('∀`)「冗談だ」

ζ(゚ー゚;ζ「騙したのね!」

典型的な"塩っぱい顔"をデイラントはした。

俺はまだ笑っていた。
からかいがいのある奴だ。

( 'A`)っ∪「まぁそう怒るなよ」

俺は水筒を差し出す。
ちゃんと正真正銘水だ。

ζ(゚ー゚*ζ「…もう騙されないんだから」

('A`)「ただの水だ」

俺は水筒に口をつける。
喉は潤うが、ビールには遠く及ばない。
デイラントはそれを見ると、俺から水筒を受け取り、口をつけた。
恐る恐るといった様子だったが、ただの水だと分かるとゴクゴクと飲んでいた。


40 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:32:53 ID:bWGfUuhw0


ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじ様、私お腹空いたわ」

('A`)「おう、待ってろ」

俺は操縦席に顔を潜り込ませた。
シートの下が格納庫になっているのだ。
と言ってもあまり大きいものじゃなくて、せいぜい手荷物程度しか入らないが。

('A`)「ほらよ」

俺は中から籠に入ったバゲットを取り出す。
籠には他にもバゲットに挟む具材が入っている。
勿論俺が作ったんじゃない。
ショボン手製の特別美味しいやつだ。

ζ(゚ー゚*ζ「わぁ!サンドイッチね!」

('A`)「おう、美味いぞ」

41 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:35:21 ID:bWGfUuhw0

俺は操縦席席を上がって、翼の上に腰掛けた。
催促されたので、デイラントも抱えてやる。
いつも一人で座る、俺の特等席だったのだけれど、あまり抵抗は無かった。

適当に色々挟んで、デイラントに渡す。
昨日は野菜も選り好みせずに食べていたし、好き嫌いに関しては問題ないだろう。

('A`)「それ食ったらまた飛ぶぞ」

俺はバゲットを口に突っ込む。
新鮮な野菜が入ってないのは残念だが、相変わらず美味い。

ζ(゚ー゚*ζ「これ、とっても美味しいわ!おじ様が作ったの?」

('A`)「んなわけあるか。ショボンだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさんって凄いのね」

( 'A`)「あぁ、間違いねぇな」

俺はもう一口を食べながら言った。
籠の中にあったコーヒーも飲んだ。

42 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:36:37 ID:bWGfUuhw0

ζ(゚ー゚*ζ「私、帰ったらまた会いに行きたいわ!」

('A`)「…ッ!」

俺は、水平線を見た。
結構長いこと飛んだから、ひたすらに海が続く。


今この世界には、俺たち二人で。
その他にはもう誰もいない。
きっとここから真っ直ぐ飛べば、誰かがいる。
俺の知人も。
俺はそのために飛んでいるのだから。

だけど、もう、後ろに飛ぶ事はないんだ。
ここから先の記憶が、後ろの記憶を上から上から塗り替えていく。
ショボンもアラマキも、デイラントの両親も全て過去になる。
なかった事になるわけじゃないけど、少なくともこれからはもう、無い。
飛ぶってのはそういう事だ。
それをデイラントは知らない。

それどころかデイラントは自分がどういう存在なのか、自分がどういう状況に置かれているのか、それすらも分かっていないだろう。
きっと知らないおっさんとの遠足ぐらいにしか思っていないはずだ。

それでいいのか?
本当にこのまま、当事者からしたら半ば拉致のような事をして、いいんだろうか。

俺は、また迷う。

43 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:37:58 ID:bWGfUuhw0
ζ(゚ー゚*ζ「おじ様?」

デイラントが、俺の顔を覗き込んで来た。
何でもない、と弁明する。
少し、沈黙。

('A`)「父ちゃんと母ちゃんは好きか?」

迷った挙句、俺は当たり障りのない事を聞いた。

ζ(゚、゚*ζ「…お母様は、分からないわ。会ったことないもの。お父様も全然構ってくれないからあんまり」

('A`)「そうか、やなこと聞いちまって悪かったな」

落ち込んだ様子はなかったが、謝った。

この年で親の愛を知らないのか。
貴族は、やっぱり好きになれないと、そう思った。

44 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:38:56 ID:bWGfUuhw0


ζ(゚ー゚*ζ「でもおじいさまは好きよ!一杯遊んでくれるもの」

にっこりとデイラントは笑った。
惹き込まれてしまう、いい笑顔だ。

だからこそ直視できない。

('A`)「寂しくないのか?」

ζ(゚、゚*ζ「どうして?」

('A`)「いや…」

ζ(^ー^ζ「昨日会ったばっかりだもの。私そこまで子どもじゃないわ」

('A`)「…けっ。ガキンチョが何言ってやがる」

ζ(゚、゚*ζ「私、ガキンチョじゃない!」

屈託のない笑顔は、逆に俺を決心させた。

45 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:39:38 ID:bWGfUuhw0

('A`)「じいさんは好きか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

('A`)「じいさんが死んだら、悲しいか?」

('A`)「会えなくなったら、悲しいか?」

俺は矢継ぎ早に質問した。
ポカンした表情だけど、気にしない。

('A`)「いいか?お前はもうじいさんには会えないんだ。元いた所には、帰れない」

('A`)「お前はあそこにいると、酷い目に合う。死ぬよりよっぽど辛いことだ」

('A`)「だからじいさんはお前を俺に託した。どっか遠くに逃げてくれってな」

ζ(゚、゚*ζ「……分からないわ」

俺は、二度は言わなかった。
意味は分かってなくても、何となくは伝わったと思う。

('A`)「だから、選ばせてやる」

46 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:40:59 ID:bWGfUuhw0
とても酷だ。
多分俺はとんでもなく下衆な事をしている。
こんなの、年端もいかない少女に伝えることじゃない。
だからってどうすりゃいい。
俺には隠し通すことなんて出来ない。

('A`)「帰って死んじまうか、このままじいさんとずっと会えないままかどっちか選べ」

ζ(゚、゚*ζ「私…死んじゃうの?」

('A`)「死なねえ。俺が守ってやる」

ζ(゚、゚;ζ「わかんない…全然わかんないわ」

何を言ってるか自分でも分からない。
たった数時間でここまでこいつに入れ込む理由が分からない。
俺もこいつも分からないことだらけだ。

('A`)「分かった。聞き方を変える。じいさんに会いたいか?」

デイラントは困ったような顔で、小さく頷く。
戻る理由は、それだけで充分だった。


53 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:06:40 ID:h8higNtg0

俺は逃げていた。
彼女を背負って。
何から?
何からだろう。

別に逃げた事に意味なんて無かった。
追われてるわけじゃあない。
辛い事があったわけでもない。


ただ俺たちは運命から逃げたかった。

どう進んだって、目の前には希望が無いから。
どう足掻いたって、避けられないから。

なら全てから逃げるしかなかった。
そうでもしなきゃ、刹那の内に彼女は死んでしまう、そんな気がしていた。

54 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:07:22 ID:h8higNtg0
もう息が切れて来た。
クーを背中に乗せてるせいだ。
車椅子を持って来るべきだったと、後悔する。

川 ゚ -゚)「私は大丈夫だ、ドクオ」

(;'A`)「大丈夫って…ハァハァ……何が」

クーは答えなかった。
代わりに大丈夫、大丈夫と繰り返す。



(;'A`)「結構来たな」

川 ゚ -゚)「うん。ドクオ、降ろして」

(;'A`)「大丈夫なのか?」

川 ゚ -゚)「さっきからそう言ってるだろう?」

(;'A`)「あぁ…そうだったな」

俺はクーに従って、彼女を降ろした。
足元を確かめるように、二三足踏みをして、クーは降り立つ。

眼下には街があって、俺たちはそれをしばし見下ろしていた。

55 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:11:20 ID:h8higNtg0
俺には夢があった。
夢というには曖昧で、将来性のないものだけれど。

俺は、空を飛びたかった。
あの空を廻る雲みたいに、自由に。

それは、必ずしも不可能な事じゃない。
事実、この大空には飛行船が飛んでいる。
客船、軍艦、様々飛んでいる。

早い話がお金を払って、客船なら客船に乗り込めばいいのかもしれない。

でも、それじゃ自由がない。
客船に乗ったって、その中じゃ俺は有象無象の一人。
蝶のように舞う事も、鷹のように駆けることもままならない。

自由のない空に、意味なんてない。


とどのつまり、俺は自由になりたかった。
何に縛られてるわけでもない。
ただ空の自由が欲しかった。

56 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:12:22 ID:h8higNtg0
俺がこの話をすると、クーは決まってこう言った。

川 ゚ -゚)「そんなに飛びたいなら飛行艇乗りになればいい」

('A`)「…無茶言うなよ」

病室で静かに背持たれるクーは、この時ばかりは笑顔で、俺に語りかけてきたものだった。



川 ゚ -゚)「なぁ…なんだってこんなとこまで私を背負ってきたんだ」

('A`)「さぁ?」

川 ゚ -゚)「私は一応病人なんだけどな」

('A`)「気分転換になるじゃないか」

川 ゚ -゚)「うん。ちょうどウンザリしてたところだ」

クーははにかんだ。
とても優しい笑顔。

死期が近づいてるなんて、ちっとも信じられない。

57 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:16:02 ID:h8higNtg0
川 ゚ -゚)「なぁ聞いたよ」

不意にクーは言った。

('A`)「え?」

川 ゚ -゚)「飛行艇のこと」

(;'A`)「ッ!?」

川 ゚ -゚)「諦めるって?」

しばし、沈黙。
互いに対極の事を考えてたように思う。
きっとそうだ。

川 ゚ -゚)「一言でいい。一言でいいから、言って?」

(;'A`)「…何を?」

川 ゚ -゚)「ドクオ」

目で制された。
まるで、愚問はよせ、分かってるだろ、と言わんばかりに。

58 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:17:09 ID:h8higNtg0


再び、沈黙。
幾度となく交わした問答だったけど、今日ばかりは全く別のものに感じた。
なんだかお互いに切羽詰まっているような感じで、余裕がない。

( A )「…」

俺は迷っている。
最近になってその事に気付いた。

クーが俺に言葉を掛ける度、心に刃が突き立った。

醜い。
クーを犠牲にするなんて、あり得ないことだ。
俺が飛ぶ空は、あくまでクーがいてこそ成り立つのに。
なのに、心の何処かで少しだけ、ほんの少しだけそれを許容する自分がいる。

俺の胸内に燻るのは、嫌悪。
自分を殺してしまいたかった。

59 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:18:15 ID:h8higNtg0

川 ゚ -゚)「一言でいいんだ。そしたら私がドクオを飛ばせてあげる」

この言葉だ。

もう聞きたくなかった。

( A )「…ごめん」

俺は、ずっと顔を下に向けていた。
目を合わせる事がこんなに難しいなんて、思わなかった。

川 ゚ -゚)「私の事は気にしなくていい」

( A )「…そんなこと出来るわけないだろ」

なおもクーは食い下がる。

川 ゚ -゚)「私がやりたいん…」

(;'A`)「クー、俺は!!!!」

叫ぶ。
我に返って、消沈。

(; A )「俺は…」

(; A )「…お前と飛びたいんだよ……」

唇が乾く。
強張っている。
クーの手が、俺の頬に触れていた。

60 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:19:37 ID:h8higNtg0


と、ここまで話して、俺はデイラントが眠りに落ちている事に気付いた。
無理もない。
子供からしたら退屈で、眠くなる話だっただろう。

結果として、ただ独り言を呟いていただけになりはしたが、俺自身色々回顧して懐かしくも感じたので、まぁいいとする。

('A`)「…どうすっかなぁ」

俺は嘆息した。

勢いでここまで来たけれど、結局俺はどうしたいんだ。
少し考えて、結論に辿り着く。
曖昧で、結論とは言い難いけど。

俺は納得が欲しかった。

全てを教えて、逃げるならしっかりと別れを告げて、欲しいんだ。
逃げないならそれもいいだろう。
それは俺の関与するところじゃない。
つまり、インフォームドコンセント。
全てを知った上で、納得してほしかった。

そう、クーのように。

そしたらきっと結末がどうあっても、きちんと終われる。
あのまま逃げたとしたら、俺の中にはきっと妙なモヤモヤが残っていただろう。

('A`)「何かあったら頼むぞ、クー」

聞こえちゃいないだろうけど、俺は言った。
なんだか無性に言いたくなったんだ。

61 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:21:20 ID:h8higNtg0
………………………………………………



(´・ω・`)「それで帰ってきたの」

('A`)「…何か言いたげじゃねぇか」

(´・ω・`)「そんなつもりはないさ」

ただここまで予想が的中するなんて、とショボンは俺にノートを突き付けた。

昨日の日付のページに「ドクオが帰ってくるに500ベル」そう書いてあった。

('A`)「ケッ。金の亡者め」

俺はタバコに火をつけた。

(´・ω・`)「何か食べるかい?」

( 'A`)y━・~~ 「あぁ、適当に頼む」

俺は答える。
でもあんまり空腹ではなかった。

62 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:22:49 ID:h8higNtg0


それよりも隣の部屋の状況はどうなってるのかが知りたい。

状況って言ったって何か大事があってるわけでもない。
だけどやっぱり俺が発端でもあるから、無関心じゃいられない。


(´・ω・`)「気になるかい?」

( 'A`)y━・~~ 「まぁ…な」

(´・ω・`)「それで?どうするの?」

( 'A`)y━・~~ 「何がだ?」

俺は聞き返す。

(´・ω・`)「あの子の今後に決まってるだろロリコン」

(;'A`)「その言い方はやめろ」

63 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:45:43 ID:h8higNtg0

(´・ω・`)「まさか、あいつが決めることだ、とかクッサい事言うつもりじゃないだろうね」

ショボンは俺の言葉など意にも介さず言った。
そして概ね俺の思考を言い当てている。
なんだか癪だ。

(´・ω・`)「もしかしなくても図星?」

( 'A`)y━・~~ 「…いや、多分そんな事いう必要もねーよ」

(´・ω・`)「え?」

( 'A`)y━・~~ 「今度は自分で決めるさ。逃げるってな」

(;´・ω・`)「うわぁ……」

ショボンはあからさまに顔をしかめて見せた。
我ながら確かに臭かったように思う。

64 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:46:32 ID:h8higNtg0

( 'A`)y━・~~ 「…」

(´・ω・`)「君、そんな事平気で言えるようになったらもうおっさんだよ」

( 'A`)y━・~~ 「あぁ。なんせ"おじ様"だからな」

俺は言った。

初めておじ様と言われた時は、かなり面食らったものだ。
あの年の子供からすれば俺ももう年なんだなぁと染み染み。

65 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:48:23 ID:h8higNtg0

扉が開く。
店舗の入り口側じゃなくて、カウンター裏の扉。
アラマキと、手を引かれたデイラントが出てきた。

俺は煙草を揉み消した。

('A`)「もういいのか」

ζ(-、-*ζ「……うん」

目が赤い。
やっぱり泣いてたんだろうか。

/ ,' 3「これかr…」

('A`)「あんたは黙っててくれ」

/ ,' 3「っ…」

66 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:50:20 ID:h8higNtg0

俺は、隣の椅子を叩いた。
昨日の朝も、ここに座っていたっけ。

('A`)「デイラント、ここに座れ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

デイラントはおとなしく座った。
ショボンが気を利かせたのかなんなのか、視界からフェードアウトしていく。

('A`)「お前がどういう立場にあるのか、分かったか?」

コクリ、とデイラントは頷く。

('A`)「どうするか、決めたか?」

再び首肯。
決意に満ちたとは言い難いけど、少なくとも情けない目はしていなかった。
しっかり自分で結論を出せたらしい。

本当に聡明で気丈な子供だ。
心から、そう思った。

67 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:51:33 ID:h8higNtg0

('A`)「どうするか言ってみろ」

俺は尋ねた。

ζ(゚ー゚*ζ「…行く」

('A`)「あ?」

ボソボソ喋るので、あまり聞き取れない。
俺は聞き返した。

ζ(゚ー゚*ζ「おじ様と一緒に行く」

今度はハッキリと答えた。

('A`)「そうか」

俺はデイラントの頭をポンと触った。
滑らかな髪だ。

68 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:52:49 ID:h8higNtg0

('A`)「ショボン」

(´・ω・`)「なんだい?」

('A`)「迷惑かけた」

(´・ω・`)「ホントだよ全く…」

言いつつショボンは籠を突き出す。
昨日、出立の時に貰ったのと同じものだ。

('A`)「ありがとよ」

俺はコインを代わりに渡す。

(´・ω・`)「毎度あり~」

最後まで金は受け取るあたりショボンらしい。

69 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:54:11 ID:h8higNtg0

('A`)「さて」

/ ,' 3「…私ならもういい。別れは済んだ」

察したようにアラマキは言った。
なんだか酷くやつれて見える。

('A`)「本当にいいのか?」

ζ(-、-*ζ「…」

二人とも返事をしなかった。
面倒な奴らだ。

('A`)「外で待ってるぞ」

俺は言った。
だけど、俺が外に出るより早くデイラントが俺の手を握る。

71 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:55:10 ID:h8higNtg0

('A`)「…どうした?」

ζ(゚ー゚*ζ「もう、大丈夫よ」

俺は振り返り、アラマキを見る。
俯いている。

('A`)「…本当にいいんだな?」

ζ(-、-*ζ「えぇ。私、もう子供じゃないもの」

こんな時くらい、大人ぶらなくたって誰も何も言わないのに。
俺は、そう言いかけて、やめた。

ζ(゚ー゚*ζ「さようならお祖父様。お元気で」

/ ;' 3「……あぁ、さようなら」

('A`)「…」

( A )「ケッ。ガキンチョが」

デイラントの精一杯の強がりなんだ。
きっと、そうだ。

デイラントは、俺が思っている以上に大人だった。

72 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:56:17 ID:h8higNtg0

デレ、それが過去を捨てた彼女の新しい名前。
デイラントから捩ったのだが、我ながらセンスがある。

だけど操縦してる間、いや陸で何かをしている時も、俺はその名を呼ぶことはなかった。
深い意味は無かった。
元々ガキンチョと呼ぶことの方が多かったし、名前を呼ぶ機会もあまりなかった気がする。

強いて言うなら、俺自身慣れていなかったのも知れない。


デレ、あえてこう呼ぶ、と出会ってから既に幾ばくかの月日が立っていた。
其の間ずっと俺たちは飛び続けた。

意外だったのは、デレが一度も飛行艇に対して嫌悪感を露わにしなかったこと。
そして、いつまでも暗く沈んでないでいてくれたことだ。
これが俺にとってはとても救いであったし、同時に好意を抱く要因でもあった。

73 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:57:18 ID:h8higNtg0

記憶よりも大きな邸宅の前。
俺はデレの手を引いて佇んでいた。

ζ(゚、゚*ζ「おじ様?開けないのかしら?」

('A`)「…今開けるさ」

俺はかれこれ数分は扉の前で立ち往生していた。
まるで不審者だけど、中々決心がつかない。


ζ(゚ー゚*ζ「お母様に怒られるのが怖いの?」

('A`)「なんだそりゃ」

ζ(゚、゚*ζ「だっておじ様ったら、ずーっと中に入ろうとしないじゃない」

('A`)「あぁ、まぁ…な」

親じゃあないが、あながち間違いじゃない気もする。

俺はただ単にどういう顔で再会したらいいかが分からなかった。
つまり、合わせる顔がないんだ。

74 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 19:59:00 ID:h8higNtg0


ζ(゚ー゚*ζ「ここはおじ様のお家?」

('A`)「いや…」

ζ(゚、゚*ζ「違うの?じゃあそこのボタンを押せばいいじゃない」

簡単に言ってくれる。
それが出来ないからこんなに寒い中突っ立っているってのに。

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、ぴんぽーんって。ね?」

(;'A`)「あ、おい!」

俺が止める暇も無く、デレは背伸びをして、インターホンを押した。
すると数秒と経たず中から人が出てきた。

その時俺はいきなりドアを開けてしまうなんて不用心だな、なんて他人事のように考えていた。
多分焦りで頭がどうかしてたんだろう。

75 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:03:37 ID:h8higNtg0


中から出てきたのは、金髪の女性。
デレと同じような髪の色をしている。

随分と老けてはいたけど、概ね俺の想像通りで、さっきの焦りはどこかへ飛んで行ってしまった。

ξ゚⊿゚)ξ「……どちら様?」

('A`)「よう、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「え…もしかしてあんたドクオ?」

('A`)「おう」

俺は答える。
思ったよりも淀みなく極自然に返事が出来た。

76 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:04:57 ID:h8higNtg0

ξ゚⊿゚)ξ「…帰ってきたの?」

('A`)「ちょっと所用でな」

ξ*゚⊿゚)ξ「久しぶりじゃない!どこ行ってたのよ!!」

(;'A`)「え?」

ξ*゚⊿゚)ξ「十年以上連絡もしてくれなかったじゃない!」

思っていた反応と、対極だ。
俺の想像では、きっと口も聞いてもらえないだろうと思っていたから。

俺がこの地を離れた時、二人には俺の、いや俺たちの思想が理解して貰えなかったのだ。

その件に関しては、俺は仕方ないと思っている。
俺自身当時は納得していなかったし、泣きの選択だったからだ。

だから、俺はこんな待遇を受けるはずがないのに。
理解出来なかった。

77 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:06:34 ID:h8higNtg0

ξ゚⊿゚)ξ「…あら?その子は?」

ツンがデレの方を見て言った。

('A`)「あ、あぁ。こいつはデ…」

言いかけて、止めた。
なんとなくデレ、という名前を言葉に出すのが躊躇われたのだ。
代わりにデレが答える。
デイラントです、と。

当然と言えば当然だ。
名を決めた時から、一度も呼ばずに結構な月日が経っている。
忘れてたっておかしくない。
だけど、なんとなく気になった。

もしかしたら、デレの、デイラントのたった一つの意地なんじゃないか。
名前だけは忘れたくないっていう、最後の抵抗なんじゃないか。
なんて事を考えた。

78 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:07:47 ID:h8higNtg0

ξ゚⊿゚)ξ「もしかして…あんたの子供!?」

(;'A`)「ちげーよ」

即座に否定。

(;'A`)「こいつはただ預かってるだけで…」

「ツーン、何かあったお?」

俺の声は遮られる。
ひどく懐かしい声だった。

やがて、奥から男が出てくる。
今度こそ俺の想像通りの容貌。
懐かしくて思わず、笑みが零れそうになった。

79 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:10:15 ID:h8higNtg0

( ^ω^)「いきなり叫んでどうしたおー?」

男は喋りながら俺の目の前まで来た。
ツンにしか目がいってないらしい。

声は出ない。
ただ、直後に目が合って。
それでも声が出なかった。

俺は昔の面影を一つ一つ照らし合わせて。
寸分のズレもない事に喜ぶ。

あぁそうだ。
こいつはブーンだ。


ずっと、ずっと俺の親友だった。

80 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:11:08 ID:h8higNtg0

( ^ω^)「……ドクオ…かお?」

('A`)「おう。ブーン」

俺は答える。
そして次の瞬間、頬に衝撃が走り、吹き飛んだ。
背中から石段に叩きつけられる。
鈍痛?
それさえもよく分からない。

頭の上で、ツンとデレの悲鳴らしきものが聞こえる。

(#)"A`)「いってぇ…」

(  ω )「……帰れお」

覚悟はしていたつもりだ。
それこそ殺意を向けられることだってあり得なくはないと、そう思ってここまで来た。
だけど、ブーンの拳はそのどれよりも重くて、痛かった。

俺とブーンは、親友だった。
そう、文字通り"だった"んだ。
少なくとも、互いに無二だと言い合えるくらいには。

81 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:19:38 ID:h8higNtg0

あれから、飛行艇には乗ってない。
あれからというのは、こちらに来てから、つまりブーンと再会してからだ。
なんとなくこの地で飛ぶことに引け目を感じていたんだ。
ブーンに対してなのかクーに対してなのかすらわからない漠然としたもので、未だに解決の糸口が掴めずにいる。


あの後俺は予定通り、ツンにデレを預けた。
デレも最初はかなり渋っていたようだったが、ツンの持ち前の明るさですぐ懐いたようだった。
まぁそうなると思って信頼していたから預けたわけだけど。

82 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:22:55 ID:h8higNtg0

俺は近隣に部屋を間借りして、暮らしていた。
飛行艇は港に繋いでいる。
どうせ俺以外には乗れやしないし、犯罪なんて起こりようもないくらい田舎だから大丈夫だろう。



ζ(゚ー゚*ζ「ねぇおじ様」

( 'A`)y━・~~ 「どうした?」

俺は飛行艇の機関部を覗きながら言った。
飛ばないと言っても毎日のメンテナンスは欠かさない。

ζ(゚、゚*ζ「いつも何を食べているの?」

デレは俺の顔、恐らく煙草を、指差した。

( 'A`)y━・~~ 「ん?臭いか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お外だからあんまり匂わないわ」

そうじゃなくて、とデレは続ける。

ζ(゚ー゚*ζ「それ、私も食べてみたいの!」

83 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:25:01 ID:h8higNtg0

('A`)「ダメだ」

ζ(゚、゚*ζ「どうして?」

俺は煙草を捨てた。
海水が消火してくれる。

('A`)「これはな、食べ物じゃねぇんだ」

ζ(゚、゚*ζ「でもいっつも咥えてるわ」

('A`)「煙草っつってな、煙を吸ってんだよ」

ζ(゚、゚*ζ「ケムリってあのケムリ?燃えると出てくる?」

('A`)「あぁ」

84 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:26:26 ID:h8higNtg0

ζ(゚ー゚*ζ「うぇー」

デレは顔をしかめる。
最近は、感情表現が豊かになった気がする。
感情が希薄だったわけじゃないけど、当初はぎこちなかったものだ。
多分緊張がなくなったんだろう。

('A`)「ガキンチョには分かるまい」

ζ(゚、゚*ζ「むっ!またそうやって子供扱いして!」

ζ(゚、゚*ζ「私はもう大人よ!」

('A`)「ライターの使い方も分からんくせに」

デレは黙る。
思案しているような顔。
反論材料でも探しているんだろうか。

85 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:27:25 ID:h8higNtg0


ζ(゚ー゚*ζ「私も吸うわ!」

('A`)「だめだっつってんだろ」

しがみついて胸ポケットの煙草の箱を取ろうとするデレを引き剥がす。
だけど、いつもならここで食い下がるのに今日は妙に食い下がってきた。

(;'A`)「待て待て!離せ!」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ頂戴?」

俺はもう一度ダメだと念押しして、煙草を内ポケットに入れ直した。
デレは諦めて俺から離れる。

86 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:49:05 ID:h8higNtg0

(;'A`)「ったくなんなんだ。腹でも減ったのか?」

俺は聞いた。

ζ(゚ー゚*ζ「だって…吸えたら大人なのでしょ?」

('A`)「あのなぁ…」

俺は頭を掻く。
素直というかなんというか…。
とにかくデレは一刻も早く大人になりたいらしい。
まるで昔の俺みたいだな、そう思った。

('A`)「よし分かった」

('A`)「あっちの公園に確か鉄棒あるだろ?」

俺は指差す。
ちょうどブーンの家の近くに公園があったはずだ。

87 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:53:53 ID:h8higNtg0
ζ(゚、゚*ζ「えぇ。ツンちゃんと時々行くから知ってるわ」

('A`)「あれで逆上がり出来たら大人って認めてやるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「本当!?」

('A`)「出来たら、な」

ζ(゚ー゚*ζ「早く行きましょう!」

デレが俺の手を握った。
次いで駆け出そうとする。

(;'A`)「おい…!落ちるからから離せ」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ降りましょう?」

俺は渋々降りた。
いつもなら、突っ返すところだがたまには付き合ってやろう。

88 :名も無きAAのようです:2012/12/09(日) 20:56:03 ID:h8higNtg0

ζ(゚、゚*ζ「…来てくれるの?」

流石に驚いたみたいだ。
少し邪険にし過ぎていたかも、と反省。

でも毎日のように来られたら、結構うっとおしいものだ。
大人しくツン達と遊んでればいいものを。

('A`)「なんだ、来なくていいのか?」

ζ(^ー^*ζ「ううん!行きましょう!」

俺はもう一度煙草に火をつけた。

大人ってなんだろうか。
自立か、精神の成熟か。
イマイチ定義はハッキリしていなさそうだ。
ただ言えるのは、煙草は吸えるけれど、どうやら俺はまだ大人にはなれていないらしい。


100 :名も無きAAのようです:2012/12/31(月) 23:46:20 ID:8iv8QR2Q0


俺は、普段通り港通りを歩いていた。
飛行艇の整備が終わって、家に帰るためだ。

( 'A`)y━・~~ 「おー、さむっ」

季節は冬。
雪こそ今日は降ってないけど、冷たい風が骨身にしみる。

こんな気候で飛行艇なんか乗ったら凍死する、なんて思うかもしれないが案外そうでもない。
エンジンの熱を利用して、暖房じみたことが出来るから、下手すれば夏より快適だったりする。

( 'A`)y━・~~ 「明日、晴れたら飛んでみるかな」

俺は呟いた。
最近独り言が多くっていけない。

101 :名も無きAAのようです:2012/12/31(月) 23:50:25 ID:8iv8QR2Q0

前方から、二人歩いて来た。
ブーンとツンだった。

ξ゚⊿゚)ξ「おはよう」

( ^ω^)「…」

('A`)「……よう」

俺は応える。
ブーンはじっと俺の目を見据えたままだ。

( ^ω^)「僕は…」

言い淀む。
ブーンは俯いて。

('A`)「え?」

俺は聞き返した。


沈黙。
ほんの数瞬。

ブーンが顔を上げる。

( ^ω^)「僕は、まだお前を許したわけじゃないお」

苦虫を潰したような顔。
ブーンも、多分俺も。

( A )「そうか…」

謝ろうと思って。
ただ俺は口を真一文字に閉める。
煙草の煙が視界を塞ぐ。

( A )「俺はまだ、お前のこと親友だと思ってるよ」

言葉が漏れた。
贖罪のつもりか、俺。

( ^ω^)「……今更なんのつもりだお」

ブーンは一言だけ、返事をすると、俺のすぐ横を通り過ぎた。

102 :名も無きAAのようです:2012/12/31(月) 23:54:14 ID:8iv8QR2Q0


ξ゚⊿゚)ξ「…そう」

('A`)「…すまなかった」

俺は謝った。
念のため。

こういう時のツンは、凄く淡白で話しやすい。
ツンの癖に感情的にならないんだ。


ξ゚⊿゚)ξ「あんたは、自分が間違ったことしたって思ってるの?それで、謝ってるの?」

('A`)「いや、これっぽっちも思っちゃいない」

俺はクーの件に関して、ブーンとツンに対して多少の謝意はあれど、間違ったことをしたとは思っていなかった。

むしろ今でも最良の選択ではないにしろ、あれ以外に方策は無かったと、そう思っている。

103 :名も無きAAのようです:2012/12/31(月) 23:56:25 ID:8iv8QR2Q0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ今のは、何?」

ツンが俺の目を射抜いて言った。

('A`)「二人で勝手にやっちまったことと、後はあいつの代弁だ」

ξ゚⊿゚)ξ「代弁?」

('A`)「あぁ、あいつならきっとこうする」

意外そうな顔。
でもすぐ元に戻った。

ξ゚⊿゚)ξ「そ。ならいいわ」

険しい顔が、柔らかくなる。

ツンは、両手を口に添えて、吐息を吹きかけた。
真っ白に染まる。

ずっと外にいるには辛い季節だ。

('A`)「暖炉、着けるか?」

ξ゚⊿゚)ξ「お願いするわ」

俺は席を立つ。
火掻き棒で暖炉を少し弄って、点火した。
途端にほんのり目の前が暖かくなる。


こちらに来て三ヶ月あまり。
ツンと腹を割って話したのは、これが初めてだった。

ξ゚⊿゚)ξ「…あんたが、巫山戯たこと言ったらブン殴るつもりだった」

しばしの沈黙の後、ポツリとツンは言った。

('A`)「殴ってくれて、構わない」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなことしないわよ。一番辛かったのはあんただったでしょうに」

ツンはわけも無く言った。
やっぱり人間年齢を重ねると、丸くなるのだろうか。


104 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:01:56 ID:Fw5C8URw0
ξ゚⊿゚)ξ「まぁドMって言うんなら殴ってあげなくもないわ」

('A`)「馬鹿言え」

変わらないな、そう思った。
十数年ぶりの再会でも俺は、あぁこいつはツンなんだな、と認識出来た。
顔じゃない、もっと別の何かが俺にこう思わせている。

('A`)「お前は変わらないな」

つい、口に出る。

ξ゚⊿゚)ξ「あんたに言われたかないわ」

一蹴。
少しは感慨に浸ったりするかとも思ったんだが。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた昔とちっとも変わらず間抜けで無駄にカッコつけじゃない」

ツンは言い放つ。

105 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:04:20 ID:Fw5C8URw0
(;'A`)「俺そういう風に見られてたのか」

ξ゚⊿゚)ξ「ま、クーはあんたのそういうところが好きだったみたいだけど」

少しだけ、鼓動が跳ねた。
名を聞くと動揺してしまう。
躊躇いなく、淀みなくクーの名を呼べるツンが羨ましい。

('A`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ハァ…。あんたって本当不器用よね」

ツンは言った。
その表情は呆れかえっている。

('A`)「悪かったな」

ξ゚⊿゚)ξ「だいたい何いい年した男二人がいつまでも意地張り合ってんのよ」

('A`)「俺はそういうつもりじゃ…!」

そういうつもりじゃなくてもそうなってるんだ、とツンに窘められる。

俺は途端に情けなくなった。
これじゃまるで子供じゃないか。

106 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:09:29 ID:Fw5C8URw0

ξ゚⊿゚)ξ「だいたいねぇ、あんたブーンが何で怒ってるかも分かってないでしょ?」

さすがにそれは心外だ。
理由なんて分かり切ってる。

('A`)「そんなもん、ひと…」

ξ゚⊿゚)ξ「クーの事じゃないわよ」

ツンは遮る。
俺は面食らった。
そうじゃなきゃ、なんだっていうんだ。

ツンは分かっていたと言わんばかりに溜息を付いて、うな垂れた。

(;'A`)「じゃあ何だってんだ」

ツンはもう一度深く溜息を吐いた。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた、一人で抱え込み過ぎなのよ。悪い癖」

( 'A`)「それは今関係ねぇだろ」

ξ゚⊿゚)ξ「関係ありありよ」

107 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:11:45 ID:Fw5C8URw0


ξ゚⊿゚)ξ「あのね、ブーンだって子供じゃないからクーの事くらいとっくに理解してるわ」

('A`)「…」

本当に、そうか?
俺には自信がない。

108 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:16:31 ID:Fw5C8URw0


あの頃の俺には、たくさん夢があって。
ブーンとよくその事で語り合った。

飛行艇に乗って極地に行ったり、空軍に所属する一騎当千の猛者を夢見たことだってある。
でもいろんな夢の中で、一つ変わらないのは、そのどれにも俺とブーンとツンとクーがいて、笑いあっていたってことだ。

俺はそれをかなぐり捨てる事で、飛行艇に乗りになった。
勿論望まざる結果ではあったが、だからといって果たして許される事だろうか。

そもそも、俺がブーンの立場だったなら、許しているのか?

やっぱり、俺には自信がない。

109 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:20:23 ID:Fw5C8URw0


俺は胸に手をやった。
タバコを手に取る。
吸おうか、と思ったけどツンに目で制された。

ξ゚⊿゚)ξ「あんたの親友は誰?あんたの事を誰よりも分かってるのは?」

そんなの、考えるまでもない。

('A`)「ブーン以外に、いるかよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ここまで言ってもまだわかんない?」

ツンは、ふぅっと、溜息。
厭感ここに極まれり、と言ったところだ。

勿論俺だってここまで言われて分からないわけがない。
つまりツンの言いたいのは、俺が独りよがりのクソヤロウってことだ。

110 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:24:22 ID:Fw5C8URw0


ξ゚⊿゚)ξ「ハァ……あのねぇ」

('A`)「いや、いい。分かったよ」

俺は顔の前でしっしっと手を振った。
ツンは、再び溜息。
今度のは、幾分安堵が混じってたように思う。

ξ゚⊿゚)ξ「さっきも言ったけど、あんた一人で抱え込み過ぎなのよ」

('A`)「別に迷惑はかけてないじゃねーか」

ξ゚⊿゚)ξ「は?あんた、ブン殴るわよ?」

ごっ、と鈍い音が響く。
俺の頬骨だ。

111 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:31:04 ID:Fw5C8URw0
(#)'A`)「いってぇ…もう殴ってるじゃねぇか」

ツンは悪びれもせず、あらごめんなさいと一言。
久方ぶりの拳は少しも衰えてないみたいだ。

俺は、拳の真意を問うた。

ξ゚⊿゚)ξ「あのねぇ、あんたのそのブッサイクな顔見てデイラントまで心配してんのよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「おじ様が元気無いからなんとかしてあげたいって」

('A`)「…俺、顔に出てるか?」

ξ゚⊿゚)ξ「あの子曰く、ね」

俺は頭を掻く。
そんな事少しも考えなかった。
そして痛感する。
足繁くあいつが俺の元へ足を運んだのは、他でもない俺のためなんじゃないか。

( 'A`)「……だっせぇなぁ、俺」

ξ゚⊿゚)ξ「まったくだわ」

先程から一貫して顰め面だったツンは、ここでようやく笑みを零した。
釣られて俺も笑う。

113 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:37:53 ID:Fw5C8URw0

ξ゚⊿゚)ξ「じゃ、用も済んだ事だし」

ツンは立ち上がった。
俺も立ち上がって、玄関へと向かう。

('A`)「わざわざこのために来てくれたのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「勘違いすんじゃないわよ!あんたじゃなくてブーンのためだから」

ツンはそっぽを向く。
ああ、期待通りのテンプレな返事だ。
だけど、おそらく今の台詞に間違いはなくて。
疑いようもなく、今回の彼女の行動理念はブーンの為と、自分の為と、ほんの少しの俺とクーの為だ。

俺同様好い加減に決着を付けたかったんだと思う。

114 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:42:38 ID:Fw5C8URw0

('A`)「ありがとな」

ξ゚⊿゚)ξ「……ふん」

見慣れた、見慣れていた照れ隠しだ。
すごく新鮮に感じる。
でもそれは、きっとツンが俺の中で過去になっていたからだ。
それが少し寂しくも感じた

115 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 00:48:54 ID:Fw5C8URw0


ξ゚⊿゚)ξ「……じゃ」

('A`)「おう。ガキンチョによろしく」

俺は手を軽く上げる。
そのまま俺は別れを告げた。
ツンは部屋から出て行く。

( 'A`)y━・~~

煙草で一服。
寒いけれど、窓を開けた。
窓のへりには、いつだかデレが持って来た、花が生けてある。
この地方特有の、冬に咲く花だ。

( 'A`)y━・~~ 「あの丘にも、咲いてたな」

ふと記憶が蘇って。

もう一度行ってみようか。
行って何かが変わるわけじゃないけれど。
ブーンは誘ったら来るだろうか。
ツンは…来るだろうな。

俺は立ち上がった。
思い立ったが吉日、なんて言葉は初めて使うが、なんとなく行く気になったのだ。


だけど、俺は煙草を吸い終わる暇もなく、部屋を飛び出すことになる。

116 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 01:10:27 ID:Fw5C8URw0




(;'A`)「飛行艇…!」

空を翔ける一艇の飛行艇。

この地方は田舎も田舎。
だから来る飛行艇と言えば週に一度の定期便だけ。
俺が着陸した時も、少しざわめいたものだったが。

この艇は、なんだ?

明らかに貨物や貨客ではない、一人ないし二人乗りの艇だ。
ただの通りすがり、という事も考えられるが、見る限りではここに着水する気満々だ。

とすれば、残るは可能性は一つ。

(;'A`)「くそっ、これからって時に!」

俺は駆け出す。

完全に油断していた。
道中追ってらしきものは一切無かったはずだ。
なのにいったいどうやってここまで来たってんだ。

117 :名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 01:12:30 ID:Fw5C8URw0

ξ;゚⊿゚)ξ「あんた、血相変えてどうしたのよ」

ツンに追いついた。
俺は事の次第を手早く説明。

(;'A`)「とにかく、デレは任せた!」

それだけ言い残して、また駆け出す。
背後から何やら怒号が聞こえた。
無視。
どうせ押し付けだとか無責任だとかそんな事だ。

何だかんだ言いながらも結局はやってくれる、というのがツンだから、きっと大丈夫。

118 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 21:56:42 ID:yPRZkqck0


(;'A`)「ハァッ……ハアッ……」

港につく頃には息もそぞろだった。
煙草なんて、やめとけば良かったと今更後悔。

俺は息を整え、飛行艇に乗り込む。
久々にしっかりと握る操縦桿はひんやりと冷たい。
でも安心感がある。
艇に乗ると、心が落ち着く。

('A`)「久しぶりだな、クー」

エンジンを掛ける。
が、まだ動かしはしない。

ちょうど上空から、飛行艇が降りてくるところだ。
相手も、もう俺に気づいてるだろう。

ベストなのは、着水前に打って出る事だが、まだ追っ手だと決まったわけでもないし、些か早計だ。

119 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 21:57:50 ID:yPRZkqck0


機械とも思えるほどの正確さで、操縦士はピタリと俺の横に飛行艇を着けた。
その挙動は疑念をほぼ確実な物とした。

厄介なのが追ってきたな…。


男は、ゴーグルを外した。
結構若い。
俺と同じか、幾つか年下といったところか。

('A`)「よう。見たところ空賊じゃあなさそうだが…旅人かい?」

俺は声をかける。

( ・∀・)「…どちらかというと、空賊はあんたじゃあないのか?」

('A`)「なに?」

男は俺を睨んで言った。
全く手間かけさせやがって、などとぼそぼそ呟いている。

ああ胸糞悪い。

俺も相手も嫌悪感丸出しで、しばし見つめあった。

120 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 21:58:37 ID:yPRZkqck0

( ・∀・)「娘を返して貰えるかい?」

切り出したのは相手。

デレの事だとはっきり分かる。
お互いに。

だが親父が直々に来るとは思わなかった。
勿論嘘の可能性もある。
だけど嘘をつく理由が見当たらないし、何よりその顔にデレの面影をほんのりと感じたのだ。

121 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:00:03 ID:yPRZkqck0

('A`)「依頼主以外の命令は受けられない」

( ・∀・)「僕は父親だ」

('A`)「娘を売っぱらっちまう奴を父親とは認めねぇ」

( ・∀・)「分かったような口を聞くな」

('A`)「お前よりは分かってるつもりだ」

( ・∀・)「空賊風情がいきがるんじゃあない」

('A`)「貴族のボンボンには分かるめぇよ」

男は舌打ちをして、押し黙る。
苛ついているようだが、飛行艇を降りる気配はない。

122 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:01:48 ID:yPRZkqck0

( ・∀・)「おい」

( ・∀・)「適合者の割合を知っているか?」

唐突に、男は話を切り出した。

シートベルトを外して、艇から降りる。
同時に懐から何やら取り出す。

俺は身構える。
が、それは杞憂で。

( 'A`)「なんだよこれ」

俺も艇を降りて、受け取った。

渡されたのは小さな紙切れ。
真ん中に名前が書いてある。
造艇会社の社長らしい。
名は、モララー。

( ・∀・)「名刺も知らないのか?蛮人め」

('A`)「そうじゃあねぇ」

俺は息を吐いで続ける。

123 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:03:50 ID:yPRZkqck0

('A`)「お前、造艇会社の社長なのか?」

( ・∀・)「あぁ、そうだ」

途端に怒りが沸き立って。
気づけば俺は男、モララーを殴り飛ばしていた。

(#'A`)「ならわざわざ自分の娘を飛行艇なんぞにする必要はねぇだろうがッッ!!!」

襟首を掴み上げる。
モララーは怯むことなく俺の手首を握って、離さんと力を込めた。

(#)・∀・)「お前がそれを言うのか…!?」

(#'A`)「なんだと…?」

モララーは、何か言おうとして口を開ける。
だけど、すぐに閉じた。

(#)・∀・)「いや、いい。どこか別のところで話そうじゃないか」

寸ともブレない瞳、声。
ほとんど無意識に俺は手を離す。
離すべきだと、思った。

124 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:05:16 ID:yPRZkqck0

モララーは服についた塵を払う。
さらに口元の血を拭って。

( ・∀・)「さぁ、どこか落ち着いて話せるところへ連れて行ってくれ」

なんだよこの温度差。
まるで俺が無意味に叫んでるだけじゃないか。

(#'A`)「何のつもりだ……」

( ・∀・)「話をしようと言ってるんだ」

(#'A`)「……」

クールには、なれない。

( ・∀・)「あんたは何で怒ってる?」

(#'A`)「お前が気に食わない」

( ・∀・)「じゃあもう一度僕を殴ったらいい。それで気が済んだら話をしよう」

モララーは真顔。
煽ってる風ではなくて、純粋にそう思っているみたいだ。

俺は右手を少しだけ持ち上げた。
しかし男の頬までは届かない。

代わりに口を開いて。

('A`)「……ついて来い」

踵を返した。

125 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:07:54 ID:yPRZkqck0


( ・∀・)「さっきも言ったが、適合者の割合を知っているか?」

席に着くなり話を始めた。
俺は、とりあえずコーヒーを二人分頼む。

('A`)「約1パーセント」

( ・∀・)「そうだ。女性のうち百人に一人だ」

つまり、適合者自体はそう珍しい事ではない。
本人も気づかぬまま一生を終えたりすることもままあるのだ。

しかしそれが今何だと言うのだ。

( ・∀・)「だがそのうちにも約0.0001パーセント、異常なまでの出力を得るものがいる」

('A`)「……は?」

( ・∀・)「つまり、普通の適合者が単座、あるいは複座の飛行艇に組み込まれる程度だとしたら、異常適合者はその数十倍下手すれば

数百倍の出力を出すことが出来る、という事だ」

呆然。
言葉が出なかった。
俺は驚いているのか?
よく分からない。

126 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:08:37 ID:yPRZkqck0

( ・∀・)「もう、分かったろう。それがあの子の価値だ」

俺が言葉を紡げずにいると、モララーはなおも重ねてきた。

( ・∀・)「あんただって、国の現状を知らないわけじゃないだろう?」

( ・∀・)「あの子はそれを打破する鍵だ」

(#'A`)「そんな……そんな理由で実の娘をぶっ殺すってのかよ」

( ・∀・)「死ぬわけじゃない。飛行艇として生きるんだ」

(#'A`)「どう違うってんだ!」

( ・∀・)「あんただって、経緯はどうあれ一人の女を殺してのうのうと空を飛んでいるじゃないか」

(#'A`)「違う!!!!」

違わない。
何も間違ってなどいない。
でもこいつの言い方は、違う。

127 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:09:45 ID:yPRZkqck0

( A )「お前も飛行艇乗りなら分かるだろうが」

俺は病床に伏すクーを糧に、飛行艇を作った。
許されざる事だ。
例えクーが望んだ事だとしても。

だけど、それが過ちだったか?後悔しているか?と問われれば、俺は即NOと答えるだろう。
答えなければならない。
それは、半ば義務のようなものだ。
でなけりゃ俺は飛行艇に乗る資格はないし、クーに合わせる顔もない。

きっと、一部の連中を除いたどの飛行艇乗りも似たような感情を抱いていると思う。

言うなればそれは、飛行艇乗りとしての誇り。
自分がクズだって事は理解しているけれど、それでも誇りだけは持っている。

自分にはかつて愛した人がいて、愛した人と共に空を飛んでいるのだと。

いつだってこれだけは忘れない。
誰にだって乗れるわけじゃないから。
自身の飛行艇には自身しか乗れないから。

そうあってこそ俺たちは空を飛んで、その広さに身を震わせ、蒼さに心を奪われるんだ。

128 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:11:15 ID:yPRZkqck0


( ・∀・)「あんたは、見た目に似合わず暑苦しい人間みたいだな」

いいだろう話してやる、そう言って、モララーはコーヒーを啜った。

( ・∀・)「僕の妻がね、会ったばっかりの頃言ったんだ。空が赤いのは、飛行艇になった人の悲しみの色だって」

( ・∀・)「笑っちゃうだろう?こんな臭いセリフ良く言えたもんだ」

(;'A`)「何の話だよ」

( ・∀・)「でもそれから十年くらいかな。病気を患ってね」

俺は息を呑んだ。
モララーはちらりとこちらを一瞥。

( ・∀・)「その時に言ったんだ。空が赤いのはきっと誰かの為に飛行艇になった人の愛の色だって」

('A`)「……」

俺はだんまり。
確かにクサイが、いい言葉だと思う。

( ・∀・)「そんな目で見るのはやめろ。一番恥ずかしいのは僕なんだ」

129 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:12:48 ID:yPRZkqck0


( ・∀・)「僕は飛行艇なんて物は終わらせたいんだ」

モララーは言った。

何の理由にもなってないじゃないか。

でも、俺はあぁと合点する。
どうせこいつは潰す為には力がいるだの、必要な犠牲だの吐かすんだ。
俺の一番嫌いなタイプで、最も恥ずべき勘違い野郎。

( ・∀・)「その為には感情論なんかこれっぽっちも役に立たないんだよ」

('A`)「ガキはその犠牲か」

俺は尋ねる。
あぁそうだ、とモララー。

なんてベタな展開。
ベタだが、悪くない。

乗ってやろう、ぶちのめしてやろう、そういう気になった。

130 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:14:08 ID:yPRZkqck0

雪がたくさん降っているから視界が悪い。
コンディションで言えば最悪。

短期決戦、低空戦になりそうだ。
でないと、寒いし凍傷になっちまう。

少し機体を下に向けた。
遠方には、雪に覆われた街並み。
多分まだみんな寝ている時間だ。

あまり近づかないようにしなくては。

('A`)「さぁ、来いよ」

誰ともなく呟く。

空に浮かんでいるものを探して。
見渡す。
見えない。

まだか。
小さく旋回。

131 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:14:49 ID:yPRZkqck0
視界に黒点が映る。
俺は焦点を合わせて、
フル・スロットル。

('A`)「おし、あいつか」

目視で確認。
機速は、どうやらあっちの方が少し速い。

敵機、威嚇射撃。
いや、試運転か?

どちらにしろ当たる距離ではない。
スルーして、スロットルを絞る。

減速。

132 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:16:15 ID:yPRZkqck0

敵機、旋回。
まぁ定石、後ろを取るつもりだ。

俺だってただで後ろをくれてやるほど馬鹿じゃあない。
素早く左右に振って、離脱。

フル・フラップ。
急旋回。

モララーを視界の端に捉える。
動揺はなさそうだ。
戦いに不慣れなわけでもないらしい

133 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:17:00 ID:yPRZkqck0


('∀`)「いい腕だ」

心の底からムカつく野郎だが、腕だけは評価してもいい。

戦っている時は、奇妙な友情がある。
誰だって感じる、と思う。

きっと飛ぶ直前に、
余計な感情を全部ほっぽってくるんじゃないか。
だからムカつく相手でも、憎らしい相手でも、
この時ばかりは冷静でいられる。

敬意を持っていられる。

無垢でいられる。


('A`)「おら、ついて来いよ」

ロール。
ほぼ九十度で、海面スレスレを飛ぶ。

敵機は即座に反応。
俺の意図を汲み取って、機速を上げてきた。

134 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:18:52 ID:yPRZkqck0

水飛沫が飛ぶ。
距離はギリギリ。
下も横も。

これ以上下げれば機体は吹き飛ぶし、これ以上寄ればお互い熱烈なキッスだ。


敵機を置き去りにして、上昇。
スロットルを一気に絞り、さらにスポイラも当てて急減速。

おーおー、驚いてやがる。
だが無理もない。

俺が上がったのは、内側。
つまりモララーの真上だったからだ。

135 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:19:32 ID:yPRZkqck0


('A`)「後ろは取ったぜ。どう来るよ?」

射程にはまだ近すぎる。
敵機は上昇。

俺も後に続く。
スロットル・アップ。

射程圏内。
さらに揺らして来る。
右。
左。

その全てをスルー。
惑わされない。

三秒数える。
打つ。
機首を押し上げ背面で離脱。

勝った。

136 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:21:53 ID:yPRZkqck0

(;'A`)「クソ!」

ジャムだ!
こんな時に!

俺は手早く詰まった弾を処理した。

見た感じだと、命中はしていた。
だけどせいぜ一発。
致命傷じゃあない。

既に敵機は離脱。

だけど確信した。
格闘性能はこっちが上だ。

もう一度ぶち込んでやればいい。

137 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:23:36 ID:yPRZkqck0


軌道修正。
背後は取ったままだ。
俺の有利は変わらない。

(;'A`)「流石に寒いな」

エンジンの熱じゃ賄いきれない部分がある。
厚着もしているし、手袋だってつけているから大丈夫だが、やはり早く終わらせたい。

(;'A`)「流石にこれより上がるのはきつい…か?」

空気がかなり薄くなっている。
こいつ、これを狙ってやがったな。

已む無く下降。
大きくロールしながら、左へ逸れた。
敵機は右へ。
また振り出しに戻った。

138 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:24:24 ID:yPRZkqck0


敵機は大きく旋回。
機速は半分ほど。
様子見ってところか。

俺もそれに倣って。
だけど、それどころじゃなくなった。

(;'A`)「なんであいつが……!?」

俺は思わず叫んだ。
港には真っ赤なドレスと金髪の少女。

そんな馬鹿な!

見間違うはずもない。
なんで……。
何でこんなところに。

操縦桿を握る力が緩む。

どうか別人であってくれ。
そう願って、握り直す。

139 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:24:57 ID:h6/n3aec0
支援
文章がいいね

140 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:25:46 ID:yPRZkqck0


一瞬だった。

(;'A`)「しまった!」

一瞬で背後を奪われた。

ロール。
右へ展開。
冷静になれ。

振り返って、間隔を確認。
まだ、遠い。
でも安全圏じゃない。
振り切れるか?

フル・スロットル。
劣る機速は技術でカバーだ。

右へ左へ機体を振る

141 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:26:56 ID:yPRZkqck0


デレの事は後回しだ。
そう考えてしかし、感情がいくつも浮かんでは消える。

迷いはトリガーを押す指を緩ませる。
どうにか、不時着出来るレベルの損傷で抑えるしかない。


湾岸までは、まだ距離はある。
危険というほどではない。

(;'A`)「でも……っ。それどころじゃねえっ!」

さらにロール。
数瞬前まで俺が飛んでいた宙空を、弾丸が駆け抜ける。

(;'A`)「あっぶねぇ」

深呼吸。
本当はそんな暇すらないのだけど。
でも落ち着かなきゃいけない。

さぁ、クールだ。
俺が乗っているのは、俺を飛ばしているのは誰か考えてみろ。
クールだろうが。

142 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:29:39 ID:yPRZkqck0

ループ。
ループから、上昇。

ストール。
まだ抜けない。
しぶとく着いてくる。

急降下。
今度は翼がない分さっきよりも低い。

激突しそうな高さ。
後ろを見る。

モララーはいない。
よし、諦めた。

143 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:31:03 ID:yPRZkqck0

どうやら低空が苦手らしい。
大きく旋回している。
速度は落ちていない。

急上昇。
降下速度で奴に先んじよう。

俺はスロットルを絞って、
迎え撃つ。

だけど、こちらには来なかった。

(;'A`)「あいつ、何のつもりだ?」

負けを認めて逃げ帰る?
あの野郎に限ってまさか。

俺は奴の進行方向を見て、そして悟る。

(;'A`)「ガキンチョか!?」

144 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:31:48 ID:yPRZkqck0


奴は撃ち殺すつもりだ。
我が子を自分の手で。
それでもって、飛行艇に組み込む。

こんなこと想像だにしなかった。

(#'A`)「あいつ……ここまでゲス野郎かよ…ッ!」

即座に反転。
フル・スロットル。

敵機は遥か前。

(;'A`)「間に合えッ……」

機体が軋む。
呼吸もしてられないほどの風圧。
壊れんばかりに桿を握り締めて。

だけど。

(# A )「……クソッタレ」

間に合うわけがない。

145 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:33:28 ID:yPRZkqck0

俺は飛行艇を作る目処が立った事を伝えた、

川 ゚ -゚)「本当か!?」

( A )「……あぁ」

俺は小さく頷く。

その時のクーは心の底から嬉しそうで。
なんでそんな表情でいられるのか俺には理解出来なかった。

川 ゚ -゚)「ドクオ、こんな時くらい目を見て話しておくれよ」

('A`)「ああ…」

('∀`)「そうだな!」

俺は笑えているか?
顔はは引き攣ってないか?
確認する術はない。

川 ゚ -゚)「いい笑顔だ」

大丈夫か、良かった。

146 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:34:55 ID:yPRZkqck0


川 ゚ -゚)「いつ?」

クーは窓を開けた。
天気は雪。
でも晴れ間も少し見えている。

('A`)「明後日だ」

川 ゚ -゚)「えらい急だなぁ」

俺は無言。
その様をクーはふふっと笑う。

川 ゚ -゚)「二人には?」

('A`)「ダメだった」

川 ゚ -゚)「そう。独断専行ってやつだ?」

('A`)「そうなるな」

返事すると、今度は高らかに笑った。
俺は呆気に取られて。

羨ましかった。

147 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:36:34 ID:yPRZkqck0

川 ゚ -゚)「飛行艇が出来たらどこへ行きたい?」

('A`)「そうだな…。とりあえず南の方、あったかいところに行こう。それから…」

川 ゚ -゚)「ふふっ」

クーが話の途中で笑う。

('A`)「な、なんだよ」

川 ゚ -゚)「君はこの話題になると、本当に目が輝くな」

('A`)「そ、そうか?」

クーは大仰に頷く。
なんだか照れ臭い。

川 ゚ -゚)「私はその目を好きになったのかもしれないな」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「ハァ…。いいよ別に」

俺は無言を貫いた。
だって、俺に気持ちを伝える権利なんてないだろう?

148 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:38:38 ID:yPRZkqck0


川 ゚ -゚)「君は気負わなくていいんだ」

クーは俺の頬に手を触れる。
俺はその手を掴む。

('A`)「……やめてくれ」

言っても、クーはやめない。

川 ゚ -゚)「君はいつだって夢を語る時は私を連れて行ってくれる」

川 ゚ -゚)「行く、じゃなくて行こうって言ってくれるんだ。私はそれが嬉しい」

再び微笑んだ。
笑顔が眩しくて、だけど目を逸らせない。

川 ゚ -゚)「君は一人で気負いすぎなんだよドクオ。二人だっていつか分かってくれるし、君も僕も間違ってなんかないんだ」

('A`)「あぁ、分かってる」

分かってない、とクー。

149 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:39:31 ID:yPRZkqck0

川 ゚ -゚)「大事な話だから、聞いて」

川 ゚ -゚)「いいか?いつだって私は君の側にいるんだ。君がいなきゃ私は飛べないし私がいなきゃ君は飛べない」

何かあったら私を信じて。
いつだって落ち着いて、二人でやればなんとかなる。

('A`)「分かったよ」

気負っちゃだめだからな。
本当に分かってるのか?

('A`)「分かってる」

分かってる。
分かってるんだ。

151 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:41:05 ID:yPRZkqck0

分かってる。

( A )「頼むぞ、いや、行こう。クー」

思えば最初は嫌々だったのに。
いつしか妙に固執する自分がいて。

不可解だった。
俺は惹かれているのは何故だ。
こんな何の変哲もないクソガキに。

今だって必死こいてクソ野郎と戦っている。

単に、適合者だからだと思っていた。
だから同情を禁じ得ないのだと。


馬鹿か俺は。


そんなんじゃないだろうに。
純粋に俺はガキンチョの人格に惹かれているんだ。

こいつといると、クーの言っていた意味が分かる気がしたから。
重荷や閉塞した心を、その小さな背中で背負おうとしてくれたからだ。

152 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:42:07 ID:yPRZkqck0


あんなクソ野郎に俺が負ける?
馬鹿な。

フル・スロットル。
さらに、スロットル・アップ。

(;'A`)「ぅぐっ…」

機体どころか、俺の体まで軋みやがる。
だが、まだ出るはずだ。

だろ?クー。

俺の言葉に呼応するようにして、出力はどんどん上がっていく。
さらに、さらにスロットル・アップ。

154 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:43:12 ID:yPRZkqck0

距離は縮む。
でもまだ足りない。
当てるには少し遠い。

(#'A`)「あとッ……あと少しッ!」

モララー、下降を開始。
あと少しでデレが射程圏に入る。

(;'A`)「あぁああああああああ!!!!」

思い切り操縦桿を倒した。

機体は堕ちる。
スパイラル。

位置エネルギーが速度に変わる。
俺とクーを乗せた飛行艇は火を吹く。

155 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:44:34 ID:yPRZkqck0


射程圏。
デレは、まだモララーの射程圏外。
やれる。

撃とうと思って。
でもその前に弾は飛び出していた。

撃とうと思う前に指が動いていた。


遅れて聞こえてきた銃声。
目の前で穴を穿った。

同時に俺は失速し、コントロールを取り戻す。

堕ちる?
いや、降りよう。

デレは?
あぁ大丈夫みたいだ。
驚いているけど。

さぁ降りて、一服するか。

156 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:45:34 ID:yPRZkqck0


俺は飛行艇を降りてその場に腰掛ける。
正直どうやって降りたのかも覚えていない。

胸に手をやる。
タバコとライターだ。

火をつけて放り投げる。

(;'A`)y━・~~ 「…いってぇ」

体の節々が痛みやがる。
でもそんなことはどうだっていい。


赤いドレスの少女が、こっちに走ってきてるんだ。

デレは、俺を見て何て言うだろうか。
親の仇か人殺しか。

もしかしたら何も言わないかもしれない。
あいつは優しいから。

でもそれならいっそ罵ってくれた方がいい。

157 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:47:48 ID:yPRZkqck0
ζ(゚ー゚*ζ「おじ様」

( 'A`)y━・~~ 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「さっきのは、私のお父様?」

( 'A`)y━・~~ 「……あぁ」

沈黙。
デレは俺が投げたタバコとライターを拾い上げる。

ζ(゚ー゚*ζ「……死んじゃったの?」

( 'A`)y━・~~ 「……」

何も言えない。
死んでるかもしれないし死んでないかもしれない。

ただ俺が殺そうとしたって事に変わりはなく、問題はそこなのだから、言及する意味はない。

158 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:48:34 ID:yPRZkqck0
ζ(;д;*ζ「……そぅ」

消え入る声。
涙が滲んでいる。

あぁここにツンやブーンがいたらどんなにいいか。

( 'A`)y━・~~ 「……何も言わないのか……?」

ζ(;д;*ζ「グスッ……」

デレは顔を擦る。
涙を拭っている。
首を横に振っている。

ζ(;д;*ζ「おじ様は……助けてくれたのだわ」

この一言でどれだけ救われたか。
例えこれが嘘でも。

(;'A`)「ッ!」

本当に、強い。

159 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:51:05 ID:yPRZkqck0

目の前で父親が堕ちていったのに
俺が堕としたのに
少しも糾弾しようとはしない。

強い、なんて強い。

この強さがきっと俺を惹きつけたのだろう。

(;'A`)y━・~~ 「……泣いてくれ」

俺は呟く。
無責任だけど、そっちの方が俺にとっては気が楽。
あぁ、自分でも思うさ、クズだって。

だけど。

ζ(;д;*ζ「いやよ。レディは泣かないものだもの」

もう一度涙を拭う。
目真っ赤だけど、そこにもう涙はない。

160 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:52:20 ID:yPRZkqck0
(;'A`)y━・~~ 「……」

デレはおもむろにタバコを取り出す。
ライターを弄って、捨てる。

タバコを咥えて
俺の頰に手を伸ばす

口が近づく。
付いたのはタバコの先と先。

火が乗り移って
煙を上げだした。


157.jpg


161 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:53:11 ID:yPRZkqck0


ζ(゚、゚;ζ「ゴホゴホッ……」

(;'A`)「なんのつもりだよ」

俺は思わずタバコを取り落とす。

ζ(゚ー゚*ζ「私はもうタバコだって吸えるの、大人ですもの」

引き攣った笑顔。
俺のために無理しているのが丸わかりだ。
そう俺のために。

俺は照れ臭くって、微笑む。

162 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:54:23 ID:yPRZkqck0
(;'∀`)「ライターの使い方も分からないガキンチョが何偉そうな事言ってやがる」

デレは憤慨という顔になって。
その目にはやっぱり涙を浮かべて。

ζ(゚、゚*ζ「私ガキンチョじゃないわ!デレっていう立派な名前があるもの」

(;'A`)「お、お前……」

デレはそっぽを向いた。

(;'A`)「名前……」

ああもう。
言いたい事がたくさんあるのに頭の中はグチャグチャだ。


俺は頭を必死に動かして、そして。

('∀`)「言うようになったじゃねぇか、デレ」

やっと、デレ、そう名前を呼ぶ事が出来た。


164 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:55:54 ID:yPRZkqck0




ζ(゚、゚*ζ「おじ様、ちゃんと締めれたわ」

デレが言った。
念のため確認。

よし、大丈夫だ。

('A`)「じゃ、出るか」

俺たちは出立を決めた。
理由は色々あるが、やっぱり一番は場所が割れてしまったことだ。
これ以上迷惑もかけられないし。

湿っぽい別れは嫌で、ツンには書き置きだけ残した。
どうせ話したって、かっこつけんなとか言われるに決まってるんだ。

ζ(゚、゚*ζ「でも…」

('A`)「寂しいか?」

小さく首肯。

('A`)「また、すぐ会いにくりゃいいさ」

ζ(゚ー゚*ζ「……そうよね!」

165 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:57:28 ID:yPRZkqck0



機体は、静かに動き出す。
水の上を少しずつ進み始める。
港に並走する形だ。

機首が少し上がった。
その後は一気に浮上。

いい立ち上がり


.

166 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:58:23 ID:yPRZkqck0
視界のはしに、何かが映る。
とともに、怒号。

(#^ω^)「ドクオオオオオ!!!」

(;'A`)「ブッ、ブーン!?」

(#^ω^)「おめーのやる事なんかお見通しだお!!!!」

ブーンは叫んで、拳を突き出す。
空に向かって。

(;A;)「へっ、なんだよあいつ」

俺は目を擦る。
何だ俺。
泣いてんのか。

(#^ω^)「また戻って来いお!!!デレちゃん連れてな!!!!」

(;'∀`)「……ブーン」

何か言おうとして、
それで、口を閉じる。

桿から手を離す。
親指を立てて、グッドラック。
皆まで言わなくたってあいつになら通じるだろう。

だって俺たちは今までも、これからも親友じゃないか。

167 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 22:59:30 ID:yPRZkqck0

クー、全部お前の言ったとおりだったよ。
みんな最初から繋がってた。

離れててもずっと。
空だけで。




('A`)「さぁどこに行くかな」

呟いて。
目の前の蒼さに俺は圧倒された。

今までよりもっともっと鮮やかで、広大な気がする。

('A`)「……空ってこんなに綺麗だったんだな」

今更になって、改めて実感した。

ζ(゚ー゚*ζ「何を言っているの?」

ζ(^ー^*ζ「それを教えてくれたのはおじ様だわ」

俺は一瞬呆気に取られて。
そして、また笑った。

168 :名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 23:01:05 ID:yPRZkqck0

('A`) My Baby Blueのようです











171 : ◆7.FC9p85GA:2013/01/02(水) 23:03:55 ID:yPRZkqck0


ようやく終わり…
長らくかけてごめんなさい

一応補足しとくと
船って英語でなんで女性名詞なんだろうって思ったとこから始まって出来た話でした

みなさん支援乙ありがとうございます


47 : ◆7.FC9p85GA:2012/11/25(日) 22:45:37 ID:bWGfUuhw0
キリがいいのでここまで
っつーかここまでしか書いてないんだけどな
ちなみにスレタイはAerosmithの曲のフレーズから


もしよければ現行の方も読んでくだしあ




中の人補足:現行 ( ゚∀゚)ハッピーエンドトリガーのようです (リンク先・ブーン系創作板 現在休止中)
一部レス抜けの修正等を行いました
[ 2013/09/07 14:05 ] スレ立て短編 | TB(0) | CM(0)

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